情勢の特徴 - 2006年4月前半
●「銀行貸し出しが首都圏や東海地方を中心に回復してきた。東京都内の2005年度末の銀行貸出残高は金融危機が顕在化した1998年度以降で初めて増加に転じたもよう。個人の住宅ローンや不動産向け融資がけん引している。埼玉の貸し出しの伸びは5.1%と全国で最も高く、静岡や愛知などはプラスになった。ただ栃木や富山、長崎のように地元銀行が公的資金の注入を受けた地域などは減少が続いている。……ただ貸し出しが増勢に転じた地域でも、銀行の収益拡大に直結するかどうかは不透明だ。調教が下げ止まったのは巨額の不良債権処理が一段落した影響が大きい。新規融資は不動産業や投資ファンド向けに偏っており、安定的に収益を稼ぎ出すかは不透明との指摘も出ている。北海道は自治体向け融資への依存が続いている。」(『日本経済新聞』2006.04.02。)
●「昨年十月に道路公団から民営化された道路会杜の事業計画などが31日に決まったことで、民間企業による高速道路運営が本格的に動き出すことになる。民営化会社は2020年までに1357`の高速道路を建設する一方、約38兆円の債務を50年度までに完済する今後の金利や道路収入の動向次第では債務返済計画に大きな狂いが生じかねないだけに、民の視点で建設や運営をどう効率化するかがこれから問われる。本州四国連絡高速道路会社を除く5杜の新規建設計画の内訳は国が定めた金国網の高速道路整備計画の未着工区間である約1100`bに加え、一般有料道路194`、首都高速道路37`、阪神高速道路30`となっている。これらの道路の建設にかかる費用は約13兆円。事業計画では新規の資金調達の金利を06年度で2.34%と見込み、08年度には3.5%に上昇。09年度以降は4%で推移すると想定している。……問題は債務の返済計画で旧日本道路公団を地域ごとに分割した三社の債務を一体にし、『日本高速道路保有・債務返済機構』に担わせたこと。道路各社が競い合って収益力を高め、債務返済を急ぐ誘因が働きにくい。特定の会社がコスト削減などで債務軽減に貢献しても機構への支払い負担がその分減る仕組みになっていないからだ。民の知恵を生かす体制をどう築くか、最大の課題はまだ残されたままといえる。」(『日本経済新聞』2006.04.01。)
●「国土交通省は、大規模工事で過度な安値応札が頻発していることを受け、低価格受注に対する追加対策を検討している。検討の過程で浮上しているのは、監理技術者の増員と施工体制確保の一層の徹底など。監理技術者の増員については、現行の該当要件を拡大し、要件の一つである、『過去2年間のエ事成績評定で65点未満を通知された企業』の評定点数のかさ上げなども含めて検討を進めている。一方、施工体制の確保に向けては、下請けへの適正な支払い確認や立ち入り調査の強化などを検討している。履行保証割合の引き上げについては見送る方針だ。同省は低入札対策を4月中にまとめ、各整備局に通知する予定だ。」(『建設通信新聞』2006.04.06。)
●「WTO(世界貿易機関)政府調達協定の改定が2006年内にも締結国間で実質合意に至る見通しだ。国土交通省は、この改定に合わせた『予算決算及び会計令』(予決令)の改正で多段階審査方式や交渉方式が導入可能になるよう財務省と協議しており、順調に進めば07年度から多段階審査、交渉の両方式の導入が実現する。……欧米諸国では、価格競争型一般競争入札から価格だけでなく最も経済的に有利な基準で落札者を決定する『競争的交渉方式』が主流となっている。……このような方式を日本に導入にするには、予決令を改正する必要があり、財務省は『(改正に当たっては)国交省が具体的にどのような方式を考えているのか整理してもらう必要がある』との見解を示した。予決令やWTO政府調達協定の条文と照らし合わせる必要があるためでたとえば、多段階審査は何段階まで考えているのかや、交渉では価格までの踏み込むかどうかなどを整理してもらう。国交省では、…二段階選抜方式をイメージしており、交渉方式は、技術提案の内容だけでなく、見積額についても交渉することを想定している。見積額まで踏み込むことから、運用によっては頻発するダンピング(過度な安値受注)対策にも活用できそうだ。」(『建設通信新聞』2006.04.07。)
