情勢の特徴 - 2001年4月
● 日銀が発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でマイナス5となり、1998年 12月調査以来、2年3ヶ月ぶりに悪化に転じた。マイナスは2000年3月(マイナス9)以来。米国景気の減速などを背景に、生産が鈍化。大企業非製造業もマイナス13と前回調査からマイナス幅が3ポイント拡大した。景気のけん引役である2001年度設備投資計画も、大企業の製造業と非製造業の合計で前年度比4.7%減に落ち込み、景気の先行きに対する企業の見方は急速に慎重になっている。
● 政府・与党は不良債権の最終処理(直接償却など)の促進や、銀行の保有株式制限と、これに伴い放出される株式を買い上げる「銀行保有株式取得機構」(仮称)の設置を柱にした緊急経済対策を決定した。これを受けて政府は必要な法整備などの検討に入る。土地・証券税改革に関しては「早急に検討を行い結論を得る」とするにとどめており、20日をメドに結論を出す方針だ。銀行の株式保有制限の基準は、自己資本の範囲内とすることを軸に検討する。株式取得機構は主要銀行が放出する持ち合い株の受け皿になる。買い上げ資金に関しては、預金保険機構の公的資金枠の活用と、民間金融機関からの借り入れに政府保証を検討する方針を明記した。不良債権の最終処理では、銀行のバランスシートから不良債権を消し、経営不振企業とに関係を整理する。今回の対策では主要銀行が持つ改修不能の恐れが大きい「破たん懸念先」と、それより内容の悪い債権に最終処理の期限を設定。既存分は2年以内、新規分は3年以内とした。
● 国土交通省は、金融再生に対応した建設産業再編促進(案)をまとめた。市場原理に沿った大規模公共工事の発注方策として、企業の信用力が低い場合に、金銭的履行保証の付保割合(契約金額に対する保証金額の割合)を通常の10%から引き上げることと、前払保証料率の引き上げを前払保証会社に要請することを検討する。企業の信用力の基準は技術力評価でなく財務内容とし、具体的指標は今後詰めていく。また、下請企業保護と建設労働者への影響を低減するために、下請代金の保全といったセーフティーネットの整備も進める。
● 日銀が発表した2000年度の貸し出し・資金吸収動向によると、銀行貸出の平均残高は前年度比4.1%減となり、前年度に比べ減少したものの、4年連続で落ち込んだ。同時に発表した3月の平均貸出残高は、前年同月比3.6%減と、39ヶ月連続で減少した。マイナス幅は前月と同水準。内訳をみると、都銀・長信銀・信託銀が同4.3%、地方銀行が同0.3%、第2地方銀行が同8.5%の各減少。
● 東京商工リサーチがまとめた2000年度の建設業倒産は6176件で、84年度以来16年ぶり、3回目となる6000件を超える結果となり、件数では 2番目の数字となった。負債総額は1兆5536億2500万円で、過去3番目の高い水準。不況型が70.7%を占め、経営環境の厳しさに変化のないことを改めて裏付けた。件数は前年度比18.6%増、負債額は17.8%増。倒産1件あたりの平均負債額は2億5100万円となっている。倒産の形態別では、銀行取引停止処分が4711件で76.2%と最も多い。破産は927件、内整理が366件、民事再生法152件などとなっている。資本金階層別では1億円以上が19件だが、1000万円以上1億円未満は3106件、1000万円未満は3051件で、中小・零細企業にとって厳しい環境だったことが明らかになった。
● 国土交通省は総合建設会社(ゼネコン)が経営破たんしたときに、その下請け会社への悪影響を最小限に抑える対策の検討を始めた。ゼネコンが国、自治体など公共事業の発注者から受け取った前払い金を、下請けにきちんと払っているかどうかを厳しく監査する制度を秋にも整える。銀行の不良債権の最終処理などに伴ってゼネコンが破たんした場合、連鎖倒産が広がらないようにする。元請けは倒産などで事業を続けられなくなった場合に備えて保証会社に保証料を払い、前払い金の弁済を保証してもらっている。保証会社は前払い金の使い道を監査することになっているが、ゼネコンが下請けに前払い金を払っているかどうかまでは点検できない。同省はゼネコンから下請けへの前払い金の支払い状況を監査するよう保証会社に要請する。
