情勢の特徴 - 2005年8月後半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

●「不動産投資膚託(REIT)など不動産ファンドによるオフィスビルやマンションなどの保有が拡大している。不動産保有額は今年度中に10兆円規模に達し、3年前の約3倍になる見通し。金融機関や事業会社が不動産を手放す中で有力な買い手として定着、ファンドが再開発の担い手となるケースも出ている。大都市圏では取得競争により不動産価格が上がり、過熱感もみられる。・・・REITの不動産保有額は7月末時点で3兆円弱。上場後も物件取得が続くため、『REITの資産規模は年度内に3兆3000億−3兆5000億円に拡大しそう』(みずほ証券の石沢卓志チーフ不動産アナリスト)。海外の主要15社のファンド規模の総額は推計で3兆円強とみられる。日本の不動産に投資するファンドで最大とみられるモルガン・スタンレーの『メズレフ』は資産額が1兆円前後に達する。国内ファンドの資産規模を3兆3000億円と住信基礎研究所は見積もる。この結果、REITと国内外のファンドの合計資産規模は9兆円台半ばに達した。・・・ファンド全体では年度内に10兆円強まで拡大しそう。・・・大手不動産会社でも最近はファンドによる物件開発を積極化している。REIT 価格が7月以降、不安定な動きに転じ、投資リスクが増大していることを指摘する声もあがっている。」(『日本経済新聞』2005年8月16日付より抜粋。)
●「商業用不動産向け融資債権を元利払いの裏付けにして発行する不動産ローン担保証券(CMBS)の市場が急拡大している。4月以降の発行額はすでに 7,000億円弱と、2004年度の年間実績にほぼ並び、今年度は初めて1兆円を突破する見通しだ。不動産市況の回復を追い風に、地方金融機関などが積極的に投資を進めている。CMBSは2000年から国内での発行が本格的に始まった。不動産証券化協会によると、2004年度の発行額は7550億円と前年度に比べ24%増えた。2005年度も品川三菱ビルや、新宿住友ビルなど1000億円を超える大型案件が相次いでいる。市場拡大の背景には、投資家のすそ野が広がっていることがある。西武百貨店池袋店が近く、過去の証券化の借り換えに、耐震工事などに必要な資金を上乗せした1165億円を調達する。百貨店一店舗では過去最大の調達になる。このうち700億円強がCMBSで100社近い投資家に売却する。主幹事の野村証券は『都市銀行や生損保だけでなく、地銀や借用金庫、信用組合なども加わった』という。」(『日本経済新聞』2005年8月19日付け。)
●「東京商工リサーチがまとめた2005年7月の建設業倒産は、300件で前年同月比8.5%の減少になった。6月は増加となっていたが、再び減少に転じる結果となっている。倒産原因のうち、受注・販売不振190件、赤字累積51件、売掛金回収難8件を合わせた、『不況型』といわれるものは249件で、倒産全体の83.0%を占め、過去最悪を記録した。負債総額は、680億5000万円で、4.5%の減少になっている。中小・零細企業にとっては厳しさが続く。」(『建設通信新聞』2005年8月30日付け。)

