情勢の特徴 - 2001年6月前半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は31日、6月下旬にまとめる経済・財政運営の基本方針の原案を公表した。原案では日本経済の再生のシナリオを「構造改革なくして景気回復なし」と表現。低生産性部門から高生産性部門への資源移転を進める「創造的破壊のプロセス」と同時に、不良債権問題の抜本的解決を図る考えを強調した。日本経済の再生に向けた具体策として「民営化・規制改革」「地方自立・活性化」「硬直性の是正」など7つの中長期的な改革プログラムを設けた。「硬直性の是正」では道路や空港など事業別となっている公共事業の長期計画を抜本的に見直し、全体のバランスに考慮した横断的な総合計画に組み直すことで過去の実績にとらわれない弾力的な予算配分を目指す方針を打ち出した。自動車重量税や揮発油税(ガソリン税)に代表される特定財源は「分野別の配分などに硬直性をもたらしている」として仕組み自体を見直す方針を明記。公共投資は国内総生産(GDP)に対する比率の中期的な引下げも盛込んだ。
● 内閣府が11日発表した2001年1−3月期の国民所得統計速報(一次速報)によると、国内総生産(GDP)は、物価変動を除いた実質で前期(10−12月)比0.2%減(年率換算で0.8%減)と、2期ぶりでマイナス成長に落ち込みました。中身を前期比でみると、個人消費は家電リサイクル法施行前の駆け込み需要があったにもかかわらず、伸び率ゼロの横ばい。設備投資は1.0%減、住宅建設が5.2%減と民需が総崩れになるなかで、公共投資(5.2%増)がマイナス幅を圧縮したかたちです。消費不況の深刻化につれて、設備投資も3期ぶりでマイナスに落ち込み、景気は先行きも悪化懸念がさらに強まっています。財貨・サービスの輸出も、米経済の急減速の影響などで3.6%減と、8期ぶりでマイナスになりました。この結果、2000年度の実質成長率は、0.9%と、政府見通しの1.2%を下回りました。2001年度の成長率も、"発射台"が0.1%と低いことから、政府見通しの1.7%を下回ることが確実視されます。
● 大手銀行の不良債権に占める建設業、卸・小売業、不動産業の3業種の割合が2001年度3月期末で57.1%に上がったことが分かった。2000年3月期末に比べ1.9ポイント上昇した。特に不動産業向けの比率は30%を超えており、3業種への貸し出しが依然として銀行の重しとなっている。大手16行の不良債権(リスク管理債権)の総額は2000年3月末期比1.8%減の約40兆9700億円と、引き続き高水準にある。業種別構成をみると、建設業、卸。小売業、不動産業の3業種が合計で57.1%。残高も1.4%増の8兆5000億円強に増えた。建設業、卸・小売業の割合はそれぞれ1.2ポイント低い9.6%、0.6ポイント低い14.7%に低下した。ただ、熊谷組、ハザマの債権放棄、そごうグループの法的整理など大口融資先の再建計画がまとまった結果という側面が強く、両業界の貸出先の経営状況が全体として改善されたとは言い切れない。
● 東京商工リサーチがまとめた5月の建設業倒産調査結果によると、件数は546件で前年同月比6.0%増、負債額は1195憶3600万円で11.8%減、件数は5月としては過去3番目に高い水準となった。受注不振、赤字累積、売掛金回収難の不況型倒産が全体の74.5%を占めている。倒産の原因をみると、放漫経営49件、過小資本29件、連鎖倒産44件、赤字累積103件、信用低下(取引停止)5件、受注・販売不振295件、売掛金回収難9件、設備投資過大4件。不況型が407件と、厳しい経営環境を改めて浮き彫りにしている。倒産の形態別では民事再生法が17件、破産110件、銀行取引停止381件、内整理38件。資本金階層別では1000万円以上5000万円未満が275件、1000万円以上500万円未満が139件、500万円以上1000万円未満が53件と、中小・零細がそのほとんどを占めている。
● 大手銀行15行が2001年度に予定している株式売却が合計で3兆7000億円(簿価ベース)にのぼることが明かになった。前年度実績に比べ6000億円増える。持ち合い株式への時価会計導入など受け、株価に左右されにくい経営本質を狙う。株式売却に最も積極的なのはあさひ銀行、今年3月末で1兆7600億円の保有株式を5年間で6000億円前後まで自己資本額の半分程度にする方針で、今年度は5000億円の売却を予定している。三井住友銀行とUFJグループ(三和、東海、東洋信託の3行)はともに3年以内に2兆円の株式を売却する計画で、今年度はそれぞれ約6700億円を売却する予定。東京三菱銀行など三菱東京フィナンシャル・グループは今年度の株式売却を前年度の2倍強に拡大する。第一勧業銀行、富士銀行、日本興行銀行のみずほフィナンシャルグループも今年度に5700億円、来年度に8000億円を売却、保有株式の残高を自己資本に近づける計画だ。売却益が出れば、不良債権の最終処理(直接償却など)に伴う損失の穴埋めなどに充てる。大手銀行が保有株式の売却を進める背景には、今年度からの持ち合い株式に対する時価会計導入で株価が経営に与えるリスクが高まっていることがある。株式下落で保有株式に含み損が生じた場合、自己資本に含まれる剰余金から損失の一定比率を減額する必要がある。各行は配当原資となる剰余金の減少で顧客離れや投資家の信頼低下を招くことを懸念している。

