情勢の特徴 - 2000年9月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 来年1月に誕生する「国土交通省」(建設・運輸・国土・北海道開発の4省庁を統合)の2001年度予算概算要求で、一般公共事業費は約7兆8200億円にのぼることが明らかになった。従来までの公共事業費の枠を温存しながら日本新生特別枠や生活関連等公共事業重点化特別枠なども入れて、一般公共事業費は前年度比9%増。建設省の要求は、日本新生枠や生活関連重点枠も入れた国費分で前年度比2%増、約3430億円に増えている。運輸関係でも、「生活関連重点枠」で約1140億円をもりこみ、前年度比4.3倍の1500億円を要求している。国土交通省関係では「日本新生プラン」で、光ファイバー収容空間ネットワークなどIT(情報技術)革命の推進で事業費を前年比1.41倍の6657億円要求している。
● 米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本政府が発行・保証する円建て債券の格付けを「Aal」(最上級の「Aaa」に次ぐ、ダブルAプラスの相当)から「Aa2」に1段階引き下げると発表した。今後の格付け見通しについても「ネガティブ(弱含み)」に据え置き、一定の期間をおいたうえで、さらに格下げする可能性を残した。国内総生産(GDP)比でみた日本政府の債務残高が、先進国中で最も高い水準になっているうえ、年金や地方財政など公的債務に関する難問が山積みしていることを格下げの理由に挙げている。格下げになると国債相場の下落要因に働き、長期金利の上昇をもたらしかねないとして、市場関係者の間では注目が集まっていた。すでに長期金利は日銀のゼロ金利政策解除を受けて上昇傾向にある。今回の格下げでさらに上昇圧力がかかるようだと、政府の国債利払い負担の増加を通じて財政を悪化させる可能性がある。
● 経済企画庁が発表した2000年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.0%増、年率換算では、 4.2%増加し、2.4半期連続のプラス成長となった。景気のけん引役となってきた設備投資がマイナスに転じたものの、個人消費は増加基調を維持。さらに公共投資が大幅な伸びを示したことで、民間需要の減速を補った。4〜6月期のプラス成長に最も寄与したのは公的需要。公共投資は前期に7.5%減と大幅に落ち込んだことの反動や、1999年の経済新生対策の効果が4月以降に表れてきたことで、前期比13.6%増と4期ぶりにプラスに転換。伸び率は74年4〜6月期以来、26年ぶりの高さとなり、公共投資だけでGDP を1.0ポイント押し上げた。一方、民間需要のもう1つの柱である設備投資は3.3%減と3期ぶりにマイナスに転じた。
● 東京商工リサーチがまとめた8月の建設業倒産状況によると、件数は546件、負債総額は966億9000万円だった。件数は前月比1.0%減少だが、前年同月比では26.9%増と悪化している。4ヶ月続いて500件を超え、前年同月比は10ヶ月連続増。8月単月としては1977年の514件を抜いて、過去最悪を更新した。社員10人未満の零細企業が437件と80%を占めており、地場企業にとっては厳しい環境が続いている。倒産の原因は、受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難のこれら3原因の不況型倒産が計380件で69.6%を占めている。倒産の形態をみると銀行取引停止処分が436件ともっとも多く、全体の79.8%に達した。倒産した企業の規模は、地方の零細企業が圧倒的に多い。資本金1億円以上は2件、1千万〜1億円未満が266件、1千万未満が278件。負債額は10億円以上が11件、年間売上高10億円以上の企業は15件だった。全産業をみても、10ヶ月連続で危険ラインの月間1500件を超え、建設業はその3分の1を占めている。
● 建設省が発表した8月の新設住宅着工戸数は前年同月に比べ3.8%減の10万3554戸となり、4ヶ月連続で減少した。分譲住宅が14ヶ月連続で増えたものの、戸建ての注文住宅(持ち家)と、貸家が振るわなかった。販売が好調だったマンションは14ヶ月ぶりに前年水準を下回った。建設省はいまのところ着工戸数は前年度並みに推移するとの見方を変えていないが、住宅投資のけん引役だったマンション着工が足踏みする可能性も出てきた。

