情勢の特徴 - 2000年1月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 法務省は企業の優良事業部門の分離・独立や不採算部門の切り離しなどの「会社分割」を容易にする商法改正要網案をまとめた。会社分割は@企業の一部門を切り離して新たな会社を設立する「新設分割」A分割した事業部門を既存の別会社に受け継がせる「吸収分割」――の二類型。新設分割では企業が合併する場合に同じ事業を営む部門を統合したり、優良部門を取り出して別会社にしたりすることで効率化と収益向上が見込める。吸収分割は大企業による中小企業の優良部門の吸収合併などを想定。大企業が自らの総資産か発行済み株式総数の5%に満たない中小企業の事業部門を吸収する場合、株主総会の特別決議を必要としないようにする。現行法で可能な「分社化」だと、裁判所が選任する検査役による資産評価の期間は半年から一年程度かかるのが通例で、企業側には「使い勝手が悪い」と不満が強い。会社分割制度では検査役の資産評価を一切不要とし、手続きを大幅に迅速化する。
● 日本公認会計士協会(中地宏会長)は企業のバランスシート(賃借対照表)の透明性を高めるため、開発や分譲を目的に取得した販売用不動産について時価評価による損失処理を義務付ける方針だ。時価の算出に際し、公示地価など複数の評価方法の中から企業が選択。そのうえで不動産鑑定士の協力も得て客観性も高める。時価が取得価格より5割以上下落し、今後値上がりする可能性がないと判断した場合は評価損失を計上させる。指針案は地価下落で販売用不動産に多額の含み損を抱える建設会社などに土地バブルの清算を強く迫るものとなる。公認会計士協会は今回の指針を公開草案として関係業界から意見を聞き、今年5月ごろにも最終基準をまとめる予定だ。適用は2001年3月期からだが、今期でも監査対象に会計処理を強く促す考え。
● 東京商工リサーチは、1999年の建設業倒産状況の調査結果をまとめた。倒産件数は4650件、負債総額は1兆2859億8100万円で、前年に比べてそれぞれ17.9%減、42.1%減となり、90年以来9年ぶりに前年実績を下回った。業種別にみると、総合工事業が2476件、8358億9400万円、職別工事業が1308件、2752億500万円、設備工事業が866件、1748億8200万円。倒産の原因でもっとも多かったのが不況型倒産で、3148件と全体の67.7%を占めた。負債額は8100億7500万円。倒産の形態では、銀行取引停止が3830件と最多、負債額は6835億5300万円。資金別では、5000万円未満1000万円以上がもっとも多く2146件、7019億5800万円、以下、500万円未満100万円以上が1208件、941億4000万円。                   年商でみると、一億円以上5億円未満の階層が1730件、3368億2000万円、5000万円以上一億円未満が1249件、850億2300万円、10億円以上は197件、3396億6千万円、50億円以上は17件、1103億7800万円で100億円以上は7件、1635億4500万円だった。

