情勢の特徴 - 2006年2月後半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

● 財務省は公共事業費の抑制に向けて、国内総生産(GDP)を基準とした新たな数値目標を設定する方向で検討に入った。国の公共事業費は二〇〇六年度の一般会計予算案で約七兆二千億円と、小泉純一郎政権が掲げた一九九〇年度並みの水準に戻すという目標を達成するが、財政健全化に向けて地方分を含めたさらなる抑制が必要だとみている。GDP比を中長期的に一%程度と現在の三分の一に抑え、他の先進国並みにする案が浮上している。……財務省は新たな数値目標を、政府が六月にまとめる歳出・歳入の一体改革に向けた工程表に盛り込みたい考えで、国土交通省などとの調整に着手した。……新たな数値目標としてGDPを基準とした案が浮上したのは、公共事業費を経済成長に見合った規模に抑えられるほか、他の主要先進国とも比較しやすいため。財務省によると、国・地方の一般会計と特別会計を合わせた一般政府ベースの公共事業費(施設費を除く)は〇三年度で十六兆八千億円。GDP比は三.四%で、フランス(一.三%)や米国(一.一%)、ドイツ(〇.九%)、英国(〇.五%)などと比べると三倍ほど高い。……これに対して、国交省は高度成長期に建設した道路やダム、橋などの維持管理や更新投資が年々増加すると反発。今のペースで予算を削減し続けると、二〇二〇年度に既存インフラを使い続けるために必要な更新投資さえできないところが出てくると主張している。(『日本経済新聞』2006.02.17。)今回の財務省の公共工事抑制のための新基準の提案は、道州制の導入と合わせて、事実上インフラ整備は、維持・更新も含めて財政力の豊かな三大都市圏のみで行ない、他の地域では放棄していく立場からのものと言える。最低限、地域の生活道路や河川の更新投資などは全国で行なっていく必要がある。その上で、公共事業のGNP比での抑制と社会保障への振替の度合について検討すべきであろう。

