情勢の特徴 - 2008年6月後半
●「生コンクリートの取引価格が約14年ぶりに上昇した。主原料のセメントや骨材などの原燃料価格の上昇を理由に東京地区生コンクリート協同組合(東京・中央)が打ち出した値上げを、ゼネコン(総合建設会社)各社が受け入れた。鋼材などの価格高騰に直面している建設業界のコスト負担はさらに重くなる。…東京生コン協組は骨材の価格上昇や輸送費の高騰も重なり『コスト吸収は限界』として6%の値上げを打ち出していた。ゼネコンも値上げ幅を圧縮する格好で、今回、値上げを受け入れた。…東京地区以外の各地域の協組も値上げを表明している。」(『日本経済新聞』 2008.06.24)
● 「国土交通省は13日、資材価格の変動に伴い工事請負金額を変更する『単品スライド』の適用ルールを定め、各地方整備局に通達した。適用対象は鋼材類と燃料油。入札時の落札率などを乗じて算出した鋼材類と燃料油の変動額が、当初請負金額(既済部分を除く)より1%以上変動した場合にスライドの対象とする。申請時期は『工期末の2ヵ月前まで』で、受注者には領収書などの証明書類の提出を求める。自治体や関係業界団体にも参考送付した。…対象工事費は基本的に当初請負金額を指すが、部分払いで清算済みの既済部分は対象としない。1.0%分は価格上昇リスクとして受注者が負担することになる。…単品スライドは全体スライドとも併用できる。全体スライドでは、工事が1年以上を経過した申請時点を基準日に、それ以降の請負代金が変更されるが、単品スライドを併用すれば、既済部分を除き、申請以前の資材価格上昇分もスライドの対象となる。併用した場合、全体スライド適用期間には基準日以降の『残工事の1.5%』が受注者負担として求められるため、全体スライド併用部分については、二重負担を避けるため1.0%の受注者負担を求めない。」(『建設工業新聞』 2008.06.16)
● 「政府は17日、官公需法に基づく2008年度中小企業向け契約目標率を前年度目標比0.9ポイント増の51.0%とすることを決めた。官公需総予算額に占める中小企業目標額は2年連続50%の大台を維持したほか、目標額も07年度実績額より226億円上回り、結果的に率と額ともに中小企業へ配慮した形となった。また契約方針に初めて、予定価格などの事後公表の促進を盛り込むなど、中小企業疲弊の大きな理由だったダンピング(過度な安値受注)問題へ強い姿勢を見せた。…08年度の中小企業向け契約方針として、『総合評価方式の促進』と『予定価格と最低制限価格の事後公表促進』を初めて盛り込んだ。国交省など国直轄工事の予定価格はもともと事後公表だが、政府の中小企業向け契約方針に盛り込むことで、地方自治体の総合評価方式促進と、地方自治体でいまだに多い予定価格や最低制限価格事前公表への、事後公表への転換を促す意味合いもありそうだ。」(『建設通信新聞』2008.06.18)
● 「文部科学省が20日発表した耐震改修状況調査は、…耐震診断を実施して『危険性が高い』との結果が出ている建物の数を集計するとともに、診断未実施の建物についても一定割合で危険な棟があると推計。両者を足し合わせて1万656棟という数字をはじき出した。全国に小中学校は約3万校あり、ほぼ3校に1校が倒壊の恐れがある棟を抱えている計算だ。都道府県別にみると、大阪の1045棟を筆頭に、埼玉の524棟、東京の403棟など、都市圏で数百単位の『危険物件』が残っており、対応は急務だ。耐震改修工事の前提となる耐震診断を実施した自治体の割合は93.8%で、前年に比べて4.4ポイント上昇した。… これまでに診断を実施しておらず、今年度中の実施予定もない市町村は、北海道美唄市や赤平市など道内の22団体、青森県田舎館村、福島県葛尾村、東京都小笠原村、沖縄県大宜見村の計26団体。多くが財政難で実施を先送りしているとみられる。…文科省施設助成課は『このところ大きな地震がない自治体などで耐震化への切迫感が薄れ、地域間で意識格差が広がっている』と指摘。改正地震防災対策特別措置法では耐震診断実施と棟ごとの診断結果公表が義務付けられた。」(『日本経済新聞』2008.06.21)
● 「国土交通省が、市区町村を対象に実施した総合評価方式の入札に関する初めての詳細なアンケート調査の結果をまとめた。…この調査は、07年度に総合評価を実施する予定があった441市区町村を対象にアンケートを行ったもので、回収率は100%。…総合評価方式を導入済みの市区町村(404団体)のうち、施工計画を評価対象としない『特別簡易型』を行った団体が69.6%で最も多く、簡易型が45.3%、標準型が11.9%、高度技術提案型が5.9%だった。特別簡易型を実施した際の評価項目については、…企業の所在地よりも技術者評価にウエートを置いている傾向が見られた。…低入札価格調査制度を活用している団体は、全体の4割に当たる150団体だった。調査基準価格は、6割が予定価格の一定割合としていた。失格基準は未導入が6割を占めた。総合評価方式の導入効果については、『公共工事の品質確保』『建設業者の技術と経営による競争の促進や意識の向上』といった回答が上位を占めた。一方、課題については、8割以上の団体が『発注者側の事務量の増加』を挙げており、これに対し発注者の体制については『強化していない』との回答が6割を占めた。」(『建設工業新聞』2008.06.23)
