情勢の特徴 - 2003年4月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

●東京商工リサーチは、2002年度の建設業倒産調査結果をまとめた。件数は5893件で前年度比5・3%の減少。減ったのは4年ぶりだが、過去5番目の高水準となっている。負債総額は1兆9739億円で24・6%の大幅な減少だが、過去4番目の高い金額になっており、依然建設業の経営環境は厳しい状況にある。倒産の形態では、法的倒産が1636件。民事再生法182件、破産1442件、特別清算11件、商法整理1件。私的倒産は、銀行取引停止処分が3702件を占めた。内整理が555件となっている。企業規模別では、資本金1億円以上は40件に過ぎず、大半は中小・零細企業で占められている。1000万円以上1億円未満が3189件となっており、1000万円未満も2664件あった。
●東京都は木造住宅密集地域の建て替えを本格的に誘導する。木造住宅が密集し、火災時に延焼の危険が特に大きい地域を指定し、今年十月以降は燃えにくい建物でなければ建てられないようにするが、一定の基準を満たす建て替えには容積率緩和などの優遇措置も認める。都内では主に環状六号線と同七号線の間に木造住宅密集地域が帯状に広がる。このうち建物が老朽化したり建物同士の間がとりわけ狭いなど、災害時に延焼や建物倒壊の危険が大きいとみられる地域が約六千ヘクタールある。こうした地域を中心に区市町村に規制区域の候補を絞ってもらい、都知事が規制区域を指定する。都は規制導入のため建築安全条例を三月に改正、十月に施行する予定。八月にも第1次指定する。
●東京都心の3月末のオフィスビル空室率が8・18%とバブル後の最高を更新した。港区汐留や六本木などで大型ビルの開業が相次ぎオフィススペースが大量供給される「2003年問題」の影響が表れた。企業による事務所縮小や統廃合も加わり、既存ビルの空きが膨らんでいる。2001年9月から19ヶ月連続で前年を上回り、これまでの最高だった1994年12月末の8・08%を超えた。
●金融と産業の一体的な再生を目指す産業再生機構法が2日の参院本会議で可決、成立し、5月の大型連休明けに産業再生機構が発足する。機構は不振企業の債権を主に非主力銀行から買い取り、主力銀行と協力して対象企業の再建を進める。買い取り対象はあくまで「再建が見込める」企業の再建。失敗すれば機構に多額の損失が発生し、国民負担が膨らむことになりかねない。
●日銀が発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス10となり、前回の昨年12月調査に比べ1ポイント下落、五期(1年3ヶ月)ぶりに悪化した。イラク戦争で世界経済の先行き不透明感が強まり、景況感の改善にブレーキがかかった。生産や輸出が伸び悩み、景気停滞感が鮮明になった。大企業製造業の業況判断指数を業種別にみると、自動車がプラス16と12ポイント悪化した。電機もマイナス29と低迷しており、輸出企業を中心に慎重な判断が増えている。木材・木製品、紙・パルプの景況感も大幅に悪化した。大企業非製造業の業況判断指数はマイナス14と2期ぶりに改善。通信や建設、卸売りで業況判断指数が上昇した。中小企業製造業はマイナス29で四ポイント改善。中小企業非製造業はマイナス36で横ばいだった。
●佐藤工業の更生計画が、東京地裁の民事第8部(大谷禎男裁判長)に認可された。3月31日に開かれた関係者集会で承認されたのを受けたもので、初年度は6月までの3ヶ月決算で、受注高100億円、3年目以降1050億円をめざす。人員的には540人余を削減して、1300人弱の体制で再建を進めることにしており、10年間で債務弁済を完了させる。
●経営再建中の熊谷組(鳥飼一俊社長)と飛島建設(富松義晴社長)は、来年4月1日をめどに経営統合する方針を囲めた。経営統合の前提として、熊谷組が主力取引銀行の三井住友銀行などから総額3000億円程度の金融支援を受け、会社分割によって不採算の不動産事業部門を切り離す。その上で、熊谷組の本業を引き継ぐ建設事業部門と飛島建設が統合する予定。両社は得意分野である土木工事を中心に事業の再構築を進め、縮小する建設市場で生き残りを目指す。
●産業再生機構は、対象を民間企業だけでなく、自治体出資の第三セクターに広げる。バブル期に乱立された経営不振の3セクのうち、再建後に民営化が見込める案件への貸出債権を銀行から買い取り、再生を促す考えだ。再生機構が想定している対象3セクは宮崎市の大型リゾート施設「シーガイア」のように、過剰債務を切り離せば、民間での営業が可能なケース。機構が3セク再建に乗り出す場合、出資した自治体は原則として機構とともに再建にあたり、民間企業再建のケースでの主力銀行(メーンバンク)の役割を果たす。
●国土交通省がまとめた2002年度末の建設業許可業者数は、前年度比3・4%減(1万9178業者)の55万2210業者となり、3年連続の減少となった。厳しい経営環境や建設投資の減少を背景に、廃業者、許可期限切れに伴う失効業者が増えていることが業者数減少の要因と同省は分析している。02年度末の大臣許可業者数は前年度比2・6%減(279業者減)の1万630業者、知事許可業者は同3・4%減(1万8899業者減)の54万1580業者となっている。一般・特定別では、一般が52万8981業者(前年度比3・5%減)、特定は5万0436業者(同0・3%減)で、許可業者総数に占める特定業者の割合が9・1%となり、前年度より0・2ポイント上昇した。資本金階層別でみると、個人や資本金200万円以上300万円未満、同200万円未満の業者数が減少。地域の工務店が不況や経営者の高齢化、後継者不足などで減ったとみられる。

