情勢の特徴 - 2001年5月
● 国土交通省は、2001年度の建設投資見通しを発表した。政府と民間を合わせた建設投資額(名目値)は2000年度見込み比4.6%減の67兆1300億円。建設投資額が70兆円を割ったのは1988年以来13年ぶり。景気低迷化で建設投資を支えてきた政府建設投資が、地方単独事業の落ち込みなどにより減少するほか、民間住宅、民間非住宅とも景気低迷の影響を受け、前年度を下回る。国内総生産額(GDP)に占める建設投資額の割合は12.9%で、13%を割ったのは現在の調査を開始した1980年以降初めて。政府建設投資は、同5.8%減の29兆3900億円。国の2001年度予算の公共事業関係費は、景気を確実な自律的回復に乗せるため前年度当初予算と同規模を確保しているが、地方財政の悪化で単独事業の減少は避けられないため、政府投資全体としては減少が続く見通しだ。民間建設投資のうち、住宅投資は同2.2%減の19兆9400億円。住宅着工戸数はおおむね前年度並の120万戸程度になると予測しているが、2000年度第4四半期の着工の落ち込みが響き、投資ベースでは前年度を下回る。一方、民間非住宅は同5.2%減の17兆8100億円。前年度後半から民間企業の設備投資にブレーキがかかってきていることから、3年ぶりに減少する。
● 国土交通省は、2001年3月末現在の建設業許可業者を発表した。2000年度に建設業許可を取得した業者数は約2万5000件だった。新規許可業者数はここ数年、建設市場の縮小や受注競争の激化といった経営環境の悪化で減少傾向にあった。しかし、98・99年度は有効期限の延長に伴い許可失効件数が激減し、結果として業者数が増えた形となっていた。許可業者数を都道府県別に見ると、業者数が最も多いのは東京都(5万4091業者)で、これに大阪府(4万9352業者)、神奈川県(3万1715業者)、愛知県(2万8311業者)が続く。一般・特定別では、一般建設業が56万2892業者、特定建設業が5万2業者となった。資本金階層別の業者数の動きは、個人と資本金200万以上300万未満で減少幅が大きく、「今回調査の減少業者総数1万5021のうち、約6500は一人親方と言われる個人が占める。」(総合政策局建設業課)という。また年々増加傾向にあった資本金1億円未満の法人業者数は前回に比べて4906社減少したが、全体に占める割合は73.6%を占め前回調査と比較して1.0ポイント上昇した。
● ニッセイ基礎研究所、第一生命経済研究所、ドイツ証券は、政府が緊急経済対策に盛り込んだ金融機関による不良債権の最終処理(直接償却など)の影響をまとめた。試算によると、建設、不動産、卸・小売の3業種を中心に失業者が50万―130万人発生、国内総生産(GDP)の水準も0.5―1.4%下がる。緊急経済対策は主要行に対し「破たん先」「破たん懸念先」の債権を既存分は2年、新規発生分は3年以内に資産から切り離し最終処理することを求めた。ドイツ証券は失業者数を破たん先・破たん懸念先企業の雇用者が100%失業する「悲観シナリオ」で101万人、50%失業する「標準シナリオ」で50万人と予測した。同証券の森田長太郎シニアエコノミストは「債権放棄を受けた企業の人員削減の実績は兼松が6割、熊谷組、そごうが3割などで、50%削減というシナリオが平均的だ」との見方を示している。再就職を考慮しない場合、50万―130万人の失業で失業率は一時的に0.8−1.9%上昇する。建設業や卸・小売業など非製造業だけで45万―97万人が失業する恐れがある。
● 総務省が発表した全世帯の家計調査によると、2000年度の一ヶ月平均の一世帯当たり消費支出は31万7267円で、前年度に比べ名目で1.2%の減少、物価変動を除いた実質で0.5%の減少となった。実質消費支出が前年度割れとなったのは5年連続。勤労者世帯も2000年度まで4年連続でマイナスを記録しており、消費税が引き上げられた1997年度以降、個人消費が落ち込みつづけていることを示した。
● 東京商工リサーチは、4月の建設業倒産をまとめた。倒産件数は485件、負債総額は1249億7900万円。前年同月と比べると件数では1.6%減ったものの、負債額は34.5%の大幅な増加。4月としては77年の487件に次ぎ、過去6番目の水準となった。倒産の原因別では、放漫経営46件、過小資本29件、連鎖倒産37件、赤字累積77件、販売不振270件、売掛金回収難9件など。販売不振、赤字累積、売掛金回収難をあわせた不況型が73.4%を占めた。形態別倒産状況は、会社更生法はなく、民事再生法が15件のほか、破産が87件、、銀行取引停止が346件と多くを占めている。資本金階層別では、100万円以上500万円未満が124件、5000万円以上1000万円未満が57件、1000万円以上500万円未満が219件、5000万円以上1億円未満は12件、1億円以上は4件。小規模階層の倒産が大半を占めている。
● 政府は、国会内で都市再生本部(本部長・小泉純一郎首相)の初会合を開いた。冒頭、小泉首相は「経済低迷の中で、東京圏、大阪圏などが国際的にみても地盤沈下している。都市再生は日本再生にもつながる。必要な都市基盤を重点的に整備するとともに、様々な制度を聖域なく総点検し、改革を行う」と述べ、関係閣僚に都市再生に全力で取り組むよう指示した。同本部は今後、21世紀型都市再生プロジェクトの選定や土地の有効利用をはじめとする都市再生施策の推進に取り組む。プロジェクトの実施は「民間主導」を基本とし、中央省庁は関係地方公共団体、経済界などと協力してプロジェクトの推進をバックアップするとともに、制度や規制を総点検し必要な改革を進める。
