情勢の特徴 - 2003年9月後半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 東京商工リサーチがまとめた8月の建設業倒産は、390件で前年同月比22.6%の減少となり、50カ月ぶりに 400件割れとなった。負債総額は974億1700万円で15.0%のマイナスになっている。ただ、不況型倒産が過去最悪となった。企業規模別では、資本金1億円以上は3件にとどまり、1000万円以上1億円未満が211件、1000万円未満が176件などと中小・零細にとっては厳しい環境が続いている。
● 銀行の貸出金の減少が続き、預金残高とのかい離が100兆円を突破した。銀行は余剰資金を金融市場で運用しており、国債の保有残高は90兆円に膨らんだ。日銀がまとめた国内銀行(外国銀行、政府系金融機関、日銀を除く)の資産・負債状況によると、直近7月末の預金残高は約513兆円となり、前年同月比2.0%増えた。一方、貸出金残高は4.7%減少した結果、約409兆円にとどまっており、かい離は約104兆円に拡大した。預金と貸出金の比率を示す預貸率は80%を割り込んでいる。深刻な不良債権問題に直面した銀行が、焦げ付きを恐れて新規の貸し出しに慎重になったり、自己資本比率低下を防ぐため資産となる貸出金を圧縮したりしたという事情もある。

行政の動向

● 国土交通省は、2002年度の公共工事コスト縮減の実績を発表した。政府が策定したコスト縮減新行動指針に基づき、 30施策170項目のコスト縮減策を展開。その結果、工事コストの縮減率は1996年度と比較して国土交通省・関係公団等の合計で13.6%となり、 6901億円を縮減した。卸売物価や労務費の下落を考慮した実際の工事コストの縮減率は21.3%で、縮減額は1兆0800僚円に達した。内訳は間接的施策が4.2%、直接的施策が8.7%。間接的施策のうち、3.0%が物価変動をベースにしたマクロ的算出方法による縮減効果で、残る1.2%が建設副産物対策や資材調達のための環境整備、交通安全対策などの縮減となる。一方、直接的施策のうち、縮減効果が最も高いのは「設計方法の見直し」で、次いで「積算の見直し」「技術開発の推進」「計画手法の見直し」「技術基準等の見直し」などの順となった。
● 政府は全府省を対象にした「公共事業コスト構造改革プログラム」を策定した。国土交通省や農林水産省が今年4月から進めている「コスト構造改革」を全府省に広げる。施策は▽計画・設計の見直し▽汎用品の積極的使用▽入札・契約の見直し−など10項目で、両省の施策とほぼ同じ。目標数値も同様に2003年度から5年間で総合コスト縮減率15%の達成を目指す。対象は国や関係公団などが実施する全公共事業で、施策は「事業の迅速化」「計画・設計から管理までの各段階における最適化」「調達の最適化」の三つの観点から10項目を挙げている。具体的には▽合意形成・協議・手続きの改善▽事業の重点化・集中化▽用地・補償の円滑化∇計画・設計の見直し▽汎用品の積極的使用▽新技術の活用▽資源循環の促進▽管理の見直し▽入札・契約の見直し▽単価等の積算の見直し−の10項目。
● 国土交通省は、市街地再開発事業に新たな補助制度を導入する。建物の共用部分を補助する共同施設整備費を廃止し、建設コストと収益還元価値の差額を補助する「ギャップ・ファンド」方式を新設する方針だ。現行の一律補助から脱却し、事業の成立に必要な額だけを補助することで、国庫補助の効率化と事業個所の拡大を図る。2004年度予算概算要求に盛り込まれ、同年度は都市再生緊急整備地域を対象に3―5カ所を選定して、モデル的に導入する。
● 国士交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会は「新たな住宅政策のあり方について」の建議を了承した。建議では、これまでの住宅政策について総合的に検討を加えた結果、住宅事情や経済・社会情勢が大きく変化したことによって、(1)ニーズと住宅ストックのミスマッチへの対応(2)柔軟で効果的な住宅セーフティネットの確保(3)少子高齢化や環境問題などに応じた住宅の質や住環境の改善(4)多様な価値観への対応、といった課題に十分に対応できなくなっていると指摘。その上で、新たな住宅政策の確立が必要であるとしており、住宅建設計画法を抜本的に見直すことを求めている。見直しにあたって基本理念としているのは、@これまでの公による直接供給・フロー重視から、市場重視・ストック重視へA消費者保護政策を確立するとともに、住宅を確保できない国民のための住宅セーフティネットを再構築B少子高齢化、環境問題等に応える居住環境を形成C街なか居住、マルチハビテーションなど都市・地域政策と一体となった政策の確立。