行政の動向

●国土交通省は、03〜07年度の5年間で実施するコスト構造改革の具体策を示した「同省公共事業コスト構造改革プログラム」を発表した。事業のスピードアップや設計・調達の最適化の観点から ▽各種基準額の性能規定化の推進▽設計の総点検▽提案と対話による技術力重視の調達方式の施行▽工事成績を活用した調達方式の施行▽歩掛かりを用いない「施工単価方式」の試行―など34施策を提示。これらの施策を今後順次実施し、今後5年間で「総合コスト縮減目標15%(02年度比)」の達成を目指す。
●公共事業「縮減」という小泉内閣が、2003年度予算で、無駄遣いの典型である巨大公共事業「海峡横断道路プロジェクト」の調査費を5億3500万円つけていることが明らかになった。国土交通省が今年度道路関係予算配分のなかで示したもの。「新交通軸調査費」の名で調査費が初めてついた1994年度からの総額は51億円をこえた。調査は国交省の外郭団体などに依頼され、地質ボーリング、海洋気象や設計・施工技術の開発、プロジェクトの社会経済効果などの調査を行っている。
●国土交通省がダンピング対策として打ち出した低入札価格調査(低入調査)案件を対象に履行保証割合を3割に引き上げる措置について、先に西日本建設業保証(西保証)が発表した方針と同様、東日本建設業保証(東保証)、北海道建設業信用保証(北保証)とも、履行保証割合の引き上げ措置がとられた案件の契約保証に原則応じないことを決め、3月末までに各支店に指示を出した。中小に有利とされる保証会社の契約保証が過度な安値受注工事に使えなくなることから、ダンピングが大きな問題となっている中小の建設市場で抑止効果が発揮されるとみられる。履行保証割合の引き上げは債務不履行時の再発注リスクの回避と、第三者機関による企業評価チェックの厳正化を目的に実施を決めた。2月14日以降に指名通知などを行う直轄工事から、低入調査案件を対象に付保割合を従来の1割から3割とした。
●国士交通省は、2003年度の入札契約適正化徹底のための方策をまとめた。うち、新規施策として、@違約金特約条項の創設A単体企業と特定JVによる混合入札対象工事拡大B低入札価格調査の調査基準価格を10%程度上回る低価格(仮称・監督強化価格)工事の監督強化−などが盛り込まれた。談合などの不正行為を行った企業に対して請負額の10%程度を違約金として支払わせる違約金特約条項は、早ければ5月中にも直轄工事の契約書に盛り込む。また、混合入札は、03年度に特定JV規模要件を満たした技術的難易度W以上の案件を除いて混合入札とし、1、2年後にはす
●国土交通省は、ダンピング(過度な安値受注)緊急対策のひとつとして打ち出していた、低入札価格調査制度の調査基準価格を下回って落札した企業と契約する場合の前払金について、通常の請負代金額の4割以内の請求から、当分の間、2割以内に縮減することを決め、15日付で各地方整備局に通知した。5月1日以降に入札契約手続きに入る工事から適用する。前払金は2割以内となるが、工事が進捗した場合の中間前払金と部分払は、これまでどおり利用することができる。
●高速道路を国と都道府県が費用を負担して共同で整備する新直轄方式の導入を柱とする改正高速自動車国道法と、本州四国連絡橋公団の有利子負債のうち1・3兆円強を切り離して国費で処理する特別措置法が参院本会議で賛成多数で可決、成立した。施行はいずれも5月12日。新直轄方式は、高速道路整備計画(9342`)のうち、採算性が悪く、日本道路公団の民営化会社では造れない高速道路の建設を国の責任で続けるのが狙い。国と都道府県が建設費を3対1の割合で負担し、今後15年程度で3兆円分を目安に整備する。6、7月に開く国土開発幹線自動車道建設会議を経て対象路線を決める。