行政・公共事業・民営化

● 国士交通省は、2003年度に完了した直轄工事(港湾、空港工事を除く)を対象とした、工事成績評定の分析結果案をまとめた。分析には、落札率と評定の関係や工事頑模別の点数分布などを盛り込んでいる。落札率との関係では、落札率が低い工事ほど評定が悪くなり、工事規模別では規模の大きな工事ほど評定点数が高いなどの傾向が出ている。また、指名停止など法令順守に違反した案件については、工事実績にカウントされない65点未満となるケースが多いことも分かった。……工事規模別の点数分布をみると、65−70点未満の発生率は、3億円以上の工事で9.8%であるのに対し、1000万円未満では20.8%と倍増するなど、規模の大きい工事ほど高い点数になっている傾向にある。成績評定の項目では、創意工夫や出来栄え、技術力の3つで業者間に大きな差が出ていることが分かった。(『建設通信新聞』2006.02.27。) 評定制度は01年度に導入されているが、工事成績評定の具体的分析は今回が初めてであり、落札率が低いほど工事成績評定が悪くなる関係のあることが明らかになった。国土交通省の分析結果の公表を受けて、工事の品質確保のためのしくみについて本格的に議論していく必要がある。
● 東京都と首都高速道路が計画している中央環状品川線のうち、内回りシールド工事を都、外回りシールド工事を首都高速道路がそれぞれ発注する模様だ。郡が 2006年度予算案の債務負担行為で、大井地区整備工事(その1)として60億4000万円を新規に設定していることなどから、シールドの発進立坑を都が発注して完成後、内回りシールド工事に着手する見通しだ。有料道路とする必要があるため、内回りシールドトンネルの内装工事は、首都高が担当する。(『建設通信新聞』2006.02.23。)
● 政府による都市計画法や中心市街地活性化法など、いわゆるまちづくり三法≠フ改正法案がまとまった。人口減少や少子高齢化など社会構造が大きく変化するのに併せて、コンパクトな街づくりを進めていく必要があるとの判断から、大規模集客施設の適正立地の誘導と、都市中心部への都市機能集積を大きな柱に据えており、今国会での成立を目指す。都市計画法などの改正でメーンとなるのは、郊外部における大規模集客施設の立地規制だ。延べ床面積1万平方bを超える店舗、映画館、アミューズメント施設、展示場などを「特定大規模建築物」と定め、これらが立地可能な用途地域を▽近隣商業▽商業▽準工業−の三つに限定する。……第2種住居地域、準住居地域、工業地域では、大規模集客施設の建設の際に用途を緩和する地区計画の決定が必要となり、現状のままでは建設できなくなる。市街地調整区域についても、同様に地区計画が求められる。……広域的なエリアから人が集まる大規模集害施設では、周辺部における交通渋滞の発生や住民の反発などが問題視されてきた。このため、商業地域など商業機能を中心に据えた用途地域以外では、地区計画というステップを通すことにより、地元の合意形成やインフラに見合った施設整備を誘導する。ただし、過度の規制強化とならないよう、新たな地区計画制度「開発整備促進区」を創設。開発整備促進区は、用途は商業だけに限られるが、建築審査会や公聴会が不要なため、従来よりも迅速に事業化できる。加えて、都市計画の提案権者の対象を拡大し、新たに民間事業者を追加する。このほか、市街化調整区域において、これまで開発許可の対象外だった病院、福祉施設、学校などを、開発許可対象に加える。(『建設工業新聞』2006.02.22。) 今回の提案では、地区計画の策定を必要とすることにより、郊外の大規模集客施設の立地を規制する前進面がある一方、商業地域において建築審査会、公聴会が省略できる地区計画制度が導入されることで都市中心部における再開発が大きく促進される。商業地域におけるマンションの林立は日照・景観を劣化させ、大都市圏における住民紛争の中心のひとつとなっている。商業地域における地区計画制度は、規制の強化がもっとも必要な場面であり、法案には大きな問題がある。
● 自民、公明両党は21日、公務員による談合関与行為の範囲拡大と罰則の新設などを盛り込んだ官製談合防止法改正案を国会に提出した。今後、審議の過程で民主党とも調整し、全会一致での成立を目指す。改正案で、工事の分割発注が談合を手助けする関与行為に当たるとされたことについて、両党は、中小企業の受注機会の確保に支障が出かねないとして、法案提出に当たり、地域産業の振興や中小企業対策のために行う分割発注は、談合関与行為の新類型の対象としないことをあらためて確認した。発注者の混乱を防ぐためには、行為の良否を明示するガイドラインが求められそうだ。改正案は、▽「5年以下の懲役または250万円以下の罰金」を科す罰則規定の新設▽談合関与行為の類型に「ほう助」を追加▽同法が適用される特定法人の範囲を拡大―が柱。罰則規定を新たに設けることから、法律の名称も「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」に改める。