情勢の特徴 - 2001年3月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 国土交通省が発表した1月の新設住宅着工戸数は8万1348戸と前年同月に比べ11.1%減った。貸家、マンションなどの分譲住宅がマイナスに転じたほか、戸建ての注文住宅(持ち家)の減少幅も拡大し、4ヶ月ぶりの減少となった。内訳をみると、持ち家は2万7847戸と前年同月に比べ16.5%減った。減少幅は前月(0.7%減)を大きく上回り、2ヶ月連続の減少。一方、分譲住宅は前年同月比6.2%減の2万3866戸だった。高水準で推移してきたマンションが同9.2%減と振るわず、分譲住宅全体で前月の増加から一転、減少した。
● 総務庁が発表した1月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は昨年12月と同率の4.9%で過去最悪となった。1月の完全失業失業者数は317万人で1年前の1月より8万人の増加となった。勤労者数は低所得のなか主婦などの職探しが増え、女性の完全失業率は4.8%と過去最悪となった。一方、新規求人状況をみると、IT(情報技術)や介護関連など森政権が"期待"してきた「成長産業」まで求人増加幅を収縮させている。完全失業率について季節調整値を再計算した結果、昨年12月の完全失業率も4.9%(再計算前は4.8%)になった。
● 東京商工リサーチは、2月の建設業の倒産状況をまとめた。479件の倒産が発生し、負債総額は1126億4800万円となった。前年同月比でそれぞれ4.3%増、0.3%減2月単月の件数としては84年に続いて2番目の高水準で、負債額も過去4番目となっている。2000年4月からの累計は件数が 5668件、負債額は1兆3753億円で、件数はすでに83、84年度に次ぐ3番目の高さで、16年ぶりに6000件を突破する公算が大きい。倒産の形態別では、銀行取引停止が331件と69.1%に及んでいる。次いで破産が93件、民事再生法が16件と続いている。資本金別では、1000万円以上5000万円未満が235件と最も多く、1000万円以上500万円未満が108件。1億円以上はわずかに2件で、小規模企業の倒産が目立つ。
● 日米首脳会議で邦銀の不良債権の早期抜本処理を求められたことを受け、政府は2001年度9月中間決算をにらんで銀行の資産から不良債権を切り離す最終処理(直接償却など)を加速させる。月内をメドに、銀行による債権放棄ルールの見直しなど最終処理促進策を決定。銀行も最終処理を前提とした貸倒引当金の大幅積み増しなどに着手する。最終処理策の柱としてこれまで浮上しているのは銀行による債権放棄の促進策。融資先の当面の経営危機をしのぐためだけの問題先送り型の債権放棄を防ぐため、国など第3者が企業の再建計画を評価する仕組みが検討されている。債権放棄支援のための優遇税制なども含め、省庁間協議などを前倒しで進める。銀行も今3月期決算で最終処理への準備を実施することを求められている。会社更生法などによる法的整理や債権放棄などで不良債権を最終処理する場合、銀行は多額の損失計上を迫られるため、前もって経営不振企業向けの貸倒引当金を積み増しておく必要がある。三和、東海、東洋信託3行のUFJグループが今期決算で最終赤字になるのも、貸倒引当金の積み増しが主因だ。大手銀行各行はUFJに続き、引当金に動くと見られる。引当金を積み増した銀行は4月以降、経営不振企業について融資を継続するのか、抜本的な再建計画を前提に債権放棄に踏み切るのか、支援を断念するのかの判断を迫られる。支援を断念する場合には新規融資の停止などの措置をとることになり、法的整理に移行する企業も出てきそうだ。
● 国土交通省が発表した2月の新設住宅着工戸数は前年同月に比べ5.9%減の8万3440戸となり、2ヶ月連続で減少した。持ち家は3万76戸と前年同月に比べ10.0%減で、3ヶ月連続のマイナス。特に公庫融資利用分が同27.6%減と大幅に減り、全体水準を押し下げた。

