情勢の特徴 - 2003年9月前半
● 東京商工リサーチがまとめた7月の建設業倒産は、465件と前年同月に比べて14.3%の減少になった。それでも7 月としては過去7番目の水準になっており、減少しているとはいえ件数自体は高い。負債総額は1010億3500万円で75.2%の大幅な減少になっている。件数的には9ヶ月連続で500件の大台を割っており、落ち着いた感があるものの、それでも建設産業の経営を取り巻く環境の厳しさに変わりはなく、今後も建設業倒産は大きく減ることはないものと見られる。
● 注文住宅の受注状況に明るさが見えて来た。住宅金融公庫がこのほどまとめた今年6月の「全国住宅市場調査」結果によると、注文住宅の受注が前年同期を上回った業者が、1〜3月よりも4〜6月は増加、さらに7〜9月も増える見込みだ。この調査は全国の住宅建築請負企業、不動産業者及び仲介業者を対象に住宅市場の動向を定期的に調査しているもので、今回の回答件数は2258件(回答率48.2%)
● 日本経済団体連合会(奥田碩会長)は5日、公正取引委員会の独占禁止法研究会で行っている「独占禁止法の措置体系見直し」議論に対して、真摯な検討のうえでの独禁法改正ないし運用改善を求める意見書を公表した。具体的には、課徴金の引き上げ議論が現行のまま進めば、憲法の「二重処罰禁止」に抵触するおそれがあるのではないかとの指摘などで構成している。独禁法改正は、議論には建設業界も大きな関心を寄せており、業界の動向も注目される。
● 内閣府が10日発表した4−6月期の国内総生産(GDP、改定値)は物価変動の影響を除く実質で前期比1.0%増、年率換算で3.9%増となった。速報値から0.4ポイント、年率では1.6ポイントの上方修正。堅調な民間設備投資など内需が全体を押し上げ、実質成長率は2年半(10.4半期)ぶりの高い伸びとなった。これを受け、内閣府は今年度の政府経済見通し(実質成長率 0.6%程度)を独自試算として上方修正する考えだ。実質プラス成長は6期連続。景気の持ち直し傾向を映した形だが、7−9月期に反動が出る可能性もある。
● 国土交通省は、総合評価方式など多様な発注方式の2002年度実績(港湾・空港を除く8地方整備局発注工事が対象)をまとめた。総合評価方式の発注件数は450件で、発注総額の2割に適用するという目標をクリアした。設計・施工一括発注方式は2001年度に比べ1件増え15件で試行。マネジメント技術活用(CM)方式は新たに胆沢ダム本体工事監理試行業務を発注し、2000年度からの継続5件と合わせ6件となった。同省は2003年度も各方式の試行件数を前年度並みに計画。応札者と面談する対話方式や工事成績重視型発注方式の導入も新たに検討している。
● 国土交通省は、都市計画に関する手続きで住民参加を促す各地方公共団体の取り組みを聞いた緊急調査の結果をまとめた。対象は都道府県と政令市。市町村マスタープラン(MP)について、素案段階で住民への情報提供を行っている自治体の割合は77.5%、個別の都市計画についても66.6%に達し、計画確定の前に住民への情報提供が積極的に行われていることが分かった。情報提供の方法は、市町村MPについて、広報誌やパンフレットの配布が82.6%、インターネットへのアップロードが65.8%、公報への掲載が41.6%。一方、個別の都市計画では、広報誌・パンフ62.4%、公報58.6%、ネット 43.4%。提供する情報の形態は、図面や写真などを付けている自治体が、いずれも8割を超えている。住民意見の把握・集約の方法をみると、市町村MPは文書による提出が47.8%と最も多いのに対し、個別計画では公聴会の開催が56.9%と最も多い。
● 東京都は、都が管理するすべての道路、橋、トンネルについて「アセットマネジメント」(維持管理計画)作りに乗り出した。社会資本の効率的な維持管理と計画的な投資を進める狙い。こまめな補修で延命を図り、建設・補修の総合コストを抑制していこうという発想だ。戦後整備してきた建造物の多くが、半世紀を経て近い将来全国的に更新時期を迎えることを受け、大阪府や横浜市など各地でも同様の試みが始まっている。東京都は今年度中にまず、1227本の橋のうち長さ40メートル以上の338本を調査、@劣化程度A初期投資やこれまでに投じた費用B交通量や環境への貢献度−などを基準に補修の優先順位を決定する。大阪府は、維持管理水準や交通量など条件を変えたシナリオを作り、道路施設維持管理費の試算を始めた。横浜市も 1650本の橋の点検を始め、今年度は維持管理をどのような考え方で進めるか検討中。大阪市や福岡市、三重県なども橋などで取り組みを始めた。
