情勢の特徴 - 2006年4月後半
●「06年度予算の一般会計総額は79兆6860億円(前年度当初比3.0%減)。新規国債発行額は29兆9730億円で、政府目標の30兆円を下回った。一般歳出は46町3660億円(同1.9%減)。社会保障関係費が過去最高を更新した。公共事業費は5年連続減の7兆 2015億円(同4.4%減)。総額を抑制する中で、コスト縮減を図りつつ、施策の集中を図ることで、各事業の目的・成果に踏み込んで細かく重点化を図ることにしている。重点施策は▽防災・減災等による安全・安心の確保▽国際競争力の強化▽都市・地域再生等。この方針に沿い、空港、市街地整備の予算が伸びている。また、防災・減災対策として建築物・住宅市街地の地震防災対策や都市部の緊急浸水対策に予算が重点配分される。」(『建設工業新聞』 2006.04.21。)公共事業費は、本年度予算でも削減されることになった。しかも、その中で、空港、市街地整備など都市再生関連等に重点化され、地方のインフラ整備・維持、生活関連予算は引き続き大きく絞り込まれる状況である。公共事業の全体としての削減と大都市部への集中は、地方の衰退と地方経済の沈降を加速させており、公共事業にかわる新たな産業基盤の創出が要請されている。農林水産業の振興と観光資源の開発等、また福祉・医療・教育等公共サービスの拡充等により地方への人口回帰を実現する方向へ、国土政策と地域政策を根本的に転換することが求められている。
●「住宅ローンなど特定資産を裏付けに発行する証券化商品の市場が拡大している。2005年度の発行額は約9兆円と04 年度に比べ57%増え過去最高になった。貸借対照表(バランスシート)のスリム化を目的に企業や金融機関が資産を切り離す動きが相次ぎ、普通社債(6兆9 千億円)を上回る規模に成長。より高い利回りを得ようと機関投資家の購入意欲は根強く、今年度も拡大基調が続きそうだ。タイプ別の発行額をみると、大幅に増えたのが小口の住宅ローンを集めて証券化した住宅ローン担保証券。発行額は04年度に比べ約2倍の5兆円に膨らんだ。住宅金融公庫が金融機関と提携して住宅ローン『フラット35』の証券化を進めたことが主因。昨年8月から公庫自身が保有する融資を裏付けとした同証券の発行を始めたことも寄与した。大手銀行も住宅ローンの証券化に積極的に取り組んでいる。将来の一段の金利上昇を見据え、長期固定金利を選択する借り手が増加。金利上昇幅次第では貸し出しが逆ざやとなるリスクを回避するのが狙いだ。オフィスビルや商業施設など商業用不動産からの収益を裏付けにした証券も伸びている。05年度は品川三菱ビルの証券化(1250億円)など大型案件も相次ぎ、1兆円超と04年度の6千億円程度から急増。企業が資産効率を高めるために証券化によって不動産をバランスシートから外す動きが広がっている。……『長短金利の利回り差が縮小するなか、ある程度の利回りを確保できる商品』(日本生命保険)として、運用成績の向上を目指す機関投資家が積極的に投資。投資家層も長期運用の保険会社だけでなく、地方銀行など幅広い金融機関へとすそ野が広がっているのが目立つ。」(『日本経済新聞』2006.04.25。)昨年度の証券化商品市場の急拡大は、高利回りを求める機関投資家による購入が拡大したこと、及び将来の金利上昇を睨み、金融機関が融資資金の利ざやから証券発行による利益へ向けた収益基盤の移行を加速させているためだ。「景気回復」と郵政民営化を受け、金融構造改革は新たな局面に入っている。
●「6月にまとめる税財政改革の工程表に向け、政府・与党の検討作業が本格化してきた。経済財政諮問会議は27日の会合で、公共事業費を向こう5年間で3%ずつ削減することで大筋合意した。国と地方の基礎的財政収支の黒字化に必要な歳出削減額20兆円のうち、めどが立ちつつあるのは6兆5千億円分。社会保障や地方財政など反発が強い分野はまだ具体論にも踏み込めていない。個別の歳出削減を巡る論議は波乱含みだ。2006年度の国と地方の公共事業費は重複分を除くと18兆8千億円。毎年3%削減すれば、何も改革努力をしない場合に比べて6兆5千億円の削減になる計算だ。国内総生産(GDP)に占める公共投資の比率は06年度に比べて1ポイント下がり、欧米並みの2%台になる見通し。国の予算に関しては小泉政権下で公共事業費を年3%超削減してきた。これまではデフレに伴う事業の単価下落で減らしやすかったが、脱デフレが見えてきた段階での3%削減には反発がある。諮問会議の民間議員は民間に比べて割高な建設コストの引き下げなどに取り組むよう提言した。一方、国土交通省の佐藤信秋次官は同日の会見で『震災対策など社会資本整備の水準はまだまだ不十分』と強調した。