情勢の特徴 - 2001年1月
● 経済産業省・中小企業庁が発表した2000年10〜12月期の中小企業景況調査によると、全産業の業況判断DI(前年同期に比べ「好転した」と回答した企業の割合から「悪化した」とする企業の割合を差し引いた数値)は前期実績比2.0ポイント悪化のマイナス34.8となった。2期連続の悪化で、中小企業庁は「中小企業の景況感は改善傾向が鈍化している。微妙な時期に差し掛かってきた」と指摘している。業種別では、小売業が大・中型店の進出を背景にした競争激化により、同4.0ポイント悪化のマイナス47.1となったのをはじめ、卸売業、建設業、サービス業も軒並みマイナス幅を拡大させた。
● 銀行の貸し渋り・資金回収は、資金繰りに悩む中小企業をよそに、おさまるところを知らない状況がつづいている。日銀が発表した昨年12月の貸し出し・資金吸収動向によると、銀行5業態の貸出平均残高は460兆4100億円となり、前年同月と比べ3.8%減少した。これで、前年割れは36ヶ月連続となり、丸3年間にわたり毎月、融資を減らし続けたことになる。このうち、大手銀行(都市銀行、長期信用銀行、信託銀行)は12月、前年同月と比べ4.9%減少。貸出債権流動化や為替変動などの特殊要因を調整しても2.5%減になる。
● 東京商工リサーチがまとめた2000年11月の建設業倒産は529件、負債総額は1658億3200万円に達した。件数は10月に比べて3.8%のマイナスだが、前年同月比では、32.7%の大幅な増加を示し、前年同月比は13ヶ月連続増。500件超は7ヶ月続いている。11月としても史上4番目に悪い水準となっており、歴然のワースト記録となっている。1984年の6355件以来の6000件突破がほぼ確実となった。
● 総務庁が、47都道府県の1999年度普通会計決算を発表した。実質収入は194億円の赤字となり、2年連続の赤字決算。一般財源の占める借金返済額の割合を示す公債費負担率は、8年連続で上昇し、過去最高の16.9%に悪化した。歳入総額は55兆792億円、歳出総額は54兆1912億円で、ともに前年度比0.8%減。経常収支率(一般財源に占める義務的な経費の割合)が100%超、または公債負担率が20%超の「要注意」団体は、北海道、岩手、秋田、山形、東京、神奈川、富山、福井、山梨、長野、愛知、大阪、島根、岡山、高知、長崎、熊本、大分、鹿児島の19都道府県。
● 総務省が発表したサラリーマン世帯の家計調査によると、2000年(暦年)の1世帯あたりの消費支出は月平均34万977円となり、物価の変動を除いた実質で前年比0.6%減少した。1998年以来3年連続のマイナスで、家計部門での景気回復の遅れを裏付けた。消費支出が3年連続マイナスになったのは、公務員のボーナス減額などで調査対象世帯の所得が前年を下回ったことが響いている。世帯主の定期収入は実質で同 0.3%増と3年ぶりに増加に転じたものの、臨時収入・賞与や配偶者の収入が前年を下回った。この結果、世帯全体の実収入から所得税や社会保険料などを差し引いた可処分所得も同1.4%減った。
● 2001年度の国土交通省予算のうち、木造住宅振興に関する事業として次ぎの事業が決まった。@木造住宅の市場競争力を高め、工務店等の近代化を図ることを目的に一事業主体に(3分の1補助で)90万円までを補助する「木造住宅総合対策事業」では、今年度も工務店業界が住宅性能表示制度を円滑に導入するために5億円を投入する。さらに、優良な木造住宅の改修・立替えを支援することも要件の一つに追加した。A良質な中古住宅の流通を促進するとともに、既存住宅を有効活用して居住水準を向上させるために、「中古住宅保証制度」を創設する。保証制度の概要は、保証期間に登録した中古住宅に、引渡し後5年(防水関連は2〜5年)の間に欠陥が発見された場合、補修費用の大部分を保証機関が保証として負担するというもの。ただし中古住宅が満たすべき要件は、1)公庫住宅、性能表示住宅のように、建設段階で公的機関により検査を受けた一戸建て住宅 2)築後15年以内 3)保証機関が実施する現場検査に合格していること。なお、保証制度を成りたたせるために、保証期間に補助金を投入して「中古住宅保証促進基金(仮称)」を設ける。 3)長寿命木造住宅を各地で推進するためのプロジェクトを建ち上げる。地域の気候風土に適合し、耐久性の高い長寿命木造住宅の整備指針を国が策定し、木造住宅総合対策事業等を活用しながら、技術開発(接合部の防露対策や土台の防湿対策等)、モデル住宅の建設、性能検証も行う。