● 国土交通省は、専門工事業下請取引実態調査の結果をまとめた。いわゆる指し値受注については、一次下請業者の28.1%が「あった」と回答している。このうち額面40%以上の大幅な値引きは、元請けと一次下請間で46.1%、一次と二次下請間では64.2%見られる。契約締結・代金決定の時期は、「工事着工後」が元請けと一次下請間で32.9%あった。同省は調査結果を踏まえ、立ち入り検査を充実させるほか、通達で契約・支払いの徹底などを呼びかける方針だ。調査では指し値を「元請け、上位下請業者が見積単価を査定せず、トータルで根拠のない大幅な値引きを行うこと」と定義している。指し値による値引額をみると、元請一次間は「20〜40%」がもっとも多く35.9%、次いで「60〜80%」が25.6%。一次二次間は「60〜80%」が35.7%、「20〜40%」がもっとも多く35.9%となっている。契約方法全般について調査結果をみると、基本契約を「締結していない」と回答したのは、元請一次で24.4%、一次二次で46.7%。過去に基本契約を結んでいても、これまで一度も更新していないケースが元請一次で52.8%あった。一方、メモや口頭による契約は、元請一次間で2.9%、一次二次間では 27.8%が実施している。
● 公共事業の透明性向上などを狙いに制定された「公共工事入札契約適正化法」が、施行された。同法は国、特殊法人、地方公共団体などすべての公共工事発注者が透明性の高い入札・契約制度を確立することを目的に制定された。公共事業に対する国民の信頼の確保と建設業の健全な発達を目指し、全発注者は今後、公共事業の各段階で▽透明性の確保▽公正な競争の促進▽適正な施工の確保▽不正行為の徹底排除― に向けた施策を講じることになる。
● 国土交通省は、法施行に伴い、施工体制の適正化と一括下請禁止の徹底について都道府県と政令指定都市に通達し、建設業団体にも参考送付した。一括下請けが発覚した場合、原則として営業停止処分とし、その工事の請負金額は経営事項審査の完成工事高への形状を認めない措置を講じた。一括下請負、いわゆる丸投げは建設業法によって禁止されているが、発注者の承諾があれば認められた。これが入札契約法では、公共工事に限り、一切認めないこととしており、公共工事の発注者は一括下請負を承諾してはならないことになった。通達では、適正な施工体制を確保するとともに、恒常的に丸投げを繰り返す不良・不適格業者を、公共工事市場から排除するために、施工体制のチェック、二次下請け以下の契約についても、請負代金を明示した契約書を提出させることを明らかにしている。同時に、発注者自らが現場に出向いて、施工体制台帳に記されているとおりにきっちりと施工されているかどうかを調べる。仮に丸投げの疑いが出た場合には、建設業法所管部局に通報して実態の把握に努める。
● 国土交通省は本年度から、契約後VEの対象工事を拡大する。原則として、工事規模がおおむね2億円以上(一般競争入札と公募型指名競争入札が対象)のすべての工事が対象となる。2億円未満の工事でも従来通り、現場でのコスト縮減が期待され各地方整備局が必要と認めた工事については対象となる。同省は本年度から、企業がVE提案を行い、採用されなかった場合でも、優秀な提案については企業の工事成績として認める方針を打ち出している。契約後VEの対象工事の拡大とVE提案の企業評価への反映を行うことで、優れた民間技術の公共工事への活用を積極的に推進、併せて工事のコスト縮減を図る考えだ。