……最大の焦点は国の政策経費の半分近くを占める社会保障だ。政府・与党内では、外来受診1回あたりの診療にかかる医療費の一定額までは患者の全額負担とする『保険免責制度』の導入が浮上している。……千円以下を自己負担にすれば、国・地方合計の財政資金の投入額が1兆円規模で減る可能性がある。……もう1つの柱が地方財政。地方向け財政支出では06年度で14兆6千億円にのぼる地方交付税交付金の削減が焦点。ただ総務省や地方自治体は『地方財政のスリム化は進んでいる』と強硬に主張しており、議論の土俵すら定まっていないのが実情だ。このほか文教科学分野では、地方公務員より優遇されている公立小中学校の教員給与の引き下げを検討中だ。財務省は優遇分である4%程度の引き下げで年間6百億円強の削減につながるとみている。財務省は4千億円強にのぼる私学助成の削減の好機とみているが、これも具体的な道筋は不透明だ。」(『日本経済新聞』2006.04.28。) 経済財政諮問会議が、公共事業の毎年3%削減を今後5年間継続することで大筋合意したが、全国で高規格幹線道路建設を継続する中でのマイナスシーリングは、震災対策、道路・河川、公的施設の維持管理などに支障をきたすことが危惧される。歳出削減は、国民にとって不要不急の無駄な費目を積み上げてすすめるべきであり、経済財政諮問会議がトップダウンで強行するべきではない。そして、社会保障経費については、人口構成の変化に伴う増加分については手当てすることを基本に、また、それ以外でも保育など少子化対策等のための必要な予算は増額する立場で検討をすすめるべきだ。
●「国土交通省は、同省発注工事で低価格入札が急増していることを踏まえ、ダンピング受注の排除や下請業者へのしわ寄せ防止などに向けた対策をまとめて14日付で各地方整備局に通達した。・・・・・・低価格入札を対象に行う価格調査の内訳や、工事施工後に行うコスト調査の内訳・分析結果はホームページ上で公表。事前・事後で整合性が取れているかを第三者が確認できるようにし、透明性の向上を図る。分割して発注する大規模工事では、前工事を低価格で落札した場合、その価格で単価合意を実施。後工事を随意契約で同じ業者に発注する際、その単価で積算する。これによって採算を度外視した安値受注に対する抑止力が働くとみている。過去2年間に工事成績評定が70点未満の工事があった企業は、予定価格2億円以上の工事で低入札価格調査対象になった場合、専任で配置する管理技術者を増員しなければならないようにする。じゅうらいは工事成績評定65点未満の企業が対象だった。低価格入札で請け負った工事が粗雑だった場合には、低入札によるペナルティーとして指名停止期間を2ヵ月上乗せし、最低でも3ヵ月とする。低価格入札で落札された工事でも適正な施工の確保を徹底するため、毎年行っている元下請代金支払い・受け取り状況調査も強化する。立ち入り回数を増やすなど調査を細かく行い、下請業者への不当な圧力や、書面に基づかない契約などが確認できれば、元請業者を建設業法に基づいて厳正に処分する。建設業法に基づいて処分されると、指名停止も受けることになるため、同省はダンピング受注に対する抑止力が高まるとみている。これ以外にも、入札ボンドや総合評価方式での価格評価方法の見直しを盛り込んだ。」(『建設工業新聞』2006.04.17。) 今回の通達は、ダンピング受注の排除、適正な施工の確保に一定の効力を持つ措置が盛り込まれたと言える。しかし、これらの措置と入札ボンドや総合評価方式の導入が、一定規模以上の公共工事における大手業者による受注独占に導き、建設産業再編・中小建設業者淘汰の梃子となることが懸念される。
●「国土交通省は、低入札工事を対象に実施した各経費の状況や下請けへの影響などの調査結果をまとめた。低入札工事の経費については、入札時の予定と完成時の実績とが大きく乖離(かいり)し、2002・03年度に発注した落札率70%以下の工事120件を対象に、経費の「入り口」と「出口」を比較した結果、平均で約100万円の赤字となっていることが分かった。当初予定した直接工事費、現場管理費では実際の費用が賄えず、結果として一般管理費の圧縮やマイナス分の補てんが横行している実態がデータとして裏付けられている。また、落札率が低下するほど、下請けの赤字も増加する傾向にあり、元下の契約内容にも不備がみられるなど、下請けへの「しわ寄せ」も確認された。国交省は、大規模工事で頻発している低価格応札などを受け、おもに02・03年度に発生した低入札工事を対象に、各経費の状況や工期、下請けへの影響、工事成績評定との関係を調査した。