情勢の特徴 - 2006年1月後半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「信託銀行が企業などから受託する不動産の残高が急増している。昨年九月末の合計は十六兆円超と前年から四割増えた。今期から義務づけられた減損会計の影響で、企業が固定資産を信託銀行に預けて切り離す動きが加速したためだ。信託された不動産は投資ファンドなどの投資対象となり、不動産市場の活況につながっている。・・・・・・信託協会がまとめた全体の受託残高は昨年九月末時点で十六兆四千億円を突破。前年同期に比べて約四割、四兆五千億円増加した。銀行別では最も残高が多いみずほ信託銀行が三兆五千五百億円と三四%増。住友信託銀行、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)も約三兆円となり、約三割増えた。・・・・・・企業は信託した後に受益権を投資家に転売すれば、不動産を売却したのと同じ効果がある。実物不動産を売買した際にか・かる税の負担がなく、買い戻しが容易なことも利点だ。」(『日本経済新聞』2006.01.19)

行政・公共事業・民営化

●「国土交通省は、総合評価方式を採用して発注したエ事の入札で、予定価格を下回る応札業者が1社しかない案件が急増していることから、技術競争が形がい化しかねないとして、対応策の検討に乗りだした。・・・・・・総合評価方式は、価格と価格以外の栗素(技術提案や技術的能力など)を総合的に評価して落札者を決める方式。価格だけの競争と違って談合がしにくくなる効果が期待され、同省は一般競争入札と併せて総合評価方式の対象件数を増やしている。総合評価方式が適用された工事案件には通常、10社前後の応札者がある。ところが、入札を実施してみると、予定価格を下回る金額で応札した企業が1社しかなく、結局その1社が落札する案件が急増。技術力での競争を狙った同方式の趣旨が骨抜きになりかねないケースが目立っている。 関東地方整備局の発注工事では、昨年11月以降に総合評価方式を採用した一般競争入札案件9件のうち4件がこうしたケースだった。・・・・・・(対応策として)開札前の内訳書チェックの強化や、最低札と2番札の応札価格が10%以上開いていた場合はすべての応札業者からヒアリングを行う案が上がっている。予定価格を上回る額で繰り返し応札した業者については、「積算能力の欠如」とみなし、次回からの総合評価方式採用案件で減点措置を行うといったペナルティーを与える案も浮上しており、今後慎重に検討する見通しだ。」(『建設工業新聞』2006.01.23。) 総合評価方式による入札で予定価格を下回る応札業者1社が落札する状況は、総合評価方式によっても、技術競争どころか、談合が防止できていないことを示している。改札前の内訳書チェックや応札業者からのヒアリングの強化、また、予定価格を上回る額で繰り返し応札した業者へのペナルティーなど今回、検討されている対応策は、談合防止や適正な入札のために必要な措置であり、実施すべきだ。
●「国土交通省四国地方整備局は、公共工事の品質を確保するため、低入札価格調査制度の対象となった工事の受注企業の扱いや経常JVの運用方法の見直しの検討に着手した。低入札価格調査制度の対象となった工事の受注企業に対し、対象工事が終了するまで他工事の入札に参加させない措置や、総合評価でマイナス評価する措置などが検討されている。経常JVについては、すべての構成員に同種工事の実績と配置予定技術者の経験を求めるなどの対応策が浮上している。早ければ一部の措置を本年度中にも試行する方針だ。四国整備局は、これらの施策を不良不適格業者の排除の一環として検討している。低入札価格調査制度の対象工事については、すでに▽履行保証割合を通常の1割から3割に引き上げる▽過去に施工上問題のあった企業に技術者を増員させる▽対象案件に関する情報を公表する▽前払金を4割から2割に減額▽工事重点監督基準の創設−などの対応策を全整備局で実施している。ただ、こうしたダンピング受注防止対策にもかかわらず、近年の急激な工事量の減少で、低入札価格調査制度の対象案件は年々増え続けている。四国整備局では品質の確保や下請けへのしわ寄せなどを防ぐには新たな対策が必要と判断した。(『建設工業新聞』2006.01.24。)国土交通省直轄工事(港湾空港関連を除く)の低入札案件は、2000年度の282件(1.68%)から、2004年度の473件(4.1%)へと大きく拡大してきている(国土交通省直轄工事契約関係資料)。 今回、低入札価格調査制度の運用実態は、応札企業の積算及び施工能力と経営実態を確認するものになっており、ダンピング防止の効果を上げていない。今回、国土交通省は、低入札での受注企業に対するペナルティを検討しているが、ダンピングを防止するためには、全ての工事について、極端な低入札を当初から禁止する最低制限価格制度を適用することが必要である。さらに、ダンピングかどうか曖昧な低入札については低入札価格調査制度を適用するとともに、不適切な積算を発見し、応札価格を是正することを目的としてこの制度を運用することを検討すべきだ。
