情勢の特徴 - 2003年7月前半
● 財務省は、2004年度予算の概算要求基準(シーリング)の検討に入った。公共投資関係費は今年度比3%超減らし、 8兆6000億円程度に抑える。1兆円弱の自然増を見込む社会保障費用は1−2%伸びをカット、総額を19兆円台後半にする。政策的経費である一般歳出を今年度(47兆5900億円)並みとし、歳出抑制路線を維持する。
● 最近の長期金利上昇を受けて住宅金融公庫の貸出金利が9月2日から上がる見込みになった。国土交通省は9月2日から、住宅金融公庫の貸出基準金利を0.4%引き上げ2.4%とする方針だ。上げるのは返済開始後10年目までの基準金利で、それ以降の金利は3.5%のままで据え置く。基準金利上げは約一年半ぶり。長期金利に連動する銀行の固定金利型の住宅ローン金利も早ければ来月から上がる可能性がある。変動金利型は短期プライムレートに連動するので変わらない見込み。
● 政府は、2003年度の国などの官公需について、中小企業との契約目標を総予算額10兆6940億円の45・3%、 4兆8450億円とする契約方針を決め、閣議決定する。契約目標は補正予算も含めた02年度実績46・1%を0・8ポイント、5200億円下回るものの、 02年度契約目標だった45・1%を0・1ポイント上回り、過去最高の目標率となっている。金額は物品、工事、役務の合計で、発注機関ごとの契約目標は、国が総予算額6兆9990億円の45・8%、3兆2020億円、公団・事業団、独立行政法人が同3兆7050億円の44・3%、1兆6430億円。国土交通省の中小企業契約率は、02年度実績が全体で50・6%、1兆7277億円、工事のみでは50・9%、1兆4028億円だった。03年度は、50・ 8%、約1兆4500億円を目標額とする。
● 政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、6月末に閣議決定した「骨太の方針第3弾」に盛りこまれた重点12項目の規制緩和策が不十分だとして、全面的な緩和を求める答申を決めた。12項目は、株式会社の病院・学校・特別養護老人ホーム経営への参入や農地取得、幼稚園・保育所の一元化など。答申では、「骨太方針」の措置は「部分的・限定的であり、民間開放のスピードを加速的にあげていくことが極めて重要だ」と強調。「官製市場の民間への全面開放」を改めて求めています。
● 東京商工リサーチがまとめた2003年上期(1−6月)の建設業倒産は、2783件で前年同期比7・2%の減少となった。しかし、99年以来、5年連続で2000件の大台が続いている。負債総額は8063億2500万円で43・0%の大幅な減少。負債額の減少は2年ぶり。倒産原因別にみると、受注・販売不振が1618件、赤字累積445件、売掛金回収難83件で、これら不況型と呼ばれるものが2141件で、全体の 76・9%を占める結果となった。形態別の倒産は、法的整理が832件。民事再生法99件、破産728件となっている。私的倒産では銀行取引停止処分が 1688件、内整理が263件となっている。倒産企業を規模別にみると、資本金1億円以上は21件。1000万円以上1億円未満が1501件ともっとも多く、次いで、1000万円未満が1261件となった。
● 国土交通省は、公共事業の構想段階で地域住民の意見を聞き、事業の企画立案に反映させるための手続きを定めたガイドラインを作成し、6月30日付で各地方整備局や関係公団などに通知した。ダムや幹線道路、港湾の大規模岸壁、空港の滑走路など国民生活や社会経済、環境に大きな影響を与える事業を計画した構想段階で、ガイドラインで定める方法に従い、地域住民の意見を聞くようにする。大規模公共事業の発注者は構想段階で、事業を行なわない場合を含めた複数の案を作成し、公表する。公表後に寄せられた住民などからの質問、意見、提案に対し、発注者は明確に対応することが義務付けられる。事業特性や地域の実情を考慮し、発注者が学識者や関係住民代表、事業者団体、地方公共団体などで構成する協議会を設置することも認める。協議会のメンバーは議論の中立性、公平性が保てる構成とし、会議資料や議事録を原則公開とする。発注者はガイドラインに基づく住民参加手続きを経て、複数案の中から実際に採用する案を一つだけ決定する。採用案が決まった場合は速やかにその内容を明らかにし、住民手続きの過程で寄せられた住民からの意見と、この意見に対する発注者の見解も合わせて公表する。
● 長野県の公共工事の発注方法を検討する専門委員会は、公共工事の予定価格(落札上限価格)の事前公表を中止する提言をまとめた。過剰な安値競争で工事の質に悪影響が出る恐れを払しょくし、罰則強化で談合を防ぐ。田中康夫知事も事前公表見直しの意向を示しており、県は7月中にも中止する見通しだ。国土交通省によると43都道府県が事前公表をしているが、中止は初めてという。
● 国土交通省は、資金調達が困難で計画が進まずにいる市街地再開発事業を支援するため、新たな事業モデルの検討に着手した。事業対象地区の従前居住者の権利を再開発ビルの土地や建物の所有権ではなく、再開発ビルを経営する会社の株式に転換するのが特徴。再開発組合が特定目的会社(SPC)を設立し、都市再生ファンドからの出資を得るスキームも盛り込みたい考え。具体的には、市街地再開発事業の組合員が出資して設立する SPCが都市再生ファンドから事業資金の一部を調達する仕組みと、再開発ビルの権利床を従前居住者から取得した上で、ビル全体の経営を行う再開発ビル一括経営会社を活用する仕組みを組み合わせた事業スキームについて検討を進める。事業地区の土地所有者は、権利の全部あるいは一部を経営会社に現物出資し、その見返りに土地や建物の所有権ではなく、経営会社の株式を受け取る。再開発ビルの経営が順調に進めば株式の配当が得られるほか、株式を投資家に売却することで出資相当額の現金を得ることもできる。経営会社にはSPCも出資し、株式や社債などを得る。土地所有者と同様に株式や社債を投資家に売却すれば、投資した資金の早期の回収が可能になる。
● 国土交通省は、港湾工事分野のコスト構造改革を進めるため、港湾施設の性能規定化や信頼設計法の導入に向けた検討に着手した。05年度末を目標に「港湾の施設の技術上の基準」を全面的に改正し、性能規定化を図るとともに、照査方法として信頼設計法の導入を目指す。その背景には、コスト構造改革の推進に加え、ISO(国際標準化機構)や欧州の技術基準であるユーロコードで、信頼設計法が正式に規格化される可能性が出てきたためだ。港湾構造物など国内の土木構造物はこれまで、「仕様規定」「許容応力度設計法」「経験に基づく判断」という設計基準の考え方があった。一方、欧米諸国では「性能規定」「限界状態設計法」「信頼性設計法」が主流になりつつある。同省港湾局は、こうした国際的な動きに対応。技術上の基準を完成後の性能を示した基準(性能規定)に変更し、具体的な実現方法は参考程度にとどめる方針だ。
● サービス残業があったとして労働基準監督署が事業所に是正指導した件数が、昨年は約17000件に上ったことが、厚生労働省のまとめで分かった。過去30年で最多で、監督対象の事業所8カ所に1カ所の割合で是正指導を受けていたことになる。2002年に全国の労働基準監督署が定期監督を実施した事業所は13万1878カ所。うち12.9%、1万7077カ所で時間外や休日、深夜労働の割増賃金支払いを定めた労働基準法違反が見つかり、是正指導を受けた。