各経費の状況については、02・03年度に施工した直轄土木工事(港湾、空港工事除く)235件のうち、落札率が70%以下の120件を対象に、契約前の工事内訳書の内容と完成時の実績を比較した結果、ほとんどの工事が当初予定した経費をオーバーする赤字工事で、赤字額の平均は約100万円となることが分かった。予定していた経費で賄えない部分については、一般管理費の圧縮や請負者の「持ち出し」による補てんなどが、大半の工事で発生している。また、その場しのぎのコスト縮減のために、必要な交通誘導員を減らすなどの手抜きをする事例が多く発生している。低入札工事と標準公示の工期の比較では、低入札ほどコストを抑制するための工期短縮が行われており、通常は採用しない無理のある工法を採用するケースも多く発生している。落札率と工事成績評定の関係については、落札率が低くなるほど評定が70点以下となるケースや下請けの赤字発生割合が増加することが分かった。02・03年度に施工した低入札工事111件と標準工事436件の工事コスト調査によると、落札率が90-100%の工事では、成績評定が70点以下で下請けが赤字になる割合が3.0%なのに対し、落札率が50-60%未満の工事では、この割合が53.8%に急増する。また、落札率が下がるほど下請けが赤字になる比率が増加し、落札率90%以上で15%にとどまっている下請けの赤字発生率は、60-70%未満で60%、50-60%未満で54%を占めている。」(『建設通信新聞』2006.04.18。) 今回の調査では、低入札工事において、見積経費と実績が乖離し、ほとんどの工事が赤字工事であり、一般管理費の圧縮と下請業者の持ち出し(不払)で対応していることが明らかになった。国土交通省は、下請業者の持ち出し、不払部分について適正な支払いを行なうよう元請に指導すべきであるが、困難な場合には、発注者の責任で補償すべきだ。さらに、低入札への対応について抜本的に再検討すべきであろう。
●「国土交通省がまとめた直轄工事の月別契約状況(速報値)によると、落札率が緩やかに低下する一方で、低価格入札の発生率が05年度後半以降上昇基調にあることが分かった。・・・・・・同省は昨年11月から、落札率の月間平均値を算出している。従来は年平均だけを公表していたが、入札・契約過程の透明性を高める目的で毎月の落札率も計算することにした。11月以降の落札率をみると、11月91.1%、12月90.6%、 06年1月89.0%、2月88.7%、3月88.3%と緩やかに低下している。落札率は年平均でみると、99年度96.92%、00年度96.98%、 01年度96.02%、02年度95.28%、03年度94.26%、04年度93.91%とわずかながらも毎年度下がり続けている。低価格入札の発生件数と発生率は4月43件(3.7%)、5月28件(5.3%)、6月23件(4.2%)、7月29件(5.2%)、8月38件(5.4%)、9月53件(5.9%)、10月73件(6.3%)、11月85件(8.8%)、12月88件(8.7%)、06年1月58件(13.9%)、2月52件(7.8%)、3月333件(13.3%)となった。同省は昨年10月に一般競争入札の対象拡大と、指名競争入札の原則廃止を打ち出した。そうした競争参加の制限緩和も低価格入札が増えた一因とみられる。過去数年分をみると、99年度254件(1.5%)、00年度282件(1.7%)、01年度353件(2.4%)、02年度463件(3.1%)、03年度476件(3.9%)、04年度473件(4.1%)で、年々厳しくなる受注環境の流れを、05年度も引き継いだといえそうだ。入札方式別の低価格入札発生率をみても、WTO政府調達協定が適用される大規模工事の一般競争入札は例年1%台で推移していたが、04年度は3.0%と急上昇。その流れを受けるかのように、年間数件だった発生件数が05年度は32件となった。発生率は集計中だ。」(『建設工業新聞』2006.04.24。) 低価格入札の発生率は、徐々に拡大し、06年3月には、13.3%にまで拡大している。最近の低価格入札の大規模公共工事への拡大の状況が、国土交通省の直轄工事における低入札率の拡大に現れたものであろう。
