情勢の特徴 - 2006年3月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

● 日銀は九日の政策委員会・金融政策決定会合で、二〇〇一年三月に導入した量的金融緩和政策を解除すると決め、即日実施した。消費者物価が先行きマイナスにならないと判断した。五年ぶりに市場金利を活用する通常の金融政策に戻すが、ゼロ金利政策は当面維持する。解除後に市場の動揺を防ぐ市場安定化策では、政策委員が考える物価安定の目安として、前年比「〇−二%程度」のプラスと明示。こうした水準への物価安定を視野に政策を運営する枠組みを打ち出した。バブル崩壊後の一九九〇年八月以降、〇〇年八月のゼロ金利解除を除いて十五年あまり続いた緩和一辺倒の金融政策からの転換となる。……日銀は量的緩和の解除に伴い、金融政策で動かす目標を銀行などの手元資金の「量」を示す日銀当座預金残高から、代表的な短期金利(無担保コール翌日物金利)に変更する。会合では当面の政策運営方針としてこの金利を「おおむねゼロ%で推移するよう促す」と決定。……これまでの目標だった日銀当座預金残高の削減についても、現在の三十兆円強から急激に減らすと金利急騰を招きかねないため、徐々に十兆円程度まで減らした後、数カ月かけて六兆円程度に減らしていく。(『日本経済新聞』 2006.03.10。)今回の日銀の決定で、金融政策の当面の焦点は、ゼロ金利政策をいつ解除するか、ということになった。金融構造改革の基本目標のひとつに、国債金利の正常化によって、金融資本に有利な投資先を創出することがある。この間、金融資本は、バブル経済期とその後の長期不況下で積みあがった不良債権の処理を終えた後、今回の「景気回復」局面において金融資産の蓄積を大きく進めてきた。金融資本の政策要求は、不良債権処理のためのゼロ金利政策の継続から、金融資産の最大限活用のための長期・短期金利の上昇へ向けて変化している。しかし、ゼロ金利および低金利政策解除のためには、長期金利の上昇期には満期国債を償還し、金利低下期には借り換えにより残高を管理していくことが可能となる水準に国債残高を削減していくことが求められる。この間、矢継ぎ早に提案されている市場化テスト法案、行革推進法案また具体化が加速している道州制導入による歳出の抜本的な削減、さらに消費税の大幅引き上げ等の大増税による国家財政の再建は、金融資本のために政府の国債利払機能を回復するために急がれているという面がある。
● 国内銀行が海外向け貸し出しを急速に増やしている。邦銀海外支店の一月末の貸出残高は前年比三五%増と約十六年ぶりの高水準の伸びを記録。貸出残高も三年ぶりの大きさに膨らんだ。けん引役はアジアや中東欧・ロシアに進出を続ける日系の現地企業向け融資。バブル経済の崩壊後に邦銀の海外事業は急速に縮小したが、日系企業の進出加速と銀行自体の財務の健全化で攻勢に転じた。日銀集計によると、大手銀行と地方銀行の海外支店の貸出残高は一月末時点で十九兆七千七百二十五億円。これまで残高ベースで底だった二〇〇四年三月に比べ約六兆三千億円増えた。前年比増加率は三カ月連続で三〇%以上。邦銀は国内融資も昨年八月以降は実質増加に転じたが、国内大企業向けが伸びず、やっと水面上に顔を出した程度。海外貸し出しの増加率は国内を大きく上回る。……貸し出し増を担う主な融資先は、中東欧やアジアへ海外進出した日本企業だ。トヨタ自動車が昨年六月にチェコで工場を稼働。キヤノンもベトナムに新工場を建設する計画をたてるなど中東欧やアジアへの企業進出が続いている。……海外貸し出しは米ドル建てが大半で昨年来の円安・ドル高も円建てでの貸し出し急増の一因だ。(『日本経済新聞』2006.03.13。)
● 内閣府が十三日発表した昨年十−十二月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比一.三%増、年率換算で五.四%増となった。五%を超える高成長となり、日銀が量的金融緩和政策を解除する根拠とした景気の底堅さが確認された。景気の先行きへの楽観論などを背景に、同日午前には日経平均株価と長期金利が上昇。一方、ゼロ金利長期化観測から円安・ドル高も進んでいる。(『日本経済新聞』2006.03.13。)

