情勢の特徴 - 2000年5月
● 建設省がまとめた大手ゼネコン50社の1999年度建設工事受注額は、前年度比4.4%減の16兆328億円と3年連続のマイナスとなった。官公庁工事の大幅な受注減がマイナスの要因だが、民間工事の受注額が3年ぶりに上向き、低迷していた民需に回復の兆しが出ている。民間工事の受注額は10兆2688億円(同1.3%増)。うち製造業は1兆3893億円と2年連続だが、非製造業が8兆8795億円(同2.0%増)と3年ぶりに増え、全体を引き上げた。官公庁工事の受注額は4兆7514億円(同14.1%減)と大幅に落ち込んだ。うち国の機関は2兆2543億円(同11.2%減)、地方の機関は2兆3972億円(同16.8%減)と、ともに2ケタ減である。
● 建設省が発表した1999年度の新設住宅着工戸数は、前年度比4.0%増の122万6207戸と3年ぶりに前年度を上回った。持ち家の着工戸数は前年度比8.6%増の47万5632戸と3年ぶりに増加。貸家は同4.0%減の42万6020戸と3年連続のマイナスだったが、減少幅は前年度より縮小した。分譲住宅は同10.7%増の31万2110戸と、持ち家同様3年ぶりにプラスに転じた。特にマンションは、ローン減税の適用期限をにらんだ駆け込み需要が加わり、同15.7%増の19万2060戸と2ケタの伸びを記録した。
● 建設省が発表した1999年度の公共工事着工額(契約工事の総額)は15兆3723億円となり、前年度に比べ7.4%減少した。3回の補正予算を編成し工事を追加した98年度の反動減で、国、地方ともに着工額が落ち込んだ。99年度の公共工事を発注別に見ると、国の機関(国、公団・事業団、空港建設会社などの政府企業)が4兆8378億円で前年度比4.0%減少した。地方の機関(自治体、公営企業)は前年度比8.9%減の10兆5345億円。地方着工額全体の約3分の2を占めるが、財政難から国の補助がつかない公共工事(地方単独事業)を減額した自治体が多く、国よりも減少幅が大きくなった。
● 東京商工リサーチがまとめた4月の建設業倒産は、493件で負債総額は928億7800万円となった。件数は10ヶ月連続での400件超えとなり前年同月比33.2%増、また負債総額は4月としては3番目に多く、前年同月比1.2%増となった。前月比では件数が7.4%減、負債総額は13.2%減。一社あたりの平均負債額は1億8800万円。原因別では受注・販売不振が263件でトップ。これに赤字累積と売掛金回収難を合わせた不況型が334件で、全体の67.7%占めている。資本金別では1億円以上が2件、1千万円以上1億円未満231件、1千万円未満(個人事業含む)が260件。従業員別だと10人未満の零細企業が400件を占めた。
● 企業の組織再編を促すための会社分割制度の創設を盛り込んだ改正商法と、分割に伴う従業員の保護策などを定めた労働契約承継法が成立した。2001年1月にも施行される見通し。会社分割関連二法の成立により、1997年の持ち株会社解禁、99年の株式交換制度の導入と合わせて企業再編成が整う形になる。会社分割制度には、企業が事業部門を切り離し新設会社に引き継ぐ「新設分割」と、既存の他の会社に引き継ぐ「吸収分割」の二種類がある。新設分割は、成長が期待される優良部門を分離・独立させる際などに、吸収分割は大企業による中小企業の優良部門の吸収などに適用される。分割の際に、分割計画書を作成し、株主総会の特別決議による承認を受けるなど現行制度より手続きも簡素化した。分割に伴う資産の移動が少ない場合には、株主総会の特別決議を省略できる簡易分割手続きなども定めた。債務を新会社に移す場合、債権者に通知をして異議がなければ同意と見なすため、個々の債権者の同意は不要になる。裁判所が選任する検査役の資産調査も必要なくなる。労働契約承継法は、労組と結んでいた労働協約を新会社に引き継ぐことを明記。切り離される部門の従業員は事前に通知されるだけで本人の同意がなくても転籍になるが、切り離される部門の新たに従業員を移す場合は従業員に転籍の拒否権を認めている。転籍の具体的なルールについては労働省令で別途定める。
