情勢の特徴 - 2004年5月後半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 内閣府が発表した2004年1-3月期の国内総生産(GDP)速報値は、個人や企業の実感に近い名目で前期比 0.8%増(年率換算3.2%増)とプラス成長となった。物価変動の影響を除いた実質では同1.4%増(年率換算5.6%増)だった。同時に発表された 2003年度の名目GDPは、3年ぶりにプラス成長(0.7%増)に転じている。需要項目別では、GDPの約6割を占める個人消費が、名目で同0.7%噂、実質では同1.0%増となった。デジタル家電のほか、春物衣料が好調だったことが主因。民間企業設備は、名目で同1.8%増、実質で同2.4%増と前期に大幅に増加した反動で、実質、名目ともに伸び幅が減少したが、「基調として増加傾向」(内閣府幹部)。
● 政府は経済財政諮問会議(議長・小泉首相)を開き、来年度予選編成などの指針となる「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」(骨太の方針第四弾)の素案について議論した。同案は、「構造改革」のめざすものとして、「政府は簡素で、効率的であらねばならない」と強調。2005年度―2006年度を「重点強化期間」として、「官から民へ」、「国から地方へ」としたこれまでの取り組みを「より本格的に行う」としている。重点強化期間中の施策として、郵政民営化の着実な推進や、三位一体の改革、給与を含む公務員制度の見直しなどの行政改革を盛り込んだ。
● 東京商工リサーチがまとめた4月の建設業倒産は、件数は353件で前年同月比22.9%の減少となった。負債総額は 1330億6100万円で21.5%の増加になっている。受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難を合わせた不況型倒産は273件で、全体の77.3%を占めている。こうしたことからも、件数的に減少しているとはいえ、建設業の経営環境は依然として厳しいものがあり、しかも、それが他方の中小建設業を直撃している格好だ。
● 日本経団連は27日、定時総会を開き奥田碩会長(トヨタ自動車会長)を再任した。企業献金をテコにした政治介入をすすめる「奥田経団連」の二期目がスタートした。総会決議では、「わが国の国家像、国家戦略について議論を深め、意見の集約を図る」と指摘。日本経団運はこの日、憲法や安全保障問題を検討するための「国の基本問題検討委員会」を新設した。軍事産業を抱える日本経団運が、憲法問題を検討する委員会を設置することは、初めてのこと。財界による政治介入・支配戦略が新たな段階に踏み出したことになる。

行政の動向

● 国土交通省は、3月末(2003年度末)現在の建設業許可業者数を発表した。建設業法に基づく許可業者数は55万 8857業者で、2003年3月末時点よりも6647業者増加した。業者数は2000年度以降、3年連続して減少していたが、建設業許可の有効期間延長後(1994年12月施行の改正建設業法)に更新期を迎えた建設業者が一巡して増加に転じた格好だ。ただ、同省では、新規に許可を取得した業者数の減少などを理由に、「業者数が減る傾向に変わりはない」(総合政策局建設業課)と見ている。建設業許可業者の内訳は、大臣許可が1万572業者(前年度比0.5%減)、知事許可が54万8285業者(l.2%増)。この1年間の新規許可業者数は大臣許可、知事許可を合わせて2万1254業者(許可換えを含む)。これに廃業届を提出した業者と、更新手続きを行わずに失効となった業者を合わせた1万4607業者を差し引くと、1年間で6647業者増えたことになる。
● 東京都収用委員会(川井健会長)は十八日、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)ジャンクション建設に向け、東京都八王子市裏高尾地区にある住民らのトラスト運動地の強制収用を認める裁決を行った。裁決された土地は、同地区の8332平方b、土地所有者・賃借権者、立木所有者はのべ1889人。明け渡し期限は7月16日と8月16日。
● 長野県が発注する受注希望型競争入札(郵送・事後審査方式)で、応札価格が予定価格60%前後の価格に集中する事態が起きている。県が2003年12月以降、応札者の失格判断基準を設定して実質的な最低制限価格を設けていることに加え、新年度に入って一定の受注量確保に動く企業心理も影響しているもようで、「1000円単位の攻防」(関係者)という異常な入札も複数件発生している。
● 今後の官公需施策のあり方を検討している、中小企業政策審議会基本政策部会・取引部会官公需施策に関する合同検討小委員会(委員長・小川英次中京大学学長)は、中聞取りまとめ案について審議した。中間取りまとめ案では、政府が毎年度決めている中小企業者向けの契約目標について、受注という結果の確保ではなく、政策評価の指標としての意味合いを持たせることが強調された。中間取りまとめ案では、中小企業者向けの契約目標について「法的拘束力はなく努力目標としての性格を持つ」と明文化した。近年の契約目標比率と実績比率の推移を見ると、1997年度以降は実績比率が目標比率を上回っており、中小企業への発注が当初目標よりも多くなっている。このため中間取りまとめ案は、契約目標が受注の「機会」だけでなく「結果」の確保につながっており、中小企業の自立と競争力の向上を妨げていると問題提起する見方もあると指摘した。その上で、契約目標は官公需施策に関する政策評価の指標としての意味合いがあるとして、各発注官庁には、一層の情報開示など参入機会の増大を求めた。
● 国土交通省は25日、外国建設業者(外国法人と外資50%以上の日本法人)の建設業許可取得状況を明らかにした。3 月31日現在の許可業者数は84社で、1997年3月以降で最多となった。前回(2003年9月末)調査に比べると、新たに3社が取得し、2社が廃業・許可失効となり、差し引き1社の増加。新規に取得したのは、▽ジャパンエイチシーエムコーポレーション(米国、埼玉県知事、電気通信・一般)▽ブラックボックス・ネットワークサービス(米国、東京都知事、電気通信・一般)▽金豊工業(台湾、静岡県知事、機械器具設置・一般)の3社。廃業はシヤール・ボブィス・インク(米国、国土交通大臣、土木/建築・いずれも特定)1社。許可失効は現代建設(韓国、束京都知事、土木/建築いずれも特定)で、2003年11 月16日付。許可業者を国別で見ると、米国が37社(外国法人15、外資系22)と最も多く、次いでドイツ10社、韓国7社の順で多い。
● 国土交通省中国地方整備局(小林正典局長)は、国交省で初めてとなる「技術提案対話型入札」の今夏公表へ向け最終調整に入った。発注者が事前に予定価格を示さず、応札企業側の技術提案を評価し落札者を決めるもので、「今まで採用実績がない技術・新工法提案を評価する」(小林局長)ことと、発注者自らは事前の積算をしないことが最大の特徴だ。中国地方整備局が検討している、技術提案対話方式は、関係公団がすでに実施している技術提案重視の入札方式が予定価格をベースに応札し、落札企業とコスト縮減を前提に交渉するのと大きく異なる。最大の特徴は積算をせず、提案された内容を評価し契約相手方を決めるもので、「いわば従来の(発注者の)仕様型からまったくの性能評価型への移行」(小林局長)であることだ。