●総務省が31日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は4.1%で、前月比0.4ポイント低下した。1998年7月の水準に戻ったが、なお4%台の高水準である。完全失業者数は277万人で、1月より15万人減った。就業者数は6272万人(前年同月比48万人増)だった。このうち企業などに雇われている人が前年同月比で126万人増えた。産業別就業者は、製造業、運輸業、サービス業、医療・福祉で増え、建設業、卸小売業などで減った。総務省は、企業が団塊世代の退職に備えて雇用を積極化させたことが原因とみている。また、厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率(季節調整値)は1.04倍(前月比0.01ポイント上昇)で、ほぼ横ばいだった。正社員の有効求人倍率は0.67倍(同0.07ポイント上昇)で、引き続き求人が求職を下回っている。(『しんぶん赤旗』2006.04.01より抜粋。)
●「国土交通省と農林水産省は、2006年度の公共工事設計労務単価(基準額)を決めた。50職種平均単価は前年度比0.7%減の1万7262円で9年連続でマイナスとなったものの、民間建築の好調などを受け、下げ幅は縮小した。前年度比で下げ幅がゼロ%台になったのは98年度の0.6%以来。主要11職種の平均単価も前年度比1.2%減の1万4666円と減少率は小幅にとどまった。50職種の平均単価は、97年度の2万3295円をピークに下落を続けていたが、06年度は電工、塗装工、サッシ工など15職種が前年度を上回るなど、一部の職種で回復基調がみられる。都道府県別では千葉、東京、神奈川、山梨大阪、奈良、和歌山の7都府県で平均単価の伸び率がプラスに転じている。」(『建設通信新聞』2006.04.10。)
●「厚生労働省は10日、総合工事業(対象=完成工事高30億〜50億円)の営業職種と、建設作業所の管理職瀧を対象とした職業能力評価基準を発表した。職種別にレベル1〜4の4段階で労働者の能力を評価できる仕組みになっており、厚労省は能力に基づいた人事評価や、職業訓練を受けた労働者の能力評価などに利用してもらう考え。基準は、全国建設業協会とともに設置した『職業能力評価制度整備委員会』(座長・蟹津宏剛芝浦工大助教授)が検討した。……工事の受注を担当する『建設営業職種』と、作業所の監理や支援を手掛ける『建設生産管理職種』の2職種を対象に、労働者の評価項目を提示した。……評価基準に労働者の能力を当てはめることで、労働者がレベル1(基礎)〜レベル4(経営者の補佐役など)のどの水準にあるか評価できる仕組みになっている。……これまでに厚労省は、左官、造園、防水、鉄筋、型枠などの各工事業の能力評価基準を策定。」(『建設工業新聞』 2006.04.11。)
●厚生労働省は11日、労働者と企業の雇用契約にかんするルールを定める「労働契約法」と、長時間労働の規制にかんする「労働時間法」について、「検討の視点」と題するたたき台をまとめ、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の労働条件分科会に提示した。同省の「今後の労働時間制度に関する研究会」などが出した労働法制の大改悪案をそのまま盛り込んだものだ。2007年通常国会への法案提出を目指し、7月には中間の取りまとめをおこないたいとしている。たたき台では「(企業側が定める)就業規則によって労働条件が決定されることが慣習として定着している」とし、就業規則をそのまま労働契約として押し付けることを打ち出している。労働条件の切り下げなど契約変更について労働者が争っても強行できる「雇用継続型契約変更制度」、企業側が金を払えば自由に解雇できる「解雇の金銭解決制度」の導入を提示している。