●「公共サービスの担い手を官民どちらがふさわしいか競う市場化テスト法案の全容が二十三日明らかになった。サービスを民が担う場合の公務員の移籍に備えて「特定退職制度」を創設する。民間で働いても省庁に戻れる仕組みで、退職金の受け取りも不利にならないようにする。省庁を超えた公務員の配置転換を促すことも義務づけ、官業の民間開放の障害を減らす。市場化テストは官と民が入札に参加し、どちらが公共サービスを担うか決める制度。二〇〇六年度にも始まる見通しだ。・・・・・・市場化テストで余剰になった人材は公務員定数の上限を守りながら省庁間での移籍を進めることも明記。人員が浮いた役所が不足している省庁に回し、総数の抑制にもつなげる。」(『日本経済新聞』2006.01.24) 市場化テスト法案(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案)は、2月10日閣議決定され、「特定退職制度」は、法第五章 法令の特例中、第31条に盛り込まれた。市場化テスト法案では、政府の決定する「基本理念」にのっとり、政府および地方自治体が、官民公共入札に付すもの、民間公共入札に付すもの、及び、廃止するもの、の3つの公共サービスを選定することになっている。官民公共入札とは、特定の公共サービスについて、その実施機関を官の機関と民間事業者とが競争入札で決定するものである。政府は、官民競争入札の広範な実施により個々の行政事務を直接市場競争に巻き込むことで、これまですすめてきた行政コストの削減を劇的に推し進めようとしている。建設行政分野においても、道路・河川の維持管理など、主要な公共サービスが市場化テストに付されることを通じて、建設行政の公共的機能がいっそう形骸化されることが懸念される。
● 国土交通省は二十五日、高速道路整備計画で予定している九千三百四十二`bをすべて建設する手続きを進めることを決めた。開通していない区間のなかで取り扱いが決まっていない千二百七十六`bのうち国と地方自治体が税金で建設する区間を決める有識者会議を二月七日に開催。残りの区間は民営化した高速道路会社に北側一雄国交相が建設を指示する。 高速道路の建設は、道路公団の民営化議論のなかで@民営化会社は債務を四十五年以内に返済できる範囲内で建設A採算性の低い区間は税金でつくり無料開放(新直轄方式)B民営化会社は国に異議申し立てできるが国交省の審議会で「反対理由に妥当性なし」とされれば建設を拒めない――ことが決まった。新直轄方式による建設は合計三兆円分。二〇〇三年末、国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)で、二兆四千億円分にあたる二十七区間(六百九十九`b)の建設が決まった。今回の国幹会議では残り六千億円分の配分を決める。・・・・・・事前の折衝では一部の高速道路会社は低採算路線の建設に難色を示しているもようだが、税金負担による建設を受け入れる自治体も増えており、国交省は「民営化会社が建設を拒否することはない」とみている。」(『日本経済新聞』2006.01.26) 今回、国土開発幹線自動車道建設会議 において高速道路の未整備区間の全体について、新直轄方式で整備する区間と、道路会社が整備する区間が最終的に決定され、国の道路整備計画9342km を全線整備することが改めて確認された。政府の高速道路計画の再検討とは、採算性の評価付けを行い、不採算区間は新直轄方式により税金を投入しておこなう、ということに過ぎない、ということが改めて示された。道路公団民営化自体が、高速道路整備計画の完全実施を不動の方針として、それを実施する事業手法のひとつとして行われたことも改めて明らかになった。