● 「国土交通省は23日、08年度の建設投資見通しを発表した。投資総額(名目)は前年度比1.4%増の49兆3600億円の見込み。同時に発表した07年度の建設投資総額は48億6700億円と23年ぶりに50兆円を切る低水準。08年度はわずかに持ち直すものの、2年連続で50兆円割れとなる見通しだ。 08年度の建設投資の内訳は、政府部門が16兆5000億円(前年度比7.8%減)、民間部門が32兆8600億円(同6.8%増)。…民間部門の住宅投資額が増加することについて国交省は、前年度に改正建築基準法の施工で着工が大きく落ち込んだことに対する反動と見ている。」(『建設工業新聞』 2008.06.24)
● 「市町村などが運営する下水道事業の赤字が直近のデータがある2006年度までの10年間で7兆6000億円に達したことが分かった。人口の少ない地方ほど赤字は深刻で、自治体は料金の引き上げで赤字削減を目指している。ただ多くの市町村は下水道事業の財務諸表を個別に作成しておらず、住民の知らない間に赤字が積み上がっている。情報開示や事業の効率化が求められそうだ。…自治体が限られた財源を下水道事業に配分することは住民に十分伝わっていない面がある。総務省によると、下水道の財務諸表を公開しているのは全体の6%。累損は公開分だけで2000億円を超える。知らぬ間に膨らんだ赤字のツケは、最終的には地元住民や国民全体に回ってくる。」(『日本経済新聞』2008.06.26)
● 「国土交通省と総務省の…両省が今回とりまとめたのは、『08年度における入札および契約の適正化に関する取り組み方針に係る調査結果』。…調査時点は今年4月1日。調査対象は、国の機関と、全都道府県、全政令指定都市。予定価格の事後公表は、北海道と福島、山梨、岡山、佐賀の4県が導入していた。…このほか、8県では、事前公表と事後公表を併用していた。…政令指定都市では、17市のうち、7市が事前公表と事後公表を併用し、残りは事前公表だけだった。…予定価格については、入札参加業者が不正に情報を取得するといった行為を防ぐ狙いで、事前公表が採用されるようになった。しかし、積算が十分にできないような不良不適格業者の参入や過度の低価格受注の横行を招くといった弊害が指摘されている。」(『建設工業新聞』2008.06.26)
● 「国土交通省は、公共発注者に対する優越的地位乱用の適用を視野に条件整備の検討に入った。具体的には、これまで適用例がない公共発注者の優越的地位乱用防止を規定している建設業法19条の5を念頭に、『工事中止』と『設計変更』での適用を検討する。…国交省が条件整備を進めているのは、発注者命令による『工事一時中止』と『設計変更』によって受注企業の工事採算が悪化したケース。具体的には、工事一時中止では発注者からの命令書などで、また設計変更は指示書などの文書によって、発注者からの指示であることを判断、そのうえで発注企業の増加費用分があっても、結果的に不採算で工事が赤字になった場合、公共発注者が優越的地位を乱用したと判断する。…今秋までに条件整理をしたうえで、企業から寄せられた情報をもとに具体的に適用する予定だ。」(『建設通信新聞』2008.06.26)
● 「アスベスト(石綿)に関し国が新たに採用した厳格な基準による全国調査を実施したところ、3月末時点で6350カ所の公共施設の建材に使用されていたことが19日、わかった。…除去などの処置をとっていない施設は二百カ所を超すため、同省は自治体に早急な対応を要請している。」(『日本経済新聞』 2008.06.20)
● 「国土交通省は、公共工事の積算に使用されている『公共工事設計労務単価』(設計労務単価)のあり方や改善策を協議する有識者検討会を27日に立ち上げる。同省のほか、厚生労働、農林水産の両省、建設業界団体、建設労働者団体、学識経験者らが参加する。設計労務単価をめぐっては、現場労働者の賃金低下につながる単価の低下が続いていることへの懸念や、労務費が適正に支払われていないといった指摘が出ている。こうした現状も踏まえて設計労務単価の調査方法や位置付けなどについて幅広く検討する。1〜2ヵ月に1度程度のペースで会合を開き、本年度末に取りまとめを行う。」(『建設工業新聞』 2008.06.25)
