情勢の特徴 - 2006年7月前半
●「省庁や特殊法人などで構成する中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)は4日、2006年度の総会を開き、指名停止モデルの一部改正を了承した。『重大な独占禁止法違反行為など』を新たな指名停止要件として追加し、WTO(世界貿易機関)対象案件で独禁法の刑事告発や刑法談合で逮捕・起訴されるなどの要件を満たした場合、指名停止期間を6-24カ月以内とすることを規定した。また、改正独禁法の繰り返し違反に対する課徴金加算措置(10年以内再犯)を適用したケースや、誓約書提出後に違反行為が明らかになった場合などは、指名停止期間の短い方を2倍する『短期2倍措置』の対象とする。」(『建設通信新聞』2006.07.06)
●「国土交通省の各地方整備局がそれぞれ独自に策定したダンピング入札対策が出そろった。4月に総合政策局長と官房長名で出した通達『いわゆるダンピング受注にかかる公共工事の品質確保および下請け業者へのしわ寄せの排除等の対策』などのほかに、各地方整備局が地域の実情に応じて立案した対策を『新実験計画』としてまとめており、低価格入札を行った業者に対する総合評価方式や工事成績評定での減点措置を盛り込んでいるところが多い。新規入札への参加制限や、工事費内訳書に記載した経費が基準額に満たない場合に失格とする措置を打ち出した整備局もある。ただ、一部には政府調達協定や法令に抵触する可能性のある施策も含まれており、省内には計画の実行を疑問視する声もある。……新実験計画の施策では、総合評価での評価点減点が最も多く、『低入札工事完成後の成績が低い場合、一定期間、評価点を減点』としたのが東北、関東、北陸、中部、近畿、四国の各整備局。『完成後の工事コスト調査で重点調査時の結果とのかい離が明らかになった場合、工事成績または総合評価点を減点する』としたのが関東、中部、近畿の各整備局。関東、北陸、九州の3整備局は『低入札の場合は加算点を低減して評価値を再計算する』ことも盛り込んだ。一方で、『過去のエ事成績に基づいて競争から排除する』(東北、中国、九州の各整備局)や『低入札工事の施工中は新規入札に参加できない』(北海道開発局、中部、近畿、中国の各整備局)と、競争参加者に制限を設けない政府調達協定に抵触しかねない施策を打ち出した整備局もある。さらに中部、四国の2地方整備局は、工事費内訳書に記載された直接工事費や一般管理費、間接工事費のうちの共通仮設費、現場管理といった経費が基準額を満たさなければ、著しい安値受注として失格させる施策を打ち出した。ただ、失格基準の採用は会計法令上、財務省との個別協議が必要になる。」(『建設工業新聞』2006.07.07)
●「総務省がまとめた2005年国勢調査の抽出速報集計結果によると、建設就業者数は543万3000人で、前回調査の 00年と比べ91万3000人減(14.4%減)と、製造業に次いで大幅に減少していることが分かった。……前々回調査の1993年と比較すると119万 8000人減(18.0%減)で、減少幅は、前回が34万1000人減だったのに対し、今回は91万3000人減と57万2000人も上回っている。この著しい就業者数の減少は、01年4月の小泉内閣発足後の公共投資削減と符合しており、公共投資の削減が就業者数の激減に影響していることをうかがわせる結果となった。ただ、建設業の就労状況をみると、女性の就業は期待できず、技能者の賃金・処遇の低迷も考慮すると若年層の確保も危うい状況だ。国交省がまとめた建設技能労働者不足率の05年平均をみると、型わく工(土木)は2.4%(プラス数値が大きいほど技能労働者が不足)、鉄筋工(建築)が2.3%と、この10年間では最も労働者が不足している。……今回の国勢調査結果は、雇用対策が建設産業にとって喫緊の課題となっていることを改めて浮き彫りにした格好だ。」(『建設通信新聞』2006.07.04)
●「総務庁統計局はこのほど、平成17年国勢調査の速報集計(1%抽出)を公表したが、それによると、大工人口は55万 4500人で前回調査時(平成12年)よりも約9万2300人も減少(14.3%減)したことが判明した。しかも、同調査の『大工』には型枠大工も含まれているので、建築大工は50万人を割っていると言える。昨年12月に続いて今回公表された速報集計は、就業者の産業・職業別構成などだが、それによると、建設業の就業者数は543万2700人で、平成12年と比べて約85万7000人も減少した(13.6%減)。……建設作業者数も前回調査時より約36万 5300人減少(12.7%減)し、251万5300人となった。建設業就業者数と建設作業者数は同じ増減傾向をたどっており、1980年までは増加基調、85年は減少に転じたが、90年、95年と再び増加、その後は減少傾向となっている。