労働関係の動向

● 厚生労働省が発表した2003年度の毎月勤労統計調査(確報値、従業員5人以上の事業所)によると、月平均の労働者一人当たり現金給与総額は前年度比0.9%減の33万 9471円で、3年連続で減少した。特に、残業時間の増加により所定外給与が3.3%増となった以外は、所定内給与(基本給、・家族手当など)、特別給与(一時金・ベースアップ差額追給分など)ともに減少し、それぞれ5年連続で減少し同0.7%減、6年連続で減少し同3.3%減となっている。実質賃金は、同0.7%減となり3年連続で減少した。一方、月平均の労働者一人当たり総実労働時間は8年ぶりに増加に転じ、前年度比0.3%増の152.7時間になった。所定内労働時間では8年ぶりに増加し同0.1%増。残業など所定外労働時間は2年連続の増加で同4.1%増となり、とくに製造業で同8.5%増と増加が目立っている。
● 働き過ぎが原因で脳・心臓疾患で死亡する「過労死」で労災認定を受けた件数が、2003年度は過去2番目に多い 157件だったことが厚生労働省の調査で分かった。調査によると、長時間労働などが原因で脳内出血や心筋こうそくなどの「脳・心臓疾患」を発症した人の労災請求件数は705件で前年度比13.9%減。死亡には至らなかったものの、後遺症がのこったケースも含む認定件数は同1.6%減の312件だった。男女別では男性が297件、女性は15件。職種別では運輸・通信従事が最多で全体の4分の1を占め、年代別では50歳代と40歳代で全体の約7割を占めた。一方、仕事上のストレスが原因でうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などになった「精神障害」の労災請求は同28.4%増の438件。認定件数は同 8.0%増の108件で、いずれも過去最多を更新した。うち自殺の認定件数も40件で、2002年度の43件(未遂含む)に次ぐ多さだった。認定者のうち職種で最も多かったのはシステムエンジニアなどの専門技術職で、年代は30歳代が最多だった。
● 日本経済新聞社の2004年賃金動向調査では3社に1社が過去1年に成果主義型賃金の導入・拡大を決め、この結果、全体の8割以上が何らかの形で成果主義を導入したことが分かった。回答企業の33.7%が過去一年間に成果主義型の賃金体系を導入・拡大した。職務給など成果主義の考え方を賃金体系に既に導入済みや部分的に導入している企業は全体の81.6%に達している。また過去1年に18.1%の企業が新たに定期昇給や定昇相当分の賃金を見直した。このうち22.2%が「全社員を対象に廃止」と回答、16.7%が「若手を除き廃止」と答えた。成果主義導入の広がりと、年功色の強い定昇の見直しが並行して進んでいる。成果主義の浸透で、同期入社の社員での貸金格差も当たり前になってきた。管理職を除く一般社員の月例給与の基準内賃金で、1.1倍以上1.3倍未満の差を付けている企業が46.2%を占めた。
● 総務省が発表した4月の完全失業率(季節調整値)は4.7%で前月比横ばいだった。完全失業者数は335万人と前年同月より50万人減り、就業者数も5カ月連続で増えるなど、雇用情勢は改善傾向。ただ、25歳未満の完全失業率は10.8%と全体の2倍の水準だった。男女別の失業率は、男性が前月と同じ4.9%、女性は0.1ポイント上昇の4.5%だった。男女合計の就業者数は前年同月比で48万人増の6354万人で、女性を中心とした医療・福祉分野の伸びが堅調なほか、3月に製造現場への労働者派遣が解禁になったことで、サービス業の増加が目立った。
●総務省が発表した労働力調査の今年1-3月平均・詳細結果によると、前年同期に比べ正社員は64万入減少する一方、パートタイマー・派遣社員など非正社員が59万人増加していることがわかった。役員を除く雇用者4934万人のうち、正社員は3380万人、非正社員は1555万人で、非正社員の雇用者に占める割合は31.5%になった。過去二年間で2.8ポイントの上昇。完全失業者の失業期間は、「一年以上」が最も多い112万人で、失業者全体の34.3%に達している。

