情勢の特徴 - 2005年12月前半
●「政府・与党は11月30日、国と地方の税財政を見直す三位一体改革について、施設整備関係の一部の国庫補助金の削減や、社会福祉関係の国庫補助率の引き下げなどで約6500億円の税財源を国から地方に移譲する改革案を正式決定した。建設国債を財源とする施設整備関係の国庫補助金を税財源の移譲対象することが確定したことから、建設国債を財源とする国庫補助金を数多く所管する国土交通省内には、『地方は今後も、施設整備関係の国庫補補助金の廃止と、税財源の移譲を求めてくる」(大臣官房)と公共事業の先行きを不安視する声が出ている。」(『建設工業新聞』2005.12.01。)
●「全国の銀行の住宅ローン残高が今年度中に100兆円を突被する見通しだ。住宅金融公庫の直接融資の減少分を肩代わりしているのが主因。借託銀行を除く大手銀行の9月末の残高は前年同期比で約5%増え、50兆円を超えた。企業向け融資が減少する中で銀行は住宅ローンの拡大に力を注いでおり、住宅金融は公庫の『官』から『民』への移行が鮮明だ。日銀によると、2005年9月末の住宅ローン残高(一部アパートローンを含む)は98兆1900億円。ここ数年、毎月の残高は平均で前年比4-5%増の伸びを維持しており、06年3月末までに100兆円の大台を超えるのは確実だ。民間銀行に住宅公庫、借用金庫、信用組合などを加えた全体の住宅ローン残高の総額は160兆−170兆円規模で横ばいの傾向が続いている。政府は01年12月に住宅金融公庫の融資を段階的に縮小する方針を決定。公庫は民間金融機関の住宅ローン債権を買い取って証券化する『公庫提携ローン』に業務の軸足を移している。直接融資は06年度には原則廃止する。」(『日本経済新聞』2005.12.10。) 大企業の有利子負債の削減と貸しはがしによる「不採算企業」の再編・淘汰などにより、全国銀行の貸し出し額は減少を続けてきたが、その中で住宅ローンが民間銀行の収益源として大きな位置づけが与えられている。民間銀行の住宅ローン残高の急速な拡大は、住宅金融公庫の直接融資からの撤退と証券化支援業務の開始等により政策的に支えられ、促進されている。住宅金融公庫は、銀行の貸し出し拡大を支援するのではなく、国民の住宅取得を公的に支援する業務を中心とすべきだ。
●「重電メーカー各社による電機設備工事の入札談合事件で、東京地検特捜部は5日、新東京国際空港公団(現・成田国際空港会社)の発注工事について公団側が主導した『官製談合』の疑いが強まったとして、公団の元工務部担当課長(55)や前任者ら関係者を同日にも競売入札妨害容疑で逮捕する方針を固めたもようだ。重電業界を巡っては、防衛施設庁や国立大学の電機設備工事でも受注調整していた疑惑が浮上。特捜部は空港公団ルートと並行して防衛施設庁ルートの捜査も進めていく方針とみられる。関係者によると、談合の舞台になったのは、空港公団が2003年11月に実施した『南部貨物上屋第二期受変電設備更新工事』の指名競争入札。東芝、三菱電機、明電舎、富士電機システムズなど重電六社が参加し、日新電機が1億9500万円で落札した。空港公団の電機設備工事では、工務部が設計や積算、発注を担当していたといい、元工務部担当課長は受注が内定したメーカーの担当者に事前に予定価格などの情報を漏らし、入札を妨害した疑いが持たれている。」(『日本経済新聞』2005.12.05。) 道路公団発注工事における橋梁メーカーの談合につづき、重電メーカの談合が発覚した。公共工事における発注者とメーカーの癒着は根深く、様々な工種に及んでいることが改めて示された。成田国際空港会社は工事発注不正防止対策として、契約方法の改善(@ 指名競争契約を廃止し、公募型競争契約への移行、A 総合評価方式の拡大、B 契約制限価格の事前公表制の導入、C 詳細見積書の提出、契約制限価格の算定方法の変更、価格交渉対象企業名の事後公表など価格交渉方式の改善、D マニュアルの整備など)、内部統制の強化と業務執行の改善(積算審査および価格交渉を発注部門から調査室に移すなど)の対策を発表している(成田国際空港会社HP参照)。
