情勢の特徴 - 2000年12月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 民間信用調査会社の帝国データバンクが発表した11月の全国企業倒産(負債額1000万円以上)の件数は、前年同月比22.7%増の1683件となった。今年に入ってからは4番目、11月としては84年に次ぐ戦後3番目、バブル崩壊後では最高の水準となった。負債総額は1兆2226億1400万円で、戦後最悪を記録した前月より大幅に減少したものの、前年同月比199.3%増と大幅増加。11月としては96年につぐ過去3番目の負債額となった。業種別では、運輸・通信を除くすべての業種で前年同月比増加。とくに建設業(536件)では4ヶ月連続500件を超え、製造業(278件)も13ヶ月連続で前年同月を上回った。
● 大蔵省は、国債発行等懇談会を開き、来年度中に発行する国債が131兆9037億円にのぼり、前年度(補正後予算)と比べ、50.1%増と急増する見通しであることを明らかにした。年度ごとの国債発行額が100兆円を超えるのは初めてだ。来年度に発行する国債の内訳は、来年度予算(大蔵原案)の赤字を埋めるための新規債(新規財源債)が28兆3180億円、償還期限の来た国債を延長して保有させる借換(かりかえ)債が59兆6883億円、来年度から財政投融資「改革」で新たに発行する財投債(財政融資資金特別会計国債)が43兆8974億円(うち、財政投融資「改革」に伴う経過措置として、「郵便貯金資金」「年金資金」「簡保積立金」による引き受け分は33兆4000億円)。
● 森内閣は臨時閣議で、2001年度政府予算案を決定した。一般会計総額は82兆6524億円(2000年度当初比2.7%減)。そのうち、政策的経費である一般歳出は過去最大の48兆6589億円(同1.2%増)である。公共事業関係費は、事業見直しを掲げたにもかかわらず、過去最大の9兆4352億円としたうえ、公共事業等予備費として3000億円を計上している。関西空港二期工事の継続をはじめ、採算のとれない浪費的事業にしがみついている。また、膨大な累積赤字を抱えた本四架橋の後始末の一環として、新たに毎年 800億円の無利子貸付を10年間にわたって実施する。軍事費は同0.4%増の4兆9553億円と過去最大になる。一方、生活関連予算をみると、社会保障関係費は、17兆5552億円(同4.7%増)。1月から老人医療の定率1割負担を実施するほか、来年10月から 65歳以上の介護保険料を引き上げる。国、地方の借金(長期債務残高)は来年度末に666兆円、国民1人あたり525万円(国債残高は1人あたり307万円)に達する見込みだ。
● 総務庁が発表した11月のサラリーマン世帯の家計調査によると、一世帯あたりの消費支出は31万2376円となり、物価の変動を除いた実質で前年同月比2.3%減少した。衣料品など「被服および履物」が13ヶ月連続で減少したほか、家賃の下落が影響した。前年比でマイナスとなるのは2ヶ月連続で、下落幅も前月の0.1%から2.2ポイント広がった。同庁は「消費は低調な状態が続いている」と判断している。