建設作業者の内訳(職業小分類に基づく)をみると、大工は80年が93万6700人、85年、90年と激減した後、95年には3万人弱増加したが、その後再び激減が続き、05年は55万4500人となった。このうち雇用者(雇人)は25万1800人(構成比撃や4%)、自営業主は24万7400人(同型6%)、自営業主のうち雇人のある業主は6万6千人。女性大工は 5600人で、前回調査時より2500人減少している。なお、女性大工に限らず、女性の建設作業者は各職とも減少している。一方、ビル建設など野丁場の仕事が多いとび職は00年を除いて増加傾向がずっと続いており、05年は11万9600人(前回調査比6.9%増)となった。 これに対して、湿式工事の減少とともに一貫して減少傾向が続いている左官は、05年も減少し12万0400人(前回調査比20.9%減)となった。」(『日本住宅新聞』 2006.07.05)
●「国が発注したトンネル工事に従事し、じん肺になった患者と遺族計四十九人が国に計1億5180万円の損害賠償を求めた『トンネルじん肺訴訟』の判決が7日、東京地裁であった。芝田俊文裁判長は『国は1986年末ごろには対策を義務付ける省令を制定すべきだったのに、怠ったのは違法』として国の責任を認め、計6930万円の支払いを命じた。国を相手取った同種訴訟は全国11地裁で計約960人が起こしており、判決は初めて。トンネルじん肺で国の責任を認めた司法判断は初めてで、他地裁の訴訟の行方に影響を与えるとともに、国に抜本対策を促した形だ。……判決理由で芝田裁判長は『75年ごろにはトンネルじん肺が社会問題化し、国は79年時点で緊急対策を講じる必要があると認識できた』と指摘。旧労働省が粉じん濃度測定やマスク着用を義務付ける省令制定を怠っただけでなく、『工事現場に対する監督権限を適切に行使しなかった違反もある』と認定した。」(『日本経済新聞』 2006.07.07)
●「厚生労働省東京労働局は、郡内の建設現場304カ所に対する一斉監督指導の結果をまとめた。304カ所のうち、 48%に相当する146カ所で安全衛生法令違反を確認し、59カ所に作業停止や立ち入り禁止措置を講じた。……監督指導を実施したのは建築264、土木 14、設備工事など26の計304カ所。安全衛生法令違反は建築133カ所、土木3カ所、設備工事など10カ所で確認。主な違反は、墜落・転落災害の防止に関する違反96カ所(31.6%)、型枠支保工の倒壊防止違反17カ所(5.6%)、建設機械の接触防止・転倒防止違反8カ所(2.6%)、クレーン関係の違反3カ所(1%)。高所作業での安全帯不使用、作業床未設置、型枠支保工の組み立て図未作成、建設機械の用途外使用、移動式クレーンの定格荷重未表示などの違反があった。作業停止や立ち入り禁止を命じた59カ所は、すべて建築現場だった。元請業者の安全衛生管理が不十分だと判断したのは107カ所(35.2%)。持ち込み機械の点検の不備55カ所、現場巡視の不徹底45カ所、安全日誌の記載不十分36カ所などがあった。現場責任者が『安全衛生管理業務を十分に行えていない』と回答した現場は15カ所あり、うち11カ所が『人手不足』を理由に挙げた。……20カ所では労働時間の把握が行われていなかった。タイムカードなど機械による労働時間の記録が行われていたのは6カ所(1.9%)で、全体の80%を超える246カ所は労働者に自己申告によって労働時間を把握していた。時間外労働が月80時間を超える労働者がいた現場は7カ所(2.3%)だった。」(『建設工業新聞』2006.07.12)
●「トンネルじん肺九州訴訟の熊本地裁判決は、国の責任を初めて認めた7日の東京地裁判決から、さらに約26年さかのぼった時点から行政に怠慢があったことを指摘した。労働者の健康や安全対策の遅れを断罪したといえ、国は早急な患者救済と、じん肺問題の抜本的な対策確立を迫られている。東京地裁がじん肺防止策を打ち出さなかった国の過失を認めたのは、粉じんが大量発生する掘削法が標準化した1986年時点。これに対し、熊本地裁は『じん肺法が施行された60年の段階で、粉じん抑制のための散水を義務付けるべきだった』と述べた。」(『日本経済新聞』 2006.07.13)
●「関東地区の鉄筋工と型枠大工の不足が顕著になっている。5月ころから不足が始まり、年内は続く見通しだ。現状で 20%程度不足しており、夏場を迎え、作業能率が低下することなどから、さらに不足すると予想される。このため、末端の労務単価が上昇し、企業経営は一層厳しい状況になっている。さらに、型枠工事では型枠用合板価格の急騰も経営を圧迫している。関東鉄筋工事業団体連合会(内山聖会長)の鉄筋工の需給調査によると、回答のあった196社で約3000人が不足、本格的な夏を迎えるにつれ、今後不足数は4000人くらいに増大すると予想している。会員外の企業も含めると5000人以上不足すると思われる。型枠工事も同様にことしの春先以降、仕事量が急増したことに加え、技能工の離職増と入職者が少ないことから、大幅な労務不足になっている。労務不足は、低賃金であることが最大の要因だ。『1級技能士の資格をもっている30歳代の技能者でも見切りをつけて去っていく』という。『団塊の世代が退職する一方、若年者が入職してこない。工事量も減少するだろうが、それ以上に技能者が減少している』……元請けの現場監督のレベルの低下を指摘する声もある。監督が十分管理できないため、工程が遅れ、人数をつぎ込むことになり、その分、他の現場に回せないという悪循環に陥っている。」(『建設通信新聞』2006.07.14)
