情勢の特徴 - 2006年9月前半
●「国土交通省は年金や企業の資金を実物不動産へ直接投資する際、物件の売買や管理などを不動産会社などの専門家に一任できる制度を創設する。不動産専門の投資顧問業を解禁するもので、大手不動産会社などの参入を想定している。株式や債券のように実物不動産にも投資しやすくすることで、不動産市場に年金などの長期運用資金の流入を促すのが狙いだ。……国交省は実物不動産への投資環境を整えるには、一般の投資家が物件の選定や管理のノウハウを持つ専門家に物件の売買・管理まで包括的に一任できる制度をつくる必要があると判断。投資家が示した長期的な運用方針に沿って、実際の物件の選定や売買、管理などを引き受ける不動産専門の投資顧問業を解禁することにした。この一任取引を担う不動産投資顧問業者には、国への登録を義務づける。一任取引の仲介で必要とされる不動産物件の耐震性などの重要事項説明は免除するため、トラブルが起きた場合の投資家保護を確実にするためだ。投資家が知らないうちに無謀な不動産投資に走ったりしないように、投資家に対する定期的な取引報告も義務づける。」(『日本経済新聞』2006.09.02)
●「小泉内閣が打ち出した『小さな政府』の方針を受け、PFI方式や指定管理者制度など民間委託による公営企業の経営改革が進んでいるほか、開発行為の許認可をはじめ、都道府県から市町村への権限移譲なども加速している。総務省は、公有財産の積極的な処分など、行政改革に対する自治体の政策姿勢をまとめた新たな指針を8月31日付けで各自治体に送付した。自治体の行政改革の取り組みは一段と広がりそうだ。これまでの主な取り組みをみると、自治体の事務・事業のうち、公共施設管理の民間委託が進展。道路の維持補修・清掃関係では、04年度末時点で都道府県(長野、鳥取を除く)の98%、政令指定市は100%が民間委託を実施している。……指定管理者制度の導入も活発化している。同制度では、導入対象332施設の93%で公募した京都市をはじめ、公募方式による指定管理者の選定が浸透。……行政の事務・事業の実施主体を官民の競争入札で決める『市場化テスト』の実施に乗り出す自治体も多い。大阪府、和歌山県、北九州市は市場化テストの実施ガイドラインを整備。このうち、和歌山県は、『(仮称)県庁南別館』の施設管理を対象に本年度中に市場化テストを実施する。総務省の集計によると、22都道府県と3市が市場化テストの導入を検討中だという。」(『建設工業新聞』 2006.09.05)
●「国土交通省の直轄大規模工事(予定価格7億2000万円以上)の一般競争入札で低価格競争に歯止めがかからない。3 月末までの大規模工事で低価格受注が相次いだことが大きな問題となったが、4月以降も低価格での応札が続いている。4月以降は、応札者すべてが低入札価格調査の対象になるケースが土木工事でも出始めるなど、応札企業に占める低価格での応札企業の割合が非常に高い傾向にあることと、これまで低価格で応札しなかった企業も低価格競争に参加し始めたことが大きな特徴だ。……4月以降の国交省発注の大規模工事の入札は、8月末までに17件(入札情報サービスから整理)あった。このうち低入札価格調査対象工事は、14件と8割以上に上った。17件のうち、大手、準大手ゼネコンが応札した工事は6件だった。……低価格落札は国交省直轄土木工事だけでなく、農林水産省直轄工事や岩手県の病院建築工事でも発生するなど歯止めがかからない状況にある。低価格応札は、ことし3 月までの入札で低価格応札しなかった企業も4月以降は低価格競争に参加しているのが大きな特徴だ。国交省以外の国発注も含めれば、大手、準大手企業はほとんど低価格競争に参加している。」(『建設通信新聞』2006.09.06)
●「政府は5日、市場化テストに対する政府の取り組み姿勢を明示した。『公共サービス改革基本方針』を閣議決定した。基本方針は、市場化テストの当面の対象を、総務省の統計調査など9事業としたものの、国が実施する必要のない業務の廃止・民間開放を進めるとともに、新たな対象業務・事業についての提案・要望を民間などから積極的に受け付ける考えを表明した。民間から寄せられた提案・要望については、実現に向け関係省庁と公物管理のあり方などをめぐって協議を進めることにしている。こうした改革を担当する内閣府の公共サービス改革推進室には、民間企業など57者から、市場化テストや民間開放、競争入札の導入についての提案・要望が193件(国122、自治体71)出されている。主なものでは、大日コンサルタントが国交省の国道工事事務所による道路の維持修繕計画の立案と実行、タカダが国交、経済産業両省のPFIセミナーを市場化テストの対象とするよう求めた。大成建設は、一定のエリアにある複数の橋梁の点検・補修・補強などの業務を5〜10年単位で一括して発注するよう要請。公園や学校についても、維持管理業務を地域単位で発注すると同時に、収益事業の実施を可能にするよう提案した。総合評価落札方式の技術審査を民間に実施させることや、デザイン・ビルドで発注する事業に異業種JVが参加できるようにすることも求めた。三井住友建設は、川砂・川砂利の計画的採取の許可と採掘権について民間競争入札の実施を提案した。現状では河川法に基づく川砂利採取が『細々と行われている』状況だとして積極的な採取を目的に、採掘権をめぐって民間企業が入札しる制度を整え、その売り上げを河川の保全に役立てるよう求めた。同社は、補助金交付事業に対する『任意的検査』を『必要的検査』にし、土地区画整理や再開発事業の終了時の検査を民間に開放することも要望している。」(『建設工業新聞』2006.09.07)
