情勢の特徴 - 2002年7月前半
●東京都など1都3県と国土交通省のディーゼル車に対する排ガス規制の影響で、生コンクリートの価格の上昇が、避けられない見通しであることが分かった。都などが来年10月から規制をクリアしていない車両の都内の通行を禁止するとともに、国交省も一部車種を除き新規登録から12年を経過したディーゼル車の車検登録を認めないことから、生コン運搬用のアジテーター車(ミキサー車)や生コンの原料である骨材を運搬するダンプトラックの大半が、新車への買い替えを迫られているためだ。生コン業界の経営体力はすでに弱体化しており、業界内では、新車購入代金を生コン価格に上乗せせざるを得ないとの意見が大勢を占めている。骨材の運搬は個人経営者が多く、高齢者の割合が高い。このため高齢で新車購入の難しい運搬業者は廃業を迫られることが予想され、首都圏で稼動する車両台数が大幅に減り、骨材の運送に支障をきたすことを懸念する声も聞かれる。
●日銀が発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断DI(「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数)は、中小企業の製造業、非製造業がそれぞれマイナス37で、前回3月調査と比べ、10ポイント、5ポイントずつ改善した。大企業は、製造業がマイナス18、非製造業がマイナス16と改善した。しかし、大企業・製造業の2002年度の設備投資計画が前年度比8.9%減と、前回調査に比べ3.2ポイント下方修正され、投資意欲の回復は鈍いままだ。また、経常利益見通しは大企業・製造業が34.1%増と9.7ポイント上方修正したのに対し、同非製造業は7.9%とマイナス1.8ポイント修正になった。
●国土交通省が発表した建築着工統計調査によると、新設住宅着工戸数は前年同月比5.8%増の10万6110戸、3ヶ月ぶりにプラスとなり、昨年11月以来6ヶ月ぶりに10万戸台を回復した。持ち家、貸家、分譲がともに前年水準を越えたためで、給与住宅もプラスになった。本年度(4月〜5月)累計では20 万5034戸、前年同期比2.6%増。一方、建築物着工床面積も公共・民間、居住用・非居住用ともにプラス、17ヶ月ぶりに前年水準を上回った。
●日銀が発表した6月の貸出・資金吸収動向によると、信用金庫を含む銀行の平均貸出残高は前年同月比4.4%減の485兆円となった。貸し渋り・資金回収など金融機関の融資姿勢の厳しさと企業の資金需要の弱さが続いていることを裏付けた。業態別では、都市銀行など大手銀行が同7.0%減で、2ヶ月ぶりにマイナス幅を拡大した。
●国土交通省は、これまで入札後に公表していた指名理由などを指名業者名と合わせて、入札前に公表することを決めた。すべての直轄工事を対象に、入札手続きに着手する案件と指名通知する案件に適用する。また、指名通知後に公表している指名業者名の事後公表を、港湾空港関係を除く直轄工事で試行することも決め、詳細条件審査型一般競争入札50件、公募型指名競争入札50件の計100件で実施する。指名理由の入札前公表と、指名業者名の事後公表の試行は、「公共工事の入札契約の適正化徹底のための方策検討委員会報告」の入札契約制度運用改革方策として盛り込まれていた。
●国土交通省は、経常JV制度を改正した。大手企業連携型JV制度を創設したほか、中小・中堅の経常JVも含めて、JV構成員同士の合併などが行われた場合に、合併などに伴う経営事項審査(経審)結果にもとづく新たな資格認定が得られるまでの期間は、その経常JVが存続しているものとみなすことにした。これによって大手、中小・中堅問わず、経常JVを結成すれば通常の合併の場合に申請から数ヶ月かかる資格審査認定までの空白期間がなくなり、合併までスムーズに移行できるのが最大のポイント。大手連携型JVを申請できるのは、最初の資格認定後2年以内に合併や連携・協業関係を設けることを検討している企業が対象で、中小・中堅企業の経常JVで実施している総合点数の加算措置は講じない。