行政の動向

●「今年6月に景観法が全面施行されたことを受け、開発規制が可能となる『景観地区』の指定に向けた動きが出てきた。・・・先行している東京・江戸川区は、 9月にも住民などと協議会を立ち上げ、本格的な協議に入る。国交省の調査では全国で114自治体が『景観地区の想定地域がある』としており、先進事例が具体化することで、景観地区指定の動きが加速する可能性もある。景観法では、『景観行政団体』に指定された自治体が『景観計画』を策定して良好な景観形成を誘導する方法と、区市町村が都市計画で『景観地区』を定め、強制力を持った形で景観形成に取り組む方法の二つが規定された。 特に、景観地区については、建築物や工作物のデザイン、色彩、高さなどに関する規制を設けることができ、景観地区内の開発には、規制に合致しているかどうか市町村長などの認定が必要になる。開発計画が周辺景観と調和しないと判断された場合は是正を命令され、是正命令に違反すれば罰金などが科せられる。」(『建設工業新聞』2005年 8月18日付けより抜粋。)
●「仙台市泉区の複合運動施設『スポパーク松森』で地震のためプール天井パネルが落下、26人が負傷した事故で、国土交通省は17日の調査の結果、現場でつり天井の揺れを抑制する部品が確認できなかったことを明らかにした。この部品がないため天井の揺れが強まり、パネル落下を招いた可能性が出てきた。」(『しんぶん赤旗』2005年8月18付けより抜粋。) その後、8月26日には、現地調査の報告書が出され、振れ止め(上記の揺れを抑制する部品)を設置しなかった施工ミスが事故の原因であることが明らかにされた(「スポパーク松森における天井落下事故調査報告」国土交通省HP掲載)。今後は、公共建築物の建設、管理・運営を民間事業者に委ねるPFI事業による契約が、このような施工ミスの発生とどのように関連しているのか、といった点を含む事故原因の総合的な分析が求められている。
●「国土交通省は、優良な民間都市開発プロジェクトに取り組む商法上のSPC(特別目的会社)に出資する『まち再生出資業務』を創設した。基金として120億円を準備し、民間都市開発推進機構(民都機構)を活用して支援する。民都機構は、民間都市開発の事業者をこれまで主にデット(負債)面から支援してきたが、よりリスクの高い出資にまで踏み込んだのは初めて。『リスクマネーを供給することで、不動産証券化の流れを加速させる』 (国交省都市・地域整備局まちづくり推進課の里見晋都市開発融資推進官)。・・・出資のおもな要件は、市町村が作成する都市再生整備計画の区域内で、まちづくり交付金事業と連携して施行することや、事業区域面積が0.5ヘクタール以上など。・・・出資の限度額は、総事業費の50%以内、出資などを受ける事業者の資本額の50%以内、公共施設や建築利便施設などの整備費用以内の中で、最も少ない金額となっている。これらの条件を満たせば、出資金額自体の上下限枠は設けておらず、大規模プロジェクトから小規模事業まで幅広く活用できる。開発する施設の用途による制限もない。」(『建設通信新聞』2005年8月19日付けより抜粋。)まちづくり交付金による社会資本整備と連動して民都機構が事業へ直接出資する制度が作られたことで、採算性の厳しい地方都市圏においても民間都市再開発事業を促進するとともに、投資リスクを国が分担することで開発型不動産証券化の流れを加速させるねらい。これで都市再生政策は市町村レベルにまで拡張されたことになり、全国で過剰な開発投資が展開されることが懸念される。
● 「東京港の物流円滑化などを目的に整備が進む東京港臨海道路(大田区城南島〜江東区若洲、延長約8.0キロ)のうち、中央防波堤外側埋め立て地から江東区若洲までの約4.6キロを整備する『東京港臨海道路U期事業』の着工式が18日、中央防波境内側埋め立て地(江東区青海)で行われた。・・・同事業では、中央防波堤外側埋め立て地と江東区若洲を全長2933メートルの『東京港臨海大橋(仮称)』で結ぶ工事を中心に、延長約4.6キロ、往復6車線(橋梁部往復4車線)の道路を整備する。・・・総事業費は1410億円。工期は02〜10年度の8年間を予定しており、完成後には1日3万5400台の通行を見込んでいる。」(『建設工業新聞』2005年8月19日付けより抜粋。)基本設計はセントラルコンサルタント、オリエントコンサルタンツ、パシフィックコンサルタンツが担当し、橋梁下部基礎工事は、清水、大林、大成、東亜、五洋、鹿島、前田、西松、ハザマなど、主な大手ゼネコンが各工区のJV幹事会社と成り施工する。破綻した臨海副都心開発を新たな物流の大動脈の建設で甦らせようとするものだが、湾岸部の大気汚染をいっそうひどくさせ、都心居住の矛盾を拡大することが懸念される。

