情勢の特徴 - 2004年9月前半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

● 日本の高い公共工事費の一因といわれる高い材料単価――。その単価調査を独占受注していた国土交通省所管の2財団に公正取引委員会が、独占禁止法違反(不当な取引制限)で7日までに課徴金納付命令を出した。公取委が課徴金の納付命令を出したのは、経済調査会(東京都中央区)と建設物価調査会(同)。国や地方自治体などが発注する建設資材の単価調査業務の入札などで談合を繰り返していたとして、計約1億3千万円の課徴金納付命令が出された。両財団は関東地方の1都6県と長野、山梨両県などが発注する建設資材の単価調査の入札で談合し、2002年6月までの3年間に、 213物件、発注額計21億6300万円余を不正に受注していた――としている。
● 日本経団連(会長・奥田碵トヨタ自動車会長)は13日、税財政と社会保障「改革」についての計量計算をおこない消費税増税に向けて新たな試算を発表した。試算では、増税をするかしないかなど4つの類型を示している。社会保障関係の給付と事業主負担の抑制を前程にして消費税増税をするケースを2通り示している。ケース1では税率を07年度に10%に引き上げ10年度には13%、13年度16%に引きあげる。ケース2では 07年度に消費税率を10%に引き上げて以降、1年度こと1%ずつ段階的に引き上げ12年度には15%にするというもの。
● 政府は企業や官庁の不正などの内部告発者を保護する公益通報者保護法について、企業間の不当な取引制限などを禁止する独占禁止法や、労働基準法など30法を対象とする方針を固めた。保護法は2006年4月に施行の予定。付則に明記済みの7法以外の対象法は来年3月に閣議決定する政令に盛り込む。独禁法や労基法上の違反行為を対象とすることで、談合による価格決定や不当廉売(ダンピング)の防止、時間外労働や休暇制度などの法定基準の順守に役立ちそうだ。

行政の動向

● 国土交通省は、2005年6月までに全面施行される建築基準法の改正に合わせ、既存不適格建築物に対する勧告制度と段階改修についてのガイドライン作成作業に着手した。勧告制度のガイドラインには、どのような状態になった場合に勧告するかの基準や手続きフロー、段階改修には改修期闇や改修の優先順位などを盛り込む方向で検討している。両ガイドラインの作成時期については、遅くとも04年度内にはまとめる見通しだ。
● 国土交通省は、景観法の制定を踏まえ、補助制度の「街なみ環境整備事業」を拡充し、地方自治体の景観形成を支援していく方針だ。具体的には、同法に基づく景観計画区域、景観地区を同事業の対象要件に加え、新たに景観重要建造物の維持・保全に必要な修繕費などを補助対象として追加する。同事業は、地区住民の発意と創意を尊重したゆとりと潤いのある住宅市街地の形成を目的とした補助制度で、面積が1ヘクタール以上あり、地方自治体の条例などで景観を形成するべき区域などが要件となっている。同事業では、道路、小公園、下・排水施設などの地区施設、門、塀、柵などの修景施設、集会所、管理事務所、子育て支援施設などの共同施設といったハード面だけでなく、事業計画の策定などソフト面も補助している。補助率は項目によって、 2分の1または3分の1となっている。
● 都市再生機構は、将来的な資産の有効活用方法として、賃貸住宅の証券化も視野に入れている。賃貸住宅の賃料債券など金銭債権を不動産投資信託(J−REIT)に売却して証券化することで、資産のオフバランス化を図る考えだ。証券化した場合も、住宅資産の所有、管理・運営は都市機構が担当する。都市機構は、機構法の中で、証券化事業を実施するSPV(証券発行専門体)などの開発主体への出資が認められているものの、「土地有効利用事業で公募した敷地に民間の参画が得られない場合に、SPVへ出資することができる」とされているため、賃貸住宅で機構自身が証券発行専門体に出資して資産を証券化する方法は認められていない。このため、まずは金銭債権を不動産投資信託に売却して証券化することを検討していく。
● 国土交通省は、工事を請け負った建設会社が作業員に対する安全教育などを実施した場合、工事成績評定で加点対象とすることを決めた。同省は、工事の事故防止・安全確保を徹底するため、工事を請け負う建設会社に対し、作業員への安全教育や研修の実施などに取り組むよう指導している。ただ、建設会社側にとっては、費用を負担して外部から講師を招いたりする必要もあるため、十分には浸透していないのが実情だ。そこで国交省は、こうした取り組みを工事成績評定の加点対象にすれば、建設会社に対するインセンティブになると判断した。成績評定の「創意工夫」分野にある「安全衛生」の中の「その他」に1点を加える。

