情勢の特徴 - 2000年8月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 政府は臨時閣議で、2001年度予算の概算要求基準を了解した。公共事業は、2000年度と同水準の9兆4000億円とし、特別枠をこの範囲内で設定。政策的経費である一般歳出は、積極型だった前年度の48兆円を上回る49兆円に迫る水準としたほか、政治主導で配分する特別枠を前年度より2000億円拡大して1兆円に設定した。 さらに、来年1月に予定されている省庁再編の効果を高める新事業に1500億円の枠を用意した。特別枠は、与党主導で配分する生活関連枠と、森善朗首相の主導で配分する7000億円の「日本新生特別枠」の2つ。 うち日本新生枠は「日本新生プラン」を具体化するため、IT(情報技術)革命や環境、高齢化対策、都市基盤整備を中心に配分、要求の上限を2倍の1兆4000億円程度とした。
● 東京商工リサーチがまとめた、7月の建設業倒産は552件で前年同月比29.2%増加した。3ヶ月連続で500件を超え、対前年同月の増加はこれで 9ヶ月連続となった。7月単月としては、1998年の491件を抜いて史上最悪を更新した。負債総額は1452億8100万円で、前年同月比17.7%増。これも7月単月としては史上3番目の高い水準となっている。倒産の形態は、銀行取引停止処分が418件と圧倒的に多く、倒産が85件、民事再生法16件と続いている。資本金階層別では1億円未満1000万円以上が276件、1000万円未満が275件と、地場の建設業倒産が著しく、地方自治体の公共工事に依存している中小企業がその大半を占めた。
● ムダ遣いに国民の批判が強まっている公共事業について、自民、公明、保守の与党3党は政府責任者会議を開き、建設、農水、運輸各省の233事業を原則中止するよう政府に求める方針を決めた。森首相は「重く受け止めて実行したい」と了承した。これを受け、与党は、国営中海干拓事業本庄工区(島根県)など関係自治体などとの調整がついた24事業の具体名を公表した。与党が合意した「公共事業見直し基準」は、@採択後5年以上経過しても未着工A完成予定年度から20年以上経過しても未完成B現在、休止中C実施計画調査に着手後10年以上経過しても未採択−に該当する事業について「原則中止」すべきだとしている。与党側の説明によると233件の事業費は総額約2兆 8000億円(既投資分を除く)。中止対象事業のすべてが中止されたとしても、事業数では各省の事業全体のわずか2%程度。また、事業費は単年度にすれば、2千数百億円程度の削減にすぎず、年間50兆円の公共事業費のほんのわずかな見直しにとどまっている。

