情勢の特徴 - 2000年7月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 建設省がまとめた1999年度末の建設業許可者数は、前年度比2.5%増の60万980業者となり、90年以降10年連続で増加、60万業者を突破した。新規参入業者数は減少傾向にあるものの、同省は増加の原因を、建設業法改正で建設業許可の有効期間を延長した結果許可更新業者が少なくなり、廃業者数が表れにくくなったためとみている。実際、新規参入業者は99年度が2万4300業者(98年度2万6000業者)と減少傾向にあるが、業法改正の影響で、廃業者数は97年度の2万5800業者から、98年度8700業者、99年度9400業者と2年連続で減少している。99年度末の大臣許可業者数は0.8%増(84業者)の1万899業者、知事許可業者は2.6%増(1万4851業者)の59万81業者とそれぞれ増加した。一般・特定建設業別は、一般が2.6%増の57万7709業者、特定も2.4%増の5万141業者となった。資本金階層別では、資本金1000万円以上5000万円未満が38.3%ともっとも多く、次いで個人が26.3%、200万円以上500万円未満が 21.9%、500万円以上1000万円未満が10.7%、5000万円以上1億円未満が1.7%、1億円以上10億円未満が0.8%、10億円以上が 0.3%、200万円未満が0.1%となった。
● 東京商工リサーチがまとめた2000年上半期(1〜6月)の建設業倒産件数は2991件、前年同期比48.8%もの大幅な増加となった。また、負債総額は6580億5900万円で17.0%増だった。1件当たりの平均負債額は2億2000万円、資金階層別では1000万円以上5000万円未満の企業が1379件と、ほぼ半数を占めている。厳しい経営環境のなかで、地場の中小企業が競争激化などに耐えきれなかったものとみられる。倒産の原因は、受注・販売不振が1580件で負債額が2946億1900万円、赤字累積が435件、862億7700万円、売掛金回収難が43件、69億4100万円で、この「不況型」倒産が2058件と、その大半を占める結果となった。倒産形態別では、銀行取引停止が2410件と全体の80.6%を占めた。次いで倒産が393件、1835億9500万円となっている。

行政の動向

● 建設省発注工事の指名競争入札参加の選定をめぐり、中堅ゼネコン若築建設の会長から現金2000万円と小切手額面1000万円のわいろを受け取った疑いが強まり、東京地検特捜部は、受託収賄容疑で、元建設相で前衆議院議員の中尾栄一容疑者を逮捕した。調べによると、中尾容疑者が建設相だった1996年10月9日、建設省発注工事の指名競争入札の参加業者選定をめぐり、若築建設の石橋浩会長らから選定を受けたいとの請託を受け、東京都港区内の事務所で、同会長から現金2000万円と、都銀が振り出した額面1000万円の小切手を受け取った疑い。若築建設は陸上土木・建築工事の受注実績に乏しく、石橋会長は建設省の発注する土木工事で、全般的に指名業者になることを希望して、中尾建設相に働き掛けを強めたとみられている。建設行政のトップである建設大臣がわいろを受けてゼネコンの公共事業受注に便宜をはかるという事態は、日本の巨額の公共事業をめぐる政・官・財の癒着の構造をあらためて問うものである。
● 建設省は6月29日付けで、元請下請企業間の請負契約適正化に向けた、注文書と請書の取り扱いについて、各都道府県主管部局、建設業団体に通知した。多くの現場で注文書と請書の交換のみの契約がみられることから、こうした現状を踏まえ、一定の要件を満たせば建設業法違反にはならないとしている。建設省は、元請下請企業間の契約締結における、注文書・請書の取り扱いを整理することで、請負契約の適正化を進める。2000年度を初年度とする建設産業構造改善推進3ヵ年計画では、業種別に建設工事標準下請契約約款に準拠した見積書・注文書・請書の標準化を検討するとしており、各団体ごとが既存書式の見直しなどに取り組む場合に、今回の通知の考え方を反映させていく。とくに注文書と請書の交換のみで請負契約を結ぶ際には、第19条第1項の第1号から3号(工事内容請負代金の額、工事着手と完成の時期)に関する事項や、その他必要な事項(設計変更や価格変動、賠償金負担の対応方法、工事完成後の請負代金の支払時期や方法など)を記載した基本契約約款を添付または印刷することなどとしている。
● 建設・運輸・農水の3省は、毎年工事現場を対象に行っている「公共工事の積算に関する諸経費調査」の調査方法を見直す。今年8・9月にも実施する 2000年度調査では、現場の実態をより正確に把握するため、調査対象件数を大幅に拡大。建設省は前回調査の2倍に当たる1400〜1500ヵ所の現場を対象にする。また、運輸・農水の両省はこれまで、前年度の完成した工事物件を対象に調査を行ってきたが、調査結果と実態に時間的なズレが発生することから、建設省と同じ当該年度に進行中の工事を調査対象とする。調査内容は、直接工事費や間接工事費などの中身。例えば、間接工事費に含まれる現場管理費では ▽労務管理費 ▽安全訓練などに要する費用 ▽租税公課 ▽保険料 ▽従業員給与手当 ▽退職金 ▽事務用品 ▽交際費―など現場管理費を構成する各項目を元請・下請け双方に聞いている。
● 建設省は、専門イノベーション戦略を策定した。@多様な建設生産・管理システムの形成 A経営力・施工力の強化 B元請下請関係の適正化 C人材の確保・育成――の4つの柱を掲げ、専門工事業者の経営革新戦略構築の道しるべを示した。とくに競争力強化のため、IT(情報技術)の活用、異業種連携など新たな組織の在り方を探ることなどが必要としている。今後は同戦略を踏まえ、IT活用方策、注文書など書式の標準化検討など、行政、業界団体などが具体的取り組みを本格化させる。イノベーション戦略は、現状のままではすべての業者が生き残ることは不可能で、元請けの協力会システムなどへの依存体質から脱却して「自己改革の努力が何よりも求められる」と、企業の自己責任を明確に打ち出した。そのうえで、個々の企業の経営革新を支援するために業界団体、行政が取り組むべき課題も示している。

