情勢の特徴 - 2003年10月前半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● オフィス仲介の三鬼商事(東京・中央)が発表した都心五区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の9月末のオフィス空室率(貸室総面積に対する空室面積の割合)は前月末比0.13ポイント低下し8.44%となった。2年間続いていた上昇傾向にひとまず歯止めがかかった。築後1年未満の新築ビルの空室率が前月末比4.37ポイント低い9.2%と大幅改善。年初から9月末までの都心5区のオフィス成約面積は222万4千平方メートルと、過去十年間の通年の成約面積と比べて最も多い。一方、再開発で人気が高まった地区と、ビルの老朽化が進むなど魅力が低下する地区との格差が拡大。都心で空室率が大きく改善したのは、六本木や汐留を抱える港区と大型ビル開業が相次いだ新宿区。中央区は、大手企業の本社移転で大型解約が相次ぎ、 8.61%と前月比0.6ポイント悪化。都心周辺の上野駅周辺や池袋などもテナントを呼び込めないでいる。慢性化した供給過剰に加え、景気回復の足取りが弱いことから5区のオフィス賃料(募集ベース)は3.3平方メートル当たり1万8236円と、前月比1%(188円)安で8カ月連続で下落。大型新築ビルは、大量供給が始まる前の1年前に比べ12.5%の大幅安。新築の値下がりに引きずられ、大型既存ビルもー段と下げそうだ。
● 日銀が発表した9月の貸出・資金吸収動向によると、月中平均の銀行貸出残高は前年同月比5.0%減の399兆 6927億円となった。小泉内閣が発足してから、約59兆円減少した。不良債権最終処理の加速策でいかに銀行の貸し渋り・回収が激しく進んでいるかがわかる。業態別では、都市銀行など大手銀行が同8.1%減の226兆7071億円で過去最低を更新。地方銀行は同0.6%増と6カ月連続のプラス、第二地方銀行は同4.5%減、信用金庫は同0.2%減となった。
● 日本経済新聞社の集計によると、2002年度末の上場企業の借入金残高は約78兆円と、1988年度以来14年ぶりに80兆円を割った。株式持ち合いの解消も進み、上場企業株式のうち銀行保有分の比率は、ピークの約3分の1に当たる8%弱に下がった。国内上場企業(ジャスダック市場を除く)1638社について、2002年度(2002年4月−2003年3月の間に迎えた決算期末、単独ベース)の長短借入金を集計したところ、合計残高は77兆7311億円と1年前より4%減った。金融機関からの借入金が総資産に占める割合も過去20年間で最高だった1982年度の 33%から21%へと低下した。

行政の動向

● 10月1日から、東京都を始めとする、首都圏8都県市でのディーゼル車規制(通称・環境確保条例)が施行された。環境確保条例の規制対象はディーゼルエンジンを搭載したトラックやバス、特殊用途自動車で、建設業関係では大型トラックや生コンミキサー車、クレーン車やポンプ車など。メーカー対応が間に合わない場合だけ、メーカーから確認証明書が発行される。証明書のない車両違反者(運行責任者)には違反車両の運行禁止命令が下り、運行禁止に従わない場合は違反者の氏名公表や50万円以下の罰金が科される。いずれの業界も、環境確保条例やNOx・PM法、排出ガス対策型建設機械規制などが「企業淘汰を招くことは必至」と考えている。
● 国土交通省などが圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設のため、東京都あきる野市牛沼地区住民の土地を強制収用しようとしている問題で、東京地裁民事三部(藤山雅行裁判長)は3日、東京都に代執行の停止を求めた住民の申し立てを全面的に認め、事業認定と収用裁決の取り消しを求めた訴訟の判決まで代執行の停止を命じる決定を言い渡した。東京地裁の決定は、同地区の工事の進行が圏央道全体の完成にただちに影響を及ぼすものではなく、工事を急ぐ具体的な必要性が明らかでないと指摘。来春にも判決が予想され、事業認定と収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず、「あえて建設を強行することは正当化できない」と認定した。
● 国土交通、総務、財務の3省は3日、各公共発注者を対象に実施した公共工事入札契約適正化法(入契法)および適正化指針の措置状況調査結果を発表した。入契法の義務付け事項のうち、契約変更後の工事概要の公表などの対応が市区町村などで遅れていることが判明。努力目標である適正化指針の項目でも市区町村の6割が工事費内訳書の提出を求めていない。一方、予定価格の事前公表は1322機関(試行も含む)が導入済みで、国を除く全発注機関の約3分の1が採用している。義務付け事項のうち、発注見通しや落札者、落札金額などの公表は、ほぼ全発注者で実施されている。施工体制台帳の写しの提出も市区町村以外のほぼ全部の発注機関が措置済みで、市区町村も前年度調査に比べ措置済みが17ポイント増加し78%となった。契約変更後の工事概要などの公表は市区町村以外は実施されているものの、市区町村の対応が遅れており、公表済み市区町村は68%にとどまった。

