情勢の特徴 - 2003年5月後半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 東京商工リサーチがまとめた4月の建設業倒産は458件で、前年同月比3・7%の減少となった。これで6カ月連続で 500件の大台を割っている。負債総額は1094億6400万円で30・2%の大幅な減少になった。倒産原因別では受注・販売不振が270件、赤字累積が 67件、売掛金回収難が11件で、これら3原因を合わせた不況型が348件と、全体の75・9%を占めた。
● 日本経団連は29日、「税制改革」に関する意見書を正式発表した。社会保障給付の削減を図るとともに、不足する財源は消費税率引き上げで賄うべきだと提言。消費税率については、2004年度に現在の5%から8%、07年度までに10%とし、さらに25年度までには 18%を上限に引き上げる必要があるとしている。公的年金に関しては、現役世代の可処分所得と比較した高齢者夫婦世帯への給付の割合を、現在の約6割から 5割程度に削減する必要があると記述。財源は、企業などの負担増となる保険料率引き上げを抑え、消費税を「活用」すべきだと強調している。
● りそなホールディングス(HD)は30日、自己資本不足の解消へ向け、預金保険法102条に基づき政府に1兆 9600億円の公的資金注入を申請した。りそな銀行の注入後の連結白己資本比率は健全性の目安とされる8%を大きく上回る12.2%程度になる。政府は普通株に加えて普通株並みの議決権を持つ優先株を引き受け、3分の2の議決権を握る。

行政の動向

● 熊本県で計画中の川辺川ダムから農業用水を引く利水事業を巡り、地元農家719人が異議申し立てを退けた農相を相手取り、決定取り消しを求めた川辺川利水訴訟の控訴審判決が16日、福岡高裁であった。小林克己裁判長は一審の熊本地裁判決を変更、事業の一部について「土地改良法が定める対象農家の同意を得ていない」として、農家側勝訴の逆転判決を言い渡した。判決は国に利水事業の見直しを迫るもので、川辺川ダムの本体工事だけでなく、住民の理解が得られない各地のダム事業に影響を与える可能性もある。判決は三種類の事業のうち、農業用排水事業の同意率を65.66%(一審は75.10%)、区画整理事業を64.82%(同78.21%)と認定。本人の意思に反した署名・押印や、意思を確認できなかったケースは除外した。
● 内閣府大臣官房構造改革特区担当室は23日、神奈川県と横浜、川崎両市が共同申請していた「国際環境特区」、「国際臨空産業・物流特区」など京浜臨海部にかかわる4特区を認定した。国際環境特区では基幹的広域防災拠点整備や国際レスキューコンプレックスなどを、また国際臨空産業・物流特区では羽田空港の再拡張・国際化、交通基盤整備などを必要な事業として挙げている。想定している範囲は横浜市神奈川区、鶴見区および川崎市川崎区の一部。
● 国土交通省と農林水産省が行う「公共事業労務費調査」に、民間企業が参入することになった。国士交通省関乗地方整備局が今月19日に行った同調査業務の入札で、測量会社の協振技建(本社・東京都文京区、高橋征夫社長)が落札。調査業務は、対象工事の事前調査や元請企業の担当者から実際の支払い状況を直接調べる会場調査、さらに単価設定のための調査結果の集計作業まで外部機関に発注している。これまでは、国土交通省系財団法人である経済調査会と建設物価調査会の両調査機関が業務を受注していた。国交省は昨年8月、財団法人による事実上の独占市場であることが指摘されていた材料単価調査、労務歩掛調査、労務費調査など積算関連の調査の競争性を高めるため、1000万円以上の案件を対象として簡易公募型指名競争入札を試行的に採用するよう各地方整備局に指示した。

