情勢の特徴 - 2008年5月前半
●「国土交通省は30日、2007年度の建築着工統計調査報告を公表した。07年6月に施行した改正建築基準法の影響により、新設住宅着工件数は前年度比19.4%減の103万5598戸と5年ぶりに減少し、88万1430戸だった1966年度以来の低水準となった。年間の新設住宅着工件数が110万戸を割り込むのは67年度以来40年ぶり。民間非住宅建築物も18.3%減の8万3157棟と4年ぶりに10万棟を下回った。…改正法で創設された構造計算適合性判定の対象となるマンションは、34.0%減の15万9685戸で93年度以来14年ぶりに16万戸を割り込んだ。3月の着工統計調査では、14件でマンション新設がゼロとなるなど、改正法の影響はいまだ解消していない。」(『建設通信新聞』 2008.05.01)
●「国土交通省は30日、大手50社を対象とした2007年度の建設工事受注動態統計調査報告を公表した。受注総額は、前年度比1.6%増の14兆1141億円で、5年連続で増加している民間発注者からの受注に加え、国内公共機関からの受注が1998年度以来9年ぶりに増加に転じたことで、総額の2年連続増加につながった。国や政府関係機関で発注案件の大規模化が進み、大手50社の受注比率が高くなっているとみられる。… 公共機関の内訳は、国の機関が24.8%増の1兆5647億8600万円と3年ぶりに増加した一方で、地方の機関が35.4%減の5383億200万円と 12年連続で減少した。85年度以降で最低の水準まで下がった。大手50社が、地方機関からの受注を減らす一方で、国の機関からの受注比率を高めていることがうかがえる。」(『建設通信新聞』2008.05.01)
●「国土交通省は、建設業者の元・下請負関係における法令違反行為を防ぐ目的で昨年定めた『建設業法令順守ガイドライン』を6月にも改定する。下請業者に対する工期面のしわ寄せについて、法令違反行為を明確化してガイドラインに盛り込む考え。国交省は、元請業者が無理な工期で受注して、下請業者に短工期を強いるケースなどが生じているとみている。こうした積み重ねが、作業の錯そうを招き、安全や品質面に悪影響を及ぼしている可能性もあると判断。ガイドラインに明記することで、工期に関する違法なしわ寄せ行為の防止も徹底する。」(『建設工業新聞』2008.04.28)
●「避難所など地域の防災拠点と下水処理施設を結ぶ全国の下水道のうち、耐震化工事を終えた下水道の割合が25%にとどまっていることが国土交通省の調べで分かった。阪神大震災級の地震が起きた場合、防災拠点のトイレが各地で機能しなくなる可能性がある。国交省は今年度中に下水道の地震対策の指針をまとめ、優先順位をつけて下水道の耐震化を進める考え。…避難所を結ぶ下水道は自治体が定める地域防災計画などでも重点的に耐震化すべきだと明記されているが、今の状態でマグニチュード(M)7程度の大地震が起きれば、耐震化していない下水道は大きな被害を受ける可能性が高い。」(『日本経済新聞』2008.05.06)
●「国土交通省が低入札調査基準価格を22年ぶりに改定した。調査基準価格を構成する、直接工事費や共通仮設費の構成比を引き下げる一方、現場管理費の構成比を大幅に引き上げ、いままで計上していなかった一般管理費を加えた。事実上の調査基準価格の引き上げで、国交省によると『5-6%上がる』(官房技術調査課)と言う。国交省は、毎年6月前後に開かれる中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)に調査基準価格の改定を提案し、1986年6月に定めた低入札価格調査基準モデルを改正したい考えだ。調査基準価格は、低入札価格調査基準モデルを踏まえ、予定価格算出の基礎となった、▽直接工事費の100%▽共通仮設費の100%▽現場管理費の20%――の合算額から算出していたが、調査基準価格を下回った企業は事実上失格となる特別重点調査の試行(2007年1月)以降、調査基準価格に張り付くような応札が急増した。