情勢の特徴 - 2007年12月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「国土交通省が30日発表した10月の住宅着工戸数は7万6920戸となり、前年同月に比べ35.0%減った。減少率は4ヵ月連続の2ケタ台だが、40%超だった8、9月に比べてやや縮まった。同時に発表した住宅以外の建築物の着工面積は商業施設やオフィスビルなど大型施設を中心に大幅減少。耐震偽装の再発を防ぐため6月から建築審査を厳しくしたことで、着工手続きがなお遅れている。…国交省は『混乱が収まってきた』(総合政策局)としているが、法改正前の1-5月の平均124万戸に比べれば依然として低水準にある。前年同月比では持家が8.0%減、分譲戸建ては 9.5%減と小型建築物の下落ペースが和らいだ半面、マンションは71.1%減。改正建築基準法では大型建築物の安全性を専門家が再チェックする『構造計算適合性判定』を導入。この検査が壁となっている。…日本政策投資銀行調査部の鈴木英介調査役は『10月の統計を見る限り下げ止まったとは言えない。10 月並みの下落ペースが年末まで続けば2007年の設備投資を1.6-2.4%程度押し下げる』と指摘。第一生命経済研究所の新家義貴主任エコノミストは『建設関連資材で大規模な在庫調整が発生したり、雇用面に影響が及んだりする可能性がある』とみる。…法改正が一因で経営破たんする建設関連の中小企業も増え、東京商工リサーチによると、10月に4件あった改正建築基準法関連の倒産は『11月は9件と倍増する』。現状を放置できないとみて、自治体も手を打ち始めた。横浜市は、建設関連の中小企業向けに市信用保証協会の通常保証とは別枠で最大8千万円を無担保・低利で借り入れられる資金繰り対策を発表。茨城県は一部の民間審査機関に増員を要請し、建築確認審査の手続き円滑化を図る。」(『日本経済新聞』2007.12.01)
●「都心の大型再開発案件の土地取得価格が上昇している。…都心のオフィスビル需給の逼迫(ひっぱく)が続く中で、大型物件への需要は今後も多いとの強気の見方が背景にある。ただ、ここ数年の地価上昇で投資収益率は低下。高値買いを主導してきた海外勢の姿勢が慎重になり始めたこともあり、今後の行方は不透明になっている。…各社が強気の価格で土地取得を進める理由の1つには都心部のオフィス需給の逼迫がある。森トラストの調査によれば、2007-10年のオフィス(延べ床面積1万平方メートル以上、東京23区内)供給量は年平均76万平方メートル。03-06年の約半分にとどまる。都心部のオフィスビルの空室率も歴史的な低さになっており、売り手市場が当面続くとの見方だ。…とはいえ地価上昇で都心の開発物件の投資収益率は低下傾向が続く。『都心の地価はかなりの高値圏に入ってきている』との見方も増えている。」(『日本経済新聞』2007.12.04)
●「不動産経済研究所(東京・新宿)が13日発表した2007年11月の首都圏マンション発売戸数は、前年同月比 43.6%減の3868戸だった。1戸当たり平均価格が4684万円と11.7%上昇し、購入手控えが広がった。首都圏の通年の発売戸数は1993年以来、14年ぶりに6万戸を割り込む可能性も出てきた。年明けからは、審査を厳格化した改正建築基準法の影響も予想される。…地価や建築費高騰を受け11月の1戸当たり価格は東京都区部で31.0%上昇し、6555万円。…マンションは通常、着工から6ヵ月後に発売される。6月施行の改正建築基準法の影響で『年明け以降、供給戸数が激減する可能性もある』(不動産経済研究所)。野村証券の福島大輔シニアアナリストは『住宅が売れない状況が続けば家電や自動車の消費も盛り上がらない。建設業は就業人口の1割を占め、マンションなどの建設が遅れると景気に影響を与えかねない』と指摘する。」(『日本経済新聞』 2007.12.14)

