情勢の特徴 - 2005年9月前半

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 資本の動向 その他の動向

経済の動向

●「国土交通省が20日発表した2005年の基準地価(7月1日時点)は東京23区の住宅地で前年比0.5%、商業地で同0.6%それぞれ上昇した。いずれも15年ぶりのプラスで、大阪や名古屋でも上昇地点が増えた。大都市圏で地価の底入れ感が広がり、反転への流れが明確になりつつある。堅調なオフィス需要や不動産市場への投資マネーの流入などが地価上昇をけん引している。……特に目立つのが首都圏の回復ぶりだ。東京23区では千代田・港・渋谷など都心部に加え、目黒・世田谷・中野・杉並などJR山手線の外側でもエリア全体で上昇する地域が出てきた。……地方圏は住宅地が4.1%、商業地が6.1%の下落。下落幅は住宅地は8年ぶり、商業地は2年連続で縮小した。……人口流出など構造問題を抱える地方都市は、なお大幅な下落が続いている。」(『日本経済新聞』2005.9.21。)

行政の動向

●「東京都は2015年をメドに、東京湾内のコンテナ物流施設を大幅に増強する。青梅コンテナふ頭南側の埋立地に、10万トン級のコンテナ貨物船が入稿できる大規模ふ頭を新設。既存の大井、青海ふ頭も敷地を拡張する。中国を初めアジアからのコンテナ貨物の増加に対応した荷さばき能力を整え、東京港の国際競争力を高める。新ふ頭は東京湾内の中央防波堤外側の埋立地に整備する。総延長約1430メートルで青梅ふ頭とほぼ同規模。総工費は数100億円規模に上る見通し。大半の岸壁を水深15-16メートルとして現在の大井、青海両ふ頭より一回り大型のコンテナ船が着岸できるようにする。06年度中にも着工にむけ調査を始め、15年度までの完成を目指す。手狭な大井、青海両ふ頭のコンテナヤードも2割拡張し、コンテナの荷さばき効率を高める。都港湾局は『東京港のコンテナふ頭を三大拠点体制とし、外国貿易コンテナの受け入れ態勢を強化したい』という。……このほどまとめた『東京湾第七次改定港湾計画』中間報告では今後10年間で、外国貿易コンテナの年間取扱量が04年実績に比べて約37%増の460万TEU(1TEUは20フィートコンテナ換算の貨物量)に拡大すると予測している。」(『日本経済新聞』2005.09.16。)東京都は「東京構想2000」などで都市再生政策の中心を高速道路・空港・港湾などの交通基盤整備においているが、今回の東京港のコンテナふ頭の大規模な増強・作業のじん速化は国際競争力を高め取扱量を大幅に拡大することが狙いであり、物流面からも、一極集中をいっそう進めるものだ。
●「計画発表から約40年が経過した川辺川ダム建設計画(熊本県相良村)について国土交通省は…熊本県収用委員会の勧告に従い、漁業権や土地など33件の強制収用裁決申請を取り上げ」た。「同省が収容申請取り下げに追い込まれたのはダム建設の目的の一つである利水計画の策定作業が難航しているため。……同ダム計画で、国交省は漁業権の損失補償をめぐる地元漁協との任意交渉が決裂したのを受け、2001年12月に強制収用を申請。03年5月の福岡高裁判決で、利水計画が事実上無効とされて以降、農水省と地元自治体が中心となって新たな利水計画の策定を進めたが作業は難航し、収容委が今年8月、国交省に申請と利下げを勧告してい」た。……「ダム建設に反対している漁民らは、熊本県庁で記者会見し、『決断を高く評価し、歓迎する』との声明を発表し」た。