情勢の特徴 - 2005年10月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「総務省は来年度から都道府県や市町村が税などの収入のどれだけを借金返済に充てているかの指標をつくり、債務負担の重い自治体の地方債発行(起債)を抑える制度を導入する。財源に対する地方債返済額の割合に応じて自治体を3グループに分け、財政が良好なら自由な起債を認め、数値が悪いと制限する。……総務省は全国約2000の自治体ごとに機械的に算出した数値で、自由な起債を認めるかどうか判断する。設けるのは「実質公債費比率(仮称)」で、自治体の債務負担がどのくらい歳入を圧迫しているかを明らかにする。この比率は自治体が毎年返す借金の負担額を税収などの財源で割って出す。借金には地方債の返済費や返済に備える積立金などを含める。来秋には全自治体の確定値をそろえる。……現在も借金負担が一定水準を超えると起債を制限する仕組みがあるが、新指標では借金に当たる額を幅広くし、より厳格に選別する。……地方交付税の抑制は避けられず、地方債も政府系金融機関の統廃合による融資縮小、郵政民営化に伴う郵貯資金の流入減が確実。自治体を取り巻く環境は厳しさを増している。」(『日本経済新聞』2005.10.9。)

行政・公共事業・民営化

●「日本道路公団など道路関係4公団の民営化が1日スタートした。高速道路を建設、管理する6つの新会社と公団の資産と債務を引き継ぐ独立行政法人『道路保有・債務返済機構』が発足した。……6つの新会社は日本道路公団を地域別に3分割した東日本・中日本・西日本の各高速道路会社に加え、首都高速・阪神高速・本州四国連絡橋の各公団を引き継いだ3社。約40兆円の債務は新設した機構が引き継ぎ、6つの新会社が払う道路のリース料などを原資に45年以内に返済し、高速道路の無料開放をめざす。各社のトップにはいずれも民間企業の出身者が就任した。新会社は物流拠点整備やサービスエリアの運営など関連事業も展開する考えで、将来的には株式上場が目標になる。……新規路線の建設区間や新たな料金体系は今後4ヵ月以内をメドに新会社、機構、国土交通省の3者が協議して決める。 ただ、民営化会社の株式は当初、国や地方自治体が100%保有し、新会社に強い影響力を持つ見通しで、新規路線の建設は続く可能性が大きい。」(『日本経済新聞』2005.10.01。)
●「首都圏の台所として機能している築地市場(東京都中央区築地)を江東区豊洲に移転し、新しい中央卸売市場(豊洲新市場)を整備する実施計画がまとまった。新しい市場づくりでは、民間の創意工夫や活力を生かすため、PFI方式の導入が検討されるなど、行政と民間の連携による事業推進が計画されている。新市場の整備は、総事業費が1300億円にも達すると言われる。東京都は早ければ12年度中の開業に向け、市場関係者などとともに計画具体化に取り組む。……PFI事業の特定や事業者の公募などを経て、07年度中に事業契約を結んで施設設計に着手。これに合わせるため、環境影響評価(環境アセス)や都市計画の手続きも進める。工事期間は07年度末〜11年度の約4年間を見込んでいる。