● 国土交通省は、JV(共同企業体)工事で元請業者が倒産した場合の下請業者保護対策の検討に乗り出した。JVのスポンサー企業と下請業者が直接契約し、スポンサー企業が施工途中で倒産した場合に他の構成員などに未払い代金を請求することが事実上難しいことから、JV工事での下請け契約のあり方などを改めて検討する。JVの下請代金の保全の検討は、同省がまとめた「金融再生に対応した建設産業再編促進(案)」に盛り込まれた施策の一つ。98、99年に出された通達では、JVの行う取引について、構成員個人としての取引ではなく、JVとしての取引であることを明確にするため「下請け契約はJVの名称を冠してJVの代表者およびその他構成員全員の連名により、または少なくともJVの名称を関した代表者の名義で締結すること」と明記している。
● 東京都は公共工事の契約制度の改善強化に乗り出した。入札契約適正化法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)の施行を受け、4月から予定価格が250万円を超えるすべての工事案件の発注予定を公表するほか、5月からは談合など不正行為があった工事請負契約を解除できるよう標準契約書を改正。不正な行為により都に損害が発生した場合には、損害賠償を請求することも標準契約書に盛り込む。あっせん利得処罰法に違反した企業に対し、指名停止処分を行うことも決めた。5月に実施する施策は談合など不正行為の排除が目的。標準契約書を改正し、契約解除の条項などを新たに設ける。適用は5月1日契約分からで、具体的には談合など不正行為があった場合に都が契約を解除できる条項や、不正行為により都に損害が発生した場合に損害賠償を請求できる条項を新設する。契約解除条項は、独占禁止法違反で審決が確定した場合のほか、刑法談合や賄賂の刑が確定した場合に適用。都は契約違反をした企業に対し、契約金額の10%を違約金として請求する。損害賠償条項は、独占禁止法違反(不当廉売は除く)で審決が確定した場合や刑法談合の刑が確定した場合に適用する。賠償金額は契約金額の10%を原則とするが、実際の損害額がこれを上回った場合には超えた額についても請求する。
● 国土交通省は、工事現場での施工体制把握で、一括下請負の疑義がある工事を監督職員が抽出するため「一括下請負に関する点検要領」を策定した。点検は工事中に1回以上実施、点検の効率化を図る観点から、@一定額以上の工事で主な部分を実施する最大契約額に一次下請けが、元請契約額の50%以上 A同業種の同ランクか上位規模の会社が一次下請け B工区割りされた同時期の隣接工事で同一会社が一次下請け C低入札価格調査対象――などの工事を重点点検対象とし、元請けのほか、少なくとも三次下請けまでを対象に点検する。元請けの実質関与のチェックは、工程管理、出来高・品質管理、安全管理など11 項目とした。点検要領は契約した工事から適用する。
● 国土交通、農林水産の両省が設けた公共工事労務費調査実施方法の改善に関する研究会(座長・筆宝康之立正大教授)は、「公共事業労務費調査実施方法の改善方策」をまとめた。企業モニター方式の試行拡大と本格導入への検討、職種ごとの同一単価設定単位の広域化、職種区分判定などの事例集作成を提言した。また、長期的な取り組みとして、ブロック工など外注方式が多い職種の適切な調査方法、雨天休業手当てなど現場の特性に付随した経費の適切な取り扱い、調査の電子化の検討も求めている。改善方策を踏まえ両省は、調査結果の精度向上に努めるとともに、営業範囲と就労範囲が広範囲の職種については、2002年度の設計労務費単価に反映させる方向だ。