「声明では、『今後、地域住民の意向に沿った利水、治水計画が策定されることを強く望む』とするとともに『今回の収容申請取り下げに当たって、ダム利水、ダム治水を前提とするような条件設定があってはならない』としてい」る。「ダム反対漁民の毛利正二さんは……『新たな視点でダムによらない治水を考えるべきで、川の掘削や拡幅、堤防強化などやるべきことはたくさんある』と話した。漁民側の代理人坂井優弁護士は『ダムと利水を結びつけるやり方が間違っている。新利水計画でもダムによらない案の方が3、4年早い。ダム案は今後どうなるかまったくわからなくなった。水に色はついていない。ダムでなければならない理由は農家にはない。』」と語った。(『しんぶん赤旗新聞』2005.09.16。)
●「国交省と東京都は…東京外かく環状道路(外環道)のうち、建設計画が約35年間凍結されたままの関越道〜東名高速(東京都練馬区〜世田谷区)約16 キロについて、建設計画の変更案を発表した。66年に都市計画決定された計画ルートを基本に、大深度地下空間を極力活用して整備。関越道、中央道、東名高速の各高速道路とジャンクション(JCT)で接続させ、目白通り(都道8号線)、青梅街道(同4号線)、東八道路(同14号線)との交差部にインターチェンジを設ける。国交省と都は、変更案に対する地元自治体や住民の意見を踏まえ、事業家に向けた検討を加速させる。……関越道〜東名高速間は、事業主体が決まっていない。事業費を交通料収入だけで返済する有料道路方針による施工は難しいとして、国と地方が建設費を負担する『新直轄方式』の採用を求める声が強い。ただ、新直轄方式で整備された路線は無料通行が原則となることから、有料道路方式と新直轄方式を組み合わせた合併施工方式有力視されている。関越道〜東名高速間は、66年の都市計画決定の際、高架構造で計画されたが、沿線住民との協議が難航し、以降計画が凍結されている。国交省と都は計画の再開に向け、01年4月に地下ルートをベースとする『計画のたたき台』を提示していた。」(『建設工業新聞』2005.09.20。)大深度地下空間の活用は、用地買収や近隣住民の合意なしに高速道路を建設できる手法として選択・検討されてきた。しかしそもそも、これ以上高速道路建設をすすめることについての国民合意が無い上に、首都圏への一極集中をいっそう促進することになる外環道建設を、国と東京都の財政投入によって強行しようとすること自体が問題である。高架方式に比べて工事費用が割高となる点(本計画による外環道工事費用は1兆200億円――東京外かく環状道路の計画に関する技術専門委員会「外環の必要性検討における技術的視点からの評価」平成17年9月)や地下水脈をはじめとする環境面への影響が不明である点(「臨時大深度地下利用調査会答申」平成10 年5月27日)、また地震などの災害や交通事故の際における対応など、検討・考慮すべき事項は多く、大深度地下空間の利用という新たな手法を採用して、採算の取れない高速道路整備を継続しようという国土交通省と都の姿勢は改められるべきだ。
●「東京都と関係区市町村は、今後5年間の住宅整備事業の概要などを示す『東京都地域住宅計画』を策定した。先の通常国会で成立した『地域おける多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法』 (公的賃貸住宅特措法)に基づき、地域活用交付金を活用して進める住宅整備事業の概要と、『バリアフリー化住宅の割合』など事業推進の数値目標を明示。公営住宅の建設やストック改善など基幹事業に合計1561億 3100万円を投じる計画を立てている。……公的賃貸住宅特措法に基づく地域住宅交付金は、公的賃貸住宅を整備する自治体が社会福祉施設や都市基盤の整備、ソフト施策などを一体的に進められるようにするため、これまでの補助金に代わって創設した支援制度。国の基本方針に従い地域住宅計画を策定すれば、最大45%の交付金が受けられる。本年度の予算額は850億円。都市基盤整備は、道路や公園、広場、下水道、緑地、河川などが対象になる。」(『建設工業新聞』2005.09.21。) 