● 農水省が滋賀県東近江市の愛知川上流に計画していた「永源寺第二ダム」について、住民が中止を求めていた行政訴訟で八日、大阪高裁(若林諒裁判長)は、ダム計画がボーリング調査などをせず、経済性の要件も適正な審査がされないまま決定され、「きわめて重大な暇庇(かし)があり、土地改良法の趣旨に反し違法」だとして、事業計画決定を取り消す判決を下した。判決は、事業決定時点で「ダムの規模を誤って設計し」「投資効率の算定基準を充足しない可能性についての審査がされずに決定」したとし、「(法令が)国民経済的な観点から規定した経済性の基本的な要件が無意味になってしまいかねない」と指摘。「専門的知識を有する技術者が調査・報告した形跡がない」と手続きも適正でなかったとした。(『しんぶん赤旗』2005.12.09より抜粋。)
●「全国建設業協会(全建、前田靖冶金長)の人材確保対策委員会(委員長・平山晃千徳島県建設業協会会長)は、将来の建設技能者不足を回避するために事業者が取り組むべき方策を示す『人材確保・育成のための報告書』の骨子を固めた。女性労働力の活用など労働力供給源を拡大するための取り組みや、労働者が夢を持って働き続けられるような評価・処遇が可能な人事管理制度の確立などを盛り込む。骨子によると、建設産業への若年労働者の入職を促進し入職者を定着させる観点から、業界が一体となって建設産業の魅力向上に努める必要性を強調、各企業の取り組みを促す内容とする。労働者が生涯設計を立てて働けるようにするため、各企業に対し、年齢や経験に応じた役割・処遇、必要な資格取得などを明示した職業生涯モデルを作成・提示することを求める。将来の建設産業に必要な人材開発ニーズを把握した上で、人材開発目標と具体的な実施プログラムを作成することも提言する。労働力の供給源を拡大するため、健康で就業意欲のある優秀な高齢技能者、社会進出が進む女性の効果的な活用方法も明らかにしていく考えだ。」(『建設工業新聞』 2005.12.07。) 建設技能労働者不足への対策としては、技能労働者のグループ化(連携請負)などの構想(建設労務安全協会 2002年)が出され、建設雇用改善法改正で、一部具体化が図られている。しかし、賃金・労働条件、環境改善および建設現場における建設技能者の地位の向上が、建設技能者確保の基本であり、グループ化による効率的利用は、正鵠を射ていない。今回の全建の報告書は、女性労働力の活用などを提起しているが、そのためにも、建設現場労働者の地位の向上が不可欠である。
●「アスベスト健康被害救済制度は、アスベスト健康被害者で労災の対象にならない周辺住民や家族、時効によって労災対象外になった遺族などの救済を日的に創設するもので、11月29日の関係閣僚会議で新法大綱が決定されている。救済の原資と枠組みは、国と企業が拠出し救済基金を創設する。基金は06年度から 10年度までの5年間で700億円程度を見込んでいる。内訳は、初年度に過去の遺族分と初年度認定分、さらには毎年度必要となる事務経費を加えた350億円程度を国が来年1月の通常国会にアスベスト法案と一緒に05年度補正予算案として提出する。07年度から10年度までの1年間は毎年度、新規認定分と事務経費を合わせ約90億円が必要とした。約90億円の拠出は、政府が事務経費の半額を負担し、自治体が見込みどおり拠出された場合には、産業界が約74億円程度の負担となる計算だ。産業界の負担は、アスベスト使用にほとんどの企業が関係しているとして、従業員を雇用する全事業者から薄く広く、労災保険徴収システムを使って労災保険料を上乗せする形で徴収するほか、アスベストに関連の深い事兼者から追加的に徴収するり2階建て方式で求める。個人事業者は、負担能力や費用徴収の効率性から負担を求めない。……賃金総額を基礎にした具体的上乗せ事は1000分の0.06を想定している。……関係者によると、『売り上げ1兆円企業の場合、仮に労務費2200億円、事務所費700億円とすれば年間1700万円程度の免担増になる』業界関係者)という。そのため、現行の労災保険徴収、システムを使った基金拠出が決まれば、建設業の場合、現場コストの増加につながることになる。」(『建設通信新聞』 2005.12.12。)