● 長野県発注の公共工事の落札率が大幅に低下している。昨年11月に委託業務を対象に試行導入した「受注希望型競争入札方式」(事後審査・郵便方式)により委託業務の落札率は46%台にまで低下、工事についても今年3月に同方式を導入して以降、65%台まで落ち込んでいる。長野県は昨年7月に、公共工事入札等適正化委員会(委員長・鈴木満桐蔭横浜大法学部教授)を設置、入札制度の抜本的な改革に着手した。委員会の議論を経て、県が談合防止策として考案したのが「受注希望型競争入札方式」だった。郵便局留めの郵送で入札を実施し、資格審査を入札後に行うという新たな方式で、人札参加者同士が事前に合う機会をなくした。導入前には94.8%だった工事の平均落札率は、導入後の2〜3月の平均で75.6%まで低下。さらに、応札金額の下位5者の平均金額の80〜85%を調査対象とし、平均金額の80%未満を失格とする変動型の「失格基準価格制度」を導入した4月以降、落札率は65%台にまで下降した。受注希望型競争入札と失格基準価格制度の導入により市場原理を導入し、高止まりした落札率を下げようとする委員会の意図は一応の成果をあげた。その一方で、予定価格の妥当性や行き過ぎた価格競争による採算性を度外視した低入札の横行という新たな問題が浮かび上がってきた。
● 国土交通相に就任した石原伸晃氏は公共投資の減少で建設業者間の競争が激化していることについて「過渡的なこと」と述べ、今後建設業界内での淘汰(とうた)が進むとの見解を示した。また、需要と供給の関係で「自ずと再編が進む」とし、力のある会社が生き残れるような環境を整備していくとした。建設業界から今後流出する人材の受け皿としては「サービス業」を挙げ、「その道筋をつけるため、しつかりと予算を確保したい」と述べた。公共事業については、「経済財政諮問会議で抑制の方向が示されている」とし、今後も減少傾向にあるとの見方を示した。その上で「長期計画を一本化した社会資本整備重点計画がいよいよ動き出す」。高速道路整備のあり方では、「計画路線9342キロの扱いを変える場合、国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)を開いて決定する手続きを取らなければならない」と述べたうえで、新直轄方式で整備することになる600〜700`の対象区間を含めた審議を行うために、「年末の予算編成に間に合わせるよう、12月までに国幹会議を関催する」と述べた。特殊法人整理合理化の一環で住宅金融公庫が行う住宅ローン債権の証券化支援業務にも触れ、「わが国でも大きな債券市場の一つになっていくだろう」と述べ、住宅取得や関連諸施策に積極的に取り組んでいく考えを示した。羽田再拡張事業については、事業を早期完成する必要性を強調、「整備計画を早期に固める必要がある」とした。
● 政府の特殊法人整理合理化計画に基づき、国土交通省所管の公団・事業団の一部が 10月1日から新組織に移行する。水資源開発公団が同日付で独立行政法人に変わる一方、日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団は統合した上で独立行政法人となる。また、日本下水道事業団(JS)は地方自治体の出資団体「地方共同法人」に生まれ変わる。水資源開発公団は名称を「水資源機構」に改める。新組織は現公団の業務、人員をすべて引き継ぐ。所管事業を進めるに当たっては、国土交通大臣が提示した5年間の組織運営目標「中期目標」に沿って、機構が中期計画を策定し、同計画に基づき組織を運営する。日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団は統合され、「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(鉄道・運輸機構)に移行する。鉄道公団と運輸施設整備事業団それぞれの業務、職員は、すべて同機構に承継される。 地方自治体から業務を受託し、下水道施設の整備を展開している日本下水道事業団(JS)は出資形態が変わる。現行組織は政府と地方自治体から出資を受けているが、今後は地方自治体だけが出資団体となる。出資額はこれまでと変わらない。

労働関係の動向

● 勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済(建退共)事業本部の運営委員会・評議員会が開かれ、10月1日の独立行政法人後にスタートする中期計画(計画期間2008年3月末まで)を了承した。中期計画は、▽業務運営の効率化▽サービスの向上▽加入促進▽財務内容の改善−などを柱に構成。業務運営の効率化では、本部・支部間でインターネットを利用したオンラインシステムを構築する。また、事務処理の簡素化・外注化、人員削減などによって経費の圧縮に努める。業務運営の効率化を図り、その結果として退職金支払いの迅速化などサービスの向上を実現していく考えだ。加入促進では、計画期間の4年半の目標を75万人に設定。建設業者が減少傾向にある中、過去5年間の加入促進レベルを維持する高いハードルを設けた。財務内容に関しては、10月1日から予定運用利回りを2.7%に引き下げ、単年度赤字が生じない水準とする。

資本の動向

その他の動向