行政の動向

● 政府は8日、6月下旬に公表する特殊法人改革の基本方針案をまとめた。特殊法人改革案では特殊法人を「政策金融」「調査・研究開発」「施設設備所有」など18の事業類型に分類。各類型毎に問題となる法人名を指摘した。日本政策投資銀行など民間と競合する融資を手掛ける政府系金融機関については、官民の役割分担などの観点から廃止・民営化を含めた事業の抜本的な見直しを進める方針だ。特に住宅金融公庫の全事業については「既に事業の意義が乏しくなっている」「民間金融機関で類似の事業を手掛けている」として民営化の方向性を強く示唆。5年後をメドに民営化する案が有力だ。日本道路公団や首都高速道路公団、新東京国債空港公団など公共事業に関連した特殊法人では採算性を考慮したうえで、「国の直轄事業への移行」「廃止、地方公共団体への移管・民間事業化」など組織形態を抜本的に見直す。本4公団については、国の直轄事業化や他の特殊法人との統合を軸に検討が進む公算が大きい。
● 東京都は「首都圏再生緊急5ヵ年10兆円プロジェクト」を政府の都市再生本部に提出した。今後10年間で東京外かく環状道路(外環道)など首都圏3環状道路の整備に予定している4兆円の事業費に1兆5000億円を追加、供用開始時期の前倒しを要望するとともに、現在13%程度にとどまっている道路特定財源の配分割合をガソリン売り上げに見合う25%に拡大することなど要望した。提案は▽災害に強く快適なまちづくり(6.9兆円)▽世界初「3300万電子都市」の実現(1.1兆円)▽新しい環境対策(2兆円)▽時代に適合した制度の構築−の4項目が柱。新たな制度として土地収用法の改正やマンション建て替え事業法の制定、自治体に対する無利子貸付制度の創設などを提言している。
● 静岡空港の建設の是非を問う住民投票条例案が6月議会に上程される。直接請求の署名総数が29万人を超え、石川嘉延知事も住民投票の実施と、結果を尊重する姿勢をすでに示している。住民側は案に条例施行日から2カ月以内に投票を実施すること、結果が確定するまで空港建設の行政事務、工事の停止などを明記した。同空港の建設は、榛原町と島田市にまたがる約190f。滑走路2500b、幅60bの内陸の空港だ。総事業費1900億円のうち、これまでに963億円を投入した。執行した予算の内訳は、空港本体の整備183億円、空港周辺部216億円、関連道路46億円、計画策定費17億円など。2001年度以降では、さらに本体や空港ターミナルの設計、施工など1000億円近い予算の執行を予定していた。

労働関係の動向

資本の動向

● 日本建設業団体連合会(平島治会長)は、「21世紀の建設市場の見通しと建設産業の在り方」と題した報告書をまとめた。競争・淘汰(とうた)の時代との副題がついており、業界自らこうした表現で、厳しさを表したのは初めて。市場原理にもとづく競争の催促と規制改革を求め、過度の地域要件の設定、JVの乱用の是正など保護政策からの脱却を提言している。市場縮小が確実ななか、リニューアル、環境関連など新しい分野への進出の必要性を強調する一方、合併・提携などには消極的な色合いが濃い内容になっている。

その他の動向