行政の動向

● 国土交通省は、地方公共団体の入札・契約手続きに関する実態調査結果(速報)をまとめた。一般競争入札を導入した機関が4桁を突破、対象工事も拡大傾向にある。予定価格の事前公表は1999年度の73機関から2000年度は294機関へと大幅に増えた。また、低入札価格調査の導入は269機関から 343機関に増加していることがわかった。一般競争入札は773機関から1090機関へと増えた。このうち580機関は10億円未満の工事を対象にしている。25億円未満10億円以上は127機関、25億円以上の大型工事に限定しているのは31機関に過ぎない。公募型指名競争入札の導入は387機関から436機関に増えた。都道府県は44機関で前年度と同じだが、市町村が48機関増えた。入札結果の公表は3002機関。予定価格の事後公表は735機関から1212機関へと大幅に増加、事前公表も73機関から294機関へと増えた。いずれも市町村が圧倒的に多い。しかし、入札監視委員会の設置は97機関と少ない。談合情報への対応では、マニュアルを作成しているのは1367機関。全体の36.1%から41.1%へアップした。低入札価格調査制度は343機関が導入している。99年度に比べ74機関増えた。最低制限価格制度を採用しているのは2333機関。23機関減少した。
● 国土交通省は、昨年5月に成立した建設リサイクル法に基づき、今年5月から解体工事業者の登録制度をスタートさせる。3月中にも登録申請や技術管理者に関する省令を定める。都道府県知事への登録時に、一定の資格などを有する技術管理者を置いていることなどを確認し、解体工事業者としての最低の資質や技術力を確保する。登録の対象となるのは、建設業許可が不要な軽微な工事を行う解体工事業者で、対象業者数は1万社程度になる見通し。解体工事業者の登録制度は、すべての解体工事業者が対象となる。都道府県に登録する際、▽一定の資格などを有する技術管理者を設置していること▽同法に違反して罰金以上の刑を受け、その執行を終えていないなどの欠格要件に該当していないこと−などを確認。これにより、解体工事業者としての技術力などをチェックするとともに、不良不適格業者を排除する。2つ以上の都道府県で解体工事を行う業者は、営業するそれぞれの都道府県で登録しなければならない。
● 国土交通、財務、総務の3省は、公共工事入札契約適正化促進法に基づく「適正化指針案」をまとめた。公共工事の入札・契約手続きの透明性を高めるため、すべての発注者が統一的に取り組むべき事項を明示した。指針案は、▽透明性の確保▽公正な競争の促進▽談合その他の不正行為の排除の徹底▽公共工事の適正な施工の確保―の4つの柱からなり、透明性の確保では「入札および契約に関する情報は、すべて公表を基本とする」ことを掲げ、具体的な公表項目として「予定価格と積算の内訳」など8項目を示した。また、歩切りやダンピング受注の排除を明文化し、公正な競争の確保と建設業の健全化に国全体として取り組む姿勢を打ち出している。適正化指針は、公共工事入札契約適正化促進法の規定(第15条)に基づいて作成され、国や地方自治体、特殊法人など、公共工事を発注するすべての機関が公共工事の入札・契約の適正化向上に向けて統一的に取り組む際のガイドラインとなる。法律や施行令などと異なり、各種施策に拘束性はないが、各発注機関は指針に基づく取り組みを推進し、その状況を年度ごとに公表しなければならない。適用は2001年度から。
● 国土交通省は、地方整備局への予算配分方法を2001年度から改正する。これまで全国8ヶ所の地方整備局(旧地方建設局)が実施する各種整備局の権限で決定できる「一括配分」に移行し、地域のニーズを的確に反映して社会資本整備を推進するのが狙い。2001年度は同省の公共事業費のうち約3割、金額ベースで約2兆2000億円を充てる。一括配分比率は2002年度以降、段階的に高めていく方針。一括配分の対象は、各地方ブロック内だけで整備効果が限定される補助事業やや直轄事業。具体的な事業の規模や性格などは3月中に決定するが、道路、河川整備、下水道、公園整備、ダム、港湾など地方整備局が実施するすべての事業にまたがる。
● 国土交通省は、公共工事入札契約適正化促進法が施行されるに伴い、1992年に出した「一括下請けの禁止」の通達を見直す。参考として示していた一括下請けのQ&Aについても、数事例を追加し、事業者や発注者にどういう場合が一括下請けに当たるのかなどを分りやすく説明する。同省では同じく今月末に出す発注者(工事監督者)向けの一括下請負点検要領と合わせ、丸投げ禁止の徹底を図る。92年の「一括下請けの禁止」の通達は、「請け負った建設工事の全部またはその主たる部分を一括して他の業者に受け負わせる場合」や「請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して他の業者に請け負わせる場合」は、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与していると認められるときを除き「一括下請けに該当する」と定義している。また、「実質的に関与」や「その主たる部分」という表現の意味や範囲などを提示。単に現場に技術者を置いているだけでは実質的な関与に当たらないとの考えを示している。今回の見直しは、公共工事入札契約適正促進法で一括下請けの全面禁止が盛り込まれたことから、この例外規定部分を削除し、新たに同法の趣旨を盛り込む方針。
● 鳥取県の旧中部ダム予定地域振興協議会(会長・片山善博知事)は、第3回旧中部ダム予定地域振興協議会で総額168億円の振興計画を決めた。旧中部ダム予定地域に居住してきた住民が、当該地域に住み続け、地域が発展するよう、住民が構想した「自分たちが住む地区の将来像」の実現を目指すとして4つの事業をあげている。その内訳は、@地域再生事業として公民館の建設、上水道施設整備など25事業に15億9000万円A地域活性化事業として住宅改修費助成、新築資金利子補給など5事業に4億8000万円B地域社会資本整備として県道・町道、河川改修など10事業38億8000万円C広域社会資本整備として加茂川改修、大規模林道開設に109億円である。そのなかで住宅新改築費への助成は、1戸当たり300万円を上限として助成するもので「西部震災対策」を参考にしたとしている。