行政・公共事業・民営化

●政府は、公団住宅の削減と民間への売却を中心とした独立行政法人・都市再生機構(本社・横浜市、UR)の「整理合理化計画」を年末にも決定しようとしている。一方、URそのものの民営化の動きも強めている。…URには7300億円の累積赤字がある。民営化するためには、この累積赤字を解消しなくてはならない。そのためには、資産(土地・住宅)を売却して赤字を穴埋めしなくてはならない。これが、政府・URが描くシナリオだ。…国土交通省は今年度予算要求で、「賃貸住宅再編に伴う入居者負担増を抑制するための支援制度の創設として400億円を計上している。この制度は、住宅削減・売却計画に伴う居住者の転居を促進するため、移転後の家賃を軽減するものだ。…居住者に転居を強要することは、「居住の安心」を奪うもので、けっして許されない。(『しんぶん赤旗』2007.12.09より抜粋。)
●「国土交通省は、ダンピング(過度な安値受注)に伴う下請けへのしわ寄せ防止策などを検討する『低価格受注問題検討委員会』(座長・平林英勝筑波大大学院ビジネス科学研究科教授)の初会合を12日に開いた。…委員会は今後2回程度開き、2008年3月上旬をめどに最終報告をまとめる。同省は報告を踏まえ、08年度に実施する元下調査や立入検査にダンピング関連の新たな項目を追加するとともに、低価格受注がもたらす弊害への対応策を検討する。委員会では、▽低価格受注による下請けへの不適正なしわ寄せの実態、発生要因の把握▽下請けへの不当なしわ寄せを防止するための元下調査のあり方――などを検討する。…同省は、しわ寄せの実態を把握するため、早ければ今月中に地方自治体発注工事の中から落札率の低い案件を対象に、元請け10社程度、一次下請け20社程度を抽出してヒアリング調査を実施し、08年2月上旬に予定している委員会に結果を報告する。」(『建設通信新聞』 2007.12.14)
●「東京都内の公共工事で、受注する建設会社が決まらない案件が増えている。・・・厳しい談合規制の中、民間の旺盛な建設需要もあって公共工事の魅力が薄れた面もありそうだ。都…財務局…によると入札が成立しなかった件数は前年同期を上回るペースで、年間でも昨年度の23 件を超えるとみられる。…これまで公共工事は行政との関係強化のため、採算が悪くても受注する建設会社が多かった。だがここ数年は談合に対する監視が強化され、都内での民間の建設需要も旺盛だったことから、あえて『採算の合わない公共工事を請け負う利点が薄れた』との見方がある。」(『日本経済新聞』 2007.12.14)