行政の動向

● 47都道府県が1999年12月補正予算で追加した地方単独事業費(自治体独自の公共事業)は700億円強、率にして補正前の約1%にとどまった。自治省は財源を調達しやすくする特例も用意して上積みを求めていたが、東京、大阪など8都道府県は追加計上そのものを見送った。この結果、12月補正後の全国の単独事業費は前年同月比16%の大幅減。2000年度も自治体には公共事業拡大の余力が乏しく、地方が景気回復の足を引っ張る状態は今後も続きそうだ。99年度は9月補正後段階で、道路、河川など単独事業予算の落ち込みが目立ち、景気への悪影響を懸念した自治省は11月初めに、国の経済新生対策と並行して、事業推進を公式に要請していた。その際、財政難の自治体に配慮し、財政を地方債で全額調達することを認め、その元利払いの45%に地方交付税交付金を出す特定措置も用意した。しかし過去の景気対策で地方債発行の残高が膨らんでいた都道府県は、要請にほとんど応じなかったことになる。
● 建設、厚生両省が、今月から始まる通常国会に提出する「建設工事特定資材再資源化法案(仮称)」の内容がほぼ固まった。建設・土木構造物の建設工事に伴って発生する▽コンクリート▽アスファルト▽木材の3種類の廃材を対象に、分別解体から再資源化までを元請業者に義務付けるとともに、解体工事だけでなく新築工事から発生する廃材も対象とすることが大きな柱。廃材の流れは管理票(マニフェスト)で元請けが管理し、再資源化したことを都道府県に報告する。義務を怠った場合の罰則規定も設ける。発注者に対しても「何らかの責任を持たせるよう条文に盛り込む」(建設省)方針。また、元請けに対し、工事の見積書に分別解体や再資源化にかかる費用の内訳を明示する努力規定を課することで、発注者に適正なコスト負担についての自覚を促すこととした。新法の対象となる工事は、現在のところ、建築物の延べ床面積で約9割(棟数では約7割)を占める100平方メートル以上の建築・土木工事を対象とする案が有力だ。
● 自治省は98年度の都道府県決算(普通会計)を発表した。税収不振や景気対策の公共事業費膨張で東京など47都道府県が赤字転落。47都道府県全体としても20年ぶりの赤字に転じた。赤字額の872億円は過去2番目の大きさ。歳入難に対処する地方債発行増により、財政運営で元利払い費がどの程度重荷になっているかを示す起債制限費率も10.6%と過去最悪を更新した。98年度の都道府県の歳出は前年度比4.9%増の54兆6271億円で、歳入は4.9%増の55兆5033億円。表面上歳入が多いが、複数年度にわたる事業への支出向けに翌年度に繰り出す財源(9634億円)を差し引くと赤字(実質収入赤字)。
● 経団連は現行の公共事業関連法案に関する問題点や提言をまとめ、産業競争力会議(主宰・小渕恵三首相)に提出した。提言は@公共事業の手続きに関する新法の制定A最低制限価格制度の撤廃B総合評価方式による入札の早期導入C官公需法の運用見直し、JV制度の改善 DPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)の推進などが柱。新法は、高コスト構造是正に向けた具体策として提案している。新法の枠組は@生産性を重視した事業評価基準の作成A事前・事後における数量的評価の義務付けB評価内容の公表の義務付けC地方における評価実施の普及―などを内容とする。具体的には、数量的、効率性、環境対策などの観点で構成する評価基準を第3者機関が作成。政策効果や事業の採算性も含め事前・事後が評価し、効率的に事業が行われているかを監視する仕組みを求めている。一方、地方自治体の多くが採用している最低制限価格制度は「極めて理不尽」と指摘したうえで、低入札価格調査制度への移行を求めている。総合評価方式の入札は、企業の設定・技術提案による競争が促進されるため、早期に導入するよう要望している。JV制度については、「工事の技術的難易度が高いものなど必要な工事に限定すべき」とし、発注者側がJV結成を義務付けたりメンバー構成を指定することがないよう要望した。官公需法による中小企業対策は、効率的な事業執行に向け、政府が毎年度定める「中小企業者に関する国等の契約の方針」の見直しや、地方自治体に対しても行き過ぎた施策の防止を求めている。
