情勢の特徴 - 2006年6月後半
●「政府・与党は26日、国と地方の財政を健全化する歳出・歳入一体改革の柱として、今後5年にわたる歳出削減案を決定した。2011年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するため、11兆 4000億―14兆3000億円の歳出削減を実施。黒字化に必要な16兆5000億円程度の7割以上を歳出削減で賄い、残りの2兆−5兆円は増税などで穴埋めする。消費税率の引き上げ幅や実施時期が今後の焦点となる。」(『日本経済新聞』2006.06.27)
●「国土交通省は2007年度にも、建設業者が受注した民間工事を一括して下請け業者に再発注する『丸投げ』を大幅に規制する方針を固めた。丸投げを放置すると工事の責任の所在があいまいになり、手抜き工事を誘発しかねないと判断した。マンションなどの住宅やホテル、商業施設など一般消費者が利用する建物の工事は全面禁止。オフィスビルなどについては丸投げした先の業者名の開示を義務づけることを検討する。丸投げは国などが発注する公共工事では既に禁止している。しかし民間工事は『契約の自由』の観点から発注者が書面で了解すれば認めている。……国交省は『責任の所在があいまいになり、消費者保護の観点から問題がある』と判断。民間工事でも丸投げを規制することにした。……国交省は省内の研究会で詳細を詰め、秋の臨時国会にも建設業法改正案を提出する。丸投げを制限した場合、小規模な物件でも自社で工事を監督するなどの措置が必要になる。人件費などのコストが膨らむため、大事業者は小規模住宅の建設受注などを絞る可能性がある。丸投げの制限で技術力のある中小業者が直接、発注者と契約するようになれば、元請け業者の取り分がなくなるため、契約価格の低下も期待できる。中小業者の収益性の向上にもつながると国交省はみている。今後、発注者が中小業者の技術力や施工実績を簡単に調べられるようにすることなどが求められそうだ。」(『日本経済新聞』2006.06.18)
●「国土交通省は、昨年度末に発注した大規模工事で低価格入札が頻発したのを受け、これらの工事を受注した業者に近く、報告を求める通知を出す。各社の責任者に出席を求め、入札価格の積算根拠や、施工に当たっての実行予算、下請業者の社会保険加入状況などを聞き取り調査する。下請業者側にも調査を行い、必要があれば今秋以降、元請業者に立ち入り調査を行う考えだ。公正取引委員会に通告する可能性もある。建設業法に基づき許可部局が行う調査だが、発注担当者も立ち会う。同省は品質劣化や下請業者へのしわ寄せなど恐れがある安値受注に厳しい姿勢で臨む方針を示しており、これが具体化する。同省が05年度に発注した工事のうち低入札価格調査制度の対象になったのは928件(港湾・空港を除く)。WTO政府調達協定が適用される大規模案件でも32件の工事が対象になった。今回の調査の対象にするのは、このうち一般土木などの工種で低価格入札だった十数件の工事。各工事の落札率は 46.6%〜84.2%。中には4件で低価格入札を行った業者もある。JVの全構成員に出席を求めることから、15社程度が対象となる見通しだ。調査では、各社の営業責任者や施工者責任者に、入札価格の作成方法、積算根拠、実行予算、下請業者の社会保険加入状況、下請業者への発注金額などを聞く。各工事の下請業者から数社を抽出し、元請業者からの報告内容が事実かどうかを確認する反面調査を実施。不当に低い価格での下請契約を押し付けるなどの違法行為が明らかになれば、公取委に通告する。同省はこのほか、他の公共発注機関が05年度に発注した1億円以上の工事を対象に、低価格入札案件を調査中。悪質性が疑われるような低価格入札を行った業者には、同省発注工事と同様、許可部局としての権限で調査を行っていく方針だ。」(『建設工業新聞』 2006.06.22)
●「国土交通省は、日本型入札ボンド制度を10月に導入する方針を固めた。対象工事を含め具体的な制度設計は8月までに詰める。また、地方自治体との連携も視野に入れており、国交省に早期導入を要望している宮城県のほか、入札保証金を求めている自治体などからも連携先を選出する見通しだ。日本型入札ボンド制度は、契約時に落札者から求める履行保証を、競争参加資格確認資料の提出時に前倒しする『履行保証予約』で、入札参加希望者に対して金融機関などが履行保証を引き受ける意思を確認できる書類の提出を義務付ける。原則、一般競争入札案件に導入する。ただ、具体的な対象工事は固まっていない。新制度となるため、許可行政庁の地方整備局が発注する3億円以上の工事に限定する方法や、企業規模によってボンドの引受機関や導入効果が異なることを考慮し、一定の規模に限定せず、特定の工種を対象にする方法など、さまざまなパターンを考えている。入札ボンドは、5月23日に改正した『公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針』(適正化指針)の中で、一般競争入札の拡大に当たっての条件整備の一つに挙げられている。このため国交省は、自治体と連携して導入効果を確認していく。宮城県はことし1月、不良・不適格業者の参入抑制と倒産リスク回避機能、下請企業保護の観点から入札ボンドの早期導入を国交背に要望しており、連携先として有力視されている。また、入札ボンドと同様の機能を持つ入札保証金の納付を入札前に競争参加者から求めている自治体などを選出する可能性もある。」(『建設通信新聞』2006.06.23)
