情勢の特徴 - 2006年12月後半
●「政府・与党が合意した道路特定財源見直しの具体策を受けた国土交通省の07年度の対応がまとまった。07年度の使途が決まっていなかった約4684億円のうち、1806億円を一般財源とし、残りは使途を拡大する形で国交省の事業に振り分ける。使途拡大は2878億円で、国交省のまちづくり交付金、新設する地域自立・活性化交付金と地域自立・活性化事業推進費、道整備交付金などに充てる。」(『建設工業新聞』 2006.12.21)
●「07年度の国土交通省関係予算の財務省原案では、公共事業関係費は前年度当初予算費で3%減の5兆4428億円となった。行政経費を含めた総額は6兆588億円(前年度当初予算比3%減)。重点分野には、▽国際競争力の強化▽地域の活性化・都市再生▽国民の安全・安心の確保▽快適で豊かな国民生活の実現―を掲げ、限られた予算で最大限の効果を挙げる方向を示した。公共事業関係費の内訳は、一般公共事業費が5兆 3893億円(同3%減)、災害復旧などが534億円(同額)となっている。また、経済成長戦略推進施策には1090億円を充てる。重点分野を見ると、新規では、地域自立・活性化総合支援制度の創設に360億円を計上、地域が主体となった活性化を後押しする。アクセス改善や街づくり推進による観光地の魅力向上には381億円が認められた。・・・密集市街地対策には92億円を充てる。・・・国際競争力強化の面では、国際物流に対応した道路網の戦略的整備として1788億円を計上した。空港や港湾とインターチェンジなどを結ぶ幹線道路ネットワークの構築を推進する。羽田空港の再拡張事業やその関連事業には 980億円を充てる。3大都市圏の環状道路整備には2088億円、スーパー中枢港湾プロジェクトには526億円を投じる。地域活性化に向けては、都市・地域の総合交通戦略の推進に685億円を計上。・・・新幹線の整備には706億円を計上した。バリアフリー新法の施行などを踏まえ、2525億円を充てて総合的なバリアフリー施策を推進する。浸水被害対策の強化には992億円、避難地・防災拠点の整備などには467億円をそれぞれ盛り込んだ。建設業の活力回復には9億円を計上し、入札契約制度の改革などに取り組む。建設業の海外進出への支援も実施する。」(『建設工業新聞』2006.12.21)
●「経済産業省は2007年10月から、中小企業向けの公的な信用保証制度を縮小する。現在は保証付き融資が焦げ付いた場合、信用保証協会が損失全額を穴埋めしているが、来年10月以降の契約分からは金融機関にも損失額の20%を負担させる。金融機関が融資先の審査や経営支援に力を入れるように促し、財政の負担を軽くする。・・・新制度により金融機関は保証付き融資の場合でも、より慎重に審査するようになる見通し。一方、焦げ付きに備えて貸出金利を上乗せするのではないかとの見方もある。金融機関の負担額の算出方法は2通り。1つは金融機関が個別に焦げ付いた融資額の 20%を負担する『部分保証方式』。各金融機関の保証付き融資の半年間の平均残高に、その前の半年間の損失率を掛けて算出した金額の20%を金融機関の負担とする。・・・中小企業への影響を軽減するため、従業員が10人以下で保証付き融資の合計残高が1250万円以下の企業向け融資は対象外。災害発生時の特別融資も除外する。」(『日本経済新聞』2006.12.22)
●「全国知事会(会長・麻生渡福岡県知事)は18日、都内で総会を開き、官製談合の再発防止に向け、指名競争入札を事実上廃止することなどを柱とする入札改革の指針を決めた。知事会が入札改革に関する指針を定めたのは今回が初めて。定期的に各県の取り組み状況を調査、改革の進み具合を点検・公表することで指針の実効性を確保する。・・・指針では一般競争入札の対象工事を1千万円以上とした。都道府県発注工事の予定価格は『大半が1千万円以上』(知事会幹部)で、事実上指名競争入札は廃止となる。・・・全国知事会が公共工事入札方式見直しを決めたことで、建設業界の受注競争が激化するのは確実。体力・技術力で劣る中堅中小・地方企業の淘汰が進むきっかけになる可能性がある。」(『日本経済新聞』2006.12.19)