● 厚生労働省は企業が経営破たんした際に、不払いとなっている賃金、退職金など労働債権の保護強化に乗り出す。今春にも法制審議会(法相の諮問機関)に対して、担保付きの債権や税金より返済の優先順位が低い不払い賃金の優先順位を税金と同等以上に引き上げることを提案する。企業経営が破たんした場合、不払いの賃金や退職金は、担保のない一般の債権より優遇される。しかし、件数で破たんの8割以上を占める任意整理や破産の場合、優先順位は担保付き債権、税金、労働債権の順で、従業員が賃金を受け取れないことも少なくない。国際的には労働債権を税金より優遇する国が多い。フランスは賃金の一部は最優先して支払われる。米国でも担保付債権よりは順位は劣るが、賃金の一部は税金より優先される。国際労働機関(ILO)は92年に労働債権を税金よりも高い優先順位をする内容の条例を採択しており、日本としても批准に向けて労働債権の保護強化が課題となっていた。
● 国土交通省は、CM(コンストラクション・マネジメント)方式の導入に向け、民間企業の施工マネジメント技術を活用した新入札契約方式を施行する。中部地方整備局発注のジャンクション下部工事で実施する「マネジメント技術活用型方式」で、本体工事部分(橋梁下部躯体工事など)と専門工事部分(橋梁下部基礎など)を分離発注し、工事本体受注企業が両工事の全体マネジメントを担当する。この試行工事を通じ、CM方式での発注者側のメリット、責任分担のあり方、マネジメントフィーの算定方法、企業選定方法などを検討するため、学識者や発注者、施工者で構成する評価検討会を設ける。同省では、CM方式の法的な位置付けなどの検討作業を現在進めており、今回の試行工事と合わせ、CM方式の導入の方向性などを探る考えだ。CM方式は、CMR(コンストラクション・マネジャー)が発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の視点から設計管理、施工管理、コスト管理などを行い、その結果、性能的・コスト的に最善のサービスを提供しようという生産方式。このため、今回の試行工事は完全なCM工事とは言えない。ただ、基礎工事を分離発注し、本体工事受注者が工事全体のマネジメントを担当する事で、CM方式で最も重要となるマネジメント業務のあり方やCM方式の実現の可能性などを探る。
● 国土交通省は2001年度、国が個所付けをせずに自治体が主体的に実施個所などを決められる統合補助制度を拡充する。2000年度に創設した統合補助金事業のうち「まちづくり総合支援事業」の補助メニューや予算額を大幅に増やすとともに、新たに6つの統合補助事業をスタートさせる。統合補助金制度は、1つの目的に沿って複数の事業を一体的に行う計画や、1つの事業・地区に補助金を一括交付し、実施する事業や個所は自治体の裁量にまかせる仕組みで、地方分権推進計画に基づき2000年度に導入された。国土交通省は2001年度予算で事業内容を拡充。補助メニューを増やし、地域の防災基盤となる放送・情報通信施設、発電施設、排水再利用施設、避難空間などを対象に追加。また荷物共同集配施設の購入費や、再開発で建設された複合建築物の一部の所得費用も補助対象に加える。予算額(国費)は2000年度の 350億円から2001年度は600億円に増やす。2001年度に創設されるのは ▽公営住宅ストック総合改善事業費統合補助(01年度国費150億円) ▽住宅市街地整備総合支援事業費統合補助(同 366億円) ▽密集住宅市街地整備促進事業費統合補助(同130億円) ▽緑地保全統合補助(同30億円) ▽統合1級河川整備事業費補助(同116億円) ▽海岸補修事業統合補助(同2億円)――の6事業。