労働関係の動向

● 総務省が30日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は5.1%と、前月に比べ0.2ポイント低下した。完全失業者数が333万人と、前年同月比28万人減ったことが主因。ただアルバイトなど臨時雇いが20カ月ぶりに減少。雇用者数全体も4カ月ぶりに減少に転じるなど雇用情勢は依然厳しく、先行きに不透明さを残している。男女別の完全失業率は、男性が5.3%と前月比0.2ポイント低下。女性も同0.1ポイント低下し、4.8%だった。離職理由別の失業者数を見ると、リストラなど「勤め先都合」が同14万人減の97万人。
● 国土交通省は、公共事業労務費調査について、調査方法の改善を含め、今後の調査のあり方を抜本的に見直すことを決めた。このため「労務費調査の基本的あり方に関する研究会」(座長・藤澤好一芝浦工業大学工学部建築工学科教授)を設置、10月下旬にも初会合を開く。研究会では、@単価設定の広域化と職種区分の縮小による調査手法の改善A調査から単価設定までのスピードアップと迅速な実態の反映B調査で除外しているデータの扱いC市場単価化、ユニットプライス化の検討が進むなかでの今後の労務単価の役割−の4本柱について検討する。研究会は1年程度実施、検討成果は 2006年度設計労務単価に本格的に反映させる方針。合わせて、検討成果の一部を05年度設計労務単価に反映させることも視野に入れ検討を進める考えだ。調査手法については、調査精度を保ちながら、全体の調査規模を縮小することを基本に、最適な調査方法を探っていく。

資本の動向

● 大林組、鹿島、清水建設、大成建設、竹中工務店の大手5社は共同で、アーバンマネジメント事業を推進する。ゼネコンの持つ再開発やFM(ファシリティ・マネジメント)ノウハウを生かして、まちづくりのマネジメントをする。アーバンマネジメント分野は、分野が多岐にわたり、デベロッパーや商社が得意とする領域だが、ゼネコンが蓄積しているノウハウが最も生かせる分野だと判断した。今後の市場規模は、1000億円程度、最大では1兆円が見込まれるという。
● 準大手ゼネコンの熊谷組、ハザマ、東急建設の3社は10月1日付けでそれぞれ不動産事業部門を分離し、新会社として始動する。経営再建の手法に会社分割制度を利用した点は3社に共通するが、その後の経営戦略は大きく異なり、熊谷組は飛島建設との統合を、ハザマは安藤建設との提携を、東急建設は増資による単独での生き残り策を選んだ。新・熊谷組は資本金133億円。社員数2683人。2003年3月期時点の有利子免償 5040億円のうち860億円を継承。今後は得意の土木事業に注力し、2006年3月期に売上高2160億円、経常利益66億円を見込み、有利子負債は 680億円に圧縮する計画だ。売り上げと社員数は2003年3月期から比べ半減するが、土木事業が得意な飛島建設と2005年4月に統合し、最強の土木会社への道を歩む。新・ハザマは資本金50億円、社員数2510人。2003年3月期時点の有利子負債2260億円のうち495億円を引き継ぐ。建築に強みを持つ安藤建設との提携で、弱体の建築事業を強化する道を選んだ。安藤建設は来年1月に新・ハザマに10億円を出資し、建築分野の強化と信用補完にあたる。主要金融機関と親会社の増資で債務免除を回避し、会社規模の縮小を最小限に抑えたのが東急建設だ。その再建スキームは、会社分割前に金融機関と東急電鉄から800億円の増資を受け、保有資産の含み損を圧縮。その後に吸収分割手法を用い、不動産事業会社(旧・東急建設)と建設事業会社新・東急建設)の資本関係を断ち切り、旧・東急建設が新・東急建設に売却した営業譲渡益を、残る負債の圧縮に充てるものだ。新・東急建設は会社分割時にも金融機関と東急電鉄から約500億円の追加増資を受け、2003年3月期時点に2230億円あった有利子負債の大半をなくす。人員の削減を最小限に抑え、事業カを確保し、年間の受注日標も現行数値から1000億円程度の落ち込みにとどめた。今後は得意の首都圏での建築事業や交通関連事業に特化し、2006年3月期に売上高 2504億円、営業利益106億円の確保を目指す。
● 大証一部上場の中堅ゼネコン(総合建設会社)、森本組は1日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請し、同日保全命令を受けたと発表した。負債総額は2153億円。土地などの資産価値が目減りし財務体質が悪化していたうえ、主力の土木工事の受注が急減、自主再建を断念した。
● 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC、千速晃会長)は、わが国のPFI(民間主導の社会資本整備)事業の問題点を詳細に洗い出すとともに、その改善策を示した報告書をまとめた。税制面での制約などから施設完成後に譲渡するBTO(建設・譲渡・運営)方式が増えていることや、支出を先送りすることを導入要因に施設整備の比重が高い「ハコモノ割賦PFI」が増加傾向にある現状を指摘。PFIの政策目的である公共事業の効率化などさまざまなメリットが十分に発揮されていないことを課題に挙げた。JAPICでは、PFI法の見直しが行われる2004年に向け、関係官庁・団体に改善策を提言し、関連法制度も含めた見直し議論を活発化させたい考えだ。

その他の動向