情勢の特徴 - 2005年11月前半
●「財務省は1日、特別会計の改革に向け、民営化や統合など三つの基準量別提にする再編案を固めた。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で個別の見直し策を詰めるが、現在31ある特会を半減できるとみている。特会には一般会計歳出の六割にあたる50兆円近い資金が投入されており、国の歳出が減らない一因。財政再建に向けた改革第一弾と位置づけ、各省庁の対応を促す。……財務省は特会が手がける事業について@国が行う必要がなければ独立行政法人化か民営化するA国が行う必要があるものは特会を廃止して一般会計に吸収するB特会を残す場合は他の特会と統合する――三つの選択肢で検討を進める。 財制審の特会小委員会がこの三基準に従って11月中旬に個別の特会ごとの見直し案をまとめる。与党も特会改革の具体策を検討しており、政府・与党が連携して31ある特会すべてについての今後5年間の工程表を年内にも策定する。」(『日本経済新聞』2005.11.02。)郵政民営化法の成立を受け、政府の行財政改革は、特別会計全体の改革に大きく踏み込むことになった。特別会計の改革にあたっては、資金の流れの全体を明らかとして、税金がどこに投入されてきたのか、歪みはどこにあるのかを把握し、改革の方向を国民的に検討する必要がある。その上で、3つの選択肢の振り分けにすすむべきだ。
●「財務省は道路整備に充てる道路特定財源の見直しを段階的に実施する方向で検討に入った。2006年度予算では環境対策などへの使途の拡大にとどめ、使途を定めない一般財源化の結論は来年に先送りする。一般財源化する場合も07年度以降、暫定税率を維持したうえで段階的に進める方向だ。小泉純一郎首相が退任時期としている来年9月までに見直しの道筋をつける内容とはいえず、調整が難航する可能性もある。……〇七年度からは余剰分の大半を充ててきた旧本州四国連絡橋公団の債務処理が終了、少なくとも4500億円の余剰が発生する。財務省は国土交通省や族議員の反対も踏まえ、余剰が生まれる07年度に向け、来年に結論を出す方針だ。07年度以降については一般財源化する案と一般財源化ではなく使途をさらに拡大する案とが浮上している。……一般財源化しない場合には、公共事業の枠内で使途を広げる案を検討している。道路特定財源を管理する道路整備特別会計を港湾整備や治水など他の公共事業関係特会と統合。『公共事業特定財源』(仮称)に衣替えし、他の目的にも使えるようにする構想だ。」(『日本経済新聞』 2005.11.03。)
●「束京都06年度予算要求 公共事業関連は都市再生など重点 首都高品川線に78億円 東京都財務局が9日公表した 06年度の予算要求状況によると、各部局は公共事業関連として、都市再生の推進や防災・耐震対策の充実、都市環境の改善などに予算の重点配分を求めている。都市整備局は、渋谷地区都市基盤整備計画策定調査の実施や木造住宅を対象とした耐震化助成制度の創設などを要求。建設局は、首都高速中央環状品川線の整備促進、橋梁の耐荷力向上、中小河川の浸水被害対策緊急整備事業の実施などを重点事業に位置付けている。主要部局の予算要求額を見ると、景気回復による税収増などでマイナスシーリングが24年ぶりに回避されたことを受け、各部局とも本年度を上回る予算を要求している。都市整備局は一般歳出として都市整備費に2500億円を要求。……都市再開発事業費は、北新宿に約43億円、環状2号緑地区に約119億円、大橋地区には約24億円の予算を要求。……建設局の一般会計予算の内訳は▽道路街路整備2126億円▽橋梁整備136億円▽道路補修174億円▽交通安全156億円▽中小河川改修233億円▽都市公園整備340億円−など。来年度の着工を目指している品川線に78億円を要求し用地買収費などに充てるほか、幹線道路整備(1086億円)として、放射5号線(杉並区)や環状第5の1号線(渋谷区ほか)など57路線105カ所の整備を計画している。」(『建設工業新聞』2005.11.11。) これまで巨額の建設投資を行ってきた東京都も今後維持コストの増大が予想される。新規建設の抑制と維持管理への重点の転換、また、民間住宅の耐震補修・改修のための助成など東京都においても公共事業政策の転換が急務となっている。