労働・福祉

建設産業・経営

●「東京商工リサーチがまとめた2007年10月の建設業倒産(負債額1000万円以上)は、390件で前年同月比 25.8%の大幅な増加になった。件数はことし最多となっている。産業構成比でも30.9%を占めており、4ヵ月ぶりに30%の大台を超す結果になった。負債総額は812億7800万円で、こちらも41.9%という増加になった。平均負債額も2億800万円で、13.0%増となっている。受注不振が全体の7割近くとなっている。…原因別では、受注不振が前年同月比41.8%増の266件(構成比68.2%)と全体の約7割を占めた。次に既往のシワ寄せが同 4.5%増の46件(同11.7%)、運転資金の欠乏が同30.0%増の26件(同6.6%)、他社倒産の余波が同22.7%減の17件(同4.3%)と続く。…資本金別では、1000万円以上5000万円未満が前年同月比31.7%増の191件、100万円以上500万円未満が同2.3%減の82件、個人企業などが57件、1億円以上は4件だった。…このほか今年6月の改正建築基準法施行に伴う、建築確認・検査の厳格化で新着着工件数が激減し業界の混乱が広がりをみせている。10月は、工事着工の遅れなどが影響して経営難となったケースが確認できたものだけで、東京パークエンジニアリング(株)(東京・負債37億円)、(株)尚和(大阪・同12億円)、寿建設(株)(京都・同4億円)など5件あった。」(『建設通信新聞』2007.12.05)
●「建設経済研究所は、主要ゼネコン41社の07年度の中間決算分析結果を発表した。受注高(単体)の合計は、前年同期比1.7%減の6兆339億4400万円で4年ぶりに減少に転じた。同研究所は、土木分野の落ち込みを民間建築分野で補いきれなかった結果とみている。大手ゼネコンを中心に有利子負債が増加している傾向もみられ、同研究所は『粗利が減少していく中で、今後の利益確保へ向けた開発事業や研究開発に充てている』とプラス面での資金需要が影響していると分析している。…受注高は、土木事業やマンション建築工事の割合が高い準大手Aが、前年比20.0%減の大幅なマイナスとなった。グループ別シェアでは、大手が全体の53.9%を占めており、引き続きシェアが拡大している。…利益面では、受注競争の激化や労務・資材価格の上昇などを背景に、準大手B以下のグループが営業損益段階で赤字となっている。」(『建設工業新聞』2007.12.12)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「国土交通省は、建築士事務所による工事監理のあり方や業務報酬基準の見直しに向けた案をまとめた。現状の工事監理業務には、本来は設計業務としてやるべき内容が含まれている実態があるとして、業務報酬基準を▽設計業務▽監理業務▽監理に付随するその他業務▽追加的業務 ―の4分類に再構築する。その上で、追加的業務を除く部分について、床面積ベースでの業務量を定める。1人1日当たり(人・日)で示している業務量も、時間当たりの『人・時』の形に変更する。具体的な業務量は、本年度内に行う実態調査を基に算定する。国交省は、来年夏をめどに業務報酬基準の改定案をまとめ、同11月中の改正を目指す。…こうした措置により、工事監理や追加業務に対する適切な報酬を建築主に求めやすくなる。」(『建設工業新聞』 2007.12.13)
●「4号建築物における建築確認の特例(構造審査の省略)廃止はいつなのか。…廃止は平成21年5月末の予定であることがこのほど判明した。国交省住宅生産課木造住宅振興室によると『建築指導課から廃止は平成21年5月末の見通しと聞いている』とのこと。…使用材料一覧表における『構造耐力上主要な部分に使用する木材の品質であるが、…JAS製材品に限定する意向はない(JAS製材品の流通量が少ないという現状などを考慮して)という。』(『日本住宅新聞』2007.12.25)

その他

●「韓国で建設産業の関連法制度が近く大幅に改正される。日本の建設業法に当たる『建設産業基本法』を来年1月に改正。重層下請けが構造化した原因とされる『施工参加者制度』の廃止と、一般建設業(総合工事)と専門建設業(専門工事)の兼業を禁止していた規制の撤廃が大きな柱だ。いずれの制度改正も韓国の建設産業界に大きな影響を与えるのは必至とみられ、日本でもその動向を注視する関係者は少なくない。…建設産業基本法の改正は、建設業者が事業範囲を自主的に選択できるようにするとともに、工事参加者に対する保護を強化し、建設産業の健全な発展に必要な基盤を構築するのが目的とされる。…施工参加者制度…は、一人親方(人足頭、職長)などが施工参加者(2次下請け)として建設工事の一部を専門建設業者(1次下請け)から請け負い、その業者の責任管理下で工事に参加する仕組みで、90年代半ばに導入された。これにより、それまでは重層下請けが禁止されていた韓国で、2次下請けが法的に認められることになった。…建設作業員への賃金未払いや社会保険料の未納などさまざまな労働問題が浮上。作業員の処遇を悪化させている制度との批判を浴び、今回の法改正で廃止されることが決まった。…韓国の大手建設専門誌・日刊建設新聞(本社・ソウル市)の報道によると、サブコン団体の研究機関が同制度廃止の影響について分析しており、職長などの施工参加者が専門建設業者に雇用され、各組織の中間管理者として、作業成果に応じた報酬を受ける契約形態になっていくことが見込まれるという。さらに、建設作業員の賃金が上昇。これが建設工事の原価アップにつながり、発注者の負担も増していくと予測する。建設産業の労働環境に詳しい藤澤好一芝浦工大名誉教授は、韓国の法改正には日本でも参考となる点があるとし、『韓国では一人親方を労働者として位置付けていくことになった。日本もこうした国際的な動きともすり合わせていく必要がある』と指摘。さらに『日本の建設産業で社会保障弱者を増やさないためにも、建設現場における一人親方への外注化を見直さなければならない』と話す。」(『建設工業新聞』2007.12.03)