● 21世紀初めの税制のあり方を展望するため、政府税制調査会(首相の諮問機関、会長・加藤寛 千葉商科大学長)が7月に取りまとめる中期答申の骨格が固まった。「少子・高齢化」が進展する中で社会保障財源の確保と税負担の世代間の公平を両立させるとする観点から、消費税を基幹的な税目として重視する姿勢を鮮明に打ち出し、将来の消費税引き上げの「必要性」を国民の明示することが最大の柱となるとしている。また、地球温暖化問題の解決に向けて、炭素税など環境税の早期新設を求めるという。さらに、"第二消費税"といわれる全国一律型の外形標準課税を導入し、地方税源を「充実」させるほか、「肥大化」している地方交付税交付金制度の「改革」に取り組むよう初めて提言する見通しである。
● 政府は4月28日の閣議で、2001年1月に発足する国土交通省の地方整備八局管轄区域を決定した。建設省の8地方建設局と運輸省の5港湾建設局を統合している。現行の地建の位置や管轄区域をベースにしているが、関東地方整備局の管轄となる長野県と近畿地方整備局の福井県は、港湾空港関係業務だけを北陸地方整備局が担当する。関関東地方整備局の本局は埼玉県大宮市に設置するが、港湾空港関係者は現在第二港湾建設局のある横浜市に配置する。近畿地方整備局も本局は大阪市だが、港湾空港関係は神戸市に置く。九州地方整備局の本局は福岡市だが、港湾空港関係は山口県下関市に置く。
● 農水省は国営干拓事業など国が直接手掛ける大規模な農地造成事業から撤退する方針だ。着工済み事業が完了する2003年度以降、農用地開発事業など主要制度を順次、廃止する。食糧自給率の向上を目指す新しい農業基本法の施行に合わせ、大規模な公共事業による農地拡張策を転換、既存農地の維持や有効活用に予算を重点配分する。高齢農家による耕作放棄などを食い止め、2010年で現状並みの470万ヘクタールの農地確保を目指す。同省は2007年まで続く第4次長計の終了を待たず、農地の拡張策を転換する。第1弾として、400ヘクタール以上の大規模な農牧草地を造成する農用地開発事業を2003年度で廃止する。すでに新規採択を凍結しており、全国12ヶ所の継続事業の完了後に廃止する。
● 高齢者や身体障害者が駅や駅の周辺を快適に利用できるようにするため関連設備を促す高齢者・障害者移動円滑化法(交通バリアフリー法)が、参院本会議で全会一致で可決、成立した。公共交通の事業者が駅などを新設したり、大規模な改良をする際にエレベーター、エスカレーターの設置などを義務付ける。今年中に施行する見通し。同法は駅や空港、バスターミナルなどが対象。エレベータ設置のほか、トイレを設置する場合は身障者用のトイレを用意することや、誘導警告ブロックの設置などを義務付ける。
● 建設省は現行の土地収用制度を見直す方針を決めた。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)など、新たな社会資本整備手法に対応させるのが主なねらい。同省は早ければ次期通常国会にも土地収用法の改正案を提出する見通しだ。現行の土地収用法は、国や地方公共団体が公共事業を実施する際に土地の所有権を取得するための制度。国や地方公共団体が適用対象で、PFIの民間事業者や第3セクターなどは対象外となっている。具体的な検討項目は、@PFIや第3セクター方式への対応A収用手続きの透明性の確保B損失保証制度の充実―など。見直しによって、PFI事業者などの民間企業も制度の適用対象となる。また、損失保証を充実させることで、円滑な用地取得をめざす。
● 建設物の分別解体やリサイクルを義務付ける「建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(建設リサイクル法)が、参議院本会議で可決、成立した。今後は建設廃棄物の排出抑制や再資源化の目標設定の方法をまとめた基本方針を策定し、年内にも施行する。解体工事業者に関する規定なども順次施行するため、全面施行は2002年夏頃となる。建設、厚生、農水、通産、運輸、環境の6省庁が所管する建設リサイクル法は、戸建て住宅解体工事やマンション新築工事など一定規模の工事を対象に、コンクリート、アスファルト、木材の3資材のリサイクルを受注者に義務付ける。解体工事業者の登録制度の創設、現場での標識の提示や、発注者への必要な費用負担の義務を定めることとしている。