公布から3カ月以内に施行する。現行法は、公務員の談合関与行為として、▽談合の明示的な指示▽受注者に関する意向の表明▽発注者の秘密情報(予定価格など)の漏えい―の三つを列挙しているが、当初一括発注が予定されていた工事を、業界に天下った官公庁OBの要請を受けて分割発注に切り替え、談合を手助けしたケースが問題化したことを踏まえ、改正案では「ほう助」を四つ目の類型として加えた。改正案をめぐる与党の議論では、工事の分割発注を談合関与行為に加えると地域産業の振興に支障が出かねないとの声が上がったことから、法案を固める段階で、地域振興や中小企業対策のために行われる分割発注など一般的な発注方法の選定は新類型の対象としないことを確認。発注事務に支障が生じないよう、法改正の内容の同期徹底を図ることになった。特定法人の拡大では、国や地方自治体が株式の3分の1以上を保有する法人を対象とすることにした。旧道路公団関係の6社は対象になるが、NTTと日本郵政については政令で除外する。……自民党独禁法調査会が21日開かれた。官製談合防止法改正案が固まったことを踏まえ、保岡興治会長は「なぜ談合が繰り返されるのか。メリットがあるからだろう。このメリットを見極める必要がある。公正な場で勉強し、2年後の独禁法改正前に準備をしておく必要がある」と述べ、公共調達制度を含めた談合防止策を引き続き検討していく意向を示した。(『建設工業新聞』2006.02.22。) 
● 47都道府県の2006年度一般会計予算案が22日出そろった。日刊建設通信新聞社の調査によると、総額は前年度比1.1%減の48兆2599億円、5年連続の縮小となった。また、普通建設事業費は、6.5%減の7兆8215億円で、公共事業の縮小傾向は06年度も続き、建設産業にとっては厳しい予算編成になった。災害復旧事業費は、14.2%減の2888億円(東京都除く)。九州地域で05年の台風14号関係災害復旧事業のため事業費が伸びたものの、大半の地域では事業費が減った。……普通建設事業費が前年度を上回ったのは、東京、福井、沖縄の3都県にとどまった。東京都は普通建設事業費と災害復旧事業費の区分を作業中のため、災害復旧分を含む投資的経費でみると、街路築造などの都市基盤整備に重点配分し、単独事業が13%も伸びている。その一方で、東北、福井を除く北陸、中国などの地方を中心に、普通建設事業費の抑制傾向が続いており、16自治体で2桁減となった。……民間活力による公共事業として定着したPFI事業は、20自治体が予算化している。案件数は、導入可能性調査などの調査検討段階が29件、事業実施段階は19件と、計48件を対象に予算を計上した。(『建設通信新聞』2006.02.23。)
● 国土交通省関東地方整備局は、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)に基づく発注者支援策として「公共工事品質確保技術者(品確技術者)制度」を創設する。整備局長が技術士など一定資格を持つ技術者を品確技術者として委嘱し、品確技術者の中から選任された者が整備局および出先事務所の発注する総合評価方式適用工事の審査・評価に当たる。また、技術者の少ない自治体から要請があれば直轄工事の場合と同様、自治体における総合評価適用案件の審議に加わることも可能としている。自治体への支援は中部地方整備局の発注者機関認定制度などが先行しているが、直轄工事の支援に関与する仕組みは、地方整備局では関東が初めて。(『建設工業新聞』2006.02.17。)
● 東日本、中日本、西日本の3高速道路会社は16日、2005年8月に旧日本道路公団が策定した「談合等不正行為防止策」の実施後も含めた入札・落札結果などの実態調査を公表した。……実態調査によると、鋼橋上部工事の平均落札率は02−04年度までの96.5%前後と比べ、07年度は84%程度と大きく低下している。ほかの主要工種の平均落札率も96%程度から05年度後期は89.8%−93.5%に低下している。これに対して鋼橋上部工事では「製作費や一般管理費など自社の利潤を下げてでもコストを圧縮している状況が見受けられる」とし、ほかの工種では「談合の摘発に加え入札契約制度の改善、発注件数の減少で競争が促進された」と分析している。低入札発生率は、02―04年度の3.5%―5.9%に比べ、05年度前期に17.6%、同年度後期に 35.4%と大きく増大している。原因として「一般管理費の圧縮のほか、取引先にも資材購入費の圧縮を要請するなどでコストを削減している状況が見受けられる」ことを明らかにした。(『建設通信新聞』2006.02.17。) 今回の実態調査結果では、民営化された道路会社の落札率の大幅な下落と低入札発生率の大きな上昇がみられたが、予定価格が適切に設定されていたのかどうか、大いに疑問である。また、民営化された道路会社は、公共工事入札契約適正化法等の法令の適用からはずれるため、入札契約実態の透明性・公平性の担保に難があり、談合などの温床となる可能性もある。入札・契約実態の継続的な公表と監視が求められる。

