情勢の特徴 - 2003年2月前半
●住宅需要の低迷を映し2002年の新設住宅着工は約115万戸と、1983年以来19年ぶりの低水準となった。国土交通省が発表した昨年の新設住宅着工は前年比1.9%減の115万1016戸。減少は2年連続でピークの90年に比べ3割減った。マンションなどの分譲住宅が前年比4.4%減の32万3942戸。ここ数年の建設ラッシュで大都市部のマンションが供給過剰となり、不動産会社が建設を抑えている。持ち家(注文住宅)は4.9%減の36万7974戸と、38年ぶりの低水準。雇用不安から賃貸住宅に住み続ける人が増えているためで、貸家は2.7%増と堅調。
●内閣府が発表した昨年10〜12月期の国内総生産(GDP、速報値)は、物価変動の影響を除く実質で前期比 0.5%増、年率換算2.0%増となった。だが景気の実感に近い名目GDPは前期比0.1%減(年率換算0.5%減)と3期ぶりのマイナス成長に転じた。個人消費の伸び率は実質が前期比0.1%増と大幅に縮小、名目は0.4%のマイナスだった。総合的な物価変動を表すGDPデフレータ−は前年同期比2.2%のマイナスだった。19期連続でマイナスが続いており、デフレ進行に歯止めがかかっていない。
●長野県の公共工事入札等適正化委員会(委員長・鈴木満桐蔭横浜大教授)は、田中康夫知事が建設中止を決めた浅川ダムについて、本体工事入札で「談合が行われたものと判断する」との調査報告書をまとめ、同知事に提出した。県営浅川ダム本体工事は00年7月に入札が行われ、123億円で前田・フジタ・北野JVが落札した。同年9月には県議会が承認し、県と同JVが契約を締結。同JVが本格着工への準備をスタートさせた中で、同10月の知事選で当選した田中知事が工事の一時中止を表明した。02年6月に県治水・利水ダム等検討委員会の答申を踏まえ、建設中止を正式決定した。同年9月には本体工事JVに対し契約解除を通告している。報告書では、主に▽ダム工事に関する過去の談合疑惑▽同ダムとほぼ同時期に入札された浄土寺ダム(福井県)、琴川ダム(山梨県)との落札率の比較▽同ダムの工事費内訳書の分析――などを実施。強制的な調査権限を持たないため、談合の「具体的証拠は得られていない」としながらも、過去の判例で「直接的証拠がなくとも、間接的な事実を総合することによって証明する方法を認めている」としている。
●国土交通省が今通常国会に提出する「独立行政法人都市再生機構法案」の全容が、明らかになった。特殊法人等整理合理化計画にもとづき、都市基盤整備公団を廃止し、地域振興整備公団の地方都市開発整備部門と統合して、「都市再生機構」を設置する。機構は都市再生に民間を誘導する民間再開発の条件整備、既存賃貸住宅の管理などを主な業務とし、「バックアップ」の役割を担う。新規のニュータウン整備や新規賃貸住宅建設事業、鉄道業務などからは撤退する。
●国土交通省は、緊急に実施するダンピング(過度な安値受注)対策をまとめ、各地方整備局などに通知する。対策は地方整備局直轄工事で、低入札価格調査制度対象案件の履行保証割合を1割から3割に引き上げること、一定の要件で受注者側の技術者を増員するなどとなっている。また、地方公共団体などと各地整備局ごとに地方協議会を設けて、各発注者が一体となってダンピング受注対策に取り組む体制を整える。
●2002年平均の完全失業率は5.4%と過去最悪。雇用悪化で個人消費が萎縮し、デフレ進行を映して消費者物価指数も戦後初めて3年連続の前年割れとなった。総務省が発表した同12月の完全失業率(季節調整値)は5.5%と前月より0.2ポイント上昇し、月ベースの最悪水準に並んだ。年間平均では前年の5.0%を上回り、1953年の統計開始以来の最悪水準。年平均の失業率はバブル崩壊後、一貫して上昇している。2002年12月の男女別の完全失業率は男性が5.6%で前月と同水準。女性は35〜44歳を中心に完全失業者が増え、前月比0.4ポイント上昇の5.3%と過去最悪水準と並んだ。世帯主の完全失業者数は105万人と、2002年4月の108万人に次ぐ過去2番目の高水準だ。失業理由別では倒産・解雇など「勤め先都合」による失業が114万人となり、自己都合による失業(105万人)を2ヶ月連続で上回った。
●厚生労働省は、02年度補正予算で創設した「建設業新規・成長分野進出教育訓練助成金」の受け付けを、雇用・能力開発機構の都道府県センターを通じて開始した。新規・成長分野に対応するための教育訓練を、雇用する労働者に実施または受講させた建設事業主に対して助成するもの。事業主は、進出する具体的な分野や教育訓練の内容を定めた計画書を策定。その計画書が都道府県センターに認定されれば、助成金が支給される。同助成金は、不良債権処理策の強化に伴い影響を受ける建設業のセーフティーネットとして創設。建設業の新規・成長分野への進出を促進し、建設労働者の雇用の安定、雇用機会の拡大を図ることを目的に、05年3月31日までの時限的措置として実施される。
●労働基準法違反としてサービス残業の是正を指導された都道府県別の事業場数が、2001年の1年間で約1万9000件に及ぶ。この是正指導は、2001年4月のサービス残業解消に向けた通達(「労働時間の適正な把握のために使用者が構ずべき措置に関する基準」)が大きなきっかけになっている。同年の1月から12月までの期間で、もっとも多いのは大阪府で1485事業場。続いて東京の1353、北海道の1086となっている。
●厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所調査)の2002年分結果(速報)によると、昨年の労働者1人当たり平均の月間現金給与総額(税引き前、一時金含む)は、前年比2.3%減の34万3688円だった。2年連続の減少。減少幅は調査開始以来最大となった。リストラ・人員削減、「サービス」残業横行、パートなど低賃金労働者への代替など、企業の人件費削減が進んでいるあらわれといえる。基本給に家族手当などを加えた所定内給与(1.2%減)、残業代など所定外給与(0.8%減)、一時金など特別に支払われた給与(7.2%減)のいずれもで前年比減。労働時間は、残業など所定外労働時間が前年比0.1%増の9.5時間(製造業は同4.0%増の13.5時間)で、前年の減少から増加に転じた。年間総実労働時間は1825時間。
●坂口力厚生労働相は、今国会に提出する労働基準法「改正」法案要綱を労働政策審議会に示した。焦点になっていた解雇規定について、原則自由化を打ち出す一方、素案に盛り込まれていた"裁判で解雇が無効と確定した場合、労働者が望んでいなくても金銭による雇用契約の打ち切りができる"との内容は見送られた。今回示された解雇規定は、使用者は「労働者を解雇することができる」と原則解雇自由をうちだし、例外として「客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利の乱用で無効としている。「解雇には正当な事由が必要」(最高裁判所判例解説)という、解雇権乱用の判例法理の原則をくつがえし、労働者が救済される判例基準を切り下げることになる。法令要綱はほかに、有期雇用の契約期間を現行1年から3年(高度専門業務の一部を現行3年から5年)に延長するとし、不安定雇用をいっそう増大させる内容になっている。