低価格入札は、下請けへのしわ寄せだけでなく、品質への影響も懸念される。このため、国交省はことし3月、必要な経費が計上されるよう調査基準価格の算定式を、▽直接工事費の95%▽共通仮設費の95%▽ 現場管理費の60%▽一般管理費の30%――の合計額から算出する方式に改めると発表した。この見直しにより、予定価格の平均75-76%となっている調査基準価格を平均80-82%に引き上げた。…国交省は、施工体制が必ずしも十分に確保されないと認める事情を、調査基準価格の構成比を明確化することで、調査基準価格に張り付くような応札行動をけん制し、応札率を85%以上に引き上げたい考えだ。」(『建設通信新聞』2008.05.12)
●「国土交通省は、各地方整備局に設置した『建設業法遵守推進本部』への2007年度の通報、活動結果をまとめた。推進本部が受けた通報のうち、法令違反の疑いがある情報の受付件数は211件だった。監理技術者などの配置・千人義務違反の通報が最も多く、下請代金の支払い遅延など下請取引についての通報が多い傾向がみられた。情報を受け、推進本部が建設企業の営業所に立ち入り検査した回数は、報告の聴取も含め延べ950回だった。…07年度の各地方整備局による監督処分は、通報案件を含め、法人税法違反による許可取り消しが1件、談合や競売入札妨害などによる営業停止が 217件、労働安全衛生法違反や営業所専任技術者の設置義務違反などの指示が11件、下請代金の支払いの法定支払期限の順守や下請契約の法定見積機関遵守などによる勧告が411件だった。総合政策局建設業課は『立ち入り調査数は前年度より倍以上になっており、勧告件数も増えた』としており、今後、さらに不公正取引に対する対策や元・下請関係の適正化を含めた法令順守の取り組みを進める。」(『建設通信新聞』2008.05.15)
●「資材価格の高騰を受け、公共工事の請負金額を変更する『単品スライド条項』が適用へと動きだしそうだ。自民党の『公共工事品質確保に関する議員連盟』(品確議連、会長・古賀誠選対委員長)の制度検討部会(金子一義部会長)が14日開かれ、建設業界団体が資材価格の高騰による窮状を訴え、単品スライドの適用を強く要請。これを受け国土交通省が大至急、検討する方針を明らかにした。鋼材をはじめとする最近の資材価格の高騰は、企業収益の大きな圧迫要因になっており、単品スライドが適用されれば、着手済み工事の採算性が改善されることになりそうだ。単品スライドは『工期内に工事材料の価格に著しい変動が生じ、請負金額が不適当となった時』に請負代金を変更する制度。…焦点となるのは適用ルールの明確化。『物価スライド』(全体スライド)については『工事の請負契約から1年を過ぎた時に、単価の増減に合わせ工事請負代金を変更させる』『残工事代金の1.5%を超える分について、請負代金の変更に応じる』といった運用ルールが規定されており、これらと80年の適用事例などを参考に検討が進みそうだ。」(『建設工業新聞』 2008.05.15)
●「ゼネコンの労働組合でつくる日本建設産業職員労働組合協議会(日建協、青本健吾議長)は、加盟組合の職員を対象に実施した『07年時短アンケート調査』の結果をまとめた。昨年11月の勤務状況を約1万人の職員に聞いたところ、05年以降80時間前後で推移している外勤者の所定外労働(残業、休日出勤)時間に短縮の兆しは見られず、長時間労働が常態化していることが分かった。外勤者の所定外労働時間は平均79.7時間に達し、このうち28.0時間(35%)は休日に働いた時間。昨年11月は土曜日が4日あったが、外勤者は平均すると1.8日しか休めていなかった。…土曜出勤が所定外労働時間を増やす主因で、外勤者の約半数は『仕事を工夫しても土曜日を休むのは難しい』と回答。希望と現実のかい離が浮き彫りになっている。…時間外手当が減っても所定外労働時間を少なくしたいかどうかを尋ねたところ、内勤、外勤を問わず全体の3分の2が『所定外労働時間を減らして自分の時間を増やしたい』と答えた。日建協は、こうした厳しい労働環境を改善するには、『長期休暇や作業所異動時休暇などの取得を増やし、年間ベースの休日取得日を段階的に増やす必要がある』と指摘。」(『建設工業新聞』2008.05.09)