●「道路や港湾など社会資本の高齢化≠ェ進み、施設の補修・管理や更新にあてる維持コストが膨らんでいる。国土交通省の推計によると、2004年度は5兆1000億円程度だったが30年度には10兆円を超える。高度経済成長期につくった社会資本が40−50年の耐用年数に達し、管理の手間や補修の費用が膨らむほか、新たに造り替える費用も5倍超に増える。国交省は管理コストの抑制や利用が少ない設備の更新をやめる検討に入った。……道路・港湾・空港・公共賃貸住宅・下水道・都市公園・治水・海岸の8分野について推計したところ、04年度では補修・管理費が3兆9000 億円、耐用年数が過ぎた設備の更新費は7300億円、災害復旧費が4700億円だった。今後10年で耐用年数を過ぎる施設が急増し、更新コストがほぼ倍増。公共事業の予算が横ばいと仮定しても22年度には維持コストが新規投資額を上回る。維持コストが総投資額に占める割合は現在の約33%から、30年度には66%にまで達する見込みだ。……道路では除草や清掃などの日常的な管理コストを削減する。03年度から5年間で3割の削減を目指しており、沿道の住民らに管理を安く請け負ってもらう制度なども検討している。……国交省は都市部の環状道路など『今後も必要な新規投資は残る』としており、コスト削減だけでは必要な費用を捻出(ねんしゅつ)できない。08年度から始まる次期社会資本整備重点計画では、一部インフラの更新をあきらめることも視野に、新規投資以外でも『選択と集中』を進める。」(『日本経済新聞』2005.11.04。)公共事業予算を削減していく一方で、環状道路建設など新規投資をすすめていくという現在の政府の公共事業政策は、今後、道路・港湾・河川の維持コストが累増していく中で、地方のインフラ更新を放棄することに帰結することが明らかとなった。新規投資の抑制と維持管理への政策的重点の転換が急務となっている。
●「国土交通省は4日、中心市街地活性化に向けた建築規制の在り方を、社会資本整備審議会(国土交通相の諮問機関)建築分科会の『市街地の再編に対応した建築物整備部会』(部会長・小林重敬横浜国大大学院教授)に提示した。用途地域ごとに定めている用途制限を見直し、大規模商業施設などの郊外立地に対する規制を強化することが柱となっている。部会では12月2日に開く次回会合で報告をまとめ、パブリックコメントを募った後、建築分科会に諮る。国交省は、この報告を踏まえ、来年の通常国会に建築基準法改正案を提出する。……同省では、経済産業省が中心となって改正を検討している中心市街地活性化法の枠組みに『居住』という概念を盛り込む方針で、中心市街地活性化法、都市計画法、建築基準法の3つの改正案を来年の通常国会に提出し、拡散型都市構造を防ぎ、利便性の高い市街地を形成していく。」(『建設通信新聞』2005.11.07。) 規制緩和による大規模商業施設の郊外立地は、駅前商店街の衰退など地方中心市街地の空洞化を促進してきた。今回検討されている建築基準法改正は、大規模商業施設の郊外立地への規制強化という積極的な内容を含んでいるが、一方、中心市街地活性化を『居住』によって促進するという政策スタンスは、商業地域における高層マンション建設の促進などにより、日照紛争など新たな問題を引き起こしかねないことが懸念される。
● 昨年12月に起きたインドネシア・スマトラ島沖地震で、津波により多数の死者が出たことなどを受け、会計検査院は北海道から沖縄県まで海岸地域の津波や地震対策について調査。全体の約25%で堤防の高さが不足していたり、耐震性が十分でなかったりするなど、対策が進んでいないことが、9日までに分かった。国土交通、農林水産両省の所管する18道県を調べたところ、津波が想定される海岸延長6061キロのうち、約25%に当たる1493キロで、堤防や護岸の高さが、想定される津波高に及ばなかった。また、東海地震と東南海、南海地震の被害が予想される地域は、全体の 33-38%で堤防などの高さが不足、その他の地域より対策が遅れていた。……また、堤防、護岸の延長4877キロのうち、耐震性が確保されているのは全体の16%に過ぎなかった。耐震工事が必要なのは4%、耐震性の調査をしていない個所は79%に上った。一方、津波による浸水被害の分布をまとめたハザードマップを作成し、住民に配布しているのは、37都道府県の792市町村のうち、19%のみ。防災無線なども未整備が多数あった。(『しんぶん赤旗』 2005.11.25より抜粋。)