●「社会資本整備審議会(国土交通相の諮問機関)の建築分科会(分科会長・村上周三慶大教授)は12日、建築物のアスベスト(石綿)対策についての建議を提出した。……建議では、健康被害を防ぐ観点から、石綿をできる限り飛散させないような取り組みが必要だと指摘。建築基準法による規制対象に飛散の危険性がある石綿含有建材を加えることを打ち出した。吹き付け石綿と石綿含有ロックウールについては、飛散の恐れがあるにもかかわらず適切な処理が行われていない場合には、飛散防止対策を行うよう特定行政庁が勧告・命令を実施。多数の人が利用する建築物などについては、石綿含有建材の飛散防止措置の定期調査報告を義務付け、報告内容を公開するとしている。吹き付け石綿以外のものについては、飛散状況などをさらに調べ、必要に応じて規制していくべきだとしている。」(『建設工業新聞』2005.12.13。)
● 建設工業新聞情報システム部は「上場・店頭登録企業のうち『建設業』に分類される179社に、橋梁・鉄骨関係11社と丹青社、非上場の道路2社(鹿島道路、ガイアートT・K)を加えた計193社を対象」に05年9月中間決算集計調査を行った。「集計では、単独決算を▽ 大手ゼネコン4社▽準大手・中堅ゼネコンに道路、橋梁関係を加えた土木・建築関係91社▽設備関係56社−にゾーン分けした。連結決算は166社の業績を別途まとめた。単独決算を見ると、売上高、利益関係とも大手4社は概して堅調。設備関係は前中間期より持ち直した企業が多かった。一方、土木・建築関係は過半数の企業が業績を落とした。結果として6割超の企業が総資産を減らし、全体では3.7%も縮小した。工事量から見る全体の傾向は、低迷が続く土木を建築が辛うじて補い、産業界の景況上向きを受けて、完工高、受注高とも微増を確保した形になっている。設備関係は7割前後の企業が前中間期の業績を上回り、手堅い伸びを見せた。こうした中で、全体の約6割の企業は販管費を圧縮させており、販管費毎は平均0.5ポイント低下した。各社が経営の効率化を一段と進めている様子がうかがえ、特に土木・建築関係では1.1ポイントも下げた。その一方で、各社が施工した工事の採算を示す完工高総利益率は平均で0.4ポイント下がった。土木・建築関係の7割以上、設備関係の5割以上が利益率を下げており、過当競争や異常なコストダウン圧力の中、採算を犠牲にしてでも受注確保に四苦八苦している業界の現状を映している。一方、通期予想は、各ゾーンとも6割以上の企業が前3月期の業績を上回ると見ている。しかし、民需のけん引役の一つだったマンション建設で、中間決算発表後に構造計算書の偽造問題が発覚。これが各社の業績にどの程度影響が出るのか懸念される。」(『建設工業新聞』2005.12.13。)
●「国土交通省は、マンションなどの構造計算書偽造問題を受け、指定確認検査機関制度や建築士制度、構造計算プログラムの大臣認定(図書省略)制度を見直す方針を固めた。このほか、検査機関と建築士に対する義務化も含めた保険加入の在り方、建築基準法違反者への罰則強化などについても検討する。……構造計算プログラムの大臣認定制度については、同プログラムを使って計算した場合、大臣認書の写しを添付すれば、計算過程が省略される制度設計になっている。しかし、国交省が検査機関を対象に実施した緊急点検の結果は、大半の機関が認定プログラムを使っている計算書についても、計算過程の提出を求めるなど図書省略制度が十分活用されていないなどの実態が明らかになった。点検結果を受け、同省は図書省略制度の廃止も含めた検討を進める。……検査機関などに対する保険制度については、賠償保険への強制加入の義務付けも視野に検討を進める。……一方、建築士については、保険加入にばらつきがあり、欠陥が発覚した場合に支払い能力のない建築士も少なくない。今回のケースのように複数物件で審査ミスが発覚した場合、民間審査機関や建築士は、自前の財力だけでは賠償金が賄えないため、損害賠償に備えた強制加入も含めた保険制度の在り方を検討する方針だ。」(『建設通信新聞』2005.12.01)
●「建築物の構造計算書偽造問題を受け国土交通省は、建築確認の審査期間の見直しを検討する。……確認審査の期間は、小規模建築物の場合が7日以内、木造以外の構造で2階建て延べ200平方メートル以上の建築物など一定規模より大きい場合が21日以内と建築基準法で定められている。このため、例えば、延べ 2000平方メートル程度の中規模の建築物も、延べ床面積が10万平方メートルを超えるような大規模建築物も審査期間の面では同じ扱いとなっている。この規定は行政側の業務執行が遅れることを防ぐ目的が強く、対象は特定行政庁に限られており、民間の指定確認検査機関については審査期間の規定はない。建築確認業務を全国展開している大臣指定の民間確認検査機関の場合は、建築基準法に準拠して21日以内としているケースと、『申請者との契約に基づくため個別に期間を定めている』(日本建築センター)というケースに分かれている。」(『建設工業新聞』2005.12.02。)