●「建設業界の企業収益の改善に明るさが見えない。公共工事の市場縮小、改正建築基準法施行に伴う建築着工の遅れ、1ヵ月単位で上昇する鋼材などを始めとする資材価格の上昇に加え、厳格な工事進行基準などの会計基準適用による損失引当金積み増しなどを理由に、業績の下方修正を公表する企業が相次いでいる。ただ競争の激化による長期工事の採算悪化は今期も続く可能性を多くの企業トップが示唆しており、急激な収益悪化の『一過性』は2009年3月期も継続しそうだ。…準大手・中堅企業には、大幅な人員削減・希望退職を打ち出すほか、法人税などの前払い額を資産として自己資本計上していた繰り延べ税金資産を取り崩すケースも相次いだ。…08年3月期決算で損失見込み額を厳しく見込んだ企業を始め多くのゼネコン経営者は、09年3月期以降の企業収益性を楽観視していない。…鋼材価格高騰の価格転嫁を含め、収益悪化を打開するため元請企業各社が民間発注者に対して、『ゼネコンの見積り価格は確実に上昇している』(中堅ディベロッパー)など元請自体の対応が変化しつつあるのも事実だ。しかし、複数の準大手ゼネコントップは、『業界全体が直面する、このような厳しさは過去に経験がない。われわれの選択肢は、得意分野に特化するか、再編しか残されていないかもしれない』と今後の先行きの波乱含みを表現する。」(『建設通信新聞』2008.04.30)
●「日本建設業団体連合会(梅田貞夫会長)は、若年技能労働者が入職しない、離職する理由の第1が『収入が低い』ことであるとする検討結果をまとめた。これまでは、工事量が増加すると賃金も上がり、労働者を確保してきたものの、最近は工事が増えても賃金が上昇せず、技能労働者の高齢化、若年者の入職難に至っている。日建連は、2008年度も継続してこの問題に取り組み、賃金(最低賃金)、重層下請構造、年金、労働条件、生産性向上、教育、広報の7つの課題について、08年度末に提言をまとめる。」(『建設通信新聞』2008.05.07)
●「国土交通省がまとめた2008年3月末辞典の建設業許可業者(個人を含む)数は、前年同期比3.2%減の50万 7528業者と3年連続で3%台の減少となった。…02年3月末の60万980業者をピークに再び減少傾向が続き、今回で90年3月末の水準にまで戻った格好だ。…資本金階層別の許可業者数は、個人が前年同期比6.6%減の10万6064業者で、総業者数が一時底を打った90年3月末と比べ約10万業者減っているのに対し、1000万円以上5000万円未満の業者が3.5%減の19万6261業者で、90年3月末と比べて約11万業者増えている。…都道府県別の許可業者数は、すべての都道府県が前年同期比で減少しており、ピーク時からの減少率は7.7%から25.2%(中央値マイナス14.1%)となっており、東北、東海、山陰地区で低く、関東、近畿地区で高い傾向にある。」(『建設通信新聞』2008.05.15)
●「国土交通省は、建築士が設計、工事監理した小規模木造住宅などの構造審査を省略する『4号特例』を見直す。特例が適用された建売住宅約1800棟で不適切な設計による耐震性の強度不足が明らかになったことから、現在省略している図書の一部について提出を義務化して審査する方向で検討している。提出を義務化する図書の詳細は固まっていないものの、同省は『壁量計算表の提出は必要』との考えを示している。特例の見直しで、設計者側と審査側に混乱が生じる可能性もあることから、同省は早ければ7月から全国で実務者向けの講習会を開き、見直しの内容を周知をする。特例の見直しは、改正建築士法の施行による制度の改正に伴う現場の混乱を避けるため、改正法で創設される構造・設備設計一級建築士による法適合確認がスタートする 2009年5月末以降になる見通し。」(『建設通信新聞』2008.04.30)