● 横浜市の中田宏市長が大胆な「官業見直し」に乗り出した。累積赤字が膨らむ市営地下鉄は完全民営化も視野に経営形態を見直し、総合病院新設計画では民間に運営を任せる「公設民営」方針を打ち出した。市立大学や保育園に続き地下鉄と病院という自治体の二大不採算部門で「役所組織の限界を打ち破る」(中田市長)と意欲を見せる。市営地下鉄は利用客が計画を下回り、多額の初期投資が財務を圧迫。市は第三セクターや独立行政法人化、市が所有して運営を民間に任せる「上下分離方式」などを検討。2006年度までに新経営形態に移行の方針。それでも改善しなければ完全民営化を探る。「現状の組織でも経営改善はできる。私は抵抗勢力ではないが、経営形態を変えれば経営改善するのか疑問だ」。答申に対し、市の交通局幹部はこう訴えた。改革路線に職員の困惑は強いが、中田市長は譲らない構えだ。
● 財務省は閣議で2004年度予算の要求・要望総額を報告した。一般会計の要求総額は今年度当初比5.7%増の86兆4547億円。昨年度と同様、公共投資関係費と各省の政策判断による裁量的経費について要求基準額に対して20%増の要望を認めた要望額は、同9.0%増の89兆1493億円となった。一般会計のうち、政策的経費に当たる一般歳出の要求額は同1.1%増の48兆1206億円だが、要望ベースでは6.8%増の50兆8151億円に膨らんでいる。
● 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調香(従業員五人以上の事業所調査)の7月分結果速報によると、労働者一人当たりの現金給与総額は、前年同月比1.9%減の40万1904円で再び減少(5、6月は増加)に転じた。現金給与総額が減少したのは、基本給に家族手当などを加えた所定内給与が26万691円と同0.1%減、夏季一時金など特別に支払われた給与が12万3188円で同6.2%減ったため。残業代などを示す所定外給与は1万8025円で同4.6%増。物価変動分を差し引いた実質賃金も1.6%減と減少に転じました。物価下落以上に賃金は下降している。
● 主要ゼネコン(総合建設会社)の間で受注実績に格差が目立ってきた。今年4−6月の受注高をみると、大成建設や大林組など大手ゼネコン4社が景気回復を受け業界平均より大きく伸びたのに対し、金融機関などから支援を受けて再建中の準大手は前年同期より減少した会社が少なくない。信用力の差が受注高に反映され始めた。大手4社の受注の伸び率は52%の大成建設を筆頭に平均で22%。再建途上の7社平均の2%の減少と対照的だ。
● 建設現場の生産システムが変化してきている。専門工事業者の役割が高まるに従い、元請と下請の関係性にも変化の波が押し寄せている。そうした動きの要因には生産効率化も一つとして挙げられる。現状や課題などについて建設経済研究所は「役割の変化への対応と建設生産の効率化」をテーマにリポートをまとめた。現場生産システムの再構築の必要性や方向性などにも言及、そのあり方などを提言している。建設現場は、年を追うごとに外注比率が高くなっている。また、専門化の進展などにより、専門工事業者の業務は単なる作業の下請け負いという形態から専門領域の施工に加え、その部分の施工管理も行うという形態に変化しつつある。こうした傾向は「今後も強まることが予想される」状況にある。
● 自治体の情報公開度や公共調達を住民側から監視する市民オンブズマンによる「全国市民オンブズマン連絡会議」は、 47都道府県など103自治体の入札契約制度および落札率調査結果を公表した。2002年度発注工事の情報公開請求によって一定規模以上すべての入札調書をもとに分析している。公正取引委員会、日本弁護士連合会も同様の白治体調査を行っているが、これほど詳細で大掛かりな調査は珍しい。ただ、「落札率 90%以上で入札談合の疑惑が高い」と指摘しており、建設業界にとって今後、波紋が広がる可能性もある。
● 宮城県の浅野史郎知事が鳴り物入りで策定作業を進めてきた「緊急経済産業再生戦略プラン(案)」がまとまった。雇用創出と新産業の育成・振興につながる事業の創出に力点を置くとされていたが、内容を見ると予想に反し、耐震化を中心とした身近な社会資本整備や介護施設整備の前倒し、住宅の耐震改修促進など、ハード面の公共事業に重点が置かれた。さらに注目されるのは、地域経済への事業効果拡大策の一つとして、「県内企業への優先発注」が盛り込まれた点だ。地元建設業界が幾度となく県に訴えてきた悲願が実現する結果となり、事業量の減少と県外業者を交えた過当競争で疲弊しきっていた県内建設業界にも朗報となった。