労働関係の動向

● 全国建設業協会(錢高一善会長)は、「建設産業雇用セーフティネット構想」をまとめ、厚生労働省に提出した。構想は@能力開発を通じて企業競争力を高め、労働者の失業なき労働移動実現A業界外への労働移動にも積極的に取り組むため、他産業や国に対しても協力要請B中長期的な展望のもと必要性の高い事業から早急に取り組む――の3点を枠組みとしている。労働移動の仕組みとしては@労働移動促進に向け、インターネットを活用した「雇用情報システム」の構築A人材登録と派遣を行う人材バンクの事業化B民間職業紹介事業者の活用C産業雇用安定センターと連携した出向・転籍の実現Dハローワークとの情報交換の強化と職業紹介の充実E労働移動を円滑に進めるための助成制度の改善・充実F助成制度の活用を促進するための情報提供――7項目をあげている。労働移動のための能力開発では@職業人生を通じた継続的な能力開発システムの構築A労働移動を支援する能力開発プログラムB中高年労働者向け意識改革、再就職準備セミナーC各地域の各種専門学校などとの連携Dアビリティガーデン、ポリテクセンターの活用E建設産業教育訓練センター富士教育訓練センターの活用F能力開発に関する助成制度の改善・充実G弾力的な教育訓練制度の拡大と受講者に対する支援の要請H助成制度の活用を促進するための情報提供の9項目に取り組むべきとした。
● 勤労者退職金共済機構(石岡慎太郎理事長)の建設業退職金共済事業(建退共)本部は、建退共制度の新たな掛け金納付方法の導入に向けた意見交換会を設置し、来年度から新システムの実効性について本格的な検討を始める。意見交換会は、建設産業の事業者団体や労働者団体の代表者らで構成するもので、建退共本部が提案している「IC・磁気カード」を利用した掛け金納付システムに関して意見を収集するのが目的。今回設置する意見交換会は、全国建設業協会、日本建設業団体連合会、建設産業専門団体協議会、建設労務安全研究会、全国建設労働組合総連合、建退共支部などの代表者らで構成し、オブザーバーとして厚生労働省、国土交通省の担当者も参加する予定。新たな掛け金納付方法は、ICカードや磁気カード、出勤簿などで把握した労働者(被共済者)の就労状況を、事業者(共済契約者)が電子媒体やOCR(文字読み取り装置)によって同機構に報告する仕組み。事業者はこの就労実績に応じた掛け金を同機構へ後払いする。こうした掛け金納付方法を導入した場合、事業者が退職金の算定基準となる証紙をあらかじめ購入し労働者の手帳に貼り付ける現行方式に比べて、証紙が労働者に適正に行き渡らないといった問題の解消や、事業者の事務負担軽減などの効果が期待されている。
● 国土交通、農水の両省は、昨年10月に実施した公共事業労務費調査に基づき、工事費の積算に用いる新たな設計労務単価を発表した。新単価は2000年度基準に比べ全50職種平均で2.7%、同年度の途中(11月)に決定した運用額に比べ同0.3%それぞれ減少した。主要11職種平均では基準額が 2.3%下落したが、運用額は0.2%上昇した。新単価は4月から適用される。新単価は、50職種平均で1万9692円となり、2000年度基準額より537円下がった。運用額と比べると、62円の下落でほぼ横ばい状態となっている。地域別では全国10地域のうち、5地域が2000年度運用額に比べ下落、特に沖縄の下落率が高かった。今回の労務単価の発表では、留意事項として「(公共工事設計労務単価は)下請契約における労務単価や雇用契約における労働者への支払賃金を拘束するものではない」ことを盛り込み、あくまで公共工事の積算に用いるものであることを明記している。
● 総務省が発表した2月の労働力調査結果によると、完全失業率(季節調整値)は4.7%で、過去最悪だった前月より0.2ポイント低下した。完全失業者数も前年同月比9万人減の318万人。ただ、完全失業者を前月比でみると2ヶ月連続で増加している。完全失業者は、男性が前年同月比11万人減の193万人で、6ヶ月ぶりに減少したのに対し、女性は同2万人増の125万人と、4ヶ月連続で増加した。

