情勢の特徴 - 2006年1月前半
●「改正独占禁止法が、いよいよ4日から施行される。改正の桂は∇課徴金の引き上げ▽課徴金減免制度の串入∇犯則調査権限の導入▽審判手続きの改正−の4つ。……課徴金減免制度は、事業者自らが関与したカルテル・談合について、違反内容を公正取引委員会(公取委)に報告した場合に、課徴金が減免される制度だ。あくまで自社判断で、自社の違反行為事実を公取委に報告する場合に、減免措置が取られる。違反行為を自主申請した先着3社に対し、課徴金が減免される。……課徴金が減免された企業の有無や企業名は公表されない。……国士交通雀は05年12月27日に開かれた公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)の臨時総会において、自主申請した企業に対して指名停止期間を軽減しない考えを明らかにした。……監督処分についても、国交首は自主申請した企業の営業停止期間を軽減しない方針だ。」(『建設工業新聞』2006.1.4。) 今回の独占禁止法の改正では、課徴金の引き上げと課徴金減免制度のふたつが大きな改正点である。問題となるのは課徴金減免制度について、先着3社を対象とすることだ。談合について内部からの告発を促進するという目的であれば、最初に申告した1社を減免すれば十分であろう。いたずらに、減免対象企業を拡大することは疑問である。
●「景気回復が続くなかで地方ごとの回復力の差が大きくなっている。今回の約4年の景気拡大局面で生産動向を示す鉱工業生産指数は、東海地域が30%と最も上昇したのに対し、最低の北海道は2%低下した。有効求人倍率も最も高い地方と最低の地方の格差が4年間に2.7倍に広がった。……東海では、トヨタ自動車が海外需要の盛り上がりなどを受けて愛知県内の主力工場でフル操業を続けるなど自動車関連が好調さを保っている。北海道でも新日本製鉄の室蘭製鉄所は自動車部品向け銅材の生産が好調になるなど明るい兆しも出ているが、全体的には生産活動は停滞気味で、公共事業に依存してきた経済の弱さが出ている。前回の景気回復局面では谷(1999年1月)と山(00年11月)を比べると、最高だった東海でも12.3%上昇にとどまり、最低の北陸は3.2%低下。今回は東海に続く伸びを示す中国でも21%上昇するなど伸び率の差が著しく大きくなっている。求職者一人当たりにどのくらいの求人があるのかを示す有効求人倍率は昨年11月の全国平均が0.99倍。全国10地域の最高は東海の1.38倍、最低は北海道の0.59倍。最高と最低の地域の差は02年1月の0.29ポイントから0.79ポイントに広がった。」(『日本経済新聞』2006.1.6。)
●「投資信託へ資金流入が加速している。2005年末の株式投信の純資産残高は、04年末比46%増の40兆円に達し、 1989年末以来の水準を回復したもようだ。1年間の増加額は約2.2倍の13兆円と過去最高を記録した。有利な資金運用手段を求めて個人マネーが預貯金からシフト。株式相場の上昇などで運用成績が好調なことも残高の増加につながっている。……投資信託協会の昨年11月末のデータに日本経済新聞社の聞き取り調査を加えて集計したところ、株式や外債などを組み入れて設計する株式投信の05年の増加額は13兆2000億円となり、過去最高だった87年の11兆 5000億円を上回った。残高も急増、日経平均株価が最高値をつけた89年末当時の45兆円を06年中に超える可能性が出てきた。……個人の間で最も人気があるのが外債で運用しながら毎月分配金を出す投信。……外債だけでなく、上場不動産投資倍託(REIT)や国内外の株式で運用しながら分配金を出す投信も増えている。……昨秋以降は日本株相場の上昇をきっかけに、日本株で運用する投信にも資金が向かい始めた。……日本の個人の投信保有比率は昨年3月末で 3%弱と米国(10%)に比べ小さく、「成長余地は十分ある」 (投資信託協会の安東俊夫会長)との指摘もある。投信は投資対象の商品が短期間で大きく値下がりした際には元本割れする可能性もある。」(『日本経済新聞』2006.1.10。) 投資信託の資金残高がバブル経済期末期の45兆円を越える勢いで大きく拡大していることは、本格的な景気回復が訪れない下で、個人資産の移動などにより、金融・資本市場の一方的な拡大が始まりつつあることを示しており、再びバブル的な活況と崩壊に帰結することが懸念される。
