情勢の特徴 - 2002年11月後半
●大手銀行7グループ(12行)が発表した02年9月中間決算によると、デフレ経済の進展から新規の不良債権の発生が止まらず、9月末の不良債権残高は 23兆9475億円も存在することが明らかとなった。金融庁の特別検査の段取りなどを明らかにした金融再生プログラムの「作業工程表」が公表される見通しで、不良債権処理はさらに加速される。多額の有利子負債を抱える建設業界にとって、大きな影響が予想される。全国建設業協会(全建、前田靖治会長)の調査によると、"貸し渋り"については、記入・報告のあった489件のうち、「融資がおおむね順調」と8割弱が答えたものの、「貸し渋りが強い」あるいは「時々ある」との回答が2割強あった。調査対象となった企業の約7割が地銀をメーンバンクとしていることを反映し、貸し渋りの半分程度が地銀によるものだった。"貸しはがし"の状況をみると、報告のあった458件のうち、「ある」「時々ある」との回答が35件と全体の7.6%を占めた。分析すると、やはり地方銀行による資金引き揚げ傾向が顕著に表れた。金融機関の対応が厳しくなりつつあり、各企業からは「資金調達が厳しくなっている。従来の枠を確保するには、金利の引き上げが求められる。中小企業への支援策をお願いしたい」「新規融資に応じてもらえないため、高利金融を利用することになる」といった意見が寄せられた。
●国土交通省は民間主導の都市再生を推進するため、民間企業による都市開発。事業に低利資金を供給する「都市再生ファンド」を創設する検討に入った。基金の規模は官民合わせて1000億円程度とする方向で関係省庁と調整する。2002年度補正予算に盛り込む都市再生事業の目玉にしたい考えだ。新基金は政府が指定した全国45ヵ所の都市再生緊急整備地域内で、新しいビルの建設などを予定する民間企業に低利で融資する。国が民間都市開発推進機構を通じて数100億円を出資するほか、日本政策投資銀行などにも資金協力を求める案が浮上しており、国交省は補正予算で手当てするよう財務省に要求する意向だ。残りの資金は債権を発行して民間の投資家から調達する。
●国土交通省は、中堅・中小企業の資金繰り悪化に備え、下請セーフティネット債務保証事業の対象を民間工事まで拡大する方針を固めた。2002年度補正予算に盛り込む。公共工事市場縮小のなかで、金融機関の不良債権処理加速に伴い、地域経済・雇用を支える健全な中堅・中小建設業者の資金繰り悪化への懸念を払しょくすることが目的。すでに地方建設業界でも、金融機関の貸し渋り・貸しはがし(既存融資の引き揚げ)による影響が問題視されていることが背景にある。具体的には、現行の下請セーフティネットの枠組みのなかで、これまで公共工事発注者に限定していた債権譲渡の申請・承諾を、民間工事発注者も対象にする。また、現在100億円の基金(国費分は50億円)の増額を財務省に求めていく。
●東京都は臨海副都心で不動産証券化の手法に基づく特定目的会社(SPC)を活用した開発事業を認める。物件を完成前に小口証券化して投資家に販売する仕組みで、不動産やゼネコンなど開発業者が資金を調達しやすい利点がある。景気低迷で企業の進出意欲が鈍いため、SPCを活用して土地分譲を促進する。対象は現在売却先を公募している9区画、計約9万8000平方メートル。土地を購入した業者が施設を建設し、事業運営するのが原則だったのを見直し、SPCを活用する場合は土地の購入者と利用者が異なっても認める。不動産価格の下落や不動産、ゼネコン大手の信用力低下で、金融機関から融資を受けるのが難しくなっている。SPCを活用すれば金融機関に頼らず、個人など投資家から幅広く資金を集めることができる。企業からも「SPCが利用できるなら進出を検討したい」という声が出ているという。
●国土交通省は2003年度から、地方空港の新たな建設や拡張を停止する。びわこ空港など建設が計画されているが未着工の11空港は事業を取りやめる。中長期的に採算が合わないため。空港整備の財源を羽田の再拡張や中部国際空港など効率の高い都市部の拠点空港に集中的に投下する。白紙に戻す事業は新設がびわこ(滋賀県)、播磨(兵庫県)、小笠原(東京都)、新石垣(沖縄県)の4空港、滑走路の延伸や増設といった拡張が新千歳(北海道)、秋田、山形、福島、新潟、佐渡(新潟県)、福井の7空港。一方、着工済みの神戸、静岡、能登(石川県)、百里(茨城県)の4空港の新設と、高知、北九州など13空港の拡張事業は予定通り進める。地方空港の整備費は国と自治体が分担して拠出するが、11空港を計画通り整備した場合、国の拠出額は2000億円程度とみられていた。国交省はこの資金を羽田の再拡張事業など大都市の空港整備費に回す方針だ。