● 建設省はすべての地方自治体(3299団体)を対象に自治省と共同で実施した公共工事の入札・契約手続きに関する実態調査結果を発表した。98年度に最低制限価格や低入札価格調査の調査基準価格を下回る応礼があった事例が、前年度比で6割増に上ったことが明らかになった。最低制限価格制度を採用していた自治体は2357団体、低入札価格調査制度を導入していた自治体は270団体。これらの自治体の入札で、最低制限価格を下回る応礼があったのは1万4585件、低価格入札調査の基準価格を下回る応礼があったのは794件の計1万5379件と前年度の件数を59.4%上回った。ただ、98年度の自治体の全入札件数は約103万件もあり、これら低価格で応礼があった入札件数は全体のわずか1.5%弱に過ぎない計算。
● 政府は2000年度から、規模が小さい公共事業の実施主体を地方に移管するため、公共事業の国・地方の費用分担を改める。国が経済波及効果の高い大規模事業を担い、地方が地域に密着した小規模事業を実施する。まず海岸保全、港湾、治山、砂防の4事業を対象に、国が財源の大半を負担する直轄事業の最低規模を大幅に引き上げる。直轄事業の一部は国が補助金を出さない地方単独事業に切り替わる。第一弾の見直し対象では、例えば堤防や消波施設を整備する海岸事業について、直轄事業とする条件を現行の事業費10億円以上から、5倍の同50億円以上に上げる。高波などの被害を防ぐ面積や周辺人口が大きな事業を優先、国費を集中的に投入して公共事業の効率を上げる。千葉港や姫路港、室蘭港などの小規模な工事に対する補助率は3分の2から10分の5.5の引き下げる。
● 法制審議会の商法部会は企業の事業部門の分離・独立などを容易にする会社分割制度を盛り込んだ商法改正案の要網案を了承した。企業の合併や、組織再編による経営効率化を促進するのが狙いで、法務省は2月下旬の法制審総会での決定、法相への答申を受けて、3月上旬に法案を国会に提出する。要網案では、会社の営業の一部などを分割して、新設した会社に移す「新設分割」と、分割した一部を既存の会社に移す「吸収分割」の二類型を創設。@分割計画書を作り株主総会で承認を得るA株主と債権者の権利保護のため分割反対の株主の株式買い取り請求権や債権者への弁済を認める―などの手続きを定めた。また、一定の条件を満たせば、株主総会の承認を経ずに分割できる簡易分割手続きも用意した。同省によると、現行商法には会社分割制度の規定はなく、実現すれば持ち株会社の下での子会社間の事業再編や、不採算部門切り離しによる経営効率化、株価回復などの効果が期待できるという。一方、会社分割によって従業員はいったん解雇されるおそれがあることなど、リストラ促進や労働条件の悪化が懸念されている。
● 建設省の徳島県・吉野川可動堰建設計画の是非を問う徳島市の住民投票が実施され、即日開票の結果、建設反対票が10万2759票で賛成票の9367票を大きく上回った。反対票の得票率は総投票者数の90.14%だった。国の公共事業を対象とした住民投票は全国で初めて。投票結果は法的拘束力を持たないが、同省は「従来に増して流域住民の安全のため事業が必要なことを説明していく」と竹村公太郎河川局長の談話を発表し、対話をより重視しながら計画を推進する姿勢を示した。