労働関係の動向

● パートやアルバイトの貸金に大きな影響を与える地域別最低賃金。この最低賃金額を決める各都道府県の地方最低賃金審議会のうち、今年度は44の審議会が1、2円の引き上げを答申した。昨年は5県が1円を引き上げただけだったのと比べ、大きな前進。「地域別最低賃金の、現行水準はあまりに低すぎる」との声が全国でまきおこった結果である。
● 国際労働機関(ILO)は1日、「より良い世界に向けた経済安全保障」と題した報告書を公表し、「日本では過労死が広まっている。おそらく最も衝撃的な社会的苦痛の指標は、20世紀の最後の3年間に毎年3万人――交通事故死者の3倍にあたる――も自殺していることだ」と指摘した。労働市場に関する章では、日本の失業率が実質的には10%を優に超えると指摘。「失業率の劇的な増加と労働市場の不安定さは、3万人もの自殺者と関連している」とした。
● 厚生労働省はホームレスの就業支援対策に来年度から本格的に乗り出す方針を決めた。企業から清掃など短期の仕事を請け負って提供するほか、職場体験講習も開く“ホームレス版人材センター”のような仕組みを新たに全国4ヵ所で立ち上げ、働く意欲のあるホームレスの自立を後押しする。“人材センター”事業は、各地の自治体と非営利組織(NPO)などで構成する協議会に業務を委託。来年度中に東京や大阪などホームレスが多い地域を中心に全国4ヵ所で立ち上げたい考えで、来年度の概算要求に約1億4千万円を盛り込んだ。
● 厚生労働省は8日、公共事業削減などで雇用環境が悪化している建設業界で、経営が苦しい中小業者が従業員を一時的に同業他社へ派遣することを可能にする制度の新設など、新たな支援策を打ち出す方針を明らかにした。次期通常国会への関連法改正案の提出を視野に調整を進める。厚労省は、労働政策審議会の部会で支援策について説明。専門委員会を設置して来週から検討に着手することになった。年内に報告書をまとめる。
● 厚生労働省は、建設労働への労働者派遣の解禁をめぐる検討に本格的に着手した。労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の職業安定分科会雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会(専門委、椎谷正雇用振興協会理事長)は13日、都内で会合を開き、派遣労働者の解禁や中小建設業事業主の新分野進出支援策のあり方などについての検討成果を年内にまとめることを確認した。専門委は、▽中小建設業事業主の新分野進出支援▽建設業離職者の円滑な労働移動▽建設業内の労働力需給調整システム▽技能労働者の育成・確保――の4項目を議論。具体的には、労働者の能力開発を促進する際の支援内容、リフォーム業など新規・成長分野への進出支援策、労働者の教育訓練を共同・広域的に実施する場合の枠組みなどを、検討し、年内に報告書をまとめる。このうち、労働力需給調整システムに関しては、公共事業費の削減による雇用環境の悪化などに対処するため、「労働者派遣法」で禁止されている建設労働への労働者派遣を議論することにしている。

資本の動向

● 竹中工務店は8月 31日、2004年6月中間決算を発表した。売上高は4734億円で、前年同期比17.5%増となり、営業利益は62億円改善して95億円、経常利益も 63億円改善して115億円と中間では7期ぶりの増収増益となった。この結果中間純利益は49億円改善して69億円(247.4%増)となった。完成工事総利益は349億円と、0.3ポイント(64億円)改善した。業績の先行指標となる受注高は4525億円で35.2%増加し、次期繰越工事高も1097億円増加し1兆1063億円と、手持ち工事高1兆円を確保した。

その他の動向

● 総務省が5 年おきに実施している「住宅・土地統計調査の中間報告がこのほど発表された。特徴は次のとおり。@総住宅数は362万戸(7.2%)増加し、総世帯数は 286万世帯(6.5%)増加。また空き家は660万戸で、総住宅数に占める割合(空き家率)は、前回の11.5%から12.2%に増えた。A居住世帯のある4684万戸のうち、一戸建は住宅全体の56.5%(2648万戸)、共同住宅は40%(1872万戸)で大幅に増えた(12.8%増)。また、共同住宅の中で「11階以上」が37.8%増と大幅に増加し、高層化が進んでいることをうかがわせる。B「持ち家」は、住宅全体の61.2%に当たる2866 万戸。前回調査時(60.3%)より上昇した。C高齢者配慮では「段差をなくす」が急増し、最近の住宅ほど、高齢者配慮の設備がある割合が高い。D自動火災感知設備がある住宅は、住宅全体の23.8%(1113万戸)で、このうち自動消火設備がある住宅は234万戸(5.0%)。共同住宅で設置率が高い(46.4%)。E持ち家のうち、平成11年1月以降に耐震工事をした住宅は81万戸で、住宅全体の2.8%。