●「国土交通省は入札ボンド実施要領を、各省庁・特殊法人などに8日付けで通達した。同省は本年度中に約10件の直轄工事で試行し、導入効果を検証しながら07年度以降、順次適用を拡大する。試行はいずれもWTO政府調達協定対象以上の一般競争入札で、一般土木とPCの2工種で実施。現時点で東北地方整備局2件、近畿地方整備局5件の合計7件の工事に適用することが決まっている。7件とも10月下旬以降に発注広告され、 11月下旬にも入札ボンドの提出が行われる予定。金融機関などによる与信枠を活用した入札参加業者の審査が始まる。同省は、入札ボンドを『契約保証(履行保証)の予約的機能を持つ証書』と位置付け、現行の入札保証制度の中に組み込んで導入する。従来の公共工事では免除していた入札保証金を納付させることを原則とした上で、入札ボンドの提出があれば入札保証金の納付を求めない運用方法に改める。損害保険会社が発行する入札保証保険や、金融機関・公共事業保証事業会社の契約保証の予約、金融機関の入札保証などを入札ボンドとして扱い、現金や国債などの有価証券、入札保証金などの場合の付保割合は見積契約金額(税込み)の5%以上とする。」(『建設工業新聞』2006.09.11)
●「2005年の1年間にアスベスト(石綿)の吸引が主な原因とされるがん『中皮腫』で死亡した人は、過去最多の04年よりも42人少ない911人だったことが8日、厚生労働省の人口動態統計でわかった。年間死亡者数は7年ぶりに減少したが、2年連続で900人台。同省『05年はインフルエンザが流行し、中皮腫を患う人がインフルエンザで亡くなるケースもあったとみられ、減少は一時的では』とみている。統計によると、 05年の911人は過去2番目に多い水準で、10年前の約1.6倍。内訳は男性722人、女性189人で、04年から男性は7人、女性は35人減少した。都道府県別では、クボタの旧神崎工場(尼崎市)がある兵庫が90人と5年ぶりの最多。次いで大阪87人、神奈川80人、東京73人、北海道40人の順。 04年から死亡者数が増えたのは18都県で、兵庫15人、神奈川11人の増加ぶりが目立つ。中皮腫の死亡者数の統計を取り始めた1995年からの累計では、大阪が801人と最多で、兵庫699人、東京618人、神奈川県599人、北海道392人だった。」(『日本経済新聞』2006.09.09)
●「積水ハウスは31日、2007年1月期の期末配当を前期比2円増の12円にすると発表した。年間配当も2円増の22 円になる。戸建て住宅や分譲マンション販売が計画を上回っており、今期の予想連結純利益も44%増の620億円と従来予想比で20億円上方修正。好業績を受けて株主配分を増やす。」(『日本経済新聞』2006.09.01)
●「国土交通省は8月31日、新たな建設産業政策について検討している建設産業政策研究会(大森文彦座長)に、中間取りまとめの素案を提示した。建設生産システムを『建設生産物の最終消費者に対する発注者、設計者、施工者など各主体による建設生産物提供のプロセスと、各主体相互の関係性の総体』と定義。発注者も建設生産システムの一翼を担う主体と明確に位置づけた。その上で、最終消費者に対し対価に応じて最も高い価値(VFM)のある建設生産物を提供することが、目指すべき建設生産システムの方向性だしている。素案では、建設生産システム改革の方向性を『各主体の責務の的確な遂行と能力の向上』『新しいパートナーシップの構築』『公正かつ透明な競争環境の整備』に整理。うち、各主体の責務の的確な遂行として、発注者にはVFM実現のためのリーダーシップを求めた。設計品質によって建設生産物の品質が左右されるとして、設計者には設計技術者の質向上を図る対策が重要だと指摘。建築士制度の早急な見直しを盛り込んだ。施工段階の総合管理監督機能を担う総合工事業者に対しては、元請け責任を明確化する必要性に言及。早急に必要な対策として、▽一定の民間工事で一括下請けの見直し▽監理技術者資格者制度・講習制度の民間工事への適用▽施工図書の保存義務付け−などを掲げた。下請け業者については技能労働者の能力向上の促進などを施策例に挙げた。新しいパートナーシップの構築では、対等な関係に基づく連携・強調の促進、機能・役割分担の多様化、公正・透明な競争環境整備では、入札倹約制度の改善や片務性是正、ダンピング対策の強化などを挙げた。」(『建設工業新聞』 2006.09.01)
●「東京地区生コンクリート共同組合……が受注をめざす羽田空港拡張工事のうち、沖合展開の新滑走路を除く‘陸続き’部分。エプロン整備に16立方メートル、貨物ターミナルに5万立方メートルの生コン需要が期待されている。……公共事業費の削減により全国的に生コン需要が減少する中、東京協組はまれにみる大型工事の受注獲得に向けて、24時間生コンを供給できる体制整備や輸送方法などをゼネコンに提案する考えだ。しかし、公共事業の減少が新しい競争を生み出し、同協組の脅威となっている。これまで、ダムや水力発電所など90分圏内に定置プラントがない場所での工事に使われていた現場プラント(移動式プラント)が、需要が見込まれる首都圏の建築現場にも進出し始めた。すでに都内の建築工事で採用された事例もある。」(『建設通信新聞』2006.09.05)
●「建設会社の倒産件数が前年を上回るペースで推移している。東京商工リサーチがまとめた06年1〜8月期の建設業倒産状況(負債額1000万円以上)によると、倒産件数は前年同期比4.4%増の2606件で、6年ぶりに前年水準を上回った。……建設業の倒産件数が全三行に占める構成比は29.4%で、前年同期に比べ0.4%ポイント上昇。3年ぶりに30%台に乗る勢いだ。」(『建設工業新聞』2006.09.15)