●「国土交通省は、特定行政庁に対して、建築行政部局の体制整備を求める通知を近く出す方向で検討を進めている。特定行政庁の建築部局の職員数は、ここ数年で微減しているが、耐震強度偽装や耐震改修促進法の施行、4月から施行される改正省エネ法への対応など、建築行政をめぐる環境が大きく変化しているため、あらためて人員確保などの「体制固め」を要望することにした。国交省によると、全国の特定行政庁の建築部局職員数は、 2004年度末で7764人となっており、ピークだった02度末の8269人から大きく減少している。・・・・・・また、同省の調査では、建築基準法で建築主に受検が義務付けられている完了検査の実施率が全国で73%にとどまり、特定行政庁ごとの実施割合にも大きな格差があることが分かっている。国交省は、自治事務である建築確認・検査制度については、「民間が実施する件数が多いからといって人員を減らしていいことにはなない」とし、体制整備に向けた取り組み強化の必要性を強調している。一方、26日に施行した改正耐震改修促進法では、都道府県が策定する耐震改修計画に基づいた住宅・建築物の耐震化率向上に向けた取り組みや、特定行政庁による指導の強化が盛り込まれ、4月1日から施行する改元省エネ法でも省エネ措置の届け出対象が拡大されるなど、建築部局の職員の作業量増大が見込まれている。」(『建設通信新聞』2006.01.27) 今回の通達は、これまでの行政のスリム化、定数削減政策の展開の下において、特定行政庁の建築部局職員が抑制されてきたために、建築行政の高度化や多様化に現場が対応しきれなくなっていることを認め、従来の政策の手直しを余儀なくされていることを示している。偽装事件への対応を契機として、建設行政全体の体制の充実が図られるべきだ。
●「国土交通省は分譲マンションの売り主に、欠陥が判明した場合に補修や建て替えの費用を負担する保険への加入や銀行保証の設定を義務付け方針を固めた。耐震強度偽装事件を踏まえ、売り主が必要な資金を確実に拠出できるようにする。第三者が住宅の品質を評価する住宅性能表示制度に基づいた情報開示も義務付ける。社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)基本制度部会の中間報告に対策を盛り込み、今通常国会で住宅品質確保促進法の改正をめざす。二〇〇七年にも施行する。分譲マンションの売り主は購入者に引き渡し後十年間は、欠陥を自らの責任で改修する瑕疵(かし)担保責任がある。今回の耐震偽装事件では、建て替えや補強工事にかかる費用はヒユーザ「など売り主が負担しなければならない。だが実際には巨額の補償費用を負担しきれず、公的支援や居住者の自己負担が生じることになった。改正法の施行後は、住宅保証機構が取り扱っている任意保険や損害保険会社の瑕疵担保責任保険への加入、あるいは金融機関による保証を求める。保険会社などが信用力が乏しいとして保険契約を見合わせるような業者はマンションの販売ができなくなる。(『日本経済新聞』2006.01.28)
●「防衛施設庁発注の空調設備工事を巡る談合事件で、東京地検特捜部は三十一日、同庁技術審議官、河野孝義容疑者(57)ら=刑法の談合容疑で逮捕=の容疑を裏付けるため、同庁(東京・新宿)や東京防衛施設局(さいたま市)などを家宅捜索した。また同庁発注の建設工事でも談合が行われた疑惑が浮上、大手ゼネコンの鹿島や大成建設の本社(いずれも東京)も捜索を受けた。」「防衛施設庁発注の空調設備工事の入札談合事件は三十日、同庁技術系の歴代トップの刑事責任が問われる事態となった。旧日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁(きょうりょう)談合事件など発注者側の関与が相次ぐ中、検察当局は「官製談合」を仕切る官側に改めて厳しい姿勢を示したといえる。・・・・・・同庁を舞台にした今回の事件は、現職幹部が業界と二人三脚で談合に手を染めていた点で、昨年夏に検察当局が摘発した旧道路公団の入札談合事件と構図は同じだ。・・・・・・一方、防衛施設庁ルートでは、空調メーカーに天下ったOBが受注調整の「仕切り役」として、河野容疑者ら現職幹部に頻繁に接触。受注予定業者を選定していたとされる。・・・・・・防衛施設庁ルートの談合の背景にも道路公団と同様に、受注調整の見返りに天下り先確保を求めた構図があるのか。特捜部はメーカー側と施設庁側の癒着の構図の徹底解明を進めるとみられる。」(『日本経済新聞』2006.01.31) 今回の防衛施設庁発注工事をめぐる談合事件は、官製談合として従来と同様の癒着構造が明らかになりつつある。その後、防衛庁発注工事において多数の工事が100%で落札されていることなども明らかになっている。加えて、治外法権の基地内での工事ということもあり、そもそも予定価格の積算などが適正に行われているのかとの疑念も浮かぶ。また、いわゆる「思いやり予算」を官僚と受注企業が食い物にしてきた、という点からは大きく政治問題化されるべき事件である。