●「相次ぐ低価格受注が問題視されている中、47都道府県の4割を超える20県が低入札価格調査制度に失格判断基準を設けていることが国士交通省の調査で分かった。同基準は、直接経費(直接工事費と共通仮設費積み上げ分の合計)などが一定割合を下回った場合、調査対象者を失格とするもので、形骸(けいがい)化している低入札価格調整制度を有効に働かせる手段として地方自治体が導入している。……低入札価格調査制度は全都道府県が導入しており、うち失格判断基準を設けているのは、青森、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、福岡、宮崎の20県となっている。たとえば、島根県は数値的判断基準として、@直接経費の合計金額が県の設計金額の75%以上A共通仮設費(定率分)の金額が県の設計金額の50%以上B現場管理費と一般管理費の合計金額が50%以上――のいずれか1つでも満たさない場合、調査対象者を失格とする。……ダンピングが続けば、同基準の設定は拡大する可能性もあり、健全な企業にとっては受注の阻害要因にもなりかねない。ただ、低入札価格調査制度が機能していないのも事実で、調査を含む運用の在り方の再考が迫られている。」(『建設通信新聞』2006.06.26)
●「社会資本整備審議会(国土交通相の諮問機関)の建築分科会基本制度部会(部会長・村上周三慶大教授)は26日、耐震偽装問題を受けて実施する建築士制度の見直しに向けた素案をまとめた。1級建築士の資格付与要件を強化するとともに、構造と設備の専門資格者制度を創設。高さ20b超のRC造建築物などの設計業務を、1級建築士の統括・指示の下で専門資格者が構造計算や設備設計を実施する形に改める。建築士などへの監督強化の面では、講習の実施を資格者団体と事業者団体の業務として規定するとともに、会員の業務に関する調査権を事業者団体に与える。団体への強制加入は『まだ議論が残されており、もう少し検討が必要』(国交省住宅局)と結論を先送りした。……建築士事務所の業務適正化策では、管理建築士について、一定の実務経験と講習の受講を要件として定めるとともに、納品する設計図書のチェックを求める。受託業務の丸投げも禁止する。このほか、工事監理業務の独立性を担保する規定を整備するとともに、着工届け時に監理業務を受託したことを書面で示すよう求める。建築士の業務報酬基準も見直す。」(『建設工業新聞』2006.06.27)
●「国土交通省は、先の国会で成立した住生活基本法に基づく『住生活基本計画(全国計画)』の案をまとめた。従来の住宅建設5カ年計画に変わる長期計画で、良質な住宅ストックの形成や居住の安定の確保など住宅の質向上を重視する内容となっている。全国計画では、耐震化率やユニバーサルデザイン化率、密集市街地の整備率などについて具体的な目標値を設定。15年度までに、住宅ストックの新耐震基準適合率を9割まで引き上げることや、省エネ対策率を4割まで高めることなど左盛り込んだ。」(『建設工業新聞』2006.06.29)
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●「新幹線・高速道路など公共事業のトンネル掘削工事で、じん肺になった患者60人が8日、国と大手総合建設会社(ゼネコン)を相手取り、じん肺根絶と健康被害補償制度の設立を求める全国トンネルじん肺根絶第二陣二次訴訟を東京地裁に起こした。……ことし4月訴状によると、じん肺被害の責任は、トンネル工事を請け負ったゼネコンだけでなく、@規制監督権限のある国が十分な防止対策の指導をしなかったA公共事業発注の国が『安全配慮義務』を尽くさなかったため――だと指摘。総額19億8000万円の堀害賠償と、じん肺を根絶する対策の確立を求めている。……原告弁護団長の小野寺利孝弁護士は『ゼネコンは加害責任を認めて賠償に応じる意向で、主要な争点は決着ずみ。第二陣訴訟では、じん肺補償基金を創設し、労災補償の上積みを迫る。国の加害責任をはっきりさせなければ、悲惨なじん肺の犠牲者が生まれ続ける』と強調しました。」(『しんぶん赤旗』2006.06.09より抜粋。)
●「国土交通省は、総合工事業者の技能者や専門工事業者の技術者・職長などが果たしている役割を調査した報告書をまとめた。大手・中堅総合工事業者で現場に配置している技術者数が減っている傾向にある中で、作業手順などの作成や品質のチェックを始め、エ程の進捗管理・他業種との工程調整に専門工事業者の関与が大きくなっていることが分かった。元請技術者が担当してきた業務の一部を専門工事業者に委ねられるようになったことなどが理由で、とくに品質チェック業務は、総合工事業者、専門工事業者双方から『専門工事業者の関与が大きくなった』との回答が多く、その役割が増大していることがうかがえる。……専門工事業者の関与が大きくなった業務は、『品質のチェック』が総合40.3%、専門59.0%と多く、『作業手順書の作成』が総合40.3%、専門46.2%、『施工要領書の作成』が総合37.3%、専門35.9%だった。今後もこれらの業務への専門工事業者の関与が増大することが見込まれ、とくに専門工事業者からは『施工方法の決定』に今後積極的に関与したいとの回答が51.3%と多かった。総合工事業者からみて、専門工事業の評価で今後重要性が増す項目は『自主管理・責任施工能力』が65.8%と最も多く、専門工事業者からみて、評価で重視してもらいたい項目も『自主管理・責任施工能力』が76.9%と最多だった。」(『建設通信新聞』2006.06.27。)
