情勢の特徴 - 2006年6月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「国土交通省は3日、06年度の建設投資見通しを発表した。総額は前年度比1.0%減の52兆9100億円で、前年度のプラスから再びマイナスへと転じ、ピークだった92年度の約63%の水準にまで落ち込む見込み。内訳は、政府部門が18兆1500億円(前年度比8.7%減)、民間部門が34兆7600億円(同3.5%増)。民間部門が3年連続の増加を見込むのに対し、政府部門は8年連続のマイナス。30年ぶりに政府建設投資が民間住宅投資を下回る。政府建設投資は、建築(住宅・非住宅)と土木のすべてでマイナスと推計している。06年度当初予算では、一般公共事業費が国費ベースで前年度比4.4%減、地方単独事業費が同19.2%減となっており、縮小は避けられない見通しだ。内訳は、住宅が6000億円(同9.1%減)、非住宅が1兆2200億円(同28.2%減)、土木が16兆3300億円(同6.8%減)。民間住宅投資は、『景気拡大の中で安定的に増加する』(国交省)との予測から、18兆8600億円(同1.4%増)を見込む。民間非住宅投資も、製造業・非製造業ともに設備投資が好調なため15兆8900億円(同6.1%増)と堅調に伸びるとみている。内訳は、建築・非住宅が10兆5400億円(同7.3%増)、土木が5兆3600億円(同4.1%増)。」(『建設工業新聞』2006.06.05)。

