情勢の特徴 - 2001年9月前半
● 整理回収機構は、不良債権の証券化に取り組むために金融庁から信託業務の免許を取得した。機構は銀行などから不良債権を信託方式で引き受け、受益証券を発行。金融機関がこの受益証券を投資家などに販売する。信託機構を使った不良債権の証券化では、金融機関が不良債権の回収などの管理業務を回収機構に信託し、代わりに有価証券の一種である受益証券を受け取る。金融機関は小口化した受益証券を投資家に直接販売したり、特定目的会社(SPC)にいったん売却し、SPCが社債などを投資家向けに発行することができる。これにより金融機関は帳簿上から不良債権を切り離すことが可能になる。投資家への償還や配当の原資には、回収機構が債務者から回収する資金をあてる。回収機構は不良債権の信託業務の一環として、企業が再建可能な場合には主力銀行などと調整、債権の一部放棄などで支援できるようになる。複数の金融機関が抱える不良債権を機構が信託機能を使ってひとまとめにすることにより、債権者同士の利害調整を円滑にすることも狙いの一つ。
● 日本道路公団は、2000年度決算を発表した。全国21の高速道路39路線別の収支状況をみると、支出が収入を上回る赤字だったのは21路線で、前年度より3路線増えた。ワーストは3年連続で伊勢湾岸道の名古屋南〜東海間(第2東名)。費用を収入で割った収支率は1142で、100円の収入を稼ぐのに 1142円かかった計算。収支全体では、通行料などの収入は前年度比0.7%増の1兆8738億円、管理費と金利を合計した費用は0.5%増の9445億円。収支率は前年度と同じ50。収支率100を下回る黒字路線は前年度と同じ18路線で、ナンバーワンは東名道と東関東道で14。同公団の累積債務は3.1%増の25兆6641億円。収入から費用を差し引いた9246億円を返済に充てるとしている。
● 政府の都市再生本部(本部長・小泉純一郎首相)が、第2次都市再生プロジェクトを決めた。首都圏の3つの環状道路などの大都市圏の道路整備や、大阪圏でのライフサイエンスの国際拠点の形成ほか、特に羽田空港については国際化を視野に入れ、4本目の滑走路整備が盛り込まれた。第2次都市再生プロジェクトは、▽大都市圏における国際交流・物流機能の強化▽大阪圏における環状道路体系の整備▽大阪圏におけるライフサイエンスの国際拠点形成▽都市部における保育所待機児童の解消▽PFI手法の一層の展開の−5つの柱で構成される。
● 賃貸ビルなどの不動産に投資する不動産投資信託(日本版REIT)が、東京証券取引所にはじめて上場する。上場するのは三井不動産系と三菱地所系の2つの不動産投信で、発行価格は三井不動産系が一口62万5000円、三菱地所系が同52万5000円。不動産投信は市場から集めた資金と借入金で賃貸ビルなどを取得し、賃料収入から経費を引いた利益の大半を配当として投資家に分配する仕組み。比較的小口の資金で不動産から上がる利益を得られる。株式に相当する投資証券は証券会社の窓口で一口単位で購入できる。上場商品なので日々価格が変動し、新聞の相場欄に価格が掲載される。以前からあった不動産小口化商品に比べると換金性に優れている。投資家にとって気になるのが配当利回り。予想配当額を年換算(年2回配当)し、今回決まった発行価格で割ると、2つとも予想配当利回りは4%台前半となる。
● 破たん銀行への公的資金投入額は7月末現在の集計で合計約28兆8000億円にのぼり、うち、税金投入額は9兆円に迫っている。全体で70兆円になる銀行への公的資金投入枠は、「金融再生」法などによる「時限措置」が、今年4月から「改正」預金保険法(昨年5月成立)に衣替えして、そっくり「恒久措置」になった。それが「危機対応勘定」(15兆円)で、資本注入や税金投入など、これまでの公的資金投入の仕組みがそのまま残されている。これまで投入された公的資金は 28兆7758億円。これは、小泉内閣発足(今年4月)直前の3月末の投入額27兆5952億円より、約1兆2000億円も増加している。一方、今年7月末現在の税金投入額の累計は、8兆9095億円で9兆円に迫る勢い。3月末の累計8兆4166億円と比べて、4929億円の増加。増加した主な原因は、破たんした新潟中央銀行と東京相和銀行の処理によるもの。東京相和銀行は税金投入で破たん処理をされた後、"ハゲタカ・ファンド(破たん企業買収専門の金融会社)"とよばれる米国資本、ローン・スター・ファンドに今年6月、のれん代1億円という、ただ同然の値段で売り渡された。
● 内閣府が発表した4〜6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.8%減、年率換算では3.2%減少し、3・ 4半期ぶりのマイナス成長となった。世界経済の減速による輸出の減少に加え、国内需要も設備投資や住宅投資などが大幅に落ち込んだ。経営活動の低迷と物価の下落で名目GDPは年率10.3%減と過去最大の落ち込みを記録、デフレが急速に進んでいることを裏付けた。
● 都市銀行や地方銀行など全国銀行137行で、2001年3月期に不良債権が新たに8兆6000億円発生したことが、金融庁の資料で明らかになった。政府は都銀など大手銀行に対し、2、3年内に不良債権を最終処理するよう求めているが、銀行全体の不良債権残高は前年同期より2兆1000億円多い32兆 5000億円と過去最高の水準に達している。業種別にみると、大手18行は4兆3000億円の新規発生に対して4兆8000億円を最終処理したため、不良債権残高は3年連続で減った。ところが、地銀・第2地銀では4兆4000億円新たに発生したにもかかわらず、1兆7000億円しか処理しておらず、残高は4年連続で増えた。不良債権が新たに発生した理由は2つある。1つは資産査定の厳格化。2001年3月期は金融庁が地銀・第2地銀に重点を置いて、貸出資産の査定厳格化を求めたことが響いた。もう1つは景気の悪化に伴う企業の業況不振。元本や利息の支払いが3ヶ月以上延滞したり、経営破たんしたりする企業が増えた。大手行では回収に懸念がある貸出債権(要注意先債権)の8.4%が昨年3月期から今年3月期までの1年間で不良債権になった。
● 厚生労働省は、健康保険組合、政府管掌健康保険など被用者保険に加入するサラリーマンが医療機関で支払う本人負担を、現行の「掛かった医療費の2割」から「同3割」に引き上げる方針を固めた。小泉内閣が、一般歳出の削減策として実施する医療制度改革の一環。次期通常国会に関連法案を提出、2002年度の実施を目指す。大企業の社員が入る健保組合、中小企業対象の政管健保、公務員の共済組合など被用者保険の本人負担は、入院、外来とも掛かった医療費の2割(家族は外来のみ3割)を病院窓口で支払う。しかし、リストラなどによる賃金抑制、加入者減による保険料収入の減少が影響して組合・政管健保とも年間2000 億〜3000億円の赤字となっている。健保3割負担は、小泉首相が厚相時代(97年)にまとめた医療改革案で打ち出していた。
● 厚生労働省は来年度、一定の技術や技能を待った建設労働者の業界内での労働移動を支援するため「建設業労働移動支援助成金(仮称)」を創設する。離職を余儀なくされた労働者を雇い入れた事業主を対象に、一人当たり20万円の助成金を支給する制度。