労働関係の動向

● 「アスベスト(石綿)の健康被害問題で、厚生労働省と環境省は 24日、石綿被害を受けた従業員の家族や工場周辺の住民まで幅広く救済できる新法を制定することで合意した。労災保険制度や公害健康被害補償法(公健法)など既存の枠組みでの救済は難しいと判断した。9月末までに具体案を詰め、早ければ今秋の国会に新法案を提出し、成立を目指す。がんの一種「中皮腫」など石綿による健康被害の補償は、現状では労災保険が唯一の制度。しかし、同制度は従業員だけが対象で、作業服を洗った妻や周辺住民に被害が生じても対象に加えることはできない。」(『日本経済新聞』2005年8月25日付けより抜粋。)補償問題では新法において、中皮種のみならず、肺がん、石綿肺を含むアスベスト健康被害の全体に対応する措置が求められている。
● 「国土交通省では来年度の重点施策の筆頭に、『災害に強い国土づくり ――耐震化の促進』を掲げた。来たるべき東海地震では、建物倒壊による死者数は約 6700人、東南海・南海地震では約6600人と想定されているが、住宅・建築物の耐震改修等を進めることで、想定死者数を半減させることを目標に、来年度は各種の施策を行う。現在、耐震化が必要とされている住宅は、全住宅の約25%にあたる約1150万戸あるが、この耐震化率を3年で8割、10年で9割に静めることで死者数の半減につながると算定しており、そのために緊急・重点的に行うべき施策として、@耐震診断・改修を促進するための法制度の見直しA 地震ハザードマップの作成の推進B耐震診断・改修を支援するための制度の整備、をあげている。このうち、耐震診断.改修については、都道府県等による補助制度が広がっており、今年度からは地域住宅交付金の活用も見込まれているが、耐震診断は受けてもその先の改修にまで結びついていないのが現状だ。これをさらに促進させるために、住宅・建築物耐震改修等事業を全国展開させるとともに、特に避難路沿いの住宅等に対しては重点的に実施するように促す。また、補助金だけでなく、改修工事費の10%を税額控除する、住宅・建築物に係る耐震改修促進税制を創設して、支援を拡充する。」(『日本住宅新聞』2005年8月 25日付けより抜粋) 耐震化率の目標達成のためには、実効性のある改修促進施策の展開に必要な予算確保が求められる。
● 「労働政策審議会(労政審、厚生労働相の諮問機関)の雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会(座長・椎谷正住宅財形金融会長)は25日、建設作業員を地域の業者間で一時的に融通することを認める『建舘業務労働者就業機会確保事業』(確保事業)などの運用指針案について、記載事項を追加した上で了承した。・・・改正建雇法では、確保事業とともに、建設業団体による優良職業紹介を許可する『建設業務優良職業紹介事業』(職業紹介事業)が創設される。この日の建設労働専門委の審議では、確保事業の運用指針案のうち、建設作業員を送り出す業者の指針に、『労働・社会保険に加入していない建設作業員を送り出してはならない』と記載する一方、受け入れ業者の指針にも未加入の建設作業員を受け入れないよう明記することを決めた上で運用指針案を了承した。建雇法施行規則の改正省令案は、確保藁や職業紹介事業の実施を許可する団体と企業の要件などを規定。審議では、両事業の実施を申請できるのは『構成員が30者以上で、構成員の8割以上が建設業許可を受けている建設業者団体』とした。協同組合、事業協同組合、協同組合連合会については、構成員の3分の2以上が建設業者団体に所属していれば実施許可を申請できるとした。 優良職業紹介藁で実施団体が求人者(企業)から得る手数料については『求人申し込み1件当たり原則 670円』と設定。団体が企業に求職者を紹介し、雇用が成立した場合は、企業が求職者に支払う賃金の15%を団体が企業から受け取れるとした。」(『建設工業新聞』2005年8月26日付けより抜粋。)
● 「アスベスト(石綿)による健康不安が広がるなか、34都道府県が石綿を使った建物を一覧できる『アスベスト台帳』を作成(検討中含む)していることが日本経済新聞の調査でわかった。ただ国より厳しい条例を持つのは五都府県にとどまり、条例作りを検討しでいるのも福井、鳥取県のみ。石綿撤去を促す低利融資など支援策を導入・検討しているのは七都府県だった。・・・ただ大気汚染防止法では、解体時に届け出が必要なのは『延べ床面積500平方メートル以上、石綿吹き付け面積50平方メートル以上』の建物で、これ未満は行政の目が届かずに解体される恐れがある。このため東京、静岡、京都、兵庫、大分の五都府県が国より厳しい条例を制定。福井県と鳥取県が条例作りの検討に入った。石綿を使った建物すべての解体作業の届け出などを義務付ける方向で検討を進めている。解体時の飛散を防ぐため、自治体独自の作業マニュアル(手順)を持っているのは長野など七都府県。宮城、岐阜など八県が作成準備に入った。・・・企業に対し低利融資などで撤去費用を補助する制度を導入・検討しているのは七都府県あった。東京都江戸川区などは個人を対象にした補助制度を設けているが、個人向け制度作りにまで踏み込む都道府県はなかった。」(『日本経済新聞』2005年8月29日付けより抜粋。) 把握対象建築物の床面積、吹き付け面積基準の見直し、部材も含む全体の把握など大気汚染防止法の規定の強化、建設業者および個人向けの低利融資や補助制度の確立・拡充など、アスベスト飛散対策の徹底が求められる。

資本の動向

● 「民間建築分野におけるゼネコンの特命、設計施工一括受注がともに拡大している。日刊建設通信新聞社の調査によると、大手・準大手クラスのうち、受注比率を特命で7割、設計施工一括で6割の企業が上昇させていることがわかった。設計と営業部門の連携による提案営業の強化により、企画段階から建築プロジェクトの主導権を握る戦略が実を結びつつある。短工期などの制約条件が強まり、設計と施工を一体化した生産設計による施工の効率性が求められる背景もある。……直近決算で完工高1000億円を超える主要ゼネコンを対象に、特命と設計施工一括の業績を公表した22社受注割合を比較したところ、特命で20社中14社が、設計施工一括で19社中12社が受注比率を高めている。……民間建築市場では工場やオフィスなどを中心に短工期の要求が強まっている。設計と施工の分離受注では間に合わないケースも増え、施工効率に優位性を発揮する設計施工一括の割合も高まりつつある。」(『建設通信新聞』2005年8月23 日付け。)市場競争の激化の下、工期短縮やコスト縮減のために、大手ゼネコンは特命受注と設計施工一括受注を追求している。建設市場における特命受注や設計施工一括受注の拡大は大手ゼネコンの独占を強めるものであり、その影響が懸念される。

その他の動向