●「国土交通省は、05年度に同省が発注した工事で、落札率(予定価格に対する落札価格の割合)が65%以上だった『超低価格入札』工事について、著しい低価格で応札できた主な理由を調べた結果をまとめた。それによると、超低価格で応札した業者の8割が『取引業者の協力』を挙げ、低価格の理由としてこれが最も多いことが分かった。・・・これ以外では、『工事現場が隣接』『自社製造』『自社利益の縮減』といった理由が目立った。著しい低価格入札に対する特別重点調査は、1月以降の入札で試験的に実施する。予定価格が2億円以上で低入札価格調査の対象になった工事のうち、業者側の費目別見積額が、発注者の積算に対し、▽直接工事費で75%▽共通仮設費で70%▽現場管理費で60%▽一般管理費で30%−のいずれかを下回った場合に実施。低価格で見積もった理由を業者側が立証できなければ、手抜き工事や下請け業者へのしわ寄せなどの疑いがあると判断し、落札を認めない。従来は、業者側が施工可能とすれば落札が認められてきたが、特別重点調査では、理由を裏付ける客観的な証拠を示さなければならなくなる。同省は・・・『取引業者の協力』が理由の場合は、その取引業者が押印した見積書や、過去1年以内の取引実績を証明する書類、資材などを安価に購入できることを証明できる書類などを提出させる方向。」(『建設工業新聞』2006.12.20)
●「千葉県が2006年度に発注した工事(12月19日現在)のうち、低入札価格調査の対象が合計で57件に上ることが分かった。05年度は12件だった。06年度に低入札価格調査制度の対象を『1億円以上』から『2500万円以上』に拡大したことはあるものの大幅な増加傾向にある。・・・県土整備部発注の契約済み案件(11月30日現在)のうち、低入札調査の対象は一般競争入札5件、公募型指名競争入札9件、指名競争入札7件の計21件。業種の内訳は、土木が7件、建築が5件、鋼構造物が4件、電気が2件、機械器具が2件、電気通信が1件。落札率をみると、50%台が7 件と最も多く、60%台と70%台が各5件、80%台が4件となっている。」(『建設通信新聞』2006.12.22)
●「東京都は今後10年以内に、首都圏の3環状道路の90%を開通させる目標を決めた。・・・2016年の五輪招致をにらみ、環状道路を整備し、都心部の渋滞解消、環境改善を急ぐ必要があると判断した。近く公表する都市改造プラン『10年後の東京』に盛り込む。整備するのは首都高速中央環状線、東京外郭環状道路(外環道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)。3線の全長521キロメートルのうち、現在35%が開通している。計画では、2013年度までに中央環状線が全面開通し、15年度までに外環道の三郷南−高谷が開通する。圏央道では、大栄−松尾横芝以外の区間については、10年以内に開通の見通し。」(『日本経済新聞』2006.12.22)
●「内閣府は26日、PFI事業の05年度の現況をまとめたPFIアニュアルリポート(PFI年次報告書)を公表した。国や自治体が実施したPFI事業の現況のほか、政策課題や対応方針などを整理。税制上の優遇措置に差があるためにBTO方式が主流となっている状況や、大規模修繕事業を業務に含めたBTO方式の事業が3割に満たないことなどを報告している。PFIの現況を示す公的なリポートがまとまったのは初めて。内閣府はリポートを年度ごとに作成する方針だ。このリポートは、初めての公表となることから、冒頭でPFIの導入経費や制度内容を紹介した上で、事業の現況、課題、対応方針などを紹介。現況では、PFI方式を複数の事業に採用した公的機関である『PFIのリピーター』(内閣府)は全体の25%にすぎず、『(PFIの)ノウハウが一部に偏在している』と指摘した。分野別のPFI事業は▽教育・文化31%▽健康・環境18%▽まちづくり13%▽庁舎・宿舎 11%―の順で多く、国民生活に直結する施設の整備を中心に採用されている。事業手法の採用割合は、国がBTO87%・BOT13%、自治体はBTO76%・BOT24%。BTOは、公共側が施設を所有するために固定資産税などが課税されない一方、BOTは民間が施設を保有するために課税される。BOTには税制上の優遇措置が講じられるが、無税ではないため、BTOの採用が多くなっている。BOTが採用されたすべての事業には運営業務が含まれており、BTO方式で運営業務を含む事業は64%にとどまった。大規模修繕事業については、その実施を業務内容に含める事業が年々減少傾向にある。事業手法別にみると、BTOでは75%の事業で業務内容に含まれておらず、BOTでも実施は35%にとどまる。大規模修繕事業をめぐっては事業費が不透明で、さらに施設を稼動させたまま工事を行うなど、『事業リスクが高い』(関係者)ため、敬遠する事業者が多く、業務内容に実施を盛り込む発注者も少なくなっているようだ。課題には、▽大型案件の増加に伴う資金調達手法の多様化▽破たん防止を目的とした事業モニタリングのあり方▽発注者・受注者双方の意向を踏まえた入札契約制度改革▽施工管理の役割分担―などを挙げた。対応方針としては、PFI方式を先行的に導入した英国や、官民パートナーシップ(PPP)の枠組みが整っているドイツなど、海外各国との情報交換を推進する方針を示した。さらに『社会資本の改築更新、維持管理を行ううえで参考になる点が(PFIに)多い』とし、国内の発注機関との連携を強化する考えも示した。」(『建設工業新聞』2006.12.27)