行政の動向

● 政府は閣議で、2001年1月からの中央省庁再編を踏まえて、21世紀の行政のあり方を示した新たな「行政改革大網」を決定した。2005年までを集中改革期間と位置付け、その間に@特殊法人を廃止や民営化などで抜本的に見直すA官僚の民間企業への「天下り」に閣僚の承認を義務付けるなど、厳格な規制を導入するB市町村合併の推進により全国で現在、約3200ある地方自治体の数を1000程度に縮小する――などの方針を打ち出した。特殊法人改革では、2001年度中にすべての特殊法人の事業と組織形態を見直し、廃止、整理・縮小、民営化、独立行政法人化などの方向性を盛り込んだ「特殊法人整理合理化計画」を策定するとともに、遅くとも2005年度末までに実行のための法整備を行う方針を明記した。公務員制度改革では、従来の年功序列を改め、能力主義にによる「信賞必罰」の人事制度や採用区分にとらわれない人事の仕組みを導入。官僚の「天下り」を規制するため、閣僚による承認と即時の公表を義務付けるとともに、出身官庁への「口利き」などをできないようにする「行為規制」の制定を掲げた。地方分権では、市町村合併の推進のほか、合併に関する住民投票制度の導入、地方税財源の拡充を明記。
● 道路審議会(藤井彌太郎会長)は、高速道路整備に一般道路事業と有料道路事業による合併施行方式の導入などを盛り込んだ「高速自動車国道の整備・管理のあり方に関する報告」をまとめた。報告では、今後整備する区間が開通後も採算が取れない地方部での区間が多いことから、国費を使う新整備手法の導入を提案した。新手法が採用されるのは未整備区間の約1200キロ。ただ、新整備手法は一般の公共事業と同様に地方自治体に建設費の一部を負担させるため、料金や地方負担のあり方などを検討課題として挙げている。政府は1987年の第4次全国総合開発計画(4全総)で、21世紀初頭までに、1万4000キロの高規格幹線道路網を整備することを決めている。このうち、1万1520キロについては、各高速道路を1つの道路(A路線)とみて、全体の通行料を合算して建設費を返済する「全国料金プール制」によって整備。残る2480キロ(B路線)は、一般国道の自動車専用道路として整備を進めている。現在A路線のうち、開通区間約7600キロを含む9342キロが整備計画策定済み。また、高速自動車国道に並行する一般国道の自動車専用道路方式として943キロが供用中あるいは事業中となっている。残る1235キロは未事業化区間で、現在事業化へ調査中。今回の報告では、この未事業化区間が北海道や山陰地域などの地方都市を結ぶ路線が多く、開通しても採算性が悪いことを指摘。これらの区間をそのまま全国料金プール制で整備した場合、建設費の借入金を大量に抱えていく可能性があることを指摘し、新整備手法の導入を提案した。
● 石原慎太郎東京都知事は、東京の将来像と2015年度までの重点施策を示した「東京構想2000」、これを推進するための「都政改革ビジョンT(都庁改革アクションプラン)」を発表した。同時に「構想」を実施する3ヵ年計画も発表した。「東京構想2000」は、「16の政策目標と35の戦略」をかかげ、3ヵ年計画の事業費は1兆2561億円。大型公共事業には50%以上を投じる一方、福祉・医療は17%に抑えている。「構想」は、国にたいし東京圏の社会資本整備への重点的・集中的な国費の投入を求め、「環状メガロポリス構造」をつくる。首都高中央環状線の内側を「センター・コア」地域とし、大手町・丸の内、汐留、秋葉原を再開発、東京外環道路、圏央道など3つの環状道路、第2湾岸道路の建設を重点化。羽田空港の再拡張、米軍横田基地の返還までの軍民共用化、首都圏新空港の検討、破たんした臨海副都心をはじめ臨海部を大がかりに開発する方針も盛り込むなど、空前の巨大開発乱立計画となっている。一方で長期化する不況・雇用不安のもとで、拡充の要望が強い都民施策については、「小さな政府」の名のもとに、行政は「必要最小限」の支援をおこなうことにとどめるとして、施策の撤退・縮小をうちだした。
● 建設省の土地収用制度調査研究会は、国や地方自治体が道路や空港などの公共事業用地として民有地を強制収用する制度の見直し案をまとめた。対象事業を認定する際に国や自治体などによる周辺住民向けの事前説明会、公聴会の開催を義務づけて透明性を向上させる。半面、いったん事業を認定した後の手続きは合理化して迅速な用地取得を可能にする。工期短縮による公共事業のコスト削減が狙い。建設省はこうした内容を盛り込んだ土地収用法改正案を次期国会に提出する。見直し案によると、事業認定に至るまでの第三者による意見聴取や公聴会の開催を「任意」から「義務」に変更する。事業者による周辺住宅への事前説明会の開催や、国などによる事業認定の理由の公表も義務付け、一定の情報開示や住民参加の機会を保証する。半面、収用採決手続きは短縮する。事業認定を受けると事業者は都道府県の土地収用委員会に採決を申請し、収用委は収用の見返りとなる地権者への金銭補償額などを決める。見直し案では収用委の審理で収用に反対する地権者が「認定では違法」と主張するのを制限する規定を設ける。