●「アスベスト(石綿)の健康被害問題で、クボタは17日、兵庫県尼崎市の旧神崎工場の周辺住民に最高4600万円の『救済金』を支払う制度を導入したと発表した。工場から1`以内に、1年以上住んでいたか、通勤・通学していた人が対象で、給付額は社員への補償を上回る水準。事実上、責任を認めたもので、他の石綿関連企業だけでなく、国や自治体に手厚い救済を求める声が強まりそうだ。・・・・・・新制度の対象者は3月末時点で88人、総額は約32億円だが、現行の見舞金・弔慰金制度に基づき申請中の20人の何人かが対象に加わる可能性があるという。石綿の健康被害を受けた同社の社員や退職者には、最高3200万円の補償金を支払う制度を既に導入している。この日の記者会見で福田俊弘専務は『道義的責任があり、救済制度を導入した』と説明した。3月施行の石綿救済新法の周辺住民への補償は遺族への特別遺族弔慰金など一律約300万円と、医療費の自己負担分や療養手当(月約 10万円)支給が大きな柱。しかし労災認定された社員との『補償格差』や認定の厳しさを巡る批判は強い。」(『日本経済新聞』2006.04.18。) クボタの周辺住民のアスベスト被害への対応は、これまで見舞金の支給のみで、従業員への補償との格差が大きく世論の非難を浴びてきた。今回の措置により、従業員を上回る水準での補償が制度化されることになった。アスベスト健康被害に直接責任を負っている他の石綿関連企業および国は、クボタの新制度導入を受け、周辺住民への補償の水準を再検討すべきであろう。
●公共事業のトンネル掘削作業に従事し、じん肺になった患者など全国で176人が21日、国とゼネコンを相手取り、じん肺の防止と補償制度の設立を求める「全国じん肺根絶第二陣訴訟」を東京地裁、仙台地裁、熊本地裁に起こした。これは2002年に集団提訴した第一陣訴訟に次ぐものだ。訴訟は、@国がじん肺防止のための具体的な措置をとるAゼネコンが補償のための基金、患者が裁判を起こさなくても補償される制度をつくる−ことを求めている。(『しんぶん赤旗』2006.04.22より抜粋。)
●「東京商工リサーチがまとめた2005年3月の建設業倒産は、334件で前年同月比6.7%増と再び増加に転じた。負債総額は、461億4700万円で10.2%の減少だった。資本金1億円以上の倒産がなかったこと、負債額10億円以上が8件にとどまったことなどで、負債総額は減少した。しかし、受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難を合わせた不況型倒産は270件に達し、全体の80.8%を占める結果となった。ほとんどは中小・零細企業となっている。」(『建設通信新聞』2006.04.18。)
●「東京商工リサーチがまとめた2005年度の建設業倒産は、3790件で前年度比1.7%の減少となった。これで4年連続での減少となり、また、2年続けて3000件台にとどまった。負債総額は8743億9800万円で前年度に比べて微増。しかし、2年連続で1兆円を下回った。依然として受注・販売不振、赤字累積、売掛金回収難を合わせた不況型倒産が2973件となっており、全体の78.4%を占める結果となっている。企業規模をみても資本金1億円以上は24件に過ぎず、中小・零細の経営環境は厳しい。」(『建設通信新聞』2006.04.25。)
●「不動産ファンド各社が相次ぎ千億円以上のファンドを組成し、資産規模を拡大する。百億円を超える大型物件の購入、複数の不動産の一括売却(バルクセール)などに対応しやすくする狙い。不動産投資信託(REIT)や不動産会社など新規参入組との物件獲得競争の激化に備える。パシフィックマネジメントは千億円のファンドを設立し、11月にも運用を始める。すでに1件当たり40億―60億円のバルクセール案件に投資し、オフィスビルやマンションなど370億円分の物件を自己資金で取得。ファンド設立後に移し替える。セキュアード・キャピタル・ジャパンは商業施設企画・運営の丹青社と組み、都市型専門店ビルや郊外の大型ショッピングセンターに投資する千億円以上のファンドの運用を年内にも始める。一棟当たりの投資金額は最大 3百億円を見込む。需要が多い50億―100億円規模のオフィスビルには、REITが積極的に投資。従来ファンドの主な投資対象だった10億円以下の物件は、不動産会社などが買い集めている。ファンド各社が資産規模を拡大するのは、こうした競争勢力が手掛けない大規模物件を獲得する狙いがある。総額1兆円のファンドを運用中のダヴィンチ・アドバイザーとエートス・ジャパン(東京・港)は、潤沢な資金を背景にREITの投資対象になりにくい100億円以上の物件への投資を進める。他社も資産規模拡大により、複数の優良物件のまとめ買いや、高額物件に投資する体制を整える。」(『日本経済新聞』 2006.04.26。)「景気回復」と地価上昇傾向の見られる中で、不動産会社、J-REIT、不動産ファンドなどの投資が活発化している。不動産ファンドは、現在の地価上昇を牽引しているが、不動産ファンド各社が大規模物件への投資をすすめている状況は、不動産投機が、利益の大きなリスクの高い物件に積極的に向かっていく局面に入ったことを示していよう。