労働・福祉

● 厚生労働省の「今後の労働時間制度に関する研究会」(座長・諏訪康雄法政大学大学院政策科学研究科教授)は二十五日、一定の要件を満たす事務系・技術系(ホワイトカラー)労働者を八時間労働制の枠外におく新しい働き方の導入を提唱する報告書をまとめた。・・・・・・この制度の対象となる労働者の要件として、▽職務遂行の手法や労働時間の配分について使用者からの具体的な指示を受けず、かつ、自己の業務量について裁量(自分できめられること)があること▽労働時間の長短が直接的に貸金に反映されるものではなく、成果や能力に応じて賃金が決定されていること▽一定水準以上の額の年収が確保されていること、などをあげている。しかし報告は、具体的な対象労働者の範囲は「労使の実態に即した協議に基づく合意により決定することを認めることも考えられる」としており、企業側の都合で対象労働者の乾囲は拡大されかねない。日本経団運は二〇〇五年六月に提言を発表し、年収四百万円以上のホワイトカラー労働者ならだれでも労働時間規制の適用除外にするよう強く求めている。・・・・・・長時間労働、過労死・過労自殺の続発、サービス残業の横行といった、世界で例のない日本社会の異常な現実に拍車をかける、「最悪の働くルールの規制緩和」である。(『しんぶん赤旗』 2006.01.26)

建設産業・経営

●「2005年11月の建設業倒産は、336件で前年同月比9.0%の増加だった。11月としては21番目の水準。一方で負債総額は656億2000万円、24.9%の大幅な減少になっている。倒産の原因では受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難の不況型が250件、 74.4%を占める結果となった。業種別では総合工事業が189件、職別工事業が92件、設備工事業が55件。耐震強度偽装問題による信頼回復が欠かせない。」(『建設通信新聞』2006.01.24)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「国土交通省が今通常国会に提出する「住生活基本法案」の概要が明らかになった。住宅政策の基本理念や基本的施策などを定めるもので、住宅の耐震化やバリアフリー化、省エネなどの成果目標を掲げた「住生活基本計画」を行政が策定、この計画に沿って具体的な施策を進める。……国交省は、住宅ストックが充足してきたことや少子高齢化・人口減少の進展などを背景に、量の確保に重点を置いた従来の住宅政策を、「豊かな住生活の実現」を重視する方向にシフトさせる。このため、住宅建設計画法は廃止し、新たに住生活基本法を制定する。……国と地方自治体には、住生活の安定向上策として、住宅の耐震改修や省エネ化の促進、住民の福祉・利便施設の整備、良好な景観形成などを図るとともに、住宅性能表示制度の普及をはじめとする住宅市場の環境整備や技術研究開発などにも取り組むよう求める。……成果指標は、▽新耐震基準適合率▽次世代省エネ基準適合率▽バリアフリー化率▽最低限の安全性が確保された密集市街地の割合▽住宅性能表示実施率▽住宅の平均寿命▽中古住宅流通量▽リフォーム実施量▽最低居住水準未満の住宅の割合―などを想定している。」(『建設工業新聞』2006.01.26) 今号の特集を参照してください。
●「国土交通相の諮問機関である社会資本整備審議会は三十日、耐震強度偽装事件の再発防止策を柱とする中間報告案をまとめた。……同審議会は二月中に中間報告を正式決定し、国交省は今通常国会に建築基準法などの改正案を提出する方針だ。罰則強化では、例えば、危険な建物を建築した設計士に対する罰則は現在罰金五十万円以下だが、懲役刑も含め大幅に強化する。建築確認制度の見直しでは構造計算を再検証する第三者機関を設け、民間検査機関などとあわせて二重チェックの体制にする。……第三者機関の規模や組織形態は今後詰めるが、独立行政法人など公的な組織になりそうだ。ただ、地方自治体や民間検査機関の検査に「屋上屋を架すだけではないか」という批判もあり、実際に第三者機関がどの程度実効性のある検査をできるようにするかも今後の検討課題だ。……建築主が本来負うべき暇庇(かし)担保責任を果たしていない問題については、国交省は、損害保険会社が取り扱う保険への加入などを義務付ける方針。……意匠、構造、設備などの専門分野別の建築士免許制度の創設や、免許への更新制の導入など、建築士制度の改革については、引き続き検討する課題と位置づけた。」(『日本経済新聞』2006.01.31) 今回の中間報告案は、営利目的の民間検査機関により建築確認審査等を行うという現行制度の基本的問題点と今回の偽装事件への影響について真剣に検討することなしに、現行制度の基本を良しとし、構造計算プログラムの問題やさらなる第三者機関によるチェック、また保険制度への加入という周辺の改善提案に終始している。確認行為を市場競争とコスト削減圧力の下におき、確認審査・検査を形骸化してしまった、という偽装事件の最大の問題点にメスを入れる必要がある。

その他