●「新中央図書館等公益施設整備の事業手法にPFI導入を検討してきた神奈川県横須賀市は……、市議会にPFI導入断念を報告した。直接建設とPFIを比較検証した結果、 図書館事業のサービス水準低下や、運営面での市の負担増が懸念されることから、PFIの採用を見送った。ただし、人件費でコスト削減の可能性があるため、直営事業手法 とともにPFI以外の民間活力導入を検討する。市は今年度内に最終案をまとめる。」(『建設通信新聞』2005.09.27。) 
●「国土交通省、東京都、首都高速道路公団は、首都公団が計画中の首都高速道路中央環状品川線について、公団民営化で 10月1日に発足する新会社『首都高速道路株式会社』と国、都の3者による協力事業として整備を進める方針で一致した。建設事業は、都の街路事業と、新会社による有料道路事業の合併施行方式で進め、国は2者を支援する立場となる。新会社は有料道路事業の事業認可を06年度中に申請する見通し。事業は13年度の完成を目指す。品川線は、東京都品川区〜目黒区に至る延長約9.4キロの地下路線。首都高速中央環状線の南側部分を構成し、政府の都市再生プロジェクトに位置付けられている。 ただ、建設事業費は約4250億円と見込まれ、通行料収入で事業費を返済する有料道路事業方式だけでは、巨額の事業費を返済するのは困難な状況。一部区間は既に都が用地取得を始めているが、道路4公団民営化の影響で事業主体も決まっていない。事業費は、新会社と国・都がそれぞれ約2000億円強ずつ負担する案を軸に調整する。」(『建設工業新聞』2005.09.27。) 国・都の財政投入による赤字路線の建設強行は問題である。さらに、中央環状品川線は、地下路線で計画されているが、基点の大井ジャンクション付近から掘り進めて大深度(地下40m)で目黒川の真下をすすみ、 JR大崎駅付近以降は目黒川に沿ってすすむ。河川直下における道路施工という点から、費用面や環境・安全面における計画の適切性に対する懸念も大きい。
●「政府の中央防災会議……は……、大地震の発生に備えて建築物の耐震化を全国規模で強力に推進するための『緊急対策方針』をまとめた。建築物全般、住宅、公共施設のそれぞれについて、耐震化の促進策を提示。低コストの耐震診断・改修方法の開発を支援したり、公共施設行耐震性リストを作成したりすることを打ち出している。」(『建設工業新聞』2005.09.28。)
●「小泉純一郎首相が道路整備に充てている道路特定財源の年内見直しを指示したことで、基本方針策定に向けた関係省庁の綱引きが活発になってきた。財務省は道路予算の一段の縮小を狙って使途を限定しない一般財源化を主張。国土交通省は現状維持を模索するなど各省の利害は交錯しており、抜本見直しの青写真は見えない。道路特定財源は揮発油税、自動車重量税、石油ガス税などで構成。国だけで3兆5000億円、地方を合わせれば5兆7000億円に上り、これを一般財源化すれば、実質的な歳入増は消費税率の2%超引き上げに相当する。さらに道路予算も減らせば、膨張する社会保障費などに振り向けられるとの思惑がある。」(『日本経済新聞』2005.9.30。)