労働関係の動向

●建設業退職金共済(建退共)制度の退職金額算定のベースとなる予定運用利回りが、現行の4・5%から2・7%に引き下げられることが決まった。建退共制度を将来にわたって持続する制度とするため、財政状況の悪化に歯止めをかける必要性から予定運用利回りを見直した。10月1日から施行する。建退共制度を運営する勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部は、3月に開いた運営委員会・協議員会で、掛け金日額を現行の300円から310円に引き上げることを決めた。政令事項となっている予定運用利回りとともに、10月1日から実施する。
●経済産業省が17日発表した2001年度の企業活動基本調査速報によると、常時従業者に占めるパートの比率は前年度比1・1ポイント増の21・2%となった。企業が受け入れた派遣労働者の合計も同5・3%増の約24万9000人と大幅に増加している。調査は、従業員50人以上で資本金3000万円以上の企業約27000社を対象に、昨年六月実施した。
●総務省か発表した2002年度平均の完全失業率は五・四%と前年度比0.2ポイント上昇、1953年の調査開始以来最悪の水準を更新した。同時発表の3月の完全失業率(季節調整値)も5・4%と前月を0・2ポイント上回った。完全失業者数も前年同月比で5万人増え、過去最多の384万人になった。内訳をみると、倒産・解雇や定年退職など「非自発的失業者」が153万人と34万人増。自発的に会社を辞めた失業者は115万人と2万人減った。就業者数は6318万人で前年度比71万人減。産業別では、製造業(53万人減)、流通を含む卸売・小売業・飲食店(33万人減)が大きく減少。サービス業は26万人増えた。
●雇用保険改悪法は参院本会議で可決成立、5月1日から施行される。失業手当の給付率の下限を失業前賃金の60%から50%に引き下げる。支給期間は、「自己都合」で退職した正社員(雇用保険の加入期間5年以上)の場合で30日間短縮される。保険料は、2年後の4月以降、現行の1・4%から1・6%(弾力条項で1・8%まで可能)に引き上げる。

資本の動向

●飛島建設は、財務基盤の強化などを柱とする「新生計画」(04年3月期〜06年3月期)を策定した。財務体質を熊谷組と同レベルに設定し、来年4月の経営統合をスムーズに進めるのが狙い。計画では熊谷組との統合を条件に、主力取引行のみずほコーポレート銀行などから債務の株式化による300億円の金融支援を受け、有利子負債を圧縮。合わせて人員の削減など固定費の圧縮を進め、財務体質を改善する。財務リストラでは、貸倒引当金の積み増しや開発計画見直しによる不動産評価損など約340億円の不良債務を一括処理する。処理原資として、資本金175億円のうち148億円を取り崩す。過小資本の解消と有利子負債の削減のため、みずほコーポレート銀行に140億円、三井住友銀行に100億円、農林中央金庫に60億円の債務の株式化を要請する。また、市場環境の悪化から大幅な受注減少を見据え、03年3月時点で2200人いる社員を、早期退職者を核に3年間で1450人にまで減らす。これに伴い、事業の再構築を進め、06年3月期で受注高1485億円(03年3月期1782億円)の確保を目指す。

その他の動向