行政・公共事業・民営化

●「国交省は1日、07年度からおおむね10年間の道路事業の目標や残事業費などをまとめた『道路整備の中期ビジョン』を発表した。高速道路などの高規格幹線道路計画1万4000`の概成、歩道約2万3000`の整備、事故多発個所約2万ヵ所の改良などを整備目標として提示。現在実施中の事業を完了させるには約58兆円の事業費が必要と試算。道路整備に使途を限定している道路特定財源の必要性を強調する内容になっている。中期ビジョンでは、▽災害時の救急活動や緊急物資輸送の途絶を防ぐ▽人口の80%が30分以内に高速道路に到達▽渋滞の緩和・解消▽交通事故死者5000 人以下▽二酸化炭素の削減―などを目標に掲げ、それぞれを達成するための施策を示した。・・・・・・必要は事業費58兆円の内訳は、▽維持・修繕・更新 15兆円▽防震災対策5兆円▽交通事故対策・安全快適な歩行空間の構築5兆円▽道路交通の円滑化(渋滞対策など)17兆円▽国際競争力の強化・高速定時サービスの提供13兆円▽日常生活に必要な移動の確保3兆円▽景観の保全・創造0.4兆円。道路特定財源の年間税収は5.7兆円で、これが一般財源化された場合、『実施中の事業を10年で完了するのは難しくなる』(道路局)見通し。58兆円に東京外かく環状道路都内区間など計画路線の事業費は含まれておらず、国交省は新規路線を整備する場合は『別枠で予算を設けるか、実施中の事業の財源を転用するしかない』(同)としている。」(『建設工業新聞』 2006.06.02)。
●「首都高速道路は、国土交通省が『予算決算及び会計令』(予決令)を改正して導入することを検討している、多段階審査・交渉方式の入札を試行する。神奈川建設局が入札公示した『KJ125工区排水施設・高欄他工事』を初弾として、今後は試行状況を見ながらWTO(世界貿易機関)政府調達協定対象の公示にも適用を拡大する考えだ。民営化して予決令の適用対象から外れたことで、より民間企業の施工者選定に近い方式として採用する。初弾の試行工事は、『技術提案価格交渉方式』として公示した。入札公告後に、競争参加者が参加表明書などと合わせて、施工計画の妥当性、首都高が提案するコスト縮減内容の妥当性を記した技術提案書、大枠の工事費内訳書を提出する。首都高は、提案書やヒアリング結果などを総合評価し、評価点の上位3 社程度を入札参加者とする。審査は『妥当性があるかどうかなどの確認だけとなる』(財務部契約グループ)。入札参加者は、技術提案書に基づいて単価や数量を示した詳細工事費内訳書を提出する。これを基に首都高はそれぞれの入札参加者と技術、価格で交渉する。各社との交渉内容をまとめ、首都高が予定価格や仕様書を作成後入札、交渉でまとまった技術提案と入札価格を総合評価し、落札者を決定、契約する。予決令では競争参加資格以外の評価を認めていないため多段階審査は採用できないものの、首都高は会計法や予決令の適用対象外だ。また、会計法上、2度の入札もできないが、工事費内訳書の提出は『見積もり』に当たり、交渉も発注者がそれぞれの入札参加者と進めるため、首都高は法令上は問題ないとしている。社の内規も、これまでの価格協議方式などの試行前に変更しており、コスト縮減に効果があるとして試行を決めた。・・・・・・首都高の試行方式は、交渉後に仕様書などを決めて入札するため、交渉段階の価格を最終的な入札段階で変更することができる。このため、多大な労力をかける技術提案や交渉の過程に関係なく、入札価格だけで落札者が決定される可能性も残されており、今後の大きな課題となりそうだ。」(『建設通信新聞』2006.06.05)。
●「国土交通省は、工事の監督業務の一部をコンサルタントに委託する方向で検討を進めている。粗雑工事の増加などを受けた監督・検査の強化の一環として民間活用の可能性を探る考えだ。すでに一部の地方整備局では監督業務のうち、補助的な書類整理をコンサルタントに委託しており、国交省全体として、‘‘民間開放’’のしくみを構築する方針だ。民間への委託に当たっては、対象工事、委託範囲、業務が適切に履行されなかった場合のペナルティーの必要性など、制度構築に向けた詳細な検討を進めていく。・・・・・・国交省の直轄工事では、監督支援業務の多くを建設弘済会に委託しているが、粗雑工事の増加などを受け、民間活用も視野に入れた監督・検査体制見直しの一環としてコンサルタントの活用について検討を進めることにした。」(『建設通信新聞』2006.06.09)。
●「国土交通省は13日、2005年度に結んだ随意契約9235件、2287億円のうち、9割に当たる8320件、 2058億円を一般競争入札や業者からの提案などで選考する企画競争・公募方式に切り替えることを明らかにした。3月末に発表した建設弘済会への委託契約の改善方針より厳しい内容で、当初、原則として建設弘済会に委託する予定だった業務も企画競争・公募方式に移行する。05年度実績のうち、建設弘済会や建設協会など全国11の社団法人、財団法人と結んだ随意契約は3724件で834億円を占めている。3月末の改善方針では、これまで建設弘済会に委託していた調査・検討業務など一部を民間に開放し、道路法・河川法などに基づく占有の許認可や道路、河川、ダム、堰などの施設管理、予定価格の積算や技術提案などの補助といった業務は、原則として建設弘済会に随意契約する考えだった。今回の見直しは、ガスなどの供給といった業務以外はすべて競争型契約を結ぶというもので、3月末に民間開放する方針を打ち出した業務は、総合評価方式を含めた一般競争入札などで契約先を選定する。一方、建設弘済会に委託を予定していた業務は、企画競争または公募方式で契約先を選ぶ。企画競争方式は、企画書を募集し、最も優れた提案を行ったものを選定して随意契約を結ぶしくみ。公募方式は、行政目的、必要な技術・性能などを明示した上で、要件を満たす応募者が1者の場合はそのまま随意契約し、応募者が多数の場合は総合評価方式か企画競争方式に移行して契約先を選ぶ。一般競争入札、企画競争・公募方式のいずれも、これまで随意契約を結んでいた業務のため、今後、具体的な競争参加資格要件の設定などを検討し、必要に応じてガイドラインも作成する。」(『建設通信新聞』2006.06.14)。
●「財務省の『国家公務員宿舎の移転・跡地利用に関する有識者会議』(座長・伊藤滋早大教授)は13日、東京都23区内の宿舎を今後10年間で現在の約3分の1に減らし、218ヵ所を売却対象とする報告書をまとめた。売却収入は3740億円を見込む。財政再建への効果は限られるが、土地の利用の仕方を民間が競うコンペ方式の導入も検討しており、経済の9活性化につながることが期待できる。報告書では、賃料が民間に比べ優遇されていると指摘される都心部の国家公務員宿舎を、防衛や警察関係といった災害時の緊急対応用などに絞り込む必要を明記した。具体的には、@都心3区(千代田・港・中央)の宿舎A法定容積率が5割未満B3000平方b以下の敷地――などの基準に該当する宿舎は原則として売却。居住している公務員は増築する東京郊外などの宿舎に転居させる。戸数ベースでは約2万2000戸から約1万8000戸に減る。現在の23区内の宿舎は行政関連で325ヵ所。このうち 233ヵ所を廃止し、高層化して居住者を集約する宿舎などを除く218ヵ所の売却を検討する。……民間企業は宿舎売却に関心を寄せている。都心部は分譲マンションの用地取得が難しく、『都心で好立地の公務員宿舎用地は魅力的』(マンション大手)。『宿舎の売却後には民間の創意工夫による有効な跡地利用が見込まれる』(三井不動産)といった見方がある。問題は価格や入札の方法。入札により用地取得コストが膨らむことを懸念する見方も強い。また、公共用地の払い下げには高さや景観などに制約条項が付くことも多い。」(『日本経済新聞』2006.06.14)。
●「1月の改正独占禁止法施行後、国土交通省の発注工事で、鹿島などゼネコン大手4社の落札率(予定価格に対する落札価格の割合)が低下している。昨年は平均97%だったが、今年1-3月は79%に急落した。ゼネコン大手は昨年末、罰則を強化する改正独禁法の施行をにらみ『談合決別』を申し合わせた。商慣行を見直す過程で価格競争が起きている可能性が強い。競争が広がれば発注者側は工事を安く仕上げられ、公共事業費を節約できる。……改正独禁法施行後に入札が行われた国交省の発注工事(予定価格2億円以上、港湾空港関係を除く)について鹿島、大成建設、清水建設、大林組の落札状況を調べたところ、4社は4月末までに計20件を落札。落札率は1月が94.8%だったが2月に77.1%に急落、3月も77.2%にとどまり、 1-3月の平均は79.1%と8割を割り込んだ。公共工事の落札率は95%を超すケースが多かった。大手4社で見ても昨年4-6月は97.8%、7-9月は96.9%、10-12月は95.9%に達していた。今年の個別案件でも大成建設が受注した『国道1号原宿交差点立体工事』(横浜市)の落札率は 58%、清水建設の『一般国道45号両石高架橋工事』(岩手県釜石市)も63%にとどまった。1-4月の4社の落札額合計は約657億円で、前年並みの落札率が続いていた場合と比べ、発注者は140億円程度節約できた計算になる。……1月施行の改正独禁法は違反行為への課徴金を引き上げ、公正取引委員会に強制調査権も与えた。ゼネコン大手は談合からの決別を申し合わせ、公共工事の受注担当者を配置転換した。国交省発注工事で大手4社の落札額は全体の1割弱といわれ、大型工事だと比率はさらに高まる。落札率低下が定着すれば公共事業費削減に結びつく。」(『日本経済新聞』2006.06.14)。