●「国土交通省は、建設業振興基金の下請けセーフティネット債務保証事業(1次下請用)を活用し、中堅・中小建設業向けのファクタリング(一括決済)事業を展開する。下請けセーフティネット債務保証対象にファクタリング会社を追加し、下請業者や資機材業者の売掛債権をファクタリング会社が買い取る仕組みをつくることで、中堅・中小建設業者の資金調達の円滑化を促すのが狙い。2007年度当初に制度を構築する。・・・ファクタリング事業は、建設業振興基金の債務保証対象にファクタリング会社を追加し、売掛債権の譲渡担保による転換融資ではなく、ファクタリング会社が売掛債権を買い取る制度を構築することで実現する。手形取引はピーク時に比べて約10分の1まで縮小し、ファクタリングの市場規模は拡大傾向にある。ただ、建設産業では、事務負担の軽減や印紙税など手形発行の経費削減といった効果から大手・準大手で拡大傾向にあるものの、中堅・中小ではスケールメリットがないとの理由から進んでいない。・・・建設業振興基金の債務保証割合は90%で、ファクタリング会社は、貸金業の登録のある金融機関や保証会社の子会社を想定している。」(『建設通信新聞』2006.12.27)
●「国土交通省は27日、『直轄事業の建設生産システムにおける発注者責任に関する懇談会』の施工プロセス専門部会(部会長・福田昌史高知工科大客員教授)に、新たな品質確保体制のあり方を提案、了承された。監督・検査の責任の明確化と検査体制の強化を図る観点から、主任検査職員による段階検査と発注者側のインスペクター(監視官)による施工プロセスチェックを導入することが柱。・・・段階検査では、インスペクターによる施工プロセスのチェックの報告を踏まえ、書面や実地による検査を実施。主任検査職員は段階検査の結果について、総括検査職員(従来の検査職員)に報告し、監督職員と情報交換する。段階検査を行う主任検査職員は発注者の職員とするが、手薄な事務所などもあることから非常勤など外部の技術者の活用を検討する。外部技術者の主任検査職員の資格要件として、高度な実績を持つ土木施工管理技士などを想定。将来は専門の技術者資格の保有を要件に追加することも考えている。インスペクターは、現場に常駐または高い頻度で立ち会い、工事の品質を左右する工種について、契約書、基準書に基づく施工が行われているかどうか、材料検査や施工管理が適切かどうかなどを確認し発注者に報告する。発注者がインスペクターの実施体制を構築できない場合は外部委託も検討。主任検査職員の外部委託と同じ要件とする。」(『建設工業新聞』2006.12.28)
●「厚生労働省は一定の条件を満たすホワイトカラーの会社員を労働時間規制から除外する制度について、週休2日相当の休日確保を怠った企業の責任者に刑事罰を科す方針を固めた。時間に縛られない自由な働き方に道を開く一方、企業には徹底した健康管理を求めることで労使の歩み寄りを促す。同省は労働基準法の改正案に盛り込む方向で調整を進めある。」(『日本経済新聞』2006.12.22)
●最低賃金制度の見直しを検討している労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の最低賃金部会が21日、開かれた。地域別最賃で生活保護との整合性をはかることを盛り込んだ素案について、労使双方が了解。27日の会合で答申をまとめ、来年の通常国会に最低賃金法の改正案が提出される見通し。前回示された素案は、すべての労働者を対象にした地域別最賃を決める「生計費」の要素として「生活保護との整合性も考慮する」と明記。地域や条件によっては最賃より生活保護の方が高く、底上げにつながる。(『しんぶん赤旗』2006.12.22より抜粋。)
●「日本建設産業職員労働組合協議会(宮野一也議長)は、加盟組合企業が国土交通省から総合評価方式で受注した78工事を対象に、労働環境への影響を調べた。約4割の作業所が『影響がある』と答え、作成する書類が増えたなど、労働環境の悪化を懸念する声がおおかった。・・・発注者の責務では、『適切に実施されていない』が32%と、『適切』の23%より多かった。『発注に当っての仕様書や設計書の作成が適切に実施されておらず、工事に着手できない』や、『発注者の責任で工事着手できないにもかかわらず、工事中止命令を出してくれない』などの声があった。・・・労働環境への影響は、『ある』が39%、『ない』が13%。書類の増加などで労働時間が増えるとの懸念があった。」(『建設通信新聞』2006.12.22)
