情勢の特徴 - 2007年9月前半
●「国土交通省は8月31日、入札談合などの不正行為を行った建設業者に対するペナルティーの強化策を発表した。建設業法に基づく営業停止処分は期間を2〜4倍に延長するとともに、地域限定を廃止し、実施エリアを全国に拡大する。指名停止は期間を現行の1.5倍に延長し、最長で36ヶ月間、同省発注工事の入札から締め出す。同省は水門設備工事をめぐる入札談合事件を受け、3月に処分期間延長の方針を固めていた。営業停止に関する新基準は10月1日以降の不正行為から、指名停止に関する新基準は9月1日以降に発覚した不正行為から適用する。」(『建設工業新聞』 2007.09.03)
●「国土交通省は来年度から、歩掛かりを用いずに工事費を積算する『ユニットプライス型積算方式』を、維持・修繕工事(道路維持、道路修繕、河川維持、河川修繕)にも適用する。来年度の試行着手に向け、同方式で積算して工事を発注するのに必要なデータ収集を開始した。同方式は既に、道路舗装、築堤・護岸、道路改良の3工種で全面的に実施中。発注件数ベースで25%を占める維持・修繕工事が加わることで、同省発注工事の約4分の3(件数ベース)に、ユニットプライス型積算方式が適用されることになる。」(『建設工業新聞』2007.09.07)
●「港湾事業で整備された臨港道路などにある橋梁のうち、定期的な点検が行われている橋梁は2割にも満たないことが国土交通省の調査で分かった。橋梁の定期点検の不備は一般の道路でも問題になっているが、港湾にある橋梁は、塩害の影響やコンテナなど重量のある大型車両の通行が多いことで一般道路の橋梁より劣化が速いとみられており、同省は近く、臨港道路などを管理する自治体に対し緊急点検の実施などを要請する方針。今後、設置場所や通行車両の種類・量に合わせた維持管理体制の整備が求められそうだ。…同省の試算によると、全国にある約14万の道路橋(長さ15メートル以上)のうち05年時点で建設後50年以上を経過したものが8191橋あり、これが15年後には3倍の2万6050橋へと増加。港湾の橋梁でも、06年度末時点で約5%だった建設後50年以上の橋梁が10年後には約14%、20年後には約42%に急増すると予測されている。老朽化する橋梁も適切に維持管理すれば長寿命化できるとして、国交省は、一般の道路の橋梁について各自治体に維持管理計画の策定を要請。本年度からは、計画策定費を一部補助する制度を創設し、計画に基づかない橋梁の補修や架け替えは補助対象にしない方針も打ち出した。同省は、港湾の橋梁についても同様の制度を創設する方針で、08年度中の運用開始を目指す。」(『建設工業新聞』2007.09.12)
●「東京都内の建築工事現場で深刻化している鉄筋工の不足がやや緩和した。東京都鉄筋行協同組合(内山聖理事長)が9月3日時点で調べた会員企業の鉄筋工不足率は、前回発表した昨年7月6日時点の不足率を4.2ポイント下回った。ただ、不足率低下の理由については、受注の手控えや、建築確認審査を厳格化した改正建築基準法の施行に伴う工事発注の遅れを指摘する見方もあり、先行きは予断を許さない。9月3日時点の調査結果によると、回答のあった会員企業37社(回答率80.4%)の不足率は12.5%。前回発表の昨年7月6日時点の不足率(41社回答)は16.7%だったのに比べると、率は依然高いながらも、不足状態はやや緩和した形になっている。今回の調査結果について、内山理事長は『不足率が緩和しているのは、会員企業が受注を手控えているから』と不足率低下の理由を説明。『東京圏では、堅調な需要に比べ、職人は相変わらず足りない。あまりにひどい低単価や短工期の工事は断っているケースもあるようだ』と分析する。さらに、今後の需給については『改正建築基準法の施行で建築確認の作業が遅れていた案件が今後出てくる。 11月ころがピークでは。そうなると不足率は前回調査並みになるのではないか』と予測している。」(『建設工業新聞』2007.09.11)
●「厚生労働省は13日、これまで雇用保険が適用されなかった日雇い派遣労働者にも、一定の条件を満たせば失業手当を支給することを決めた。14日から手続きを開始する。雇用保険制度の創設時に想定外の労働形態であった日雇い派遣労働が普及してきた現状を考慮し、労働者の安全網を拡大する。日雇い派遣労働者に新たに適用されるのは『日雇い労働求職者給付金』。複数の派遣会社に登録して一定期間就労した労働者が失業した際に支給される。これまで日雇い労働求職者給付金は、1日単位の雇用契約を繰り返し、雇用主も契約ごとに変わる日雇い労働者が支給対象だった。しかし、人材派遣大手のフルキャストが今年2月、日雇い派遣労働への適用を申請。厚労省は『日雇い派遣労働は一時的な収入が目的の場合があり、失業手当支給対象になるかどうかの判断が難しい』として回答を保留し、支給の是非を検討していた。」(『日本経済新聞』2007.09.14)