労働関係の動向

●「アスベスト(石綿)による健康被害の拡大を受け、都道府県で建築物解体時の規模要件を撤廃するなど、条例見直しの動きが加速している。環境省によると、大阪や福井など7府県が条例改正による規模要件の撤廃を予定しており、解体時の届け出規制の対象となる特定建築材料の追加などを検討している。静岡、兵庫の両県では規模要件をすでに撤廃しているほか、石川、福井など4府県が特定建築材料の追加を検討している。届け出の規模要件をすでに撤廃しているのは、静岡と兵庫の2県。兵庫県は、特定建築材料として保温材を追加するとともに、10月1日からは解体作業などを実施する際に、標識を掲示すること義務化している。規模要件を撤廃する予定があるのは石川、福井、京都、大阪、鳥取、徳島、大分の7府県で、京都、徳島、大分を除く4府県ではアスベストを含有する保温材などを特定建築材料に追加する方針だ。また、現行条例で、吹き付けアスベストを15平方メートル以上使っている建築物の解体時に届け出を義務付けるなど、大気汚染防止法より厳しい基準を設定している東京都も、条例見直しに向けた検討を進めている。」(『建設通信新聞』2005.09.20。)
●「石綿肺がんについては死亡統計がなく、NPO法人『職業性疾患・疫学リサーチセンター』理事長の海老原勇医師が推計値を算定し」た。「海老原医師が、建設関係の労働組合員7317人の死亡原因を調べたところ肺がんについては一般人より、1.22倍高いことがわか」った。「建設作業者の肺がんは、ほとんどのケースで石綿を吸いこんだ証拠の胸膜肥厚斑が認められるため、肺がんを石綿肺がんとみなして計算し」た。「男性全体の肺がん死亡者数は03年の統計で4万1634人で、人口10万人当たりの死亡率は66.8人。建設作業者は退職者を含めると約1000万人なので、 6680人が死亡している計算……。この数字を1.22倍した8150人が石綿肺がんの死亡者数と推計し」た。「石綿被害者の労災による救済に取り阻んできた神奈川県建設労連の佐瀬新意(しんい)・書記次長は『私たちの取り阻みでも中皮腫より石綿肺がんの認定数がはるかに多い。マスコミの報道をみていると診断のつきやすい中皮歴ばかりが注目されるが、その半面はるかに多数の石綿肺がんが見落とされている。石綿関連企業も中皮腫は公表しても肺がんの死亡例は公表してない。』と指摘してい」る。(『しんぶん赤旗』2005.9.26。)
●「政府・与党が27日固めたアスベスト(石綿)の健康被害を救済する新法の骨格では、労災補償など既存の枠組みでは救えない石綿関連工場の周辺住民や従業員の家族を対象とすることを明記した。細田博之官房長官は国による補償財源の議負担を言明した。しかし救済対象となる患者の凝引きなどの具体的内容はこれから。財源には基金案も浮上しているが、詰まっていない。骨格では『石綿が原因である疾病の人』を救済対象にした定とで、職業や居住地域の制限がない、『すき間のない仕組み』を明確にもた。ただ石綿が発落涙因と特定するには課題もある。がんの一種の中皮腫の梶患(りかん)愚者は8割以上が石綿が原因とされ、原則的に救済する。しかし、石綿を少量吸っても発症する可能性がある肺がんについては、他の原因との関連も深く、石綿が原因か証明するのは難しい。肺に胸膜肥厚斑(ひこうはん)という症状があれば石綿が原因の可能性が高いが、特定はできないという。特に問題となるのはたばこを吸って肺がんになった場合。喫煙者が石綿を吸い込めば、肺がん発症率は10倍に高まるという。……救済金の財源問題も重い凝題だが、骨格では依然『検討中』。……皮腫による死者は10万人との予測がある。補償額を公害健康被害補償法による遺族補償並みの1人1000万円とすると、全体の必要額は最大1兆円との試算もある。」(『日本経済新聞』2005.09.28。)
●「政府は……自衛官を除く国家公務員の定数を2009年度までの5年間で1割削減するとして、各府省ごとの目標数を定めた定員削減計画の内容を固め」た。「06年度からの4年間の目標は2万7681人で、今年度分(5549人)を合わせると3万3230人の削減」となる。「計画では、府省を越えた定員の再配置を進めるとし、地方支部部局の事務・事業の見直しを掲げ」る。「06年度から4年間の削減目標は、厚生労働省 5698人、国土交通省5289人などとすること」にしている。(『しんぶん赤旗新聞』2005.9.29。) 政府は、行政の民間開放として指定管理者制度や「市場化テスト」(官民競争入札)の導入・拡大をすすめ、それらをテコに、国家公務員定数の削減をいっそう展開しようとしている。その最大の標的が厚生労働省と国土交通省である。国土交通省では、職員2万3千人の2割を超える削減目標が示されており、建築物の品質・安全確保、震災・災害対策、アスベスト対策など、課題が山積みとなるなかで、建設行政のいっそうの空洞化が懸念される。

資本の動向

その他の動向