情勢の特徴 - 2003年12月後半
● 自民、公明両党は与党税制協議会で、2004年度税制改正大綱を決定した。初年度は国税で百億円の減税だが、地方税は220億円の増税となり、増税項目では、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる年金財源確保に向け、年金課税を平年度で2400億円強化。公的年金等控除で、65歳以上を対象にした最低控除額を現行の140万円から120万円に縮小するとともに、所得の種類を問わない定額(50万円)の老年者控除は廃止する。政府・与党は2004年度からの年金制度改革案を正式に決めた。厚生年金の将来の保険料負担は18.35%(労使折半、本人負担は9.175%)を上限とし、給付水準は現役世代の手取り収入の50%以上を確保する。保険料引き上げは来年10月から実施、毎年0.354%ずつ上げる。来年度の国民負担の増加分は約 4000億円だが、2005年度以降は年金制度全体で約9千億円の負担増となる見通しだ。
● 小泉内閣は2004年度予算政府案を閣議決定した。年金給付の削減や保険料引き上げなど、政府案による新たな負担増は年間3兆円にのぼり、すでに決定している年間4兆円を含めて、合計7兆円の負担増を国民に押しつける内容。予算全体の規模を示す一般会計は、2003年度当初予算比0.4%増の82兆1109億円となっている。このうち、政府の純粋な行政経費である一般歳出が同0.1%増の47兆6320億円。政府の借金返済費(国債費)が同4.6%増の17兆5686億円。地方交付税交付金等が同5.2%減の16兆4935億円。一般歳出の主要経費別内訳は、社会保障が同4.2%増の19兆7970億円、文教・科学振興費が同5.2%減の6兆1330億円、軍事費が同1.0%減の4兆9030億円、公共事業が同 3.5%減の7兆8159億円となった。一方、歳入面では、国債新規発行は当初予算としては過去最悪の36兆5900億円。この結果、2004年度末の国・地方合計の長期債務残高は、国内総生産(GDP)比143.6%の719兆円程度と、「先進7カ国」中、最悪水準になる見込み。
● 総合規制改革会議が首相に提出した最終答申では、労災保険を、すでに民営化されている自賠責保険と同様に民営化の検討を打ち出した。災害リスクに応じた業種ごとの保険料率の設定や労災病院など労働福祉事業の見直しも求めている。労災保険は、労働者が業務上の災害にあったさい、事業主の集団責任で、労働者への補償を確実におこなおうというもの。そのため保険料を払わない事業主にたいしては国が強制徴収の権限も持っている「強制保険」となっている。それを営利優先の民間保険会社にまかせれば、保険料を支払わない事業所はもちろん、経営悪化で滞納しそうな事業所も加入させないという事態になりかねない。経営者にとっては、労災保険を民間にまかせることで保険料を安上がりにすることができる。民間保険会社は、広大な市場を手に入れ、損害調査や契約事務処理の経費も含め、大もうけできる仕組み。
● 全国銀行協会が発表した2003年9月中間決算の状況(単体ベース)によると、全国銀行の不良債権残高は3月末に比べ5兆8900億円少ない28兆3300億円となり、3年半ぶりに30兆円を割り込んだ。最も多かった2002年3月末に比べると3割近く減少した。貸出金に対する比率は3月末より1.14ポイント低い6.64%となった。不良債権処理が特に進んでいるのは大手銀行。新生、あおぞらを除く主要十二行の残高は14兆5100億円で3月末比5兆600億円減少した。残高では半分近くを占める地方銀行などの減少額は8300億円にとどまっており、処理の進ちょくで業態間の格差が広がっている。
● 国土交通省は、コスト構造改革プログラムの目玉施策である「ユニットプライス型積算方式」にもとづく工事発注を、2004年秋から試行する方針を決めた。試行対象は、新設の舗装工、道路改良工、築境護岸工の3工種。この 3工種で直轄一般土木工事件数の4割を占める。ユニットプライス型積算方式は、現行の「積み上げ方式」から歩掛を用いない「施工単価方式」へ積算体系を転換するもの。発注者と元請企業との取引を基本に、工種単位で材工経費込みの取引価格を使用する。試行に向けたデータ収集は、これまでどおりの積算、総価契約後に、発注者が示すユニットの区分に応じて単価を記入してもらう。収集した単価はデータベース化し、地域や時系列、特異値や低入札の要因となった理由のあるデータ、スケールメリットなどの観点から、単価のバラツキ要因を分析し、ユニットの見直し、組み直しが必要かどうか検討したうえで、試行時の予定価格算出に活用する。
● 国土交通省は独立行政法人の水資源機構(旧水資源開発公団)が建設中の戸倉ダム(群馬県片品村)の事業中止を決めた。給水先に予定していた埼玉県や東京都など四団体が戸倉ダムからの水は不要と判断したため。国や旧公団の手掛けるダム建設で、工事着手後に中止するのは初めて。戸倉ダムは1992年、利根川支流の片品川で着工した総貯水量9200万立方メートルの多目的ダム。2008年完成の予定で、総事業費は約1230億円。ダム本体は未着工だが、工事用道路建設や国道付け替えなどで2002年度までに271億円を支出済み。
● 日本経団連(奥田碩会長)は財界の2004春闘の対策方針となる「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を発表した。日本の大企業が多国籍企業として本格的な海外展開をはかるために、年功賃金など従来の日本的労資関係を壊す一方、「定期昇給の廃止・縮小、さらにはペースダウンも労使の話し合いの対象となりうる」とのべている。報告は、「グローバル化のもとで日本企業が存立していくためには、あらゆる分野で世界に通用する仕阻みを再構築」し、内外の「ヒト、モノ、カネ、情報の活用」で国際競争力を強化しなければならないと指摘。とくにホワイトカラーの働き方を労働時間法理の対象からはずすなど抜本的な見直しを主張する。専門的・技術的分野の外国人労働者を受け入れる環境整備、法的整備を求めており、また、いっそうの「規制緩和・撤廃」を強調。「多様な働き方」を推進するとして、労働基準法の裁量労働制をさらに要件緩和し、派遣先に雇用義務を課している労働者派遣法を見直すことを要求している。正規雇用から、パートやアルバイト、派遣などの不安定雇用への置き換えを促進するとしている。
● 全国建設業協会(全建、前田靖治会長)は19日に開いた理事会で、国土交通省の「労務費調査の基本的あり方に関する研究会」(藤澤好一座長)に対し、他産業の年間賃金を参考に労働に見合った適正な労務単価を設定する新方式へ移行するよう求める提言を行うことを決めた。全建は、現行の公共事業労務費調査の見直しとは別の視点で、将来を見据えた新しい労務単価の設定方式を同研究会の検討テーマに乗せることを促していく考えだ。