●「三菱重工と新日本製鉄は橋梁(きょうりょう)事業の統合で大筋合意した。まず提携し、来年にも統合する方向。統合後は専業の横河ブリッジホールディングスを抜き業界首位に浮上する。談合が相次ぎ発覚した橋梁分野では、国・地方の入札改革や改正独占禁止法の施行で価格競争が厳しさを増しており、両者は統合でコストを圧縮して生き残りを目指す。多数の企業が温存されてきた建設や機械など官公需産業全体に再編の動きが広がりそうだ。…三菱重工と新日鉄は橋梁事業を分社するなどコスト構造を見直してきたが、単独での事業継続は難しいと判断。統合でコストを削減すると同時に経営の透明性を高める。橋梁業界は受容の2倍近い生産能力を抱えているとされ、両社は統合後に設備や人員などのリストラを進めるとみられる。07年度の公共事業費(当初予算ベース)は前年度比3.5%減の約6兆9400億円。6年連続で減少してピーク時の半分以下に落ち込み、官需依存度の高い企業の経営環境は厳しさを増している。官発注のインフラ分野では水門や道路、河川工事、ごみ焼却施設などでも談合が発覚、国土交通省は08年度に一般競争入札の対象範囲を拡大する方針だ。市場縮小と談合への監視強化に直面する官公需産業全体に再編の動きが波及するのは必至。」(『日本経済新聞』2007.09.04)
●「ゼネコンの株主として海外投資家の存在感が増している。上場ゼネコンで完成工事高上位25社を集計したところ、発行済み普通株式に占める外国人(法人と個人)の保有比率(株式数ベース)が、2006年度末に2割を突破した。過去5年でみると、金融機関や事業法人が放出した株式を、外国人が一手に買い受けている構図が浮かぶ。大手のほか、豊富な利益剰余金を抱える準大手や優先株が残る再建ゼネコンの株式は、外国人の保有比率がさらに高まる傾向がある。」(『建設通信新聞』2007.09.10)
●「一部首長の官製談合事件を発端に地方自治体が進めている一般競争入札の拡大に伴い、以前から懸念されていた地元建設業者の倒産や廃業が顕著になってきた。特に宮崎県では今年度に入り26社の倒産、自主廃業50社が判明したもので、落札率の低下で赤字受注を余儀なくされている状況が浮き彫りとなった。この事態を踏まえ、宮崎県の東国原英夫知事は、最低制限価格の引き上げを表明した。他の自治体でも同様の状況が予想され、一般競争入札の拡大に合わせた地方自治体でのダンピング(過度な安値受注)対策の必要性が改めて求められている。」(『建設通信新聞』 2007.09.14)
●「改正建築基準法が、工事採算に影響をおよぼす懸念となっている。建築確認検査が大幅に遅れていることで、6月20日の施工日以降に着工を予定していた建築物が休止状態にあるためだ。着工時期が絞り込めず、重機の確保や労務の計画が立てられない状況が、施工者側に広がっている。確認検査業務の正常化はまだ見通しが立っていないことから、『今後の受注計画に支障を来す』恐れも出ている。…国土交通省がまとめた7月の建築着工統計は、分譲マンション、事務所や工場などの非住宅ともに前年同月実績に比べ2割の落ちとなった。建築確認の厳格化を見越した法施行前の駆け込み申請を背景に、6月の着工数が前年同月を上回ったことから、『7月分に建築確認手続き上の遅れが表れた』(国交省総合政策局)格好だ。ただ、7月の統計数字には駆け込み申請の着工案件が相当数含まれている可能性が強く、駆け込み分が一掃される8月以降の統計結果に『着工できずに苦悩する建設会社の実態が反映されるだろう』(確認検査機関)との見方もある。」(『建設通信新聞』2007.09.03)
●「国土交通省官房官庁営繕部は11日、主要な官庁施設を対象に実施した耐震診断結果をまとめた。診断した1110棟のうち、建築基準法で定める水準を割り増した官庁施設の耐震基準を満たさない施設は、全体の35%に当たる383棟あり、うち、旧耐震基準で建てられた 314棟は建築基準法で定める耐震基準を満たしていないことが分かった。同部は今後、耐震性の低い施設の耐震化を進め、おおむね10年以内(2015年度末)に耐震化率を施設の面積ベースで9割に向上させる。診断対象となった施設のうち、27棟については建て替えを検討している。耐震診断は、官庁営繕部が所管する施設のうち、災害応急対策活動に必要な中央省庁などの中枢的施設(T類)、気象台や警察学校など(U類)、3階以上で延べ1000平方メートル以上の一般施設(V類)を対象に実施した。診断が終わった1110棟のうち、官庁施設の耐震基準を満たした施設は65%に当たる727棟で、面積ベースの耐震化率は69%だった。官庁施設の耐震基準を満たさない383棟の内訳は、1981年以前の旧耐震基準で建てられたものが347棟、新耐震基準による施設が36棟。旧耐震基準で建てられた施設のうち、314棟の耐震性は現行の建築基準法で求める水準を下回り、111棟については2分の1未満の耐震性能しか満たしていなかった。耐震性が基準の2分の1に満たない施設を地方整備局の所管ごとにみると、関東が最多の30棟で、近畿が21棟、九州は20棟などとなっている。111棟は、震度6強―7程度の大規模地震で倒壊・崩壊する可能性が高いとされているが、診断では中規模地震で損傷しないことを設計で確認している。」(『建設通信新聞』2007.09.12)