労働関係の動向

● 建設業における2002年の労働死亡災害は607人(確定値)となった。過去最少を更新したものの、期待されていた初の500人台達成には僅かに及ばなかった。全産業に占める割合は依然、4割程度であり、業界をあげた一層の削減努力が求められている状況に変わりはない。02年の死亡災害型別内訳は、「墜落・転落」が256人(構成比42・2%)とトップで、次いで「崩壊・倒壊」が72人(11・9%)、「はさまれ巻き込まれ」と「交通事故(道路)」がそれぞれ66人(10・9%)、「飛来・落下」が37人(6・1%)などとなっている。
● 厳しい経済情勢を映し賃金未払いが急増している。2002年に「賃金が適正に払われなかった」として労働基準監督署が指導した事業所数は、東京と千葉で過去最高となった。倒産企業の従業員に対し、国が未払い賃金を立て替え払いした額も、2002年度は東京、神奈川など四都県で過去最高だった。金融機関が不良債権処理を急ぐなか、中小企業の資金環境は依然厳しい。2002年に東京労働局管内の労働基準監督署が、賃金未払いに関して指導した事業所数を表す申告件数は4336件、千葉も1116件に上った。神奈川は1509件、埼玉が829件、山梨も170件と高水準だった。
● サービス残業(ただ働き)解消に向け、厚生労働省は23日、総合対策要綱と指針を発表し、各都道府県労働局長あてに送付した。指針は、使用者に求められる役割として、労働基準法を順守するためには労働時間を適正に管理する責務があると指摘。同時に、労働組合も、サービス残業が行われないよう本社、事業場を問わずチェック機能を発揮して努力することや、さらに労使で構成する委員会を設置し、実態の把握、具体策の検討と実施など労使の協力体制を整備するよう求めている。労使がとりくむべき事項としては労働時間管理を行うシステムの整備をあげ、@複数の者を管理責任者にしてダブルチェックを行うA相談窓口を設置し、企業トップが直接情報を把握できるような投書箱や専用電子メールアドレスを設けるB労組も相談窓口を設置する−を要望している。
● 日本建設産業職員労働組合協議会(日建協、加藤潤議長)が29日発表した02年時短アンケート調査結果(加盟組合員の20%を対象)によると、建設産業に働くホワイトカラー層の残業時闇は前年比0・70時間増の53・11時間と、98年から連続して増加しており、労働環境の悪化に歯止めがかからない状況だ。残業時間を内外勤別にみると、外勤者の4割以上は月の残業時間が80時間を超える。職種別では、月80時間以上と回答したのは、建築工事の外勤者が54.1%、土木工事の外勤者が38.2%。今回の調査では、実際の残業時間数と時間外手当として申告した時間数との差、いわゆる“サービス残業”と思われる時間についても考察している。全体でみると、申告した時間は、実際の残業時間数の半分以下。外勤者に至っては3分の1程度だった。
● 総務省が30日まとめた今年1−3月の労働力調査の詳細結果によると、失業者のうち失業期間が「1年以上」の割合は全体の31.1%と、1年前に比べ0.7ポイント上昇した。一方、「3カ月未満」の割合は1.6ポイント低下しており、失業期間は長期化しつつある。今年1−3月平均の完全失業者(363万人)を失業期間別でみると、「3カ月未満」が34.7%と最も多い。ただ、次に「1年以上」が多く112万人に上る。「3カ月以上6カ月未満」 「6カ月以上1年未満」の割合も1年前に比べそれぞれ0.5ポイント、0.4ポイント上昇している。 仕事に就けない理由としては、45歳以上で「求人の年齢と自分の年齢が合わない」が4割を超え、年齢条件の厳しさが失業期間の長期化の一因となっている。
● 総務省が30日発表した労働力調査によると、4月の完全失業率(季節調整値)は5・4%で前月と同水準だったが、完全失業者数は1年前より10万人増加の385万人で過去最悪になった。完全失業者数を男女別にみると、男性は1年前より6万人増加の233万人、女性は同4万人増加の151万人。完全失業率では、男性が前月より0・1ポイント下がって5・6%、女性は逆に0・3ポイント上昇し5・1%となりました。 15−24歳の若年層の悪化が目立ち、男性は12・6%、女性は11・3%で、いずれも1年前より1・0ポイント上昇しました。 就業者は6306万人で1年前より27万入滅少。雇用者は5312万人で同6万人減少した。就業者の中で自営業主・家族従業者の減少が激しく、1年前より19万人減の972万人となった。

資本の動向

● 鹿島は16日、2003年から05年までの中期経営計画を策定した。具体的な戦略としては、ファンドを創設し、オフィスビルなどを建設、フィーや配当など長期的安定収入を獲得するほか、JR東日本との開発事業に関するアライアンスを活用して都心部の大型プロジェクトを推進することで、国内開発事業の05年度連結売上高1000億円をめざす。また、海外事業への取り組みも強化し、年内の中国現地法人設立による中国市場や北米、欧州、アジアを含めて現地法人で連結売上高2000億円をめざす。本業の建設事業では、05年度受注高で単体で建築7500億円、土木3000億円をめざすため、工事入手段階からプロジェクトコーディネーション、技術コンサルの戦略的実施、都市再生プロジェクト、構造改革特区への対応強化、企業、分野別営業体制の拡充・強化などを行う。エンジニアリング分野は、医薬品や食品など生産関連・物流施設のフルターンキーでの受注拡大、エネルギー、農業生産分野のアライアンスによる対応力強化、施設構築だけでなく企画から操業・保守に至る高度なソリューション提供やアウトソーシング受託などで、単体450 億円、連結500億円の受注をめざす。また、工事利益率を施工合理化、集中調達、海外調達などで02年度比2・0ポイント向上させる。
● 上場ゼネコン各社の03年3月期決算が27日までにほぼ出そろった。03年3月期の連結売上高が3000億円以上だった14社の業績と今期の業績予想は表の通り。売上高は14社中10社が前年同期を下回った。東京都心部を中心に相次ぎ完成している大型再開発事業で、超高層ビルなどの大型案件を多く手掛けている大手クラスに比べ、経営再建中の社を中心に準大手クラスの減収幅の大きさが相対的に目立つ結果となった。単体ベースの完成工事総利益(粗利益)率も、14社中10社が前年同期より低下した。市場縮小下の激しい受注合戦で過当競争に陥ったマンションを中心とする民間建築工事の採算悪化が響いた。建築工事だけの粗利益率が原価割れを示すマイナスになったところもある。このため本業の収支を示す営業損益の段階で準大手2社が赤字に転落。経常損益でも準大手4社が赤字となった。02年3月期までに、減損会計の導入にも対応した不動産などの含み損処理を一段落させた大手4社がそろって最終黒字を確保する一方、準大手各社は軒並み最終赤字。不採算の不動産事業を切り離す会社分割による経営の抜本再建に備えた損失処理で、熊谷組とハザマは1000億円を超す巨額の最終赤字を計上し、債務超過となった。

その他の動向

● 岩手、宮城両県内で震度6弱を観測した地震により、東北新幹線の23本の橋脚にひび割れが発見されたのは水沢江刺−盛岡間の約50キロ区間。橋脚については、すでに設計基準や構造、工法の欠陥が指摘されていたのに改善されておらず、国土交通省の責任が問われている。国土交通省鉄道局施設課などによると、橋脚の損傷は、コンクリートにX字形にひび割れが入ったり、コンクリートがはく離してゆがんだ鉄筋が露出している。X形の破壊は、柱の強度がなくなる被害で、原因は、鉄筋(上下方向と横方向)の設計基準が地震によるゆれに対応していなかったための強度不足だった。