●「完成した建物の耐震構造を含め、安全性などをチェックするため、建築基準法が建築主に受検を義務付けた「完了検査」が、昨年度に全国で73%しか実施されていないことが4日、国土交通省のまとめで分かった。未実施の27%は違法状態のまま使用されている疑いがある。……完了検査は、建物が建築基準法に適合しているか調べるもので、同法は建築確認を受けたすべての建物を対象に、工事完了後4日以内に自治体の建築主事か指定確認検査機関に完了検査を申請するよう建築主に義務付けている。検査を受けないと30万円以下の罰金が科さる。原則として検査に合格し、「検査済証」が交付された後でなければ、建物は使用できない。同省が昨年度の建築確認件数と検査済証交付件数を比較した「完了検査率」を調べたところ、全国平均は73%だった。検査を受けない建物は法律上「工事中」のまま居住者らに引き渡されていることになる。一方、完了検査では外観しかチェックできないことから、手抜き工事を防ぐため、1部自治体は工事途中に行う「中間検査」制度を導入。合格後でないと次の工程に進めない仕阻みを設けている。」(『しんぶん赤旗』2005.12.05より抜粋。) 今回、昨年度完成した建築物の約3割が建築基準法に規定された完了検査を受けていないことが判明したが、建築確認検査と完了検査の適正な実施は、現行法による建築物の安全・品質の確保に不可欠の仕組みであり、完了検査の通過なしには、建物を使用できない手続きを設ける必要があろう。
●「政府は対応策の財源として今年度補正予算などで約80億円を見込んでいる。当面の支援対象はヒューザーが建設した7棟の分譲マンション。国交省や自治体の調査で、今後、新たに危険性が判明した物件も対象とする。国交省は追加可能性のある3棟を調査中だ。……危険のある分譲マンション居住者への支援については、国が地方自治体と連携し、解体費用の全額を公費負担とする方向で調整を進める。住民の仮住居として、公営住宅や都市再生機構住宅を2200戸用意。移転費や民間住宅の家賃に関しては、地方自治体とも調整したうえで一定の水準まで負担する見込みだ。国交省が検討中の案として示した建て替えの仕組みは、地方自治体が分譲マンションを買い取り、都市再生機構や民間に解体や建て替えを委託する内容。居住者からの買い取り額は土地価格相当分で、建て替え後、希望者に売り戻す。解体費用とエレベーターなどの共同施設の整備は全額を国と地方で負担、個別住居の整備費も一部を公費で負担する方向だ。同日午後、関係地方自治体と協議に入る。居住者の同意も必要で、調整を進める。」(『日本経済新聞』2005.12.06。)今回、国土交通省が、危険マンションの地方自治体による買い取りによる建て替えの仕組みを提案したことは、建築物の安全と品質確保に関する行政の責任を果たそうとするもので、従来の施策から一歩前進と言える。今後は、このスキームによる支援対象の拡大が焦点となろう。
●「耐震強度偽装問題で、千葉県の姉歯建築設計事務所が構造計算書を偽造した横浜市のマンション1棟は、計算書と構造図の鉄筋の数などに食い違いがあることが八日、分かった。構造図の耐震強度は計算書よりもさらに低かった。……構造計算書と構造図に食い違いが見つかったマンションは、コンアルマーディオ横浜鶴見(横浜市鶴見区)。マンションなどの建設では、構造計算書に基づき、柱やはりの大きさ、鉄筋の数などを示す構造図が作られる。これをもとに詳細な寸法や図面を加えた施工図を作製、完成図へとつながる。食い違いが見つかったマンションは、姉歯事務所が構造計算書と構造図の双方の作製を請け負っていた。……国土交通省は当初、構造計算書に基づいた同マンションの耐震強度について、建築基準法で定めた基準の56%と診断した。しかし、横浜市が構造図と施工図、完成図で強度を再計算したところ、数値は41%で、震度5強程度の地震で倒壊するおそれがあることが判明。市は二日、マンションの所有者に使用禁止命令を出している。」(『日本経済新聞』2005.12.08。)