行政の動向

● 政府は、公共工事コスト縮減に関する新行動指針を策定した。より良品で安く社会資本を整備するため、これまでの直接的な工事コスト低減に加えて、@工事の時間的コスト低減 Aライフサイクルコスト低減 B工事における社会的コスト低減 C工事の効率性向上による長期的コスト低減――を基本的視点に据え、「総合的なコスト縮減」をめざす。新行動指針の目標期間は、2000年度から2008年度末までの9年間で、具体的施策数は30施策210項目。 1999年4月に閣議決定した行政コスト削減に関する取組方針で掲げた、99年度ベースから30%削減を数値目標として取り組んでいく。
● 建設省は、不良不適格業者の排除に向け、公共発注者の監督・検査職員らが現場の施工体制などを確認する際のチェックポイントをまとめた。施工前の事前確認として施工体制台帳の記入ミスや添付書類漏れなどの確認項目を挙げるとともに、実際に現場へ立ち入った際の確認項目として▽施工体系図の備え付け状況 ▽監理技術者の配置状況▽下請業者の使用状況―などの検査項目を簡潔に示している。同省では8月31日付けで、都道府県や関係省庁・公団などに対し、現場の施工体制などの確認を積極的に実施するよう要請。このチェックポイントを各発注機関に活用してもらい、不良不適格業者の排除を一層徹底させる方針だ。
● 森喜朗首相は閣僚懇談会で、公共工事の入札・契約手続きの透明性、競争性を向上させるための「公共工事請負契約適正化法案」(仮称)を9月下旬に召集予定の臨時国会に提出する考えを表明し、扇千景建設相に法案準備を進めるよう指示した。公共工事請負契約適正化法案は、元建設相の受託収賄事件をきっかけに、公共工事に対する国民の信頼が損なわれたことから、信頼回復が急務と判断し、現在、建設省で検討が進んでいる。同法案は国や公団・事業団、地方公共団体のすべての発注機関とその公共工事が対象となる。建設省が検討中の法案の骨格では、@契約プロセスの透明化A適正な施工の確保B公正な競争の推進C不正防止のための取り組み――の4つを柱に据えている。
● 建設省は、増加が見込まれる高齢者世帯の住環境を充実させるため、高齢者向け住宅ストックを増やすことを目指す総合策を展開する。高齢者向けの民間賃貸住宅の供給促進を目指して創設するのは「高齢者世帯向け賃貸住宅制度」(仮称)。新制度は、民間事業者が、緊急時の医療機関や消防署などへの通報と対応サービスが受けられるバリアフリー住宅など一定条件を満たす高齢者向け賃貸住宅を供給する際、共用部分や共同施設、高齢者向け設備などの建設費に対し、国と地方自治体が3分の1ずつを補助する。新築だけでなく既存住宅の改良にも制度を適用する点が特徴。入居する高齢者の単身・夫婦世帯のうち、収入が一定以下の世帯に対しては国と自治体が家賃の1部を助成する仕組みも取り入れる。同省は来年度、新制度で1万5500戸の建設を目指している。一方、持ち家のバリアフリー化割合は公営賃貸住宅に次いで高いが、それでも2.9%にとどまる。このため建設省は、住宅公庫融資にバリアフリー改修向けの特別な融資制度を創設。年金生活者など定期収入が少ないために通常のリフォームローンが利用できない高齢者世帯の持ち家改修を支援する。新制度は毎月の支払いは利子だけとし、元金は死亡時に資産を処分して一括償還する仕組みで、基金を設けて融資の債務保証を行う枠組みを構築することも検討する。このほか、家賃滞納などへの不安から高齢者世帯の入居に家主が消極的になる現状を改善するため、保証人のいない高齢者世帯を対象に一定期間の未払い家賃を保証する基金も創設する方針だ。建設省の推計では、2015年には高齢者がいる世帯は4割に達し、その半数は単身・夫婦世帯となる見込み。そこで同省は15年までにバリアフリー化住宅の割合を20%まで高めたい考え。
● 建設産業界の構造改革、経営革新をめざし、全国の地場ゼネコンが参画するネットワーク組織の「Trillion Community(とりりおんコミュニティ)」(1兆円クラブ)が創設された。とりりおんコミュニティは、秋村組(本社・滋賀県近江八幡市)の秋村田津夫社長が発起人となり、完工高 100億円規模の地場ゼネコンに参加を呼びかけて実現した。100社が参加することで1兆円クラブとなる。第1段階として経営に優れた全国の地場ゼネコンのなかから、賛同を得られた25社により活動を始める。今後、参加メンバーを2001年4月までに100社程度に増やしていく予定だ。事業は、協業化のためのウェブベースの共同事業を年内にも稼働させ、順次、共同ビジネス化、ニュービジネス化に進展、異業種連携へと段階的に強化、進化させ、トータルコラボレーションの実現を図っていく。共同事業では、IT活用による共同購買、建設重機や資産、技術、社員の相互交流などを1年以内に実施する。また、広域JV組成による共同受注、人材開発の共同化などは1〜2年以内の実施をめざす。情報システムや事務総務のアウトソーシング、リフォーム・メンテナンスなど建設事業の補完的機能ビジネス化などは、2年以内に共同ビジネス化する。建設周辺を市場とする金融関連業、産業廃棄物処理業、人材派遣などのニュービジネス市場の発掘も推進する。異業種連携は、1年以内に建設業界内の異業種JV定型化、他産業との交流による事業化の促進を図り、建設業界内異業種連携によるVE(バリューエンジニアリング)提案企画の開発などは2年以内に実現させることで、受注機会の拡大につなげていく。

