情勢の特徴 - 2003年6月前半
● 日銀が発表した5月の貸出・資金吸収動向によると、銀行の貸出残高は405兆4124億円と、前年同月比4・7%減少して、過去最低を更新した。業態別では、都市銀行など大手銀行が同7・4%減の233兆1392億円。地方銀行は、第二地方銀行との合併の影響もあり、同0・8%増と2カ月連続増。第二地方銀行は同5・1%減、信用金庫は同1・2%減だった。
● 都市再生プロジェクトに民間資金を誘導する仕組みとして国が準備作業を進めていた「都市再生ファンド(基金)」が、 7月をめどに動きだす。金融庁は、民間都市開発推進機構(民都機構)が出資する「都市再生ファンド運用株式会社」の設立を6日付で認可。同社が設立企画人となって「都市再生ファンド投資法人(仮称)」を立ち上げ、投資家などからも資本を募り、国土交通省が認定した都市再生プロジェクトに、出資や社債取得などの形で資金を供給する。都市再生ファンド運用(伴拓郎社長)は、民間金融機関の資金供給機能が低下し優良な都市再生プロジェクトでも資金調達が困難になっている現状を踏まえ、「改革加速プログラム」(昨年12月閣議決定)に基づき設立された。資本金1億円で、首都機構が全額出資。都市再生ファンドには民都機構が500億円を投資する。国交省によると500億円のファンドで、事業規模ベースで2300億円程度のプロジェクトに対し、立ち上げ支援などが実施できるという。
● 政府が今月下旬にまとめる「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針2003)の原案が明らかになった。社会保障改革で焦点になっている財政赤字を含めた潜在的な国民負担率の目標について、社会保障費だけでなく歳出全体の削減で50%程度にとどめる方針を明記。年金給付のほか地方分を含めた公共投資、公務員給与など総人件費の抑制を打ち出す。2004年の年金改革で焦点の基礎年金の国庫負担引き上げについては財源は「高齢者も広く負担する税が望ましい」とし、消費税率引き上げの必要性をにじませた
● 金融庁は、りそな銀行が申請した公的資金1兆9600億円の注入(資本増強)を正式決定した。普通株と議決権付優先株の合計で持株会社りそなホールディングスの7割超の議決権を持つ最大株主になる。りそな銀行は公的資金注入の申請にあたって「経営健全化」計画を提出しています。政府は最大株主として、同計画の実行、「収益回復」を監視、要求していくことになります。同計画は、2005年3月期までの「集中再生期間」に「健全化」を軌道に乗せるとしています。計画の柱は、給与・賞与の大幅削減、1800人超の人員削減による人件費削減と貸出リスクに見合った「適正」利ざや確保(金利引き上げ)や不良債権の半減が主な柱。政府のきびしい監視の下で、公的資金を使ったリストラ、賃金カット、中小企業への貸し渋りが強化される形だ。
● 住宅金融公庫は、民間金融機関による長期・固定金利住宅ローンの提供を後押しするため、買い取り型の証券化支援事業を10月から開始する。民間金融機関の貸し付け債権を公庫が買い取り、その債権を信託会社などに信託した上で、公庫が住宅金融公庫債券(資産担保債券)を発行して、金融市場に流通させる。住宅ローン債権を公庫が買い取ることで、民間金融機関は貸し倒れリスクがなくなり、これまで公庫が提供してきた長期・固定金利の住宅ローン商品をそろえることが可能となる。公庫が買い取る貸し付け債権には、いくつかの基準が設けられる。新築住宅の建設または購入に対する貸し付けで、借り主が建設または購入した住宅に居住し、公庫が定める住宅性能基準を満たすことが前提条件となる。その上で、▽住宅購入価額(土地取得費含む)が1億円未満▽貸付額が住宅の建設費または購入価額の8割以下で、5000万円以下▽償還期間が20年以上35年以下−などの基準を満たす必要がある。公庫は今後、貸し付け債権の買い取りを希望する民間金融機関の受け付けを開始。10月から、証券化支援事業に参加する民間金融機関が販売した住宅ローンの債権買い取りを実施する。
● 公正取引委員会は12日、国などが発注した公共工事建設資材の単価調査業務で、国土交通省所管の2財団が談合を繰り返していたとして、独禁法違反(不当な取引制限)で排除勧告した。排除勧告を受けたのは経済調査会(東京都中央区)と建設物価調査会(同)。単価調査は公共事業の予定価格積算のもとになるもの。公取委によると、2財団は1999年4月から昨年6月にかけ、関東地方の国の機関や一都六県、長野、山梨両県発注の建設資材の単価調査で、落札価格を維持するために談合した。さらに、2財団は使用する調査員の種別ごとの人件費単価等を同一または近似のものとすることを確認しあい、入札価格を積算した。