●財界代表を中心に構成する政府の規制改革・民間開放推進会議は、25日に出す「最終答申」に、労働組合の団体交渉権について「組織率が一定割合以上の組合に限定する」ことを盛り込もうとしている。憲法に保障された労働者の基本権を奪おうとするもので労働者・労働組合全体にかかわる大問題である。団体交渉権は、団結権、団体行動権とともに憲法28条によって労働者に保障された基本的権利だ。・・・使用者は、その権利の保障を義務付けられている。組合員が少数であっても、企業内に複数の労働組合がある場合でも、その大小にかかわらず使用者は、対等に団体交渉に応じなければならない。最高裁判決も「各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれまったく独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有する」と明記している。(日産自動車事件、1985年4月)(『しんぶん赤旗』 2006.12.25より抜粋)
●「厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)労働条件分科会が27にまとめる雇用ルール改革の最終報告が明らかになった。一定の条件を満たす会社員を労働時間規制から除外する制度の導入を明記。調整が難航した残業代の割増率の引き上げも明記する。厚労省は年明けの通常国会に労働基準法改正案などを提出する。最終報告は『就業形態の多様化、個別労働関係紛争の増加、長時間労働の割合の高止まり』への対応が必要と強調。労基法改正の柱に、労働時間規制の除外制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入や残業代の割増率引き上げなどを盛り込んだ。労働紛争を予防する『労働契約法』の新設も掲げた。労働時間規制の除外制度は、際限ない労働時間につながるとの懸念を受けて『導入の必然性が認められない』との労働組合の反対意見も記した。対象者を決める年収制限は具体的な額を示さず、分科会で詰めたうえで政省令で定める。年収8百万-9百万円程度を想定する厚労省に対し、経済界は4百万円などと低い水準を主張している。双方の隔たりが大きいため、最終報告は『導入することができる企業ができるだけ広くなるよう配慮すべきだ』との経済界の意見を明記する。残業代は『一定時間』を越えた分について、現行より高い『一定率』の割増賃金を支払うとし、分科会の議論を経て政省令で具体的な割増率を決める。経済界の反対を受け、報告は『長時間労働を抑制する効果が期待できない』との指摘を併記する。労働契約法は解雇権の乱用禁止や出向、転籍、懲戒など労働契約の基本ルールを定め、解雇トラブルの金銭解決制度は導入を見送る。」(『日本経済新聞』2006.12.27)
●「建設産業専門団体連合会(才賀清二郎会長)は、『施工体制事前提出方式(オープンブック方式)導入に向けて』と題した中間まとめを策定した。コスト構成の透明化と施工体制の適正化、行政による確認体制の構築、失格判断基準の設定による低価格入札の抑制、法令順守の徹底、発注者責任の確立などを提言した。・・・この中間まとめは、建専連が8月に設置した『取引慣行是正委員会』(委員長・蟹澤宏剛芝浦工大工学部助教授)が7回にわたって議論し、・・・作成した報告を理事会として承認した。中間まとめでは、元請けと下請けの契約の際、詳細な積上げ積算が行われていない実態を指摘し、下請けの必要な現場管理費、一般管理費を含めて、1平方メートル当たり、あるいは1トン当たりという単価契約が結ばれるために、コスト構成が不透明だと指摘。このため、指し値発注、追加・変更工事代金の未清算などの問題が発生するとしている。オープンブック方式の導入は、発注者、元請け、下請けの各段階でコスト構成を透明化することで、下請代金に現場管理費、一般管理費などが計上されているかどうかを確認することが狙い。また、元請企業の低価格入札によって、下請けのしわ寄せを防ぐ手だてにもなることを強調し、必要以上の重層下請けを防ぐことにもつながるとした。・・・同時に、この方式を導入する場合には、失格判断基準の設定を求めている。また、極端な低入札価格を排除するシステムとして欠かせないとしている。」(『建設通信新聞』 2006.12.22)