●「国土交通省は14日、2004年度に談合情報や談合疑義事実が10機関49部局合計で223件あったことを明らかにした。03年度に比べて71件増えており、同省が談合など不正防止の観点から、工事内訳書提出対象案件を拡大したことが、効果的に働いていることをうかがわせる結果となった。各部局別の件数は、地方整備局など(港湾空港関係を除く)が82件(前年度比43件増)、地方整備局(港湾空港関係)が5件(4件増)、北海道開発局が34件(22件増)、航空局、地方航空局が2件(1件増)で、地方運輸局、気象庁、海上保安庁はゼロ件だった。同省では談合など不正行為防止の観点から、工事費内訳書提出対象案件を拡大しており、05年2月から一般、公募型、工事希望型のすべてで工事内訳書の提出を義務付け、通常指名は2割以上を対象とした。」(『建設通信新聞』2005.11.15。)
●「日本建築学会は、ゼネコンの建築施工系現場技術者の雇用実態を調査したアンケートの結果をまとめた。現場技術者に占める新卒、中途、契約・派遣の社員構成を調査したもので、回答したゼネコンは9社。それによると、各社が05年に中途採用した建築施工系技術社員の総数は86人で、01年に比べ中途採用数が5倍近くに増えていることがわかった。ゼネコン各社はここ数年、リストラで人員削減を進めてきた。景気好転による受注増や、リニューアルなどの小口工事の増加を受け、現場技術者不足への対応を迫られている様子が浮き彫りになっている。……9社合計の05年度の新卒採用者数は407人。新卒採用数が400人を超えたのは6年ぶりで、年間の採用数が平均で450人を超えていた99年以前の状態に戻りつつある。……人員採用全体に占める中途採用の比率は、00、01年が10分の1程度だったのに対し、04年は約5分の1、05年は約6分の1となっている。建築系施工技術者の総数(回答したのは8社)1万2925人のうち契約・派遣社員の数は1819人で、約14.1%を占めた。派遣会社からプロジェクト単位や期間指定で必要な人材を確保しているほか、協力会社から出向者を求め、要員不足を補っているという。ここ数年は苦しい経営環境を強いられ、社員のリストラを進めてきたゼネコン各社。ここにきて景気の好転に伴う民間企業の設備投資や、首都圏のマンション需要が活発化し、事業量も堅調に推移する。同時に1件当たりの工事は小口化する傾向にあり、建築の現場で働く技術者は不足気味になっている。50代後半の団塊の世代の社員が大量に屠年退職する時期が07年に迫っていることもあり、即戦力として中途者や契約・派遣社員などの採用に踏み切るケースが増えている様子も見て取れる。」(『建設工業新聞』2005.11.10。)
●「大手不動産四社の2005年9月中間連結決算が10日出そろった。オフィスビル賃料の上昇や空室率の低下が寄与し、この日決算を発表した三菱地所、住友不動産をはじめ4社とも経常利益は最高を更新した。下期でも依然として賃料は強含み、適期でも経常最高益になる見込み。各社とも年間配当を1−3円増やす方針だ。菱地所の売上高は17%増えた。主力の丸の内地区のオフィスビル空室率が0.8%と前年同期に比べ4ポイント改善し、『バブル期以来の1%割れ』(飯塚延幸副社長)になり、ビル事業は4%増収。住宅事業はマンションの上期引き渡し件数の増加が200億円の増収要因となり、増収効果が利益を押し上げた。住友不は賃料収入が増えたが、マンションの売り上げが下期に集中するため、4%の減収。半面、全体の粗利益率上昇に加え、金融収支が15億円改善した結果、経常最高益を確保できた。