情勢の特徴 - 2001年9月後半
● 国土交通省は国が発注する大規模な公共工事について、総合建設会社(ゼネコン)が倒産した場合などに備えて取引銀行に求める保証金額(履行保証額)を引き上げる方針を固めた。工事請負額の10%としているのを30%とする。銀行が負担増を嫌って保証契約に慎重になれば、経営内容の悪いゼネコンは公共事業の受注が難しくなり、業界再編にもつながるとみている。公共工事を受注したゼネコンが倒産したりすると、国に履行保証した取引銀行は請負額の一部を国に支払うなどの負担を求められる。銀行はこうした事態に備えて、ゼネコンの経営状況に応じて履行保証額の一定割合を貸倒引当金として積んでいる。保証額を3倍に引き上げれば、経営状況が悪いゼネコンが公共工事を受注するほど取引銀行の引当金が増え、その銀行の財務を圧迫しかねない。銀行は建設業など業界ごとに融資枠を設けているので、経営不振のゼネコンへの履行保証額が膨らめば、その分、他の建設会社への融資などを削らねばならない。このため銀行は経営不振のゼネコンへの履行保証に慎重になり、これらの企業は公共事業を受注しにくくなる見通しだ。銀行が支援体制を見直し、不良債権の最終処理(直接償却など)につながる可能性もある。
● 2001年(平成13年)8月度の全国建設業の倒産は500件、負債総額は1961億4700万円となった。件数は、前月比0.2%の増加、前年同月比では8.4%の減少となり、歴代件数で過去47番目、8月同月比較としては過去3番目となった。負債額では、前月比20.6%、前年同月比で102.8%の増加となり、歴代過去9番目、8月としては2番目の数字。倒産原因別では、受注・販売不振が270件、赤字累積90件、売掛金回収難6件の3原因を合わせた「不況型」が366件(構成比73.2%)を占めた。倒産形態別では、法的倒産が構成比23.4%を占めた。そのうち、民事再生法は15件、破産が102件。私的倒産では、銀行取引停止処分が351件、内整理32件となった。規模別で見ると、資本金階層別では1億円以上が5件、1000万円以上〜1億円未満265件、1000万円未満(個人事業含)が230件の割合。
● 財務省は、6月末現在の国債や借入金などを合計した「国の借金」が3月末時点に比べ3.4%増の557兆1861億円に拡大したと発表した。4月の財政投融資改革を受けて、財政融資資金特別会計国債が10兆3289億円新規発行されたことなどで、国債の発行残高が同4.1%増の396兆3493 億円と膨らんだのが主因。国債以外では、借入金は同1.9%減の107兆9551億円、一時的な資金繰りのために発行する政府短期証券は同11.0%増の52兆8817億円。
● 国土交通省は、建設関係の技術者や技能者・作業員の転職後の調査結果をまとめた。技術者、技能者・作業員いずれも半数以上が建設業界内にとどまっており、転職後の年収は技術者が8.5%のマイナスに対して、技能者・作業員は8.4%のプラスになっている。建築、土木、測量の技術者の55.2%が、また、建築、土木などの技能者・作業員の62.8%が転職先も同じ建設業界だった。年収は、技術者が8.5%の減少で、技能者は8.4%の増加となっている。技術者の建設業界以外への転職をみると、建設業界内を含めた全体に占める割合はその他の専門職・技術者が9.5%でトップ。建設業界以外の転職者の中のシェアは21.3%となる。年収は52.5%もの減少になる。次いで生産工程・労務職が7.6%(業界外転職中のシェアは17.0%)で、年収は25.0%増加している。サービス業への転職は6.7%(同14.9%)、年収は転職組のなかで最大のマイナスの87.0%となっていることがわかった。このほか事務職5.7%(同12.8%)、機械・電気技術者とドライバーがそれぞれ3.8%(同8.5%)となっている。一方、建築・土木などの技能者・作業員は62.8%が建設業界内での移動。年収は技術者のマイナスに対して8.4%のプラスを確保している。
● 国土交通省は、補正予算の編成を視野に入れた「当面の建設業雇用対策」をまとめた。当面の対策は、建設業就業者のセーフティーネット構築へ向け、▽公的部門による建設業就業者の雇用創出▽新分野・新市場などによる雇用確保・創出▽優れた建設技能工・技術者の確保・育成▽元請・下請取引の適正化▽労働移動の円滑化▽失業者対策▽推進体制の整備―の7項目で構成。本年度中に実施する事項と来年度前半(2002年4〜9月)に実施する事項に分けて示している。公共サービスの雇用については、建設業に関連が大きい都市環境の改善、放置車両の処理、景観形成、観光地の美化などの分野で重点的に実施されるよう厚労省に要請。緊急地域雇用特別交付金の改善により、公的部門のアウトソーシング化による雇用創出を図る考え。新分野・新市場については、「リフォーム・リニューアル」「環境」などに進出する企業や、そのための環境整備を行なう業界団体の支援を検討するほか、゛チャレンジマインド゛を醸成するため、創業や異業種進出事例を集めた事例集を作成する。技能工・技術者関連では、教育訓練の効率化や、熟練技能工をOJT指導員や教育補助員として活用することも検討する。