行政・公共事業・民営化

● 政府の地方制度調査会(諸井虔会長)は二十八日、小泉純一郎首相に都道府県を廃止し広域自治体に再編する「道州制の導入が適当」と答申した。全国を九、十一、十三の広域ブロックに分ける三案を例示。国の出先機関を原則廃止し、その機能を道州へ移譲する考えを盛り込んだ。答申は人口減社会が到来するなか、環境保全など都道府県単位では対応が難しい広域行政課題が増えると指摘。「地方分権」と「行政のスリム化」につながる道州制の導入が新たな政府像の確立に有効だと位置づけた。国から道州へ、都道府県から市町村への大幅な権限移譲を提言。「特に各府省の地方支分部局が実施している事務はできる限り道州に移譲する」と記し、国の出先機関の機能を道州に移すべきだとの考えを盛り込んだ。三十三万人の国家公務員のうち二十二万人を抱える出先機関のスリム化へ踏み出すことになる。道州への移行は全国同時を原則とするが、都道府県と国が合意すれば先行導入も認める。道州の行政トップである「長」の多選は禁止する。(『日本経済新聞』2006.03.01。) 今回、地方制度調査会が答申を行なったことで、今後、道州制の導入へ向けた政府の具体案の検討が行われる段階に入ることになる。道州制の導入は、国の行政事務の多くを道州へ移行するとともに、道州は広域行政課題に対応し、従来の都道府県の行政事務の多くを基礎的自治体に移行することになる。このことは、道州、また基礎的自治体の財政力が弱い場合には、住民の享受する行政サービスの水準が切り下げられることを意味し、公共サービスを納税に対する対価とする新自由主義、市場原理主義の考え方によって、国と地方の政府のあり方を大きく変えていく狙いがある。
● 地方制度調査会が小さな政府づくりに向けて道州制の導入を答申した。国から道州へ、都道府県から市町村へ権限を移し、同時に国と地方のリストラを進める官の改革の切り札だ。……道州制は国と地方のあり方を根っこから見直す。国の役割は外交、防衛、治安維持などに限り、大半の業務は企画立案から補助金配分まで権限を移す。地方も国に頼れず財源の限界を考え、無駄を省くようになる。国と地方の抜本改革だ。(『日本経済新聞』2006.03.01。)
● 額賀福志郎防衛庁長官は三日の閣議後の記者会見で、二〇〇五年度予算で未発注となっている発注工事について、防衛施設庁などの官製談合事件に関与した疑いがある企業のほか、防衛庁や施設庁OBが〇二年以降に天下りした企業を入札、契約から除外すると発表した。除外対象は計百七十八社にのぼる。(『日本経済新聞』2006.03.03。)
●国土交通省は2日、公共工事の施工体制に関する05年度の全国一斉点検の結果を発表した。元請業者が下請工事に適正に関与しているかどうかを重点的に調査したところ、低入札価格調査制度の対象になった工事ほど問題がある実態が、昨年に引き続いて目立っていることが明らかになった。今回から、建設業法違反の疑いがあった3件の工事にかかわっていた5業者について、初めて許可部局への通知も行った。一斉点検は02年度から行っており、今回が4回目。05年10〜日月に、任意の実施日を定めて抜き打ちで実施。請負金額2500万円以上(建築は5000万円以上)の工事を重点的に選び、調査時点で稼働中だった8232件の約14%に当たる1135工事の現場に、監督職員以外の同省職員が立ち入った。このうち、低入札価格調査対象工事は、稼働中370工事のうちの195現場を点検した。……今回の点検で、施工体制に不備の見つかった現場は約50%に当たる568件。前年度の点検結果(不備は約57%の703件)に比べれば改善した。不備があった工事のうち、元請業者による下請工事への関与についての不備が390件に上ったが、建設業法違反の一括下請負(丸投げ)と認められる工事は確認できなかった。例年通り、全体として低入札価格調査の対象になった工事ほど不備が見つかる割合が高い結果となった。同省は「断定はできないが、低落札率の工事ほど、下請契約の違反割合が高くなる傾向にあるようだ」(官房技術調査課)としている。(『建設工業新聞』2006.03.03。)
● 政府は十日の閣議で「行政改革推進」法案を決定し国会に提出した。公共サービスの低下をもたらす公務員の総人件費削減をはじめとする五項目を重点分野とし、具体的な数値目標を明記した。小泉純一郎首相は閣議決定の際、「今国会の最重要法案だ」と述べ、早期成立を指示。安倍晋三官房長官は「小さな政府をつくっていく方向を示した意義ある法律だ」「連立政権が続いていく限り基本的な政策」だと述べた。法案は「基本理念」で「効率的な政府」を実現するには民間の「活力が最大限に発揮されるようにすることが不可欠」だと強調。政府・地方自治体が実施する事業について「民間活動の領域を拡大」するとして、公共サービスを民間任せにしていくことを求めている。その上で、@公務員の人件費削減A政府系金融機関の統廃合B三十一ある特別会計の整理合理化C独立行政法人の「見直し」D国の資産・債務圧縮−の重点五分野の「改革」の段取りも提示。五年問を期限に首相を本部長とする「行政改革推進本部」を設置する。最大の目玉にしている公務員の総人件費削減では、国家公務員を二〇〇六年度以降の五年間で5%以上純減する目標を明記。地方公務員も同様に4.6%以上純減することを求め、そのために国が基準を定める分野の職員(教育・警察・消防・福祉関係)削減へ基準の「見直し」を打ち出した。(『しんぶん赤旗』 2006.03.11より抜粋。)