資本の動向

● 熊谷組は、新規マーケット開拓を視野に入れたグループ会社の整理・統合によって、グループ経営の戦略を強化する。建物の設備を中心としたリニューアル分野と、戸建て住宅など個人向けのリフォーム分野で新会社を設立し、4月に営業活動をスタートする。熊谷組は、新経営革新計画(2001年3月期―12年3月期)に沿って子会社・関連会社の整理・統合を進めるなかで、新規マーケット開拓に向けたグループ戦略として、リフォーム事業、リニューアル事業に注目。「マーケットの拡大が期待できる分野」として、事業統合などによるグループ経営の競争力を強化することにした。
● 五洋建設は、リニューアル市場、環境ビジネスへの取り組みを強化する。4月1日付けで、建築本部にリニューアル部を新設するとともに、各支社、支店に専任者を配置して企画提案型営業を推進する。3年後は2000年度の2倍となる200億円の受注拡大を目指す。また、2010事業推進室の人員増強とともに技術研究所に環境研究所を新設し、両組織の連携によって環境ビジネスを創造する。
● 東京証券取引所第一部上場の中堅総合建設会社(ゼネコン)の冨士工は、東京地裁に民事再生法の適用を申請する。上場ゼネコンが同法の適用を申請するのは初めて。負債総額は約830億円。ゴルフ場事業の失敗で経営が行き詰まった。冨士工は80年代に関連会社を通じてゴルフ場やホテル事業を積極化したが、バブル崩壊で事業がとん挫。グループ各社への債務保証や工事債権が焦げ付き、本体の経営も悪化した。99年4月にはグループ財務の改善を柱とする3ヵ年計画を策定し、自主再建に取り組んできた。しかし、連結主体の会計となった 2000年3月期に123億円の連結債務超過が表面化した。
● ハザマは、戸建て住宅やマンションの個人住居など住宅リフォーム事業に本格的に参入、首都圏を中心に事業展開する。第1弾として、川崎市に「ハザマのリフォーム 新百合ヶ丘店」をオープン。2001年度は、店舗をさらに1ヶ所開店、初年度7億円の売り上げをめざす。リフォーム店を核とした地域密着型の営業活動を拡充して、2005年度をめどに10店まで店舗を拡大、60億円の売り上げを目標にしている。ゼネコン本体が戸建て住宅のリフォーム事業を本格的に手がけるケースは珍しく、新たな時代に対応した建設業の業態変革の一つとしても注目される。
● 三井建設は、さくら銀行や中央三井信託銀行など主要取引金融機関に要請していた債務免除交渉が合意に達したと発表した。合意内容は債権放棄が 1420億円、増資が205億円。当初に比べ債権放棄額を減らし、一部を「債務の株式化」(デット・エクイティ・スワップ)の形で増資に振り替えた。三井建は債務免除増益を原資に2001年3月期に約1700億円の損失を処理するという。債権放棄を含む支援で合意したのは、さくら銀や中央三井信託銀行、あおぞら銀行、農林中央金庫など金融機関13社。さくら銀は873億円、中央三井信託は270億円を放棄。

その他の動向