●政府の都市再生本部(本部長・小泉純一郎首相)は、東京臨海地域など東京都、大阪府など計17地域、約3515ヘクタールを重点的に市街地整備する「都市再生緊急整備地域」に指定することを決めた。緊急整備地域は6月施行の都市再生特別措置法(10年間の時限立法)で導入が決まった。大規模な工場跡地や交通の拠点となる駅周辺など都市全体への波及効果が見込める地域を選定、開発を加速させて地域活性化につなげる狙いだ。指定地域では既存の都市計画を白紙にする「特別地区」を設けることができるほか、民間事業者が立案した都市計画案を自治体が6ヶ月以内に審査・決定する仕組みを導入し、迅速な計画の実行を推進する。地域内で民間事業者が公園など公共施設を整備する際に、政府から無利子貸し付けや債務保証などの金融支援を受けることも可能となる。今回の指定は第1弾。具体的には@東京圏でゲノム科学に関する国際拠点の形成A福岡など北部九州圏でアジアの新しい産業交流拠点の形成B札幌市、仙台市、広島市の都心づくり推進――をめざし、必要な予算措置や法整備を進める。
●国土交通省は、都市基盤整備公団と地域振興整備公団を廃止し、業務内容を「都市再生」に集中させた新たな独立行政法人を04年度に設立する。昨年 12月に閣議決定した特殊法人等整理合理化計画では、05年度の集中改革期間終了時までに両法人の組織を見直すことが決まっていた。だが、小泉内閣の重要施策である都市再生を強力に進めていくためには、都市部(大都市、地方都市)に資産を有する両公団の改革を1年前倒しで実施する必要があると判断した。同省は、省内にプロジェクトチーム「都市再生新独立行政法人設立準備室」を設け、来年の通常国会への新法人設立に関する法案提出に向けた準備を開始した。新たな独立行政法人は、「都市再生に民間を誘導するための権限を持った法人」と位置づける。区画整理や市街地再開発などの街づくり事業を行う事業主体となる権限や、道路管理者や河川管理者に代わり直接施行できる権限を有することで、民間プロジェクトの立ち上がりに不可欠な基盤整備事業を実施する。2公団のうち、都市公団の業務は、▽市街地整備改善事業▽賃貸住宅事業▽都市公団整備事業▽鉄道事業―などがあり、02年度予算は事業費ベースで約1兆30億円(国費約772億円)に上る。組織見直しでは、賃貸住宅から撤退して、民間で供給が難しい一部の地区のみで建設を行う事業範囲にとどめる。住宅事業の関しては、99年に住宅・都市整備公団から都市公団へ移行する際、すでに分譲住宅から撤退している。新たな独立行政法人は、事実上すべての住宅事業から撤退し、その役割を民間にゆだねる。
●建設経済研究所がまとめた建設業就業者数の見通しによると、2002年度は589万人で前年度比6.8%減、03年度は4.9%減の560万人となる。これは官庁投資を前年度と同額とみた場合で、10%削減が続くとさらに9万人マイナスとなり、6.5%の減少となる見込みだ。この見通しは、同研究所が行った建設投資額の短期予測値、最新の実績値をベースにしている。建設投資は、99年度が69兆8743億円、00年度が67兆6800億円、01年度が62兆900億円と減り続け、02年度は58兆1460億円とついに60兆円を割り込んだ。こうした建設投資の減少に連動して、建設業就業者数も減少が続いている。99年度には657人いた建設業就業者は、00年度には653万人、01年度は 632万人とマイナスになっており、02年度は589万人と、建設投資が60兆円の大台を割り込んだのと同じように、就業者数も600万人を下回る見通し。
●厚生労働省は労働政策審議会(厚労相の諮問機関)・雇用保険部会で、失業手当の財源に充てる労使折半の雇用保険料(月収の1.2%)の緊急引き上げを正式に提案した。引き上げ幅は0.2%で、10月実施の予定。雇用保険の財政が急速に悪化しているため、今年度中に約1500億円の増収を確保し、当面の財政破たんを回避するのが狙いだ。
●各業種の専門工事業団体で構成する「社団法人建設産業専門団体連合会(建専連)」が、正式に発足した。建設産業専門団体協議会(建専協、山崎善弘会長)と全国建設専門工事業団体連合会(全国建団連、才賀清二郎会長)がともに発展的に改組し設立されたもので、業種団体の枠を超えた専門工事業の横断的組織の誕生だ。事業内容は▽建設産業専門業の経営力および施工力の改善に関する調査研究▽建設産業専門業に関連した契約・取引関係の適正化に関する事業▽技術・技能者の育成および労働条件の改善などに関する事業▽労働災害防止および環境保全対策に関する事業▽建設産業専門業に関連する情報収集ならびに研修会の開催▽官公庁その他関係機関に対する要請、意見具申、協力、意見交換▽建設産業専門業の社会的経済的地位の向上に関する啓発、宣伝―など。
●近畿日本鉄道グループで東証一部上場の中堅ゼネコン(総合建設会社)、大日本土木は、民事再生法の適用を東京地裁に申請した。単体の負債総額は2712億円。大日本土木は中部地区最大のゼネコンで、近畿グループの出資比率は約2割。2002年3月期の連結売上高は1942億円、経常利益29億円、最終損益は10億円の赤字。