労働関係の動向

● 日経連(奥田碩会長)は財界の春闘対策方針である「労働問題研究委員会報告」を発表した。このなかで、過去最悪の失業のもとで、「雇用の維持・創出のためには、もはや、賃上げか雇用かという単純な選択では対応できない」「総額人件費を抑制するために、労使があらゆる工夫を講じなければならない」とのべ、「ベースアップ」どころか、賃下げを主張している。報告は、「労使の工夫」として「就労時間を減らし、その分賃金を下げて雇用を維持する手法」のワークシェアリング(仕事の分かち合い)を提案。労働時間の短縮による雇用の創出がはかられているヨーロッパのワークシェアリングとは違い、賃下げ・賃金の削減が目的であることを公然と唱え、日本の大企業各社がリストラ「合理化」のなかで労働者にいっそうの長時間・過密労働を強いている実態には口をつぐんでいる。そればかりか、「正規従業員の仕事・価値を洗い直し、仕事の性格・内容によって時間給管理が可能なものは時間給賃金とする発想も必要」とのべ、正規労働者をパートなどの無権利な不安定労働者に置き換え、増大させることを要求している。民間企業の活力・競争力を阻害しているのが、日本の「高コスト構造」だとのべ、相変わらず日本の労働者の賃金水準が「世界の最高水準」にあると主張。長びく不況と賃金抑制で状態悪化がすすむ労働者・国民へのいっそうの犠牲をおしつけ、財界・大企業の社会的責任を放棄しようとしている。
● 帝国データバンクが行った、主要建設会社100社の従業員数調査によると、1999年度中間期の従業員数は21万10人となり、半期前に比べ1.9%減少していることが明らかとなった。100社中69社で従業員数が減少しており、減少総数は4056人に及ぶ。中間期は、期初の新規採用などで前期末より従業員数が増えるのが普通だが、わずか半年で従業員数を大幅に削減した企業もあり、ゼネコンの厳しい経営環境が改めて浮き彫りとなった。調査結果によると過去9年間の100社の従業員数は、ピーク時の93年度に24万2933人に達していたが、翌94年度から減少に転じた。減少人数や減少率は年々拡大し、98年度には前年度に比べ5.9%減少して21万4066人。半年後の99年度中間期にはさらに4056人減少したことになり、減少が加速している。減少人数が最も多かったのは佐藤工業で、主力銀行から債務免除を受け再建計画を推進したのに伴い、半年間で従業員を686人減らした。次いで鹿島が605人の減少となったほか、東急建設の280人、日産建設の213人、三井建設の187人と続く。経営再建中のゼネコンだけでなく、比較的経営の安定している大林組や西松建設、戸田建設なども従業員数が減少した。従業員総数に対する減少率を見てみると、10%を越えた企業は2社、5%を越えた企業が13社あった。特に中堅・準大手クラスのゼネコンに大幅な従業員削減の動きが見られる。帝国データバンクは1999年の全国企業倒産集計を発表した。建設業者の倒産は前年より19.4%(1056件)少ない4384件と3年ぶりに減少した。ただ4000件突破はこれで3年連続と、倒産が高水準で推移している点に変わりなく、「工事受注単価の抑制や金融機関の融資抑制など建設業者を取り巻く環境は依然として厳しい」としている。負債総額は1兆2347億5800万円で、上場企業の大型倒産がなかったことなどから、前年を41.6%(8798億5100万円)下回り、2年連続で減少した。建設業者倒産の内訳は、土木、建築などの総合工事業が2029件(負債総額7468億7800万円)、大工、塗装、内装などの職別工事業が1495件(同3060億3800万円)、電気、管などの設備工事業が860件(同1818億4200万円)だった。

業界の動向

● 建設経済研究所は、主要建設会社50社の1999年度中間期の決算分析をまとめた。前年同期と比べ受注高・売上高とも10%を越す減少となったが、営業外費用の減少などが寄与し、経常利益は44.3%増となった。経常利益も1.7%になるなど利益率の改善がさらに進んでいる。通期業績予想では、売上高を除き前年実績を上回る見通しで「企業業績の面では最悪期を脱しつつある兆しが現れている」とみている。グループ連結決算重視への対応から、有利子負債額が増加したものの、保証債務、棚卸不動産は引き続き減少するなど、財務リストラによるバランスシート改善も進展している。調査対象は、大手5社、準大手10社中堅35社の計50社。全体の受注高は13.4%減の6兆4690億円。上位の会社ほど下げ幅が大きく、リストラや収益性を重視した選別受注などの影響がうかがえる。売上高も10.7%減の5兆8578億円となった。売上総利益は6.1%減だが、工事原価削減努力などにより、売上総利益率は9.3%(前年同期8.9%)と改善した。販管費・一般管理費は各社のリストラ努力により、7.1%減となり、営業利益の減少は3.0%減と小幅にとどまった。営業利益率も2.4%(同2.2%)とやや改善している。営業外費用が21.8%減少したことで、経常利益は44.3%増となった。97・98年と2年続いて多額の不良資産処理による損失計上の動きが一段落し、全体の税引前利益は315億円(前年同期は3424億円の損失)とプラスに復帰した。財務リストラの動きも一段落しており、上半期の損失処理額は1300億円程度に減少している。バランスシート関連では、有利子負債が前年同期比5.2%増となった。債務免除を受けた中堅一社の関係会社債務引き受けの影響が大きい。保証債務額は28.2%減、棚卸不動産も8.1%減となり、順調にバランスシートの改善が進められている。未成バランス(未成工事受入金と未成工事支出金の差額)も2926億円の改善があり有価証券含み益も3年連続の減少から一転して28.1%増となった。

その他の動向