有期労働者が契約更新を繰り返し、実質無期限に使われている問題についても「一定期間(一定回数)」まで更新を認める方向を示した。労働時間では、労基法が定める州40時間の制限などの対象から外し、無制限に働かせる「自律的労働時間制度」の創設を掲げた。日本経団連が強く求めている米国の「ホワイトカラー・エグゼンプション」(労働時間規制の除外)に倣ったものだ。……また、労働者の過半数が入る組合がない場合、労使の代表が労働条件の変更などを協議する「労使委員会」を設置することも打ち出した。労使委員会は、労働組合と違って法律で保障された権利もなく、多数決で何でも決められる。労働条件の切り下げなどに「お墨付き」を与えることになりかねない。(『しんぶん赤旗』2006.04.13より抜粋。)
●「耐震偽装事件の再発防止策として国土交通省がまとめた建築基準法や建築士法などの改正案が、3月31日に閣議決定した。早急に講じるべき課題として、第三者による構造計算の審査(ピアチェック)の義務付けなどが盛り込まれた。これから国会での審議が始まる。今国会で成立すれば、大部分が公布から1年後に施行される。一定規模以上のビルやマンションについて、建築確認申請の際に構造計算のピアチェックの手続きが新たに加わる。対象となるのは、高さが20bを超えるRC造建築物と、高さ13b超または軒高9b超の木造建築物。審査は新たに設置する『指定構造計算適合性判定機関』 (構造判定機関)が実施する。構造判定機関は知事が指定し、指定確認検査機関が構造判定機関になることもできる。ただし、第三者が構造を審査するという趣旨から、建築確認とピアチェックを同じ機関が実施することは認めない。……罰則も今回の法改正で大幅に強化される=表参照。耐震基準などの連反や建築士・建築士事務所の名義貸しには新たに懲役刑を導入し、罰金も引き上げる。処分発令時には、建築士の氏名や建築士事務所の名称も公表される。加えて、建築士免許が取り消された場合に免許を与えない期間も、5年間に延長する。情報開示も充実させる考えだ。建築確認の申請書には担当した建築士の氏名の記載が義務付けられる。建築士事務所には、所属する建築士の氏名・実績の公表が求められ、設計図書の保存期間も延長する。このほか、指定確認検査機関に対する特定行政庁の監督権限も大幅に強化する。建設業者には工事の澱庇(かし)担保責任の有無を請負契約書に明記することが、宅建業者には不動産取引の際に加入している保険の内容を記した書面を提出することが義務付けられる。」(『建設工業新聞』2006.04.07。)
●「大規模な首都直下地震による被害を最小限に抑えるために政府がまとめる『首都直下地震防災戦略』の原案が15日、明らかになった。最大112兆円を想定する経済的な被害を4割減の70兆円に、死者数を11000人から5600人に半減させる。2015年度までの十年間で住宅・ビルの耐震改修や不燃化工事を集中的に進めるなどの具体策を盛り込んだ。……住宅などの耐震化では1月施行の改正耐震改修促進法を活用。税制優遇措置などの利用を促し、耐震化率を現在の75%から90%へ引き上げる。住居内の家具が倒れないように固定化する習慣を各家庭に呼び掛ける。密集市街地対策を重視するのは、想定する死者数の8割以上が建物倒壊や火災によるとみているため。木造一戸建てが集まっている地域を共同住宅に建て直す場合に公的支援をする。……首都直下地震では帰宅が難しくなる人が焼く650万人でるとされる。これらの人の避難場所の確保などの対策については、内閣府内に専門調査会を設けて検討する。一連の対策で最悪で11000人を予想する死者数を5600に減らす。住居倒壊などによる死者を1300人、火災による死者を4000 人、急傾斜地の崩壊による死者を100人減らすとしている。経済的な被害の抑制額は42兆円を見込む。インフラなどの復旧費用を26兆円、企業が海外や国内他地域との取引機会を失う損失などを11兆円、企業活動の停滞による被害を4兆円少なくする。」(『日本経済新聞』2006.04.15。)