労働関係の動向

● 主要ゼネコンの2001年3月期中間決算(単独)が出そろった。販管費の繰り延べ調整勘定の廃止や、退職給付会計の適用といった会計基準の変更の影響を受け、26社中20社が中間最終利益を赤字とした。コスト縮減や販管費の削減といった経営努力を続けているものの、有利子負債の処理もままならず、債務超過に陥った企業もあった。長引く景気低迷や公共事業の減少といった逆風の中で、会計基準変更に対応する必要があり、ゼネコン各社にとって厳しい決算内容となった。[受注高] 公共投資の息切れによる公共工事の落ち込みなどから、受注環境は依然として厳しく、26社中12社の受注高が前年同期を下回った。受注を大きく伸ばしたのは、マンション市況の好調に乗った長谷工コーポレーション(前年同期比30.7%増)、国内建築工事が大きく伸びた東亜建設工業(26.6%増)、シンガポールで大規模埋め立て工事を受注した五洋建設(24.0%増)など。一方、一時的に信用不安が広がった熊谷組(39.3%減)、官庁、民間工事ともに不調だった奥村組(24.8%減)や村松組(21.0%減)は、受注を大きく減らした。東急建設と錢高組も2ケタ減となった。[特別損失] 退職給付債務の積み立て不足の償却や、金融商品(ゴルフ会員権や投資有価証券)の時価評価に伴う評価損の影響で特別損失が膨らみ、中間最終利益を赤字とした企業が多かった。熊谷組が5668億円、三井建設が918憶円と多額の特別損失を計上した。不動産売却損や貸倒引当金の計上、ゴルフ場など開発事業の整理損、関係会社の処理損の処理を迫られ、両社とも債務超過に陥った。大手でも不動産開発事業の再構築を行なう清水建設と、千代田生命保険やそごうの破たんの影響を受けた大成建設は特別損失が膨らみ、それぞれ1358億円、645億円を計上した。[完成工事総利益率] 完成工事総利益率は、増減のなかった鹿島、大林組、戸田建設を除くと、淺沼組(前年同期比2.4ポイント減)、大成建設(1.5ポイント減)、不動建設(1.4ポイント減)など14社が利益率を落としたものの、前田建設(前年同期比3.3ポイント増)、佐藤工業(2.2ポイント増)、錢高組(1.6ポイント増)など26社中9社が反対に利益率を改善した。鹿島、大林組、フジタ、東急建設、前田建設、長谷工コーポレーション、飛島建設、奥村組、大日本土木の9社が2ケタ台の利益率を確保した。

業界の動向

● 大成建設は来年1月、ビルなどの改修(リニューアル)工事を担当する事業本部を新設する。鹿島も首都圏で自社施工ビルを定期点検するサービスを開始、順次全国に展開しリニューアル需要を掘り起こす。国内リニューアル市場は現在、約70兆円の年間建設投資の10%程度にとどまるが、将来は欧米並みの 3〜4割に拡大すると見込まれている。大手各社は建設市場が縮小するなかでリニューアルを新設ビルに並ぶ主力事業に育てたい考えだ。大成建設のリニューアル部門の2001年3月期の連結ベースの受注見通しは1400億円だが、2004年3月期には1600億円まで引き上げる。鹿島は自社で建築したビルオーナー向けに、新築後3〜10年ごとに改修が必要な個所などを総点検するサービスを開始、点検結果をリニューアル受注に生かす狙いだ。現在約1400億円の売上高を今後5年で40〜50%伸ばす方針。清水建設はインターネット上で企業やビルオーナーからビルの地震対策、省エネなどの相談に無料で応じるホームページを開設した。
● 前田建設リテール事業部は、小口顧客向け工事サービスのビジネスモデル「修繕屋又兵衛(なおしやまたべえ)」を構築、2001年1月から事業展開する。個人住宅、小規模店舗、オフィスなどを対象に、クラフトマンと呼ばれる多能工が技術を提供するほか、ケースに応じて顧客が選んだ商品や製品を調達する。同社は、一拠点で小規模オフィスも含め40万世帯、年間5億円の売上高を目標にしており、ヤマト運輸との小規模オフィス事業約18億円を含め、2001年度は売上高40億円−50億円、利益率10%を見込んでいる。修繕屋又兵衛は、小口顧客をターゲットにする。「前田建設が総合病院であれば、町医者としての役割を果たし、低コスト、独立型の小集団として事業展開する」(同社)。全国どこでも均一なサービスを同価格で提供するほか、一、三、十二ヶ月のアフターサービス、2ヵ年工事の品質を保証する。
● 三井建設はさくら銀行など取引金融機関に対する総額1630億円の債務免除要請を柱とした経営再建計画を発表した。計画では、2000年3月末で3271人の人員を2003年3月末までに2900人に削減する方針だ。債務免除の要請先は「さくら銀行など10行程度」(稲村社長)。約143億円の減資は来年6月の定時株主総会に諮る。

その他の動向

● 建設省がまとめた1999年度建設業構造基本調査の結果、全体の62.8%の企業が原価割れ工事を抱えており、前回調査(96年度)比で8.2%増加している。同調査は、1万8000社に調査表を送付し、建設業を専業とする1万776社を集計対象とした。経営状況を見ると、全体の24.5%の企業が経常損失を計上しており、企業規模が小さいほど経営環境が厳しくなっている。なかでも、躯体関係は39.1%の企業が経常損失を計上。1社当たり平均経常利益額も20 万円と、全体平均の1250万円を大幅に下回った。完成工事高のうち下請分の割合を示す下請比率の平均は48.2%。原価割れ工事件数の社数比率をみると、額面20%以上の原価割れは、職別で8.3%、設備で8.0%と全体平均の5.3%を上回った。企業規模別では、資本金300万円〜500万円で7.9%、1000万円〜2000万円の層で6.9%の企業が20%以上の原価割れ工事を抱えている。