● 帝国データバンクが発表した銀行の税効果会計実態調査によると、大手銀行・地方銀行126行の白己資本に占める繰り延べ税金資産の割合は47%に達した。とりわけ大手銀11行の繰り延べ税金資産への依存度は7割に達しており、銀行の自己資本のぜい弱さが改めて浮き彫りとなった。繰り延べ税金資産は、不良債権の有税償却などで会計上の利益に比べて負担しすぎた税金が将来の税負担から軽減されると見込んで前倒しで計上する資産。りそなグループはこの資産の圧縮を監査法人から求められ、公的資金の注入に追い込まれた。帝国データバンクの集計によると、大手銀・地方銀 126行の2003年3月期の繰り延べ税金資産合計額は10兆7397億円。自己資本の合計である22北8518億円の47%を占めた。
● 国土交通省は、コスト構造改革の目玉施策である「ユニットプライス型積算方式」について、本格的な検討に着手した。同方式は機械経費や労務費、材料費、諸経費などを含んだ単価を、数量で掛け合わせた総和(単価×数量)を積算金額とするもの。従来の歩掛かりや労務単価、資材単価、機械損料などを用いて積算する「積み上げ方式」と異なり、過去の入札実績データベース(DB)や積算実績DBなどから、1立方bや1平方b当たりの単価(ユニットプライス)を算出し、それに数量を掛け合わせて積算する。例えば、現場打ち擁壁工であれば、従来の「積み上げ方式」では鉄筋工、コンクリート打設工、支保工などに区分けし、それぞれの工種ごとに歩掛かり、労務単価、資材単価、機械損料などを用いて価格を算出し、それを積み上げていた。ユニットプライス方式では市場価格を反映した現場打ち擁壁工を一つのユニットとして考えるため、1立方b当たりの単価とその数量(何立方b)をかけ算して積算する。各ユニットの単価は、発注者と元請企業間で総価契約単価合意方式の契約を行えば把握が可能。それをデータベース化し、次回の同種工事の積算に活用する。発注者と元請企業間での契約からデータ収集するため、詳細な労務費調査などは不要となる。
● 長時間労働などが原因の脳・心臓疾患で死亡する「過労死」で労災に認定された件数が、2002年度はこれまでで最も多い160件に上ったことが、厚生労働省の調査で分かった。過労による脳内出血や心筋こうそくなどの脳・心臓疾患を発症した人の労災請求件数は八百十九件で前年度比1.2倍。一方で認定は同2.2倍の317件に上った。業種別にみると、トラックやタクシー運転手などの運輸業が72件と最多。職種では管理職が71件で最も多かった。営業、システムエンジニアなど残業時問が長くなりやすい職場が目立った。年代別では中高年が多く、50歳代が全体の四割以上の128件。40歳代の90件を加えると、約7割を占めた。性別では男性が301人(95%)。一方、仕事が原因のうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など精神障害の労災申請は前年度比三割増の341件。認定は100件で4割増えた。うち、自殺(未遂を含む)も12件増の43件で過去最高。
● ゼネコン(総合建設会社)準大手の前田建設工業は、同業中堅の東洋建設を傘下に収める方針を固めた。10月にも第三者割当増資に応じ議決権株式の20%超を握る。東洋建設はあわせてUFJ銀行など主要取引行に総額280億円の金融支援を要請、不動産の含み損を一掃する。陸上土木中心の前田建設は海洋土木に強い東洋建設との相互補完を目指す。東洋建設の2003年3月期(単独ベース)の最終損益は、不動産や投資有価証券の評価損がかさみ111億円の赤字となった。債務超過は免れたが、今後減損会計などに対応すると、さらに400億円前後の含み損が表面化。300億円ほどの債務超過に陥る見通し。このため金融支援と減増資で穴埋めする。
● 建設経済研究所は、主要建設会社(上場45社が対象)の03年3月期決算分析を発表した。45社の連結売上高合計は15兆7930億円で、前期比6・6%の減少となった。受注高、利益とも前期実績を下回っており、特に公共工事の削減の影響から、土木工事の受注高の落ち込みが目立った。受注高は45社合計(単体ベース)で11兆8829億円で、同6・4%減。売上高が減少する中で、各社とも販管費の削減を進めている。売上高販管費率は平均5・3%で、83年度以降最低の水準まで下がった。ただ、売上高の減少に販管費の削減が追いつかず、売上高営業利益率は1・9%まで低下。当期損益では45社中で23社が赤字を計上。前年度比マイナスは26社に達一した。一方、有利子負債は45社合計で5兆88858億円、売上高に対する比率は37・3%となった。