● 産業廃棄物の不法投棄対策として、廃棄物の排出事業者の責任を徹底することなどを盛り込んだ「廃棄物処理法改正案」を全会一致で可決した。改正案は、▽廃棄物の適性処理のため規制強化▽国と都道府県の役割の明確化―などが柱。規制強化では、まず排出事業者の責任を強化する具対策として、廃棄物の排出から処分までの流れを把握するための「産業廃棄物管理票」(マニフェスト)制度を見直し、適正な最終処分が行われたことを排出事業者が確認するよう義務付ける。不法投棄に対して原状回復を命じる措置命令の対象を処理業者以外にも拡大。処理業者が不法投棄をする可能性があることを知っていた場合などは、排出事業者や土地の提供者にも原状回復の責任を負わせる。廃棄物の野焼きも禁止される。廃棄物処理業と処理施設設置の要件も厳しくし、マニフェスト制度や野焼き禁止規定の違反に対しては罰則も強化する。国は廃棄物の排出抑制や再生利用を促進するための基本方針を策定。都道府県がこれに沿って区域内の廃棄物の処理計画を定め、これまで民間に頼りがちだった処理施設の整備を主導的に進められるようにする。マニフェスト制度の見直しや措置命令の対象拡大は2001年4月に施行される。
● 建設省は2000年度を初年度とする「建設産業構造改善推進3ヵ年計画」(00〜02年度)を策定、26日付で関係団体に通知した。経済環境の変化に対応するため、対象期間を従来の5ヵ年から3ヵ年に短縮するとともに、事業を4分野12項目37事業に絞り込み、より実効性の高い内容にした。重点分野は、▽不良・不適格業者の排除の徹底▽建設生産システムの合理化の推進▽生産性の向上▽優秀な人材の確保・育成と雇用労働条件の改善―の4つ。このうち、不良・不適格業者の排除の徹底では、具体的な事業として各業界団体による不良不適格業者排除の申し合わせや「建設業法110番」の創設などを提示。生産性の向上では、情報技術(IT)の活用方策やJV会計制度などの検討を、建設生産システムの合理化の推進では、地域の特性を考慮した建設ビジョンの検討などを盛りこんでいる。
● 建設、農水、運輸の3省は、公共事業工事設計労務単価の2000年度平均単価が前年度比10.1%減と大きく減少したことを受け、6月と11月の2回に分けて調査を実施することで合意した。より実勢に近い単価を設定するのが目的で、年2回調査は6年ぶり、単価が減少に転じてからは初めてとなる。6月調査の結果は10月以降、11月調査は翌年4月以降の積算に適用する。
● 北海道庁発注の農業土木工事をめぐる談合疑惑で、公正取引委員会は、道農政部と各支庁が入札前に落札業者を決めていた事実を認定し、談合に関与した297社を独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除勧告したと発表した。排除勧告を受けたのは、旭川農業土木協会の203業者と旭川測量設計業協会の94業者。対象となった農業土木工事(1996年4月から99年10月までの約3年間)の総事業費は、約609億円に上ります。勧告によると、上川支庁の担当者は道農政部の担当者と調整しあって業者ごとの年間受注目標額を設定。業者がその目標額を達成できるように、旭川農業土木協会事務局長(道庁OB)を通じ、業者に受注価格を連絡していた。さらに、業者らが受注価格の低落を防止し、継続的な受注の確保をするため、自ら受注価格を決め、道庁の意向どおりに受注者を決定していた事実を認定。203社は上川支庁発注の農業土木工事(舗装、建築、ダム工事など農業農村整備にかかわる工事)のほとんどを受注していたとしている。
● 経営不振に陥っている準大手ゼネコンのハザマは、取引金融機関に対し約1100億円の債権放棄を要請する方針を固めた。メーンバンクの第一勧業銀行はこれを受け入れる見通しで、2001年3月期中に他の金融機関の合意も取り付けたい考え。日本公認会計士協会は今期までに、時価が簿価の50%以下に下落した販売用不動産の含み損処理(強制評価減)を義務づけており、ハザマは自力で含み損を処理するのは難しいと判断した。ハザマの連結ベースの有利子負債は約4千億円。債権放棄を要請するのは約900億円を融資しているメーンの第一勧銀のほか、三菱信託銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行など主要5−6行になる見通し。