● 小泉内閣の「構造改革」の柱の一つ、銀行の不良債権最終処理の強行で、卸小売業、建設業、サービス業の3業種で88万人の失業者が発生することが、第一生命経済研究所の試算で分った。同試算によると、全産業ベースでは111万人の失業者が発生して失業率を1.0ポイント上昇させ、失われる所得は4.6兆円。これによって個人消費はさらに冷え込み、GDP(国内総生産)を0.6ポイント程度押し上げ、「企業部門での労働分配率低下が金融面を通じて加速される」としている。政府の不良債権処理策で、今後2年以内に銀行にとっての不良貸出先である企業のうち、@再生不可能な企業は倒産など法的整理に追い込まれ、A再生可能な貸出先は一部債務を免除(借金棒引き)される代わりに厳しいリストラが要求され、いずれにしても失業者が激増すると予測している。具体的には、破たん先・破たん懸念先の債権約24兆円の処理が行われた場合、失職を余儀なくされる就業者は、卸小売業で28万人、建設業で22万人、サービス業では38万人に上ると試算。この3業種で全体の失業者の79%占めている。
● 大手銀行16行が発表した2001年3月期決算で、「破たん懸念先債権」など特に回収が難しいとみられる不良債権が下期だけで新たに3兆 4000億円発生したことがわかった。資産の査定を従来より厳しくしたり景気低迷で取引先の経営悪化が進んだため。16行は下期に計4兆4000億円の不良債権を最終処理(直接償却など)したが、貸出債権の不良化が止まらないことで、政府の方針に沿って今後3年以内に最終処理を迫られる不良債権額は11兆 7000億円近くに達した。本業の利益を示す業務純益は大手16行合計で2001年3月期に3兆6000億円となり、前の期より6%強増えた。だが、不良債権処理の負担が重いため最終利益は計520億円にとどまり、16行中7行が赤字となった。
● 国土交通省は、不良・不適格業者の排除施策のひとつとして、建設業法第28条にもとづき監督処分した内容を、インターネット上で一般公表する。大臣許可業者だけではなく、知事許可業者の監督処分内容も公表する方向で、今後、都道府県の建設業許可行政部局とも調整する。公表期間は処分から5年が有力視されている。同省は、ペーパーカンパニー、技術力がない業者、一括下請負(丸投げ)、不当な下請けへのしわ寄せなど、建設業法を順守しない業者を不良・不適格業者と位置付け、建設市場から排除する施策を次々に打ち出している。
● 国土交通省は、成田、羽田両空港と東京都心を30分台でつなぐ鉄道網の整備を柱とした「空港アクセス改善緊急対策」をまとめた。成田と都心をほぼ直線で結ぶ新たな高速鉄道建設に2002年度にも着手、両空港とつながっている都営浅草線を東京駅まで延ばす事業も早期に実施する。小泉純一郎首相を本部長とする都市再生本部の政策の目玉になる公算が大きく、道路建設などに限定している道路特定財源の使い道を拡大し、これらの事業に活用することも検討する。
● 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は構造改革の一環として、現在約3200ある市町村の300程度への集約を目指すことを決めた。6月下旬にまとめる経済・財政運営の基本方針に市町村再編を盛り込み、政府・与党内や地方との調整に入る。地方交付税制度の見直しや地方への権限や税財源の移譲と並行し、具体的な期限を設けて市町村を人口30万人以上の規模に再編する。政府は現在、2005年3月末までに市町村を1000程度に再編する計画を立てている。首相は市町村合併支援本部会議で「市町村合併は地方分権の推進にとって重要だ」と述べ、市町村の再編を積極的に推進する姿勢を強調。諮問会議で300程度への集約に関して方向性を示し、基本方針に盛り込んだうえで、法改正など再編の実現に向けた本格的な調整を進めたい考えだ。
● 民間信用調査会社の東京商工リサーチがこのほどまとめた2000年度の企業倒産にともなう従業員被害者数(企業倒産従業員総数)は、22万4790人となった。前年度に比べ55.1%増と急増、年間で20万人を超したのははじめてだ。倒産件数は1万8787件で、倒産1件当たりの平均従業員数は11.9人である。産業別構成比をみると、建設業が19.9%でトップ。次いで製造業19.2%、金融・保険業14.7%、小売業14.4%、卸売業11.7%、サービス業他11.3%の順となっている。
● 総務庁が発表した4月の労働力調査結果は、完全失業率(季節調整値)が4.8%、完全失業者は348万人。特に男性の完全失業率は2ヶ月連続で悪化し5.0%、女性は前月比0.1ポイント低下の4.4%。完全失業者数は男性が1年前に比べ7万人増の213万人で3ヶ月ぶりに増加、女性は4万人減の135万人で6ヶ月ぶりに減少した。男性をみると25〜34歳層の失業者が53万人(1年前より5万人増)で最も多く、失業率では15〜24歳層が最悪で10.4%(同0.5ポイント増)。リストラ・人減らし、倒産など企業の都合による非自発的離職者は1年前より3万人減。一方、自発的離職者は同6万人増加した。