●「国土交通省は談合が起きにくい一般競争入札を拡大するため、損害保険会社など民間が建設会社の入札参加資格を認定する制度創設の検討に入った。……国交省が検討しているのは、損保や大手銀行が入札前に発注者に工事の完成などを保証する「入札・履行ポンド」と呼ばれる制度。入札前に建設会社の財務状況や受注余力を審査し、保証書を発行する。保証を受けられない建設会社は入札に参加できない。契約が実施されない場合は、保証を与えた企業が再入札にかかる費用を含む建設資金を負担する必要があり、厳格な審査が期待できる。米国で普及しており、かつて日本でも検討されたが、保証を引き受ける企業がなく、導入が見送られてきた。一部の金融機関も手数料ビジネス拡大につながると保証業務に前向きになって来ているもようで、国交省は二〇〇六年度にも一部の工事で試行する考えだ。……建設業界は公共事業などの需要が縮小しているにもかかわらず、業者数が減らない供給過剰構造を抱える。保証制度導入で、経営基盤が弱い企業に退場を促し、施工能力がある企業だけが競争する環境をつくる。業界の再編・淘汰が進むきっかけになる可能性もある。」(『日本経済新聞』2006.1.10。)今回、国土交通省が検討している「入札・履行ボンド」は、公共工事の入札参加資格について、技術審査に関するものは引き続き発注者が行うことになるが、債務状況や受注余力については、金融機関など民間の保証会社により認定させ、保証を行わせるものである。金融機関など民間の保証会社が直接、経営基盤の弱い企業を公共事業から選別・排除することの悪影響が懸念される。
●「政府の地方制度調査会(諸井度会長)は13日、2月に小泉純一郎首相に答申する道州制の骨子を明らかにした。都道府県を廃止して、より広域の「道」と「州」に再編する新法を制定。中央省庁の権限や国の地方組織は道州に移管し、教育、杜会保障などの都道府県事務の多くは市町村に移す。答申には都道府県を8−11道州にする3案を併記して提出する。道州制の導入は国−都道府県市町村の三層に分かれた現行制度を見直し、「中二階」である都道府県を集約して地方行政の効率化やコスト削減を図ることや、権限の大きい道州を受け皿に地方分権を加速するのが主な狙い。」(『日本経済新聞』2006.01.14。)地方分権一括法では、国と地方の役割分担について、@ 国際社会における国家としての存立に関わる事務、A全国的に統一して定めることが望ましいルールに関わる事務、B 全国的な規模・視点でおこなれなければならない施策・事業の実施に関する事務、が国の役割として規定されたが、このうち、現在A、Bとして国が実施している事務の多くを道州に移管していくことが狙われている。教育や福祉、医療や、道路、河川などの整備・維持等の水準が道州毎に規定されることにより、3大都市圏をかかえる州とその他の州で、公共サービスの水準に大きな格差が生まれることが懸念される。
● 「日本建築士会連合会の宮本忠長会長、藤本昌也副会長ら幹部は6日、国土交通省を訪れ、山本繁太郎住宅局長に『わが国の建築士制度改善に向けての提言』を手渡した。北側一雄国交相あての提言で、副題が『建築士法と専攻建築士制度との適切な関係の構築を目指して』。…… 国交省は、耐震強度偽装問題を受けて、社会資本整備審議会の部会を設置して、制度改正の議論を進めている。提言はこの議論への反映をめざしている。…… 『資格の基盤としての専門性の制度化』は、この専攻建築士制度と建築士法が適切な関係を築くことができるように士法の改正を求めた。……専攻建築士制度の設計、構造、環境設備、まちづくり、生産、棟梁、法令、教育研究の8分野を『名乗る』よう、法律の条項に義務化を盛り込むものだ。……さらに……設計図書や確認申請書に建築構造技術者、建築設備技術者の記名押印を求め、役割と責任の明確化を述べている。このほか、『違反行為等の罰則の強化など』『建築士の建築士会への加入の義務化』『登録更新制度の導入による建築士の実態把撞』『管理建築士の責任の明確化と要件の強化』『受験資格の実務経験の適正化』『設計賠償保険制度の加入の義務化』−を挙げた。」(『建設通信新聞』2006.1.10。)