労働・福祉

● 総務省が三日発表した労働力調査によると、一月の完全失業率(季節調整値)は4.5%となり、前月比0.1ポイント上昇した。ただ、完全失業者数は二百九十二万人で前年同月比では四万人の減少。就業者数は同八万人増の六千二百六十九万人と九カ月連続で増え続けており、雇用環境の改善傾向は続いている。男女別の完全失業率(同)は男性が4.8%と前月比0.3ポイント上昇、女性は4.0%と同0.3ポイント低下し男女差が拡大した。……厚生労働省が同日発表した一月の求職者一人あたりの求人の割合を示す有効求人倍率(季節調整値)は1.03倍で前月と同じ水準だった。……有効求人(季節調整値)は前月比0.9%減、有効求職者(同)も1.2%減った。景気の先行指標とされる新規求人数(同)は前年同月比6.9%増。〇二年七月以降、前年同月を上回って推移している。総務省が三日発表した労働力調査の詳細結果によると、二〇〇五年の三十四歳以下の若年層フリーター人口は二百一万人で前年比七%減少した。減少は二年連続。景気回復や今後の団塊世代の定年を背景にした企業の雇用拡大がフリーター縮小にも貢献し始めたようだ。一方、パートやアルバイトに派遣社員などを加えた非正規の職員・従業員人口は〇五年に三百六十万人となり前年から微増となった。これまで企業はコスト削減を進めるため、非正規社員の拡大を進めてきたが、ここへきて長期雇用を重視する姿勢が強まり始めている。(『日本経済新聞』206.03.03。)