● 積水化学工業は、グループで1000人の早期退職者募集を柱とする経営改善計画を発表した。連結売上高の5割を占めるプレハブ住宅の不振で2002年 3月期の連結営業利益が従来予想の100億円から20億円に縮小する見通しとなったためで、生産設備の削減もあわせ160億円の固定費削減を目指す。同社はグループ全体で3月末の2万4400人から2002年3月末までに2100人を減らす方針。住宅部門では早期退職300人を含め1200人の削減を見込む。プレハブ住宅の生産ラインも削減する。主力工場の東京セキスイ工業で4ラインのうち木質系住宅1ライン、関西セキスイ工業で3ラインのうち鉄骨系住宅1ラインをそれぞれ廃止する。削減規模は約1000棟分で、2000年度の販売棟数(約1万7000棟)の約6%に相当する。
● 厚生労働省は、2002年度からの実施をめざす「医療制度改革試案」をまとめ、政府・与党の社会保障改革協議会に報告。健康保険組合などサラリーマン本人の患者負担を現行の2割から3割へ1.5倍に引き上げ、70〜74歳の負担を1割から2割へ2倍にするなど不況に苦しむ国民に大幅な負担増を求める内容。高齢者医療制度では、対象年齢を現在の「70歳以上」から「75歳以上」に遅らせる。通院で月3000円または5000円以上は払わなくてもよかった自己負担上限制度は廃止し、75歳以上の高齢者に1割負担を徹底。多くの診療所で実施されている定額負担(1回800円、月3200円まで負担)も廃止する。
● 総務省が発表した8月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は、前月に続いて過去最悪の5.0%を維持した。完全失業者数も前月同月比26万人増の336万人。完全失業率を男女別にみると、男性は5.1%で前月より0.1ポイント低下、女性は同0.1ポイント増の4.8%で過去最悪に並んだ。完全失業者数の内訳は、リストラ・倒産などによる非自発的離職者が20歳代の女性を中心に増加し、前年同月比6万人増の103万人。自発的離職者は同10 万人増の120万人で、新たに求職活動をはじめた家庭の主婦などが同5万人増の80万人となった。一方、学卒未就職者は同2万人減の17万人。就業者数は、前年同月比37万人減の6443万人と5ヶ月連続の減少で、職場は確実に縮小している。うち、雇用者は同16万人増の5372万人だが、自営業主・家族従業員は同61万人減の1043万人と、19ヶ月連続で減少した。
● ハザマは、西武鉄道グループの西武建設と、資本関係を含めた全面提携に向け交渉を進めていることを明らかにした。両社とも主要取引銀行は第一勧業銀行で、不良債権の早期処理に向け取引先の再編を推進している同行の主導で全面提携の交渉に入ったとみられる。現在交渉中の内容には数億円規模の株式の持ち合いや、ハザマによる西武案件の優先受注、新技術の共同開発などが挙げられている。公共事業の削減など経営環境が厳しさを増す中で、両社の提携により、ハザマは西武鉄道グループのホテルやスキー場などのリゾート開発事業に加わり、安定的な受注基盤の確保を目指す。一方、西武建設は建築と土木両面での技術力向上を目指し、新技術開発の分野でハザマの支援を受ける。新技術を施工現場に投入し、高い技術力を武器に他の中小ゼネコンとの差別化を図り、経営基盤を強化する。
● 鹿島は都心部などの土地取得に年間200億円を投資する方針を決めた。700億円を投じ都内に情報技術(IT)の拠点ビルを建設するなど、大規模な再開発事業に着手する。西松建設も今後4〜5年で用地取得などに600億円をかける。バブル崩壊後抑制されてきた都心の不動産投資と大規模再開発が動き始めた。鹿島は東京・江東区にデータセンターやコールセンターなどのITビジネス拠点を今後4〜5年かけて建設する。日本テレコムの進出が決まっている。東京・東品川では、日本たばこ産業(JT)の所有地を鹿島が再開発する契約も結んだ。400億円を投じて合計3棟を来年6月に着工する。江東区の自社保有地(約1 万7000平方メートル)でも約150億円をかけ、総戸数約600戸の大型マンションを建設する。西松建設は都心部や大阪、地方の中核都市を対象に再開発用地を先行取得する。30を超す建設工事の受注をめざし、すべての案件を成約すれば受注額は 3000億円を上回る見込みだ。住友不動産も東京・港のホテル跡地再開発に600億円をかけるなど4年間で約1400億円を投じ、ビル10棟を新設する。