●「国土交通省が設置した『建設産業の変化に対応した技能者・技能力のあり方に関する懇談会』(事務局・建設業振興基金)の中間報告案が明らかになった。……中間報告案では、建設産業が国民の安全・安心の要求にこたえ、良質な住宅・社会資本の整備に貢献していくためには、@優秀な技能者が生涯を託せる環境の整備A技術・技能力の確保・向上を通じた生産性の向上と品質確保の徹底B公正な競争環境の確保――が必要と指摘している。これらを実現するため、下請契約の見積りに法定福利費の計上をルール化するといった社会保険などが末端の事業者までわたる仕組みの構築、作業員名簿や各種届けなどに社会保険など関係事項の記載といった労働者の社会保険・労働保険への加入状況について、元請け、発注者など関係者が現場で確認できる方策の検討を求めている。また、関係省庁間で連携しながら、立ち入り調査の実施などで下請けへの不当なしわ寄せ≠ネど不適切な事案への対応を強化することも要求している。……基幹技能者の位置づけの明確化では、現場での監理技術者や元請けの係員などとの補完関係や、現場での作業・工程の調整、組織内での位置づけや雇用関係の在り方などを整理するよう求めるとともに、現場編成での職種ごとのモデル的な配置例の提示、経営事項審査といった公的評価での加点なども検討するよう明記している。」(『建設通信新聞』2006.06.27。)
●「国土交通省は、『建設産業の変化に対応した職長および技能労働者のあり方に関する調査』の結果をまとめた。……総合工事業27社、専門工事業39社に対するアンケート調査と、総合工事業者10社と1現場、総合工事業8社へのヒアリング調査を、05年11〜12月にかけて実施した。建設現場に配置する技術者数について調べたところ、大手の7割が『減少』と回答。3割が『変化なし』で、『増えている』との回答はなかった。中小の総合工事業者では『増加』が半数近くあった。減少の理由として、『予算の制約』を挙げる回答が7割以上に上ったほか、『技術者が減少して現場に配置できない』との回答も6割近くあった。専門工事業者からの見積もりに経費を計上させているかどうかを総合工事業者に調査した結果、現場管理費は高い割合で計上されていたが、法定福利費はほとんど計上されていなかった。業種別に見ると、基礎関係では現場管理費が8割、法定福利費が3割、技能者の育成経費1割程度しか計上していなかった。躯体・構造物関係では現場管理費7割、法定福利費3割、技能者の育成経費1割、仕上げ関係では現場管理費5割、法定福利費1 割、技能者の育成経費0.5割、設備関係では現場管理費8割、法定福利費1割、技能者の育成経費0.5割だった。」(『建設工業新聞』 2006.06.27。)
●「景気回復を受け、雇用情勢が引き続き改善している。総務省が30日発表した労働力調査によると、5月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント改善し、4.0%になった。1998年4月以来、8年1カ月ぶりの低水準になる。厚生労働省が同日発表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.07倍で、前月比0.03ポイント上昇。92年8月(1.05倍)以来、約14年ぶりの水準に回復した。労働力調査によると、雇用者数は前年同月と比べ1.4%増の5525万人となり、1953年の調査開始以来、初めて5500万人台に乗った。完全失業者数は277万人と前年同月より30万人減り、総務省は『全体的に雇用情勢は回復している』とみている。完全失業率を年齢別にみると、平均を上回って推移する24歳以下の男性(前年同月比1.2ポイント低下の9.5%)の改善幅が大きいのが目立つ。60−64歳男性(0.8ポイント低下の5.3%)も改善。企業に段階的に65 歳までの雇用を義務付ける4月施行の『改正高年齢者雇用安定法』の効果が出た。……正社員の有効求人倍率は前年同月比0.05ポイント上昇の0.57倍。景気の先行指標とされる新規求人数は前年同月比8.4%増。」(『日本経済新聞』2006.06.30。)
●「東京商工リサーチのまとめによると、2006年5月の建設業倒産は、331件で前年同月比8.1%の増加となった。 4カ月連続で前年同月を上回る結果になっている。負債総額は、564億3300万円で65.1%減と大幅なマイナスとなっている。資本金が1億円を超える企業の倒産は1件にとどまったことが、負債総額の大きな減少の要因になっている。換言すれば、中小・零細企業の倒産がほとんどということになり、企業経営の厳しさを浮き彫りにしている。」(『建設通信新聞』2006.06.16。)