……豊洲新市場は、「市民に開かれた卸売市場」を目指し、6.5街区に一般来場を受け入れる集客施設(千客万来施設)が整備される。食文化の継承や新しい観光産業の創出などの要素を取り入れる考えで、施設整備は民間開発事業に委ねる計画を立てている。来場者の動線を確保するため、新都市交通・ゆりかもめの新駅(市場前駅)を中心に、市場機能と重層化して施設を集約配置。」(『建設工業新聞』2005.10.4。) 中央卸売市場の豊洲移転問題では、築地市場周辺の住民を中心に反対の声があり、中央区も反対していたが、東京都は強力に移転計画を具体化してきた。環状二号線の延伸と跡地の売却による民間再開発事業の促進が最大の狙いであるが、あわせて、移転先の豊洲新市場の整備にも1300億円を投じ、PFI方式による集客施設の併設等を通じ、民間大企業に収益機会を提供しようとしている。環状二号線延伸、跡地の再開発事業および新市場整備に伴う大規模プロジェクトは、東京臨海地域の環境破壊をいっそうひどくし、都心居住との矛盾を拡大することが懸念される。
●「政府は公共サービスの担い手に官民どちらがふさわしいかを競う市場化テストを増やす制度改革に着手する。民間が受託した場合、担当する公務員が円滑に再就職や出向できる仕組みにする方向で調整に入った。……公務員は国家公務員法と人事院規則で、退職前の担当業務に密接に関係する企業への再就職を一定期間禁じられている。……このため、市場化テストで民間が受託しても担当公務員がそこで働くことができなかった。……企業にとってもノウハウを持つ担当者の受け入れには利点がある。ただ効率的な運営を考え、担当部隊の一部だけを雇用する可能性が大きい。」(『日本経済新聞』2005.10.5。) 政府は、市場化テストを大規模に実施しようとしているが、市場化テストで民間が選ばれれば、担当職員の意向に関わらず、解雇ないしは配置転換が行われることにならざるを得ず、公務員のスト権の制限とも矛盾する大問題だ。今回の措置により、市場化テストに参加する企業は、担当公務員の転職を前提に、賃金・労働条件の切り下げ、雇用人員の削減を通じて、利益を追求することが可能になる。
●「国土交通省は、入札談合の再発防止に向け、予定価格2億円未満の工事に新たな工事希望型指名競争入札を導入する。現行は登録業者の中から10−20社を仮指名後、提出された技術資料を審査の上、10社以内に指名業者を絞り込んでいるが、新たな方式では、仮指名後、条件を満たしていればすべての業者を指名する。指名業者数を増やすことで競争性を高めるのがねらいで、予定価格1億円未満で実施している通常の指名競争入札は、とくに小規模な工事や災害など緊急を要する工事に限定する。国交省では、一般競争入札と総合評価方式の拡大と合わせ、7日付で地方整備局に通知した。 14日以降に入札手続きを開始する工事から適用する。……2億円以上7億3000万円未満の工事に導入する一般競争入札は、対象がB、Cランク企業まで広がることに配慮し、工事成績や等級、地域要件といった条件を付けた一般競争入札を導入する。履行保証割合も現行の一般競争入札が契約額の3割となっているのに対し、1割に設定した。」(『建設通信新聞』2005.10.11。)