建設産業・経営

● 竹中工務店の2005年12月期決算は、4期ぶりに単体の完成工事高が1兆円を超えた。都心部の大型工事とともに、拡大傾向にある建築ストックへの対応が順調に推移した。受注工事損失引当の影響もあり、完成工事総利益率は0.3ポイント減の6.5%に悪化したものの、開発事業利益や営業外収益の増加により、2期連続の増収増益とした。単体の売上高は前期比4.6%増の1兆0238億円、経常利益は68.8%増の295億円、当期利益は73.1%増の 170億円となった。……受注工事高は前期比0.9%増の9623億円。特命工事の受注比率が前期実績より2.8ポイント増の55.6%に高まったほか、自社設計比率も4.7ポイント増の53.4%となり、7期ぶりに5割を超えた。単体の次期は、受注高が9000億円(前期比8.3%減)、売上高が 9430億円(7.8%減)、経常利益が225億円(23.9%減)、当期利益は130億円(23.9%減)を見込む。「量より質を重視し、受注高と売上高ともに堅めの予想」に設定した。……竹中工務店の連結売上高に占める海外比率が前期比3.2ポイント増の12.1%となり、通期業績で初めて1割の大台を超えた。アジア(タイ、中国、インドネシア)で953億円、欧州(チェコ、ポーランド、ドイツ)で399億円、北米(アメリカ)で224億円重売り上げ、海外全体で1576億円とした。海外受注高もドバイ国際空港拡張工事がけん引したほか、生産・物流系施設の受注が全地域で顕著に伸び、同社の現法と本邦工事を合わせて1500億円を超えた。次期の連結ベースでも海外の受注高は1100億円(現法800億円、本邦300億円)、完成工事高は1621億円を見込み、ともに受注比率は1割を超える見通しで、次年度以降も海外事業が好調に推移しそうだ。(『建設通信新聞』2006.03.01。)
● 積水ハウスが一日発表した二〇〇六年一月期の連結決算は、純利益が前の期比八二%増の四百三十億円となった。高価格帯の戸建て注文住宅や一次取得者向けの分譲住宅の販売が好調だった。販売用の不動産を対象に評価損百二十億円を計上したが、前の期に減損損失を約六百億円計上したため、純利益の大幅増につながった。売上高は九%増の一兆五千十八億円だった。建て替え需要が膨らみ工業化住宅請負部門が好調。分譲マンションなど不動産販売部門も伸びた。……同時に、同社が保有する自社株のうち、ほぼすべてとなる四千三百万株を売却すると発表した。発行済み株式数の六%にあたる。調達する約六百六十億円は不動産開発事業に投資する。(『日本経済新聞』2006.03.02。)
● 東京商工リサーチがまとめた2006年1月の建設業倒産は、269件で前年同月比7.2%の減少となった。3カ月ぶりのマイナスとなった。負債総額は、 957億2700万円で53.7%の大幅な増加になっている。倒産の原因をみると、受注・販売不振61件、赤字累積39件、売掛金回収難8件を合計した「不況型」といわれる倒産が208件となり、全倒産件数の77.3%を占める結果となった。暑気の回復が指摘されるなか、地方建設業は厳しさが続く見込み。(『建設通信新聞』2006.03.09。)

まちづくり・住宅・不動産・環境

● 国土交通省は14 日、耐震偽装問題の再発防止策を反映させた「建築基準法等の改正案」の概要を自民党国土交通部会と住宅土地調査会の合同会議に提示した。高さ20b超の RC造建築物などの構造計算に第三者による審査(ピアチェック)を義務付け、審査機関として「指定構造計算適合性判定機関」を新設。建築確認や中間検査・完了検査に関する指針の策定や、3階建て以上の共同住宅に対する中間検査の義務付けも盛り込んだ。建築基準法と建築士法で新たに懲役刑を導入するなど罰則も大幅に強化する。月内に閣議決定し、今国会に提出する。……耐震基準違反など重大な建築基準法違反に対しては、罰則を現状の「50万円以下の罰金」から「3年以下の懲役、30O万円以下の罰金」に強化。建築士・建築士事務所の名義貸しや建築士に上る構造安全性の虚偽については「1年以下の懲役、100万円以下の罰金」とする罰則規定を建築士法に新設する。……特定行政庁に建築確認図書の保存を義務付け、指定確認検査機関と建築士事務所の図書保存期間も延長。確認申請書などには担当した全建築士の氏名などの記載を義務付ける。……住宅などの売り主の瑕疵(かし)担保責任の履行を徹底するため、契約の際、保険加入の有無の説明を義務付ける。瑕疵担保責任保険への加入義務化は、細部を詰める必要があるとして盛り込まなかった。国交省は、社会資本整備審議会(国交省の諮問機関)とは別に、損害保険業界、住宅業界関係者を交えた検討会を立ち上げて検討する。(『建設工業新聞』2006.03.15。)建築基準法の改正案は、民間営利会社による確認検査・審査の実施と言う1998年改定の誤りを是正することなく、この問題から生ずる様々な矛盾に対応することに終始している。詳しくは、建設政策研究所の社会資本整備審議会 中間報告に対する見解を参照。

その他