● 全国建設業協会(錢高一善会長)は、高齢技能労働者の活用促進へ向けたガイドライン『建設業における高齢技能労働者の活用に関する報告書』をまとめた。現場の実態調査によって課題を抽出するとともに、高齢技能労働者の活用領域の拡大へ向けた具体的方向性を示している。調査をもとに、高齢技能労働者活用促進の課題を@建設業界の高齢技能労働者の活用に関するコンセンサスの形成A現場管理B現場作業方法・作業環境の改善C 高齢技能労働者の活用領域拡大D技能労働者の教育E高齢技能労働者の活用F自社の技能労働者の管理――の7つに整理した。そのうえで、@年齢に関係なく職業能力のある人間を活用できる環境づくりA現場管理としてやるべき方向B作業方法・作業環境の改善方策C能力、経験、資格を評価し活用領域を拡大するDチームワークづくりの教育E活用基準づくり―など高齢技能労働者の具体的活用方向を示した。
● サービス残業(ただ働き)解消にむけた厚生労働省通達が、各都道府県労働局長あてにだされた。通達は「割増賃金の未払いや過重な長時間労働」が広範にあることを認め、「使用者に労働時間を管理する責務があること」を改めて明らかにしている。通達は、使用者が労働者の日々の始業・就業時刻を確認し記録することを明記。その方法は使用者の確認による記録、またはタイムカードやICカードなど客観的な記録を原則とし、使用者による記録の場合は「該当労働者からも併せて確認することが望ましい」としている。通達は、サービス残業がはびこってきた要因の一つである自己申告制についても言及。使用者は、労働者や労働組合等から、労働時間の把握が適正に行われていない旨の指摘があった場合、「実態調査を実施すること」とし、事実上労働者に時間管理台帳の閲覧権を認めている。残業代申請の上限規制を「講じないこと」と明言し、残業時間削減の社内通達や残業手当の定額払い等、労働者の労働時間の適正な申告を損害する要因となっていないか、確認と改善をするよう定めている。
● 緊急経済対策を受け、国土交通、厚生労働両省は建設労働者の流動化促進に関する連携施策の実施に乗り出す。連携施策は、再編促進の実施に伴う下請企業と労働者への影響を最小限に抑えることを狙いとしたもので、労働移動に関する現状分析を行い、この結果を踏まえて、円滑な建設産業から他産業への労働移動を実現する施策を立案、展開していく。
● 厚生労働省は建設業就業者の転職や失業後の再就職の支援に乗り出す。建設業の業界団体、全国建設業協会(全建、銭高一善会長)と協力して雇用安定支援推進委員会を新設し、ゼネコン(総合建設会社)や中小の建設会社の従業員の受け入れ先企業を見つけやすくするための情報提供の仕組みを整える。不良債権の最終処理に伴う失業者の増大に備えるのが狙いだ。雇用安定支援推進委員会は会員の建設会社(約3万1000社、就業者数約130万人)に人材情報の提供を要請。各都道府県の協会が集めた情報を、厚生労働省の外郭団体である財団法人、産業雇用安定センターに集め、センターが他産業の求人企業に出向や転職をあっせんする。
● 財界系シンクタンクのニッセイ基礎研究所はこのほど、銀行の不良債権をバランスシート(貸借対照表)からおとす直接償却額が22.2兆円なら130万人、63.9兆円なら374万人の失業者が増加する、との試算結果を公表した。失業者増加で失業率も跳ね上がり、直接償却額が22.2兆円の場合は1.9%、63.9兆円なら5.6%上昇するとの結果もでた。総務省発表の2月の完全失業者数は318万人、完全失業率は4.7%。同試算が現実化すれば、失業者は450万人、700万人、失業率は6.6%、10.3%に激増することになる。
● 2000年度の完全失業率は前年度と同率の4.7%で、比較可能な1953年以降最悪であったことが、総務省が発表した「労働力調査」2000年度平均結果で分かった。完全失業者数は319万人で、前年度より1万人減少したが、働いている人(就業者)も6453万人と前年度より2万人減少(3年連続減)しており、働く場は確実に縮小している。同時に発表した「2月労働力特別調査」によると、失業している期間が1年以上の人が1年前(前年同月)に比べ1万人も増え、83万人と過去最多を記録した。求職活動をしていないため完全失業者ではないもの、仕事があれば「すぐ就ける」という人は133万人もいて、この人たちを加えれば失業者は450万人を超える。