労働・福祉

● 総務省が30日に発表した8月の労働力調査(速報)によると、完全失業率(季節調整値)は4.3%となり、前月と比べて0.1ポイント改善した。男性は 4.4%で0.1ポイントの改善、女性は4.2%で同じく0.1ポイントの改善だった。完全失業者数は284万人で、前年同月にくらべ30万人の減少で、 27ヵ月連続の減少だった。完全失業率を年齢別にみると、15歳から24歳までの若年層は8.5%で、前月に比べて0.2ポイント悪化。若年層の失業率は依然として高水準である。就業者数は前年同月と比べ10万人増加し、6415万人。農林業、建設業、卸売・小売業、飲食店・宿泊業で減少し、運輸業、医療・福祉、サービス業で増えている。製造業に増減はなかった。就業時間別で見ると、週35時間未満の従業者が10万人(0.7%)増加し、1530万人となる一方、正規社員を含む35時間以上の従業者は4 万人(0.8%)減少して4713万人となっている。短時間労働者の増加で、完全失業率の「改善」がすすんでいる。8月の有効求人倍率を都道府県別(表)にみると、香川県が0.07ポイント低下するなど12県で低下(悪化)。北海道、東北、九州で厳しい雇用情勢が続いている。(『しんぶん赤旗』 2005.10.1より。)
●「環境省は5日、アスベスト(石綿)新法の救済対象となる石綿関連工場の周辺住民や従業員の家族などの中皮腫患者数が約3万人になるとの試算結果をまとめた。年内に医療費や療養手当などの救済金の給付水準を決めた上で財源の規模を確定し、来年の通常国会に法案を提出する方針だ。……同省は欧米の事例などを参考に、石綿使用量170トンにつき一人が中皮腫を発症すると仮定して患者数を試算した。日本は石綿のほぼ全量を輸入しており、1949年以降の石綿輸入量は、使用・製造が原則禁止された2004年までに合計で約960万トンにのぼる。この数字をもとに患者数を6万人弱と推定した。……環境省は今後、労災認定される人の割合が推定患者数の半数まで増えると見込んで、残り半数の3万人弱を新法の救済対象とする方針を固めた。…… 救済金は国と石綿関連企業などが拠出することになっているが、国と企業の負担割合は今後検討する。救済金を徴収する企業の業種や負担額についても早急に詰める。」(『日本経済新聞』2005.10.6。)環境省の今回の試算では、中皮腫患者を約6万人と推定しているが、東京都などの労災認定者数から、肺がん患者数は中皮腫患者数を大きく上回ると考えられる。少なくとも10数万人から20万人の患者に対応できる財政的準備が政府に求められている。
●「アスベスト(石綿)の吸引が主な原因とされるがん「中皮腫」による昨年1年間の死者数が953人だったことが7日、厚生労働省の人口動態統計(確定数)で分かった。前年より75人増え過去最多。95年の死者500人から10年でほぼ倍増し、患者の急増ぶりを裏付けた。……統計を取り始めた1995年から 2004年までの10年間の死者数は計7013人。……04年度の中皮腫の労災認定者は127人で、10年間の累計も401人にとどまっている。」(『日本経済新聞』2005.10.8。)
●「国交通省は、アスベスト(石綿)による健康被害の拡大を防ぐため、飛散の恐れがある石綿含有建材の使用を規制する方向で建築基準法を改正する方針を固めた。同法が改正されれば、石綿含有建材を用いている既存建築物は『既存不適格建築物』となり、増改築時などに建築主は石綿への対策を迫られることになる。……今年6月の改正建築基準法の施行により、危険度の高い建築物に対して行政が勧告・是正命令を行えるようになったことから、石綿建材を規制対象に加えることで、石綿の飛散の恐れがある建物への行政措置が可能になる。」(『建設工業新聞』2005.10.12。)

建設産業・経営

● 「国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会は9月12日、住宅建設計画法を見直して、『新たな住宅政策に対応した制度的枠組みについて』検討した結果を答申としてまとめた。これによって、今後は従来の住宅建設計画法に代わる住宅基本法制定の検討が始まる。……施策の展開に当たっては、(1)市場を重視し、消費者利益を確保(2)良質な既存ストックを適切に維持管理し、円滑に流通(3)福祉、まちづくり等の分野と連携(4)地域住宅・NPO・専門家等と連携し、きめ細かい施策展開(5)住宅関連産業を健全に発展(6)統計調査を充実、を基本的視点にして、@市場重視型の住宅ローンの整備 A中古住宅流通・住宅リフォーム市場、賃貸住宅市場、マンション市場の整備 B賃貸住宅全体のセーフティネット機能を向上 C市街地における居住環境整備、を重点施策としてあげている。」(『日本住宅新聞』2005.9.25。)政府は、戦後の住宅政策の3本柱であった住宅金融公庫、公営住宅、公団住宅について見直し、住宅供給の市場化・民活化をすすめてきたが、今回、住宅基本法の制定が答申に盛り込まれた。住宅基本法については、経団連・住団連などが制定を求めており、耐火化・耐震化のために木造密集市街地を強制的更新(クリアランス)を図ることが、そのひとつの柱となっている。経団連・住団連などは住宅は社会資産であるとして、強制的更新を正当化しようとしているが、ディベロッパーやハウスメーカーの住宅市場開拓を目的としていることは明らかである。

まちづくり・住宅・不動産・環境

その他