●「大手ゼネコン5社が今年に入り、地方の建設業協会から相次ぎ退会している。……建設事業者の業界団体『全国建設業協会』の傘下にある47都道府県の建設業協会について、鹿島、大成建設、清水建設、大林組、竹中工務店の入退会状況を調べた。地方協会の会員は地元事業者が中心で、ゼネコン大手は支店などを通じて加入する場合が多い。今年に入って神奈川、愛知、石川、愛媛の4協会から大手5社がすべて退会。北海道、新潟、富山、広島、山口、福岡の6協会からは一部が退会した。逆に東京や大阪など4協会には5社すべてが加入を続けている。……地方の協会から退会しても、その地域の工事の入札には参加できるが、業界内には『下請け業者の確保に影響が出るため入札に参加しにくくなる』との声も出ている。」(『日本経済新聞』 2006.07.06)
●「去る6月18日、東京都に本社がある一(はじめ)建設鰍ヘ、自社が分譲した戸建住宅のうち681棟が耐震強度不足であることをホームページで公表した。建築基準法が定める強度を満たしていなかった物件は、同社の調査によると全て外部の設計事務所に設計委託した木造二階建て住宅であり、現在補修工事が完了または進行中であるとしているが、今回の問題では匿名の電話による告発が一つのきっかけであったことから、昨年来の姉歯問題と同様の構造をもっていることが指摘され、波紋を投げかけている。一建設によれば、違反の内容は壁量の計算を行っていなかった。あるいは図面への記載ミス等であるとしているが、報告を受けた国土交通省では関係する都県を通じて、設計を行った設計事務所に対し事実関係を調査している。……国土交通省では戸建住宅においても建築確認・検査体制を強化する必要があると判断、検討を開始することになった。建築基準法の見直し項目としてあげているのは、二階建て木造戸建て住宅における建築確認・検査の特例。現状では、建築士が設計したものについては構造耐力等に関する審査を行わないことになっており、違反等があった場合にはその責任は、確認検査機関ではなく、一義的に建築士にあるとされているが、この特例の是非について見直すことになる。戸建て木造住宅でも、壁量が基準を満たしているか、また耐力壁がバランスよく配置されているか等のチェックが、今後はより厳格に行われることになりそうだ。」(『日本住宅新聞』2006.07.05)
●「住宅の瑕疵を担保するための保険加入の義務づけについて検討を重ねて来た住宅瑕疵担保責任研究会(国土交通省が設置)が、住宅品質確保法に基づく保険制度の基本的枠組み案をまとめた。全ての新築住宅を対象に、工務店や住宅の販売業者等全ての事業者が保険に加入することを前提とした枠組みを構築するものであるが、保険に頼ることで不誠実な業者が出て来るというモラルハザードのおそれが指摘されていることもあって、今回は現行の住宅保証制度を前提に安心・安全が確保できる保険のしくみを提示した。……保証のしくみは、現行の暇庇保証制度と同様、居Z宅保証機構のような技術力を有する保証機関が検査.査定等の機能を果たし、損保会社が保険リスクを引き受ける。もし事業者が倒産した場合には、現行と同様に第三者(保証機関等)が被保険者となり、受け取った保険金を住宅所有者に支払う。……現行の住宅性能保証制度では、保険料率(平成17年度)は戸建住宅が1戸当たり 0.185%、共同住宅が1棟当たり0.125%で、新築住宅120万戸全てについて保険が付けられた場合、保険料は約180億円となる。」(『日本住宅新聞』2006.07.05)
●「住宅政策を、『量』から『質』へ転換―。先の国会で、住生活基本法が成立した。人口増加に対応して住宅の量の確保に主眼を置いていた従来の住宅建設5カ年計画が、具体的な目標を揚げた上で良質なストックの形成を目指す『住生活基本計画』へと改められる。……全国計画案では、▽ストック重視▽市場重視▽福祉、街づくりなど関連施策分野との連携▽地域の実情を踏まえたきめ細かな対応−の4つを横断的に考慮すべき視点として揚げた。……全国計画案で示された具体的な目標の一つは、良質な住宅ストックの形成と将来世代への継承。成果指標としては、耐震性の確保やユニバーサルデザイン化の推進などを掲げた。耐震性能については、新耐震基準に適合した住宅の割合を、75%(03年時点)から、15年度には90%まで引き上げる。耐震性能は生命に直結する基礎的安全性としてとらえ、施策の充実により耐震化を促進する。」(『建設工業新聞』2006.07.13)