●島根県の澄田信義知事は、凍結中の宍道湖・中海淡水化事業について「中止が適当である旨を、(12月2日の)議会冒頭で正式表明する」と述べ、事業主体の農林水産省に対し、事業中止を判断する見通しで、淡水化事業の中止が事実上確定する。これまでに投じた費用は干拓事業も含め約851億円で、過去に中止された公共事業の中で最大。日本有数の汽水域として知られる宍道湖と中海を淡水化し、周辺農家に供給する同事業は、1963年4月の事業着手からほぼ40年を経て、未完のまま終止符が打たれている。淡水化は、当時のコメの増産政策を背景に、中海干拓とセットで計画された。海水をせき止める水門や堤防など関連施設の建設はすべて終えたが、水質悪化への懸念から88年以降は実施が凍結された。
●厚生労働省は2003年にも企業が期限付きで雇用する際のルールである有期労働契約を緩和する方針だ。技術者や研究者など高度専門職の契約期間を最長3年から5年に延長するとともに、更新も可能にする。対象業務を期限付きプロジェクトなどに限定している規制も撤廃する。現行の労働基準法は、有期労働契約の期間を原則として最長1年としている。厚労省は来年1月召集の通常国会に、契約期間の上限を原則3年・特例5年に延ばす労基法の改正案を提出し、来年中の施行を目指す。特例契約に関する規制も見直す。労基法は特例の更新を認めておらず、現行の3年で契約している技術者などは4年目以降に契約を毎年更新しなくてはならない。厚労省は法改正で、何度でも更新できるようにする。
●国民健康保険料(税)を納められない滞納世帯が全世帯の18%にのぼる412万、国保証を取り上げられ被保険者資格証明書を交付された世帯が昨年の2倍の22万5000、有効期限つきの短期被保険者証交付世帯77万8000――厚生労働省がまとめた全国調査(今年6月1日時点)で、こんな結果がでた。国保証をとりあげられ、被保険者資格証明書を交付されると、病院などの窓口で医療費を全額支払わなければならず、あとで、市町村から7割が償還払いされることになっている。しかも、保険料(税)滞納が1年半以上になると、償還分が未納の保険料(税)に充てられることになる。短期証は6ヶ月、3ヶ月、1年などと有効期間を限定。保険料(税)を納付しないと国保証を発行しないと脅して、収納率アップを狙ったもの。
●国際労働機関(ILO)は理事会で、日本の公務員制度改革を巡り、スト権一律禁止などを見直す法改正を検討するよう政府に勧告する「結社の自由委員会」の中間報告を採択する。中間報告は改革後もスト権などの制約維持を表明している日本政府に「再考」を要請。法改正を実施し、「結社の自由」の原則に適合させるため、政府や労働側など改革の全関係者による「十分で率直かつ意味のある協議」を強く促した。 具体的には軍、警察、中央省庁の行政職などを除く公務員のスト権・団体交渉権を認めること、消防士や刑務所職員らにも労働団体の設立を許すことや、スト権の正当な行使に重い罰則を科さないことなどを挙げた。
●総務省が発表した10月の完全失業率(季節調整値)は5.5%と前月を0.1ポイント上回り、昨年12月の過去最悪水準と並んだ。男性の完全失業率は最悪を更新、完全失業者数は362万人と19ヶ月連続で増えた。雇用の受け皿とされるサービス業の雇用拡大の動きも緩やかで、不良債権処理の加速がさらに失業率を押し上げる圧力となりそうだ。厚生労働省が発表した10月の求職者1人あたりの求人の割合を示す有効求人倍率(季節調整値)は0.56倍と前月比0.01ポイント上昇し、2ヶ月連続で改善した。男女別の完全失業率は男性が5.9%で前月比0.1ポイント上昇、女性が5.1%で0.2ポイント上昇した。失業理由をみると、倒産や解雇など「勤め先都合」と定年を合わせた「非自発的失業者」が153万人と依然、高水準。就業者数は6355万人で前年同月と比べ50万人減り、19ヶ月連続で減った。産業別ではサービス業が1814万人と32ヶ月連続で増えたものの、増加幅は前年同月比13万人で前月(53万人)から大幅に縮小した。
●上場ゼネコン大手4社の9月中間決算が発表された。鹿島は、売上高が8227億円と前年同期比3.7%のマイナスにとどまったが、総利益が大幅に減ったことが損益を圧迫。営業利益は同24.0%減の125億円、経常利益は同57.5%減の50億円と、ともに大きく落ち込んだ。大成建設は売上高が前年同期比14.5%減の6110億円となった。経常利益も同58.9%減の35億円にとどまったが、最終損益は12億円の黒字を確保した。有利子負債額が前期比489億円増の7133億円に拡大した。清水建設も、売上高が同25.5%減の4962億円と大きく落ち込んだ。営業利益は同51.4%減の84億円、経常利益も同49.2%減の59億円といずれもほぼ半減した。大林組は、売上高が同6.3%減の4945億円。過去に受注した低採算の集合住宅工事の売り上げ計上で総利益率が低下し、損益を直撃。営業損益で40億円、経常損益で56億円の赤字を余儀なくされた。各社とも、中間期、通期予想いずれも減収減益を余儀なくされる中で、将来の収益源となる受注高の落ち込みは比較的小さかった。建設市場は急速に縮小しているものの、大手各社は豊富な技術力や幅広い営業力でシェアを着実に広げている。