資本の動向

● 日本建設業団体連合会(日建連、平島治会長)、日本土木工業協会(土工協、梅田貞夫会長)、建築業協会(BCS、野村哲也会長)、日本道路建設業協会(道建協、仁瓶義夫会長)は18日、策定作業が進む政府の経済財政運営の基本指針「骨太の方針2004」に対する要望書を政府、与党に提出した。国際競争力強化の観点から公共投資の抑制基調を改め、必要な社会資本整備のための予算を安定的に確保する姿勢に転換するよう求めたほか、三位一体改革(国と地方の税財政改革)で推進する国庫補助負担金の改革に対しては、地方の自主性がより発揮できる交付金化、統合補助金化を基本とするよう申し入れた。
● 日本建設業団体連合会(日建連、平島治会長)は25日、10月の策定を目指す「日建連中期ビジョン」の中間報告を発表した。ビジョンは、5〜7年先を見据え、会員企業の発展に向けたシナリオを描くもので、中間報告は、市場の変化や時代のニーズを踏まえ、発注者への依存体質を改めることや、単なる工事の施工者にとどまらず「事業者」として発展する企業を目指すことなどを打ち出した。中間報告では、建設投資の減少や消費者ニーズの多様化など、建設市場の質と量の変化に対応し、自らを積極的に改革する「変化の創造」をビジョンのキーワードに設定。変化を創造するための具体的な活動を、▽発注者への依存体質を改める産業風土の改革▽施工者という役割にとどまらず事業者としても躍進する企業文化の刷新▽市場環境の変化に対応する組織体制づくり▽市場で優位性を獲得するための市場価値の創出▽社会的責任の重視−の5点に集約した。
● 日本土木工業協会は会員企業を対象とした、2003年度の社外建機使用実態調査結果をまとめた。それによると、建設業者のリース依存度は48.1%で、前年度を1ポイント上回ったほか、調査会社のリース依存度も67.2%と5.4ポイント高まった。協力業者のリース依存度は38.3%で、0.3ポイントダウンした。調査は、土工協と日本電力建設業協会の積算研究委員会、機械専門委員会の委員会社29社を対象に、11月 30日現在で実施した。調査対象機種は62機種で、今回から、社外機械使用率が高いファン、ディーゼル発電機、高所作業車(室内用、作業床高さ10メートル未満、10メートル以上)の5機種は、対象からはずされた。調査台数は3万6115台だった。
● 2004年3月期決算が出そろった。ゼネコン22社の売上高、受注高ともに減収傾向ではあるものの、経常損益で赤字を出した企業はなくなった。完成工事総利益率(粗利)も大半が好転、増益傾向が顕著に現れた格好だ。減損対応などで特別損失を計上し、5社が当期損失となったが、次期以降は財務体質の改善が進む効果も期待できる。

その他の動向

● 住宅性能表示制度に基づく、「設計」住宅性能評価書交付件数が、平成15年度は前年度比44.2%増の13万4981戸となり、全体の着工戸数の11.5%となった。13 年度は5.3%、14年度は8.2%で、今回初めて一割を超えた。このうち、一戸建て住宅は4万2009戸で、前年度比70.0%増と戸建住宅が大きく伸びでいる。また、既存住宅の建設性能評価書交付件数は、平成15年度は計23戸。うち戸建住宅では124戸となった。