● 国土交通省は、下請業者が提出した見積単価を度外視してトータル価格を大幅に値引きする、元請業者などによるいわゆる"指し値発注"の実態について本格的な調査に乗り出した。躯体や鉄筋、塗装といった専門工事業者を対象としたアンケート調査を通じて、指し値発注以外にも「基本契約書の締結状況」など、専門工事業者が直面する今日的な課題を聞き、その結果を施策の立案に反映させる。今月末にアンケートの回収を終え、3月下旬をめどに速報結果を取りまとめる方針だ。指し値発注の調査は、公共工事174件と民間工事158件が対象で、両工事にかかわる1次〜4次下請け業者約7000者に、▽基本契約書の締結状況 ▽指し値受注 ▽工事代金の受取時期 ▽追加工事の際の変更契約、追加代金の支払い状況 ▽建設廃棄物の処理費負担―などを聞いている。
● 国土交通省は、高齢者居住安定確保法案(仮称)の概要を固めた。法案は、バリアフリー仕様の賃貸住宅向け補助金や、高齢者向けの家賃滞納保証制度などが盛り込まれる。次期通常国会に提出し、成立すれば今夏から施行する見通しだ。2001年度からスタートする第8期住宅建設5ヵ年計画の一環となる。同法案は、住居に対する高齢者の不安を解消し、民間賃貸住宅で高齢者が敬遠されないための枠組みづくりをねらいとしている。住宅のバリアフリー化は、民間企業が高齢者向けの賃貸住宅を新築・改修する際に、整備費用を国と自治体が補助する。対象は1戸当たり、25平方メートル以上の住宅で、低収入世帯に対する家賃補助制度もあわせて取り組む。都道府県の認可を受けた賃貸住宅では、高齢者が死亡するまで入居できる「終身建物賃貸制度」を創設する。民間の賃貸住宅は、高齢者の入居を敬遠する傾向があるため、高齢者が入居可能な民間賃貸住宅を登録して情報提供するシステムを整備し、国の指定を受けた高齢者居住支援センター(仮称)が家賃滞納を保証するシステムを立ち上げる。同省は、2015年までに「手すりの設置」「段差の解消」「車いすで通行可能な廊下の幅」などの条件を満たすバリアフリー住宅整備を、全ストックの2割 (現行約3%)のまで高める方針だ。改修工事によるバリアフリー住宅のストックについても、全体の2割という目標を設定している
● 日経連(奥田碩会長)の2001年春闘対策方針である「労働問題研究委員会報告」は、「雇用の安定こそ労使の究極の目標」といいながら、「それには、企業の人件費コスト負担の適正化と従業員個々人の生産性に見合った処遇が徹底されなければならない」とのべ、経営を最優先する主張。正規雇用労働者から、パートや派遣、アルバイトなどの無権利な不安定雇用労働者へ置き換える事を要求し、リストラをいっそう推進する立場である。「働き方も多様かつ柔軟な働き方を選択できるよう、労働法制面での諸規制の緩和・徹底が必要である」として、派遣禁止対象職種の緩和や、サービス残業(ただ働き)要因ともなっている裁量労働制の要件緩和など、いっそうの労働法制の改悪を迫っている。賃金については、「従来のような一律賃上げの水準を交渉する事は意味がない」「もはや、横並び対応の時代は終わった」と春闘解体を主張している。
● 経営再建中の準大手ゼネコン(総合建設会社)、熊谷組は、住友銀行など金融機関15行に要請していた債権放棄について各行と最終合意した。同社長は「4300億円の債権放棄、200億円の第三者割当増資引き受けの計4500億円の支援を受けることで各行の内諾を得た」と述べた。各行の内訳は、住友銀行が負担総額58%(当初計画は52%)にあたる2604億円(このうち債権放棄額は2596億円)、新生銀行が23%(当初22%)にあたる1030億円、その他13行が19%(当初26%)の866億円。
● 経営再建中の準大手ゼネコン(総合建設会社)の三井建設は主力取引金融機関であるさくら銀行などに対し、1630億円の債権放棄を要請すると正式発表した。同時に来年度からの5ヵ年の「経営改革・新中期計画」を策定。年間受注規模を200億円縮小して3500億円とし、このうち建築部門の受注高を2300億円とする。高層マンションなどに経営資源を特化する。42ある関連会社も28社とするほか、不動産開発事業から撤退する。同計画の最終年度にあたる2006年3月末には、4685億円(2000年3月期末)ある有利子負債を1691億円まで圧縮する。