労働・福祉

建設産業・経営

●「完成前に見込まれる工事損失を計上するゼネコンが増えている。2006年3月期決算を見ても、完成工事高1000億円を超える上場ゼネコン25社中、22社が工事損失引当金を計上した。損失見込み総額は、前期の5倍以上に膨れ上がり、工事採算の指標となる完成工事総利益(工事粗利)率を軒並み悪化させる要因となった。06年3月期決算に引当金計上したのは、前期の11社から23社に倍増した。日本公認会計士協会が監査法人に要請したことにより、新規計上に踏み切った企業が相次いだ。大手では前期から計上した鹿島を含め、4社すべてが損失見込みを引き当てた。競争激化による戦略的受注だけでなく、発生した工事事故の復旧に伴う損失を見込むゼネコンもあり、損失見込み総額は前期の107億9100万円から、5倍以上の 593億3900万円に増大した。損失見込みは、工事原価に加算する処理が求められることから、結果的に各社の工事粗利率を悪化させる要因になっている。工事損失引当金の増加がすべての要因ではないが、25社平均の工事採算性は前期比0.6ポイント減の7.5%に低下した。」(『建設通信新聞』 2006.06.02)。
●「日刊建設工業新聞社は06年3月期の単体ベースの粗利益率を土木・建築別に集計して推移を調べた。その結果、06年 3月期の粗利益率が前期より悪化した企業は、集計対象の5分の4を占める21社に上った。……建築分野は民間設備投資が堅調で事業量は比較的安定しているが、発注者のコストダウン要求は厳しさを増しており、特命受注案件が大きく減少し、複数のゼネコンから見積もりを取る事実上の入札が増えている。特命受注でも、発注者の提示価格での施工を要求される事例も利益がなかなか伸びない。06年3月期の建築分野の粗利益率は18社が前期より落ち込んだ。従来は、民間中心の建築の低採算を、公共事業が中心の土木の好採算で補う形だったが、公共工事の受注競争がかつてないほど激化し、こうした構図は崩れかけている。公共工事は国や自治体の予算削減で事業量自体が急減している上、競争性・透明性を高めるための入札契約制度改革やコスト縮減の取り組みも加速。独占禁止法の改正や大手の『談合決別』宣言も背景に低価格入札が頻発する状況だ。06年3月期の土木分野の粗利益率は18社が前期より悪化させた。今期も16社が低下を見込む。」(『建設工業新聞』2006.06.08)。