行政の動向

● 運輸政策審議会(運輸相の諮問機関)は、今後の鉄道整備のあり方を検討した答申をまとめ、森田一運輸相に提出した。鉄道整備の新たな方式として、公的主体が公費で線路や駅などのインフラを整備し、運行は民間の鉄道会社が行う「上下分離方式」の導入を検討するよう求めた点が大きな柱。自動車交通から鉄道へのシフトを促進するため、在来幹線鉄道を線形改良や立体交差化で高速化することも求め、速度向上の目標水準も決めた。答申は、利用者の運賃負担による民間事業者主導の鉄道整備を基本として維持しながらも、政策的に重要な路線については、インフラ整備に対する公的支援を強化する方策を提案した。上限分離方式については、公的主体が整備したインフラを有償で貸し付け、鉄道会社が運賃などで整備費を負担する「償還型」と、鉄道会社は整備を負担しない「公設型」の2方式を提示。採算を無視した過大な投資が行われないよう、整備の費用対効果などに関する情報公開や、公的主体と運行事業者間の役割分担の明確化などを徹底した上で、採用を検討すべきだとしている。
● 自民党の都市問題対策協議会(伊藤公介会長)は公共事業のために国や地方自治体が強制的に土地の所有権を取得できる土地収用法を改正する方針を決めた。都市部で不足している産業廃棄物処理施設や高速道路など公共事業の用地取得を円滑にする目的で、土地権利者への補償支払い手続きの簡素化や、不透明さを指摘されている国、県による強制収用認定手続きの見直しなどを軸に検討する。今秋に予定される臨時国会に改正案を提出、成立を目指す構えだ。収用手続きの迅速化に関しては、強制収用の対象となる土地の権利者それぞれに補償金を直接手渡さなくてはならない規定を見直し、補償金を土地所有者の代表を通じて送付する案が浮上している。自民党が土地収用法の改正に動き出した背景には、収容手続きにかかる膨大な労力とコストが事業計画を遅らせているとの危機感がある。
● 東京都は、建築工事での一括発注や土木工事での発注ロット拡大を可能な限り推進する。財務局長名で適切な発注ロットの設定を行うよう各局に通知した。都はこれまで、できる限り分離・分割発注を行うよう各局に要請していたが、この発注政策を転換。今後は現場管理上必要な場合には一括発注とするとともに、可能な限り発注ロットの拡大に努める方針だ。それによると、建築工事では、業種ごとの分離発注を基本としつつ、施工区域や搬入路などの状況により「現場管理上必要がある場合」には一括発注とする。これにより、例えばこれまで分離発注されていた建築本体工事と外構工事が一括で発注される見通しだ。建築工事や設備工事では棟ごとの分割発注が行われているが、これも現場管理上必要であれば一括発注とする。例えば学校建築工事で、これまで分割発注されていた校舎棟と体育館の一括発注が可能になる。
● 建設省(来年1月から国土交通省)は平成13年度の新規事業として、「中古住宅の瑕疵保証制度」を創設することを、平成13年度概算要求項目として発表した。制度の主旨は、築後一定期間以内の中古住宅の基本構造部分を5年間保証し、瑕疵が発見された場合に、修補に要する費用の大部分を保証金として負担するというもの。売主は、保証を受けるための保険料を(財)住宅保証機構に支払う。住宅の構造をチェックする検査員を置く検査機関等が機構の委託を受けて検査を行う。住宅の引き渡しを受けた買主は、5年の間に基本構造部に瑕疵があった場合に、補修費用を負担してもらえるというのが制度のしくみ。保証制度のための基金を住宅保証機構内に創設することになっており、その一部を国が補助する。売買契約は従来どおりの方式に基づくが、建設省では、新築時に性能表示を行った住宅については優遇措置を講ずることも考えている。
● 建設省は、公共工事の契約適正化促進に向けて検討している「公共工事の契約適正化法(仮称)」(案)の骨格をまとめた。契約適正化の基本原則を明確にし、透明性の向上、公正な競争、受注者による適正な施工の確保を図る。扇千景建設相は次期臨時国会に、この新法を提出する考えを示している。新法は、@契約プロセスの透明化A適正な施工の確保B公正な競争の推進C不正防止のための取り組み――を柱に据えている。契約プロセスの透明化では、入札参加資格、指名基準、受注者の選定過程など、入札・契約に関係する情報をすべて開示することを明確に法律で位置付ける。適正な施工の確保は、成績評価の実施や適正な施工体制の確保などとなる。公正な競争の推進としては、第三者機関の入札監視委員会の設置を公共事業発注者に義務付ける。不正防止取り組みは、発注者と許可権者、公正取引委員会との連携強化、発注者責任明記などを盛り込む見通し。
● 2001年1月に発足する国土交通省は、今後10年間で全国約13万棟の公共施設をバリアフリー化する計画を立てている。全国の主要な駅 2700施設やその周辺空間などの改修にも着手する。公営住宅については、2015年までに全新築の約2割、リフォームで約2割のバリアフリー化をめざす。バリアフリー化の対象とする建築物は、駅ビル、デパート、病院、劇場など、不特定多数の人が訪れる施設で、延べ2000平方メートル以上の建築物。全国の既存ストックの3割に相当する約13万棟の改修を2010年までに進める計画だ。エレベーターやスロープの設置、通路幅の拡大などの工事が中心となる見通し。主要旅客施設のバリアフリー化では、1日当たりの乗降客数が5000人以上の約2700鉄道駅を、2010年までにバリアフリー化する。あわせて、駅周辺空間や周辺施設、バスなどの公共交通機関も一体的に整備を進める方針だ。建設、運輸両省庁の現在の施策を連携させる形で事業を実施する。一方、住宅は2015年までに全新築住宅の約2割、リフォームで約2割に相当するバリアフリー住宅の供給をめざす。公営住宅などの公共賃貸住宅は、新築でバリアフリー仕様の導入を進めるほか、エレベーター設置や廊下幅拡大などの改修工事を実施する計画だ。バリアフリー化の遅れが懸念されている民間賃貸住宅については、新たな補助制度となる「高齢者世帯向け賃貸住宅制度」(仮称)を創設し、民間事業者による取り組みを後押しする。

労働関係の動向

● 総務庁が発表した7月の完全失業率(季節調整値)は前月比横ばいの4.7%だった。中小企業の倒産が高水準で、自営業者が大幅に減少したことが響いた。完全失業者数は307万人と3ヶ月連続で前年の水準を下回った。労働省が発表した有効求人倍率は前月比0.01ポイント上昇して0.60倍(同)に改善した。男女別の完全失業率は男性が前月より0.1ポイント上昇して4.9%。女性は0.3ポイント上がり4.3%だった。7月の完全失業者数は307万人と、前年同月に比べ12万人減少した。
● 北海道など積雪寒冷地で冬期間に離職を余儀なくされる季節労働者の生活と雇用を守る冬期雇用援護制度が今年度で期限切れをむかえるなかで、労働省は一定の見直しをおこなったうえで、同制度を2001年度以降も3年間延長する方針を決め、関係経費を来年度予算概算要求に盛り込んだ。同制度は1977年に始まり、3年間の暫定措置としてこれまで7回延長。来年度以降について労働省は当初、「厳しい財政状況」などをあげ、制度の廃止も視野に検討していた。制度の存続が決まった一方で、「一定の見直し措置」として関連予算の削減や労働省が定めた技能講習をうけた季節労働者に支給される給付金減も考えられている。

業界の動向

● 準大手ゼネコン(総合建設会社)ハザマが主力取引銀行4行に求めている1050億円の債権放棄について、新生銀行(旧日本長期信用銀行)が 153億円の債権放棄に応じることが明らかになった。放棄後に残る新生銀のハザマ向け債権を、メーンバンクの第一勧業銀行と三菱信託銀行が共同で買い取る。融資残高4位の日本債券信用銀行も9月1日のソフトバンク連合への譲渡後、約50億円の債権放棄に応じる見通し。

その他の動向