労働関係の動向

● 労働省は、「労災保険法改正案」を臨時国会に提出する方針を固めた。改正案は▽二次健康診断等給付制度の創設▽有期事業(建設業)に関するメリット制の改正―の2つが柱。2次健康診断等給付制度は、労働者が業務中に脳や心臓の疾患を発症し突然死するケースが増えていることを受け、脳・心臓疾患の発症を予防する策として創設される。一方メリット制は、改正では、建設業の災害発生率が減少している現状を踏まえて最高限度を同35%に拡大、他産業との差を5ポイント縮める。
● 建設・農水・運輸の3省は、公共工事の設計労務単価の決定に用いる「公共事業労務調査(10月調査)」を実施する。調査方法は前回の6月調査と同じ方式となるが、集計方法については各職種の労働市場圏などを検討した上で、1部の職種でブロック単位あるいは全国統一の単価方式に見直す。また、標本件数が少ない職種では、従来の「会場審査」のほかに、労働者賃金などを定期的に調査する「モニター方式」の調査も試行する見通しだ。

業界の動向

● 準大手ゼネコン(総合建設会社)ハザマは、1050億円の債権放棄について第一勧業銀行など主要4行と合意したと正式に発表した。融資残高3位の新生銀行の対応などを巡って交渉が難航していたが、最終的に金融機関の救済措置で経営破たんを回避する。熊谷組、大末建設を加え、上場ゼネコンの債権放棄要請はすでに9社目、放棄額(要請額含む)の累計は2兆円に及ぶ。ハザマは、2001年3月期に1050億円を債務免除益として計上し、不動産の含み損解消やゴルフ場開発会社の清算など不良資産の処理原資に充てる。連結有利子負債は前期末の4200億円から今期末に2700億円まで減少する計画で金利負担が大幅に減少。金利が5%程度に上昇しても現行の営業利益でカバーできる財務体質になる。

その他の動向