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「東京都港区のマンションのエレベーター事故から10日で1週間。制御盤など機械の異常とずさんな安全管理態勢が捜査の大きな焦点になっている。警視庁捜査一課は週明けから事故の再現実験に着手するとともに、保守点検の実態も関係者から聴取。メーカー、保守管理者双方が複合的に絡んだ可能性もあるとみて事故の過失責任について慎重に捜査を進めている。……捜査一課の現場検証では、モーターやワイヤの巻き上げ機の破損やブレーキパッドの異常な磨耗はなく、制御盤がショートした痕跡もない。外的な損傷がないことから、同課は制御盤のプログラムなどに問題があり、昇降やドアの開閉、ブレーキなどの動きに異常が出た可能性があるとみている。……一方、事故機では年1回の法定点検のほかに月2回、定期点検が実施されていたが、過去3年間に43件トラブルが発生。しかし、保守業者が入札で1年ごとに替わることから、マンションを管理する港区住宅公社との間で、トラブルの内容が十分に引き継がれていなかった。……事故機の保守が適正だったかどうかも捜査の焦点となる。……シンドラーホールディングスはスイスで1874年に創業。老舗機械メーカーとして長い歴史を持つ。1990年ごろから積極的な買収戦略で急成長、世界2位のエレベーター・メーカーにのし上がった。過去20年間に買収した企業は60社以上に上り、この間に売上高は13倍、スイス取引所に上場する同社株の時価総額も30倍と急拡大。エレベーターやエスカレーターなど人を運ぶ機器を事業の中核と位置づける。徹底した規格化でコストを低減するのが特徴で、地元のエレベーター・メーカーなどを買収した場合でも、グループに完全統治していく手法を取る。製品も地元メーカーの製品を徐々にシンドラーが開発した製品に置き換えていく。」(『日本経済新聞』2006.06.10)。
●「建築設備技術者協会(牧村功会長)や日本設備設計事務所協会(福西輝男会長)など建築設備6団体は13日、専門分野別の建築士制度の導入に関する再提言書をまとめた。近く北側一雄国土交通相らに提出する。設計業務の建築、構造、設備の切り分けについて、現状でも各専門家が業務を遂行しているとし『切り分けは可能』と主張するとともに、設備専門分野の資格者の役割について『基本計画、実施設計、監理のすべての段階で、設備専門分野の権限と責任を負うことが必要』とし、設計の初期段階から維持管理まで幅広い参画を求めた。再提言書は2協会と空気調和・衛生工学会(鎌田元康会長)、電気設備学会(星野聡史会長)の2学会、日本空調衛生工事協会(山本廣会長)、日本電設工業協会(平井貞雄会長)の施工関係2団体の計6団体が共同作成した。」(『建設工業新聞』2006.06.15)。
●「耐震偽装の再発防止策の初弾が盛り込まれた建築基準法など関連4法の改正が、14日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。21日に公布される見通しで、建築基準法と建築士法の改正は1年以内、建設業法と宅地建物取引業法の改正は半年以内に施工される。……改正法では、都道府県知事が指定する『指定構造計算適合性判定機関』(構造判定機関)による構造計算の第三者チェック(ピアチェック)が義務付けられる。対象は、高さ20b超のRC造建築物と、高さ13b超または軒高9b超の木造建築物。成立を受け国土交通省は、構造判定機関の指定要件や『構造計算適合性判定員』(構造判定員)の選任基準などの本格的な検討に入った。全国の都道府県は自動的に構造判定機関となり、知事指定により民間企業なども参入が可能。ただし、複数の都道府県で業務を行う場合には、各都道府県ごとに指定を受ける必要がある。……このほか、3階建て以上の共同住宅に対する中間検査の義務化や、特定行政庁による指定確認検査機関への監督強化も盛り込まれた。罰則面では、耐震偽装など重大な実体規定違反が『3年以下の懲役、300万円以下の罰金(法人は1億円以下)』に、建築士・建築士事務所の名義貸しや安全虚偽証明が『1年以下の懲役、100万円以下の罰金』に強化される。加えて、建設業者には工事の瑕疵(かし)担保責任の有無を請負契約書に明記することが、宅建業者には不動産取引時に加入保険の内容を書面で提示することが義務付けられる。」(『建設工業新聞』2006.06.15)。

その他