● 「建設機械業界が生産能力の増強に動きだした。海外需要の拡大に加え、国内市場も底堅く推移し、建機メーカー各社の 06年3月期決算は売上高、利益ともに過去最高水準に達する見通し。世界的な需裏増に対応するため各社は、これまで抑制してきた設備投資を積極化し始めた。最大手のコマツは、大型機械の生産能力を増強するため(国内で11年ぶりに新工場を建設。日立建機は、既存工場を増築して大型機械向けの油圧機器の生産能力を高める。新キャタピラー三菱も、04〜06年度の3年間で二つの事業所にそれぞれ100億円を投じ、生産の効率化を進める。おう盛な海外需要を取り込むため、各社は今後、グローバルな生産体制を見直す可能性もある。……日本建設機械工業会(CEMA)がまとめた05年11月の建機出荷額は、内需が 732億75百万円(前年同月比12.4%増)、外需が939億92百万円(同23.5%増)の総額1672億6700万円(同18.4%増)と、38ヵ月連続で前年実績を上回った。外需の好調がけん引役となり、増加傾向が3年を超えて続く。こうした国内外の需要増を背景に、メーカー各社は今期、過去最高水準の決算を目指す。……好決算で財務体質の改善が進んだ各社は、設備投資を従来の抑制基調から積極姿勢へと転換。エンジンや油圧機器など基幹部品を生産する国内工場の生産能力を引き上げ、需要拡大に対応する基盤づくりに乗り出した。」(『建設工業新聞』2006.1.11。)
●「全国の病院のうち、耐震基準をすべての建物で満たしているのは36.4%にとどまることが12日までに、一昨年の新潟県中越地震を受けて厚生労働省が実施した『病院の地震対策に関する実態調査』で分かった。……耐震基準は1978年の宮城県沖地震後に見直され、81年に定められた新耐震基準は震度6強以上の地震でも倒壊しない強度を求めている。調査は中越地震を受けて昨年3月までに、全国の9016病院を対象に初めて実施。6843病院(75.5%)から有効回答を得た。調査によると、すべての建物が新耐震基準を満たしていたのは2494病院で全体の36.4%にとどまり、一部の建物は満たしている病院が36.3%だった。新基準を満たす建物がない病院も1209あり、全体の17.7%を占めている。また、耐震診断を受けたことのある病院は全体のわずか14.3%。このうち64.8%が補強の必要があると判断されていた。しかし、7割強は補強を完了しておらず、理由(複数回答)は『建て替え計画がある』が39.6%、『費用調達が困難』が35.9%、『診療業務との両立が困難』が29.2%あった。……厚労省は耐震化などを促していく方針だが、耐震診断だけで数千万円かかるケースもある。耐震工事や診断に補助金を助成して対策を促進していく考えだ。」(『日本経済新聞』2006.1.12。)
●「国土交通省は10日、社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)の建築分科会が設置した基本制度部会に対し、マンションなどの耐震強度偽装問題の再発防止に向けた、建築確認制度見直しなどの論点を提示した。注目される建築士資格の見直しでは、計画、構造、設備といった専門分野別の建築士制度導入について『意図的な偽装を防止するために有効な対策となるかどうかの検証が必要』との見解を示した。国交省は同部会が2月24日にまとめる中間報告を受け、通常国会に建築基準法と建築士法の改正案を提出する。専門分野別の建築士制度導入は、政府の行政改革方針に反する業務権限を伴う資格制度の創設となる。このため、導入に当たっては、資格の社会的必要性を明確化する必要性があり、各専門分野の建築士にそれぞれの分野の設計を義務付けるかどうかも検討しなければならない。……建築士と建築士事務所の団体への加入義務化については、規制改革に反する規制強化となるため、『強制加入の社会的必要性を明確化しなければならない』とし、偽装防止対策として『団体による厳正な管理が必要』との考えを示した。建築士による設計・工事監理業務の適正化では、現場管理者と工事監理者の業務分担の明確化、現場管理と工事監理の兼業禁止、工事監理記録などの記録の義務付けを挙げながらも、『実効性のある措置とするには報酬も含めた根本的な検討が必要』とした。ただ、報酬基準の見直しについては、『独占禁止法上、一律にするのは難しい』との見解を示し、建築構造計算書の偽装など故意による違反設計行為などに対しては、『建築士事務所の業務について、名義貸しや脱法相談など禁止事項を定め、その連反の罰則強化の検討が必要』との方針を示した。……構造計算書の審査については、確認申請時に入力データを提出させ、再入力して結果を確認するなどの方法を検討する考えを示した。……このほか、建築確認済み証交付前に、専門機閑や専門家による構造審査を義務付けることや、指定確認検査機関の技術力・実績をランク付けすることなども論点として提示した。」(『建設通信新聞』2006.1.11。)