『下期も賃料の上昇傾向は続く』(鶴田哲郎専務)三井不動産、東急不動産ともに貸賃事業が拡大した。三井不では虎ノ門琴平タワー(東京・港)など新規ビルの稼働も貢献したほか、投資家向けのマンション販売も好調だった。」(『日本経済新聞』2005.11.11。)今回の「景気回復」は、とりわけ大手ディベロッパーや大手ゼネコンに顕著に現れており、彼らが、構造改革や都市再生政策の恩恵に大いに預かっていることが明らかである。一方、アスベスト問題や耐震構造計算偽装事件に見られるように、これまでのディベロッパー・ゼネコン主導によるオフィス・マンション等の開発の歪みが大きく現れている。彼らの利益のための社会的損失の重大性が改めて問われている。
●「東京商工リサーチがまとめた2005年度上期の建設業倒産は、1886件で前年同月比7.2%の減少となり、これで5年連続してマイナスを記録した。負債総額は4984億7300万円で4・3%の減少になっている。受注・販売不振が1201件、赤字累積が230件、売掛金回収難が28件で、この不況型倒産は全体の78.4%を占める結果となった。また、資本金階層別にみても、1億円未満が1848件と、圧倒的に中小・零細企業に集中している。」(『建設通信新聞』2005.11.02。)
●「東京商工リサーチがまとめた2005年9月の建設業倒産は、289件で前年同月比10.2%の減少となった。減少が続いていたなかで8月に増加となったものの、今回、再び減少に転じた。ことし4回目となる300件台割れともなっている。受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難を合わせた不況型倒産が234件と、全体の80.9%を占める結果となった。また、資本金1億円未満が286件となっており、中小・零細規模の企業の倒産がそのほとんどを占めている。」(『建設通信新聞』2005.11.08。)景気回復の下で、建設業倒産も減少が続いてはいるが、中小・零細業者の不況型倒産は、月200件を越えており、中小・零細業者の苦境は引き続いている。
●「建設機械大手5社(日立建機 新キャタピラー三菱 コベルコ建機 住友建機)の05年9月中間期の連結決済が10 日出そろった。国内市場が県庁だったのに加え、海外需要も好調を維持したことから全社が売り上げを伸ばした。中でも鉱山向け大型機械を扱うコマツと日立建機は、利益が大幅に増加。これまで取り組んできたコスト削減や売価アップも効果を発揮し、鋼材やタイヤなど材料価格高騰による生産コストの上昇分をほぼ吸収した。各社は海外需要が今後も拡大すると見て、通気では売上高、利益ともに過去最高水準を目指す。中間期の海外需要は、昨年、金融引き締めの影響を受けて大幅に音誉田中国市場が復調傾向となり、すべての地域で拡大した。一方、公共投資の縮減が続く国内市場も、災害復旧工事や民間設備投資の増加などで新車事業が比較的堅調に推移した。レンタル事業や中古車事業、環境関連事業なども収益性が向上してきた。」(『建設工業新聞』2005.11.11。)景気回復の下で、建設機械大手においても、売上と収益性が向上していることが明らかとなった。
●「大林組は11日発表した05年9月中間期の連結決算は、売上高5906億93百万円(前年同期比7.9%増)、経常利益148懐30百万円(同23.2%減)の増収減益だった。前年同期に多額の株式売却益を計上したことの反動による減益。……中間期の受注高(単体)は、海外土木や国内建築が好調で、前年同期比10.4%増となる6900百億73百万円。特に海土木では、アラブ首長国連邦のドバイで受注した都市交通システム工事が大きく寄与し、予想を400億円以上上回る1046億94百万円(前年同期比62.5%増)となった。国内でも、浦和駅東口の再開発や(仮称)キヤノン下丸子新開発棟新築などの大型物件を積み上げ、4728債23百万円(同8・2%増)の受注高を上げた。通期の受注高は、期初予想の1兆 2900億円から1兆3300億円に上方修正。特に海外土大は、過去最大だった前期(1069億02百万円)を上回る1300億円と設定した。」(『建設工業新聞』2005.11.14。)