● 「日刊建設工業新聞社は、5月に08年3月期の決算を発表した主要26社を対象に、売り上げ計上した工事の採算を示す単体ベースの完成工事総利益(粗利益)率を調べた。それによると、20社が前期実績を割り込み、各社が採算確保に苦慮している実態が浮き彫りとなった。昨年の決算発表時点で立てた予想値と比べても、ほとんどの会社が未達成に終わり、受注競争の激化と資材価格の急騰に翻弄(ほんろう)された様子をうかがわせる。…25社のうち、建築の粗利益率が前期実績を下回ったのは17社。平均の利益率は3.6%となった。前期の建築事業をめぐっては、改正建築基準法による建築確認の厳格化でマンションなどの着工件数が低迷。これに競争激化や鋼材などの資機材高騰が加わり、利益率を押し下げる要因となった。…一方、土木の粗利益率は、建築よりも多い22社が前期実績を下回った。公共事業費の減少に加え、談合決別宣言以降に厳しくなった低価格受注競争の影響が利益率の低迷に拍車をかけた。これに資機材高騰が追い打ちをかけ、平均も6.9%に。かつて、常時2けた台の利益率を確保し、好採算とされてきた土木も、ここ数年で様変わりしたといえる。特に、工事採算の改善で現在の最大の課題は、資材価格の高騰。…今期、…15社が前期実績を下回ると見込んでおり、厳しい状況が続く。」(『建設工業新聞』 2008.06.16)
● 「大成建設は中東など新興国を中心とする海外工事分野で米建設・エンジニアリング大手のベクテルと包括提携した。世界的な原材料高に対応、資材などの調達網を相互に活用して採算管理を徹底しながら大型受注を目指す。両社は1980年代後半から国内外の事業で協力関係にあり、国内建設需要が縮小するなか、提携範囲を世界に拡大する。都市開発や交通網などインフラ整備が加速する中東などの成長市場を開拓する。」(『日本経済新聞』2008.06.23)
● 「東京商工リサーチがまとめた2008年5月の建設業倒産(負債額1000万円以上)は、407件で前年同月比10.5%の増加になった。5ヵ月連続の増加で、また03年10月の412件以来、4年7ヵ月ぶりに400件の大台を上回る結果になった。産業別構成比でも、7ヵ月ぶりに3割を占めた。負債総額は 115億7900万円、15.9%増となる841億800万円で、平均負債額は2億600万円となった。改正建築基準法施行による影響の倒産は7件、累計で67件に達した。…原因別では、受注不振(販売不振)が前年同月比20.5%増の264件(構成比64.8%)と全体の6割を占めた。…資本金別では、 1000万円以上5000万円未満が前年同月比33.3%増の208件、100万円以上500万円未満が同14.4%減の95件、個人企業他などが同 11.7%減の45件となり、1億円以上は4件だった。…5月の倒産事例では、高知の中堅建設会社である四国開発(株)が民事再生手続開始を申し立て、県内建設業倒産としては夫妻が最大級となった。さらに熊本の県内大手である(株)多々良が破産手続開始を申し立てた。両社とも地元有力企業だったことから、下請、関連業種への影響が懸念される。」(『建設通信新聞』2008.06.24)
● 「高騰する燃料費の補てんなどを求める韓国の労働組合ストが物流に加えて建設関連に拡大した。16日にはミキサー車運転手らがスト入りして、建設現場に支障が出始めた。トラック輸送の停滞が続き、コンテナ取扱量で韓国最大の釜山港は事実上、機能がマヒ。…13日に始まった全国運輸産業労働組合貨物連帯(貨物連帯)の全国ストには、多数の非組合員のトラック運転手も同調。…ダンプカーやミキサー車の運転手などで構成する建設機械労組は16日にスト入りした。韓国メディアによると仁川市に建設中の経済自由区域など、大規模造成事業で建設資材や生コンの搬入が軒並みストップした。…貨物連帯や建設機械労組は政府の原油高騰対策に不満を表明し、燃料高騰分の補償など事実上の『賃上げ』を要求する。」(『日本経済新聞』2008.06.17)
● 韓国で来年から、自営業の貨物輸送トラックの運転手に最低限の収入を保障するために、運送会社から運転手に支払われる「標準運送料」が新たに法制化されることになった。雇用労働者の最低賃金制に当たる。トラック運転手労組「貨物連帯」が13日から19日までの全国ストで政府から勝ち取った。企業連合団体「コンテナ運送事業者協議会」には19%の運送料引き上げを認めさせた。たたかいが拡大することを恐れた政府・与党は、コンテナ運送事業者協議会とは別に貨物連帯との交渉に踏み切った。19日に政府の国土海洋省と貨物連帯が合意した内容は、▽標準運送料制度を2009年から導入するために首相傘下の貨物運賃管理委員会を構成▽高速道路通行料の深夜割引を全貨物車に拡大▽液化天然ガス(LNG)車への転換費用(1台あたり約2000万ウォン=約210万円)を支援―など。現在は自営業者とされているトラック運転手の労組加入を認める労働法改正は、見送りとなった。最大の成果となった標準運送料制度をめぐっては、労働者の最低賃金(週44時間労働で月85万2020ウォン=約89000円)相当の収入を保障できる水準にするか、違反企業への処罰を含む強制力を持たせるか―などが争点として残っている。(『しんぶん赤旗』2008.06.22より抜粋。)