労働関係の動向

● 建設・運輸・農水の三省は、7月中にも公共事業労務費調査の実施方法の見直しに向けた研究会を設置する。2000年度公共工事設計労務単価の50職種平均は、前年度比1割減と大きく落ち込んだ。厳しい経済情勢を反映したものだが、一方で地域ごとの単価の増減幅の格差などの問題も指摘されている。より実勢に近い単価の設定を目的に、今年度は6年ぶりに年2回の調査を実施するが、研究会の検討結果を早ければ10月調査に反映させたい考えだ。三省が3月にまとめた2000年度設計労務平均単価は前年度比10.1%減となった。前年度との増減幅が大きい場合、実勢に近い単価を設定するために、6月と10月の年2回に分けて調査しており、前回は平均単価が7%上昇した94年度に実施している。今回の大幅な低下を受けて、三省は年2回の調査実施を決めたほか、前回任意だった健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届の持参を求めるなど調査票確認を徹底している。新たに設置する研究会は、昨年度の研究会をベースに検討内容・態勢を固める。現行の会場審査に代わる単価の算出方法などの検討も盛りこむ方針だ。新研究会のメンバーは学識者、三省担当者、経済調査会、建設物価調査会などで構成する見通し。
● 政府は閣議で、国家公務員の定員について、2001年度から05年度末までの5年間に約4万3000人削減することを盛りこんだ定員削減計画を決定した。現在の国家公務員の総定員は約84万人。同計画は最初の5年間で5%を削減することとし、省庁別の削減目標を示した。それによると、01年1月の省庁再編時にまず465人を削減し、05年度末までに計4万3130人を段階的に削減する。削減目標は、総務省(郵政事業を除く)が最大で約1万5500人。次いで文部科学省約5700人、厚生労働省約4500人、農水省約4200人、国土交通省約3700人となっている。
● 総務庁が発表した6月の完全失業率(季節調整値)は4.7%で、5月より0.1ポイント上昇した。完全失業者数は1年前の6月(前年同月比)より8万人減の321万人。うち、非自発的離職者は同13万人減の105万人で4ヶ月連続で減少した。ただ、前月比では4万人増加した。従業員が30人〜499人規模の事業所の雇用者数は13ヶ月ぶりに増加した。(500人以上規模は9ヶ月連続増)。しかし、1〜29人規模では9ヶ月連続減で、小零細企業の経営は依然悪化が続いていることをうかがわせている。

業界の動向

● 帝国データバンクは、全国の主要建設会社117社の有利子負債額をまとめた。1999年度の有利子負債額の合計は、9兆5905億円で、前年度から1826億円、1.9%減った。99年度の有利子負債の内訳をみると、長短の借入金の合計が8兆4050億円で前年度と比べ1813億円、2.2%増えた。逆に、社債・転換社債が約9051億円で962億円、9.6%減、コマーシャルペーパー(CP)が2184億円、2537億円で53.7%と大幅に減らしている。有利子負債が3000億円を超えるゼネコンは10社、117社の対売上高比は47.5%で前年度比で3.7ポイント上昇した。増加額が多かったのは長谷工コーポレーションだが、新再建計画の対象関係会社12社の債務を本体が引き受けたためで、単体の借入金は著しく増えたものの、グループ全体の有利子負債は減った。
● 日本建設業団体連合会は、1999年度の法人会員決算状況分析結果を発表した。会員企業(99年度中に本決算を行った62社)の売上高は総額で前年度比10.1%減の17兆2120億円で、97年度以来3年連続の減少となった。利益は経営のスリム化などが奏功し、経常利益が同32.8%増の 4110億円となった。ただ、当期利益は3640億円の赤字で、会計制度変更に伴う処理などが響き、3年連続の最終赤字となった。

その他の動向