労働・福祉

● 国土交通省は、「建設産業の変化に対応した技能者・技能力のあり方に関する懇談会」(事務局・建設業振興基金)の初会合を開き、基幹技能者などの優秀な技能者を抱えている企業が適正に評価されるしくみや環境整備に向けた、具体的な検討に着手した。懇談会は、5月までに3回程度会合を開き、同月下旬に中間報告をまとめる。……21日に開かれた初会合では、事務局が人材育成について重点的・緊急的に取り組む課題として、@建設生産システムにおける技能者の役割の明確化A現場でコアとなる技能者としての「基幹技能者」の役割・意義の整理B技能者育成の体制整備C建設産業における技能者の直用化推進の在り方――などを提示した。……懇談会の構成員は次のとおり(50音順)。蟹澤宏剛芝浦工大工学部助教授、神林龍一橋大経済研究所助教授、藤澤好一東京建築カレッジ学校長、古阪秀三京大工学部助教授、国土交通省総合政策局建設業課、建設振興課、労働資材対策室。(『建設通信新聞』2006.02.24。)今回の懇談会では、事務局の課題提示の中に、技能者の直用化の推進のあり方の検討が含まれていることが注目される点であり、懇談会が具体的な提案を行なうことが期待される。

建設産業・経営

●大手住宅メーカーが一定基準を満たした「防犯建物部品」の採用を加速している。旭化成ホームズや大和ハウス工業は部品を標準採用、ミサワホームはオプションで使える部品数を拡充する。民間検査機関の評価による「住宅性能表示」に、四月から防犯項目が追加きれることも採用増の理由。住宅メーカーの利用が広がれば量産効果で部品価格が下がり、さらに普及が進みそうだ。旭化成ホームズは主力の「ヘーベルハウス」で、高さ二bまでの一階の全開口部で防犯建物部品を標準仕様にした。二重ガラスの間にフィルムをはさんだ防犯ガラスや、ピッキングを防ぐ錠前を採用する。住宅全体の価格上昇は二十万円程度に抑えた。大和ハウス工業は全住宅商品の一階すべてと二階ベランダ部分で防犯建物部品を標準採用している。ただ、従来は寒冷地用断熱サッシが必要な北海道や東北は対象外だった。四月までに基準を満たす断熱サッシに変更し、全地域で標準採用を実現する。パナホームも防犯専用の住宅仕様「セキュリオ」で四月から標準採用を始める。ミサワホームはオプション品を拡充するほか、防犯建物部品を家一棟すべての開口部で使用できるパッケージプランを用意する方向で検討中。四月からは国交省が指定する民間検査機関が評価して与える住宅性能表示に、新たに防犯項目が加わる。表示取得には防犯建物部品を使う必要があるため、住宅メーカーによる利用に拍車がかかりそうだ。現状では防犯建物部品の代表格である防犯ガラスの価格が、通常ガラスの五倍程度する場合があるなど割高感は否めない。そのため防犯建物部品の普及率は新築住宅で一%程度にとどまっているもよう。住宅メーカーの標準採用が広がれば価格低下も見込めそうだ。(『日本経済新聞』2006.02.28。)

まちづくり・住宅・不動産・環境

● 耐震偽装事件で日本建築構造技術者協会(JSCA、大越俊男会長)は、国土交通省が作成した誘発防止策の中間報告案を受けて「建物の構造性能確保に向けての提言」をまとめた。建物の構造性能を確保するには、形式ではなく本質的な制度の改正と社会環境をつくらなければならないとして、構造設計者の国家資格を創設することや、計算プログラムを使った再計算によらないチェック方法の導入などを求めている。……提言によると、構造設計者の役割を認識できるようにするため、確認申請図書などに構造設計者が署名、押印することを義務付ける。加えて、消費者保護には構造設計者の資質を明らかにする必要があるとし、1級建築士とは別に構造設計者の資格を創設することを提案した。構造設計の審査方法については、「構造計算は構造設計の検証にすぎず、計算プログラムの使い方に論点が絞られるのは危険な兆候」と指摘。国土交通大臣認定プログラムの廃止も含めた見直しを行い、審査員が同プログラムに依存しすぎる弊害を解消すべきだとした。構造設計の審査は、基本数値の整合性を確認したり、概算的な手計算を行ったりすれば十分に可能だとして、中間報告案で打ち出された「第三者機関による構造計算書の再計算」の必要性については否定。望ましい審査方法として、第三者審査の採用を提案。規模や用途で区分して特殊な建物を定め、第三者審査を義務付けるよう求めた。(『建設工業新聞』2006.02.16。)

その他