情勢の特徴 - 2008年8月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「国土交通省が31日発表した6月の新設住宅着工戸数は前年同月比16.7%減の10万929戸で12ヵ月連続で減少した。景気の足踏みで住宅を買い控える動きが広がり、分譲マンションを中心に着工戸数は大きく減少した。昨年6月20日には耐震偽装の再発を防止するため建築確認を厳しくした改正建築基準法が試行、その前の駆け込み需要で昨年6月の着工戸数が膨らんでいた反動もあった。6月の着工戸数は法改正した昨年6月以来、1年ぶりに10万戸台を回復した。ただ過去の6月単月での着工戸数の平均値(2002-06年、変動の激しい07年は除く)を約8%下回り、着工戸数は依然低水準が続いている。…着工戸数の減少が続く背景について、国交省は『資材価格の高騰などの影響が高まっている可能性がある』と分析、7月以降の動向を慎重に見極める方針だ。6月の着工戸数を利用目的別にみると持ち家(前年同月比6.6%減)と貸家(どう15.1%減)、分譲住宅(同27.2%減)と全分野で現象が続く。」(『日本経済新聞』2008.08.01)
●「東京地区生コンクリート協同組合(東京・中央)は4日、ゼネコン(総合建設会社)向け出荷価格を12月受注分から1立方メートル当たり1500円(1割)引き上げると発表した。原料のセメントや骨材などの値上がりが理由だ。東京地区協組は6月に14年ぶりに値上げを浸透させたばかり。需要も低迷しており、交渉が長引く可能性もある。…東京地区協組は52社65工場で構成し、全国最大の供給量を持つ。値上げの打ち出しは2006年11月以来。前回の値上げは今年6月までに浸透し、市中価格は4%上昇した。東京地区の現在の取引価格は1万1600-1万1800円となっている。東京地区協組によると、昨年4月以降の原燃料高により、…2074円のコストが上がったという。『コスト吸収は限界』(大家武営業委員長)として値上げに踏み切った。…東京地区協組は09年4月出荷分からも500円以上を値上げする方針を明らかにした。今回のコスト上昇の積み残し分と今後の原燃料価格上昇を転嫁するためだ。既にセメントには再度の値上げ圧力が強まるなど、原燃料価格は上昇しそうだ。需要は低迷が続いている。…改正建築基準法が施行された昨年6月以降の減少に歯止めがかからない。需給逼迫(ひっぱく)感は薄く、価格交渉は長期化も予想される。」(『日本経済新聞』2008.08.05)
●「東京証券取引所に上場する不動産投資信託(REIT)の値動きを示す東証REIT指数が5日、約4ヵ月半ぶりに1300台を割り込み、年初来安値(3月17日の1285.34)に迫った。金融機関の不動産融資に対する姿勢が厳しくなるなか、格付けや財務内容が見劣りする銘柄の価格下落が大幅だ。…背景にはREITの資金調達環境が厳しくなっていることがある。投資口価格(株価に相当)の下落で増資が難しいなか、借入金の金利が上昇傾向にある。…REITの価格下落がきついため、投資口を保有する金融機関の一部では損切りする動きも出ているもよう。…REITの中では格付けなど信用力によって投資口価格の二極化が目立つ。」(『日本経済新聞』2008.08.06)
●「棒鋼やH形鋼など高騰していた建設用鋼材の値上がりが鈍化してきた。主原料となる鉄スクラップの価格が反落したのに加え、景気減速や資材高で需要が冷え込んでいるのが背景だ。右肩上がりの上昇が続いた今年前半から一転し、建設用鋼材を主力とする電炉の間では値上げを見送る動きが広がってきた。鉄筋用棒鋼(19ミリ品)の大口渡し価格は東京で1トン11万2500円中心。今年前半は6割上昇したが、過去1ヵ月間の上昇率は2%にとどまった。…大阪の取引価格も11万4千円中心で7月中旬以降横ばい。…構造材に使うH形鋼は東京で1トン12万8500円、大阪で12万5000円が中心と7月中旬以降横ばい。…景気の減速と鋼材高に住宅ローン金利上昇が重なり、住宅着工は低迷している。…鉄鋼メーカーは『これまでの原料高を製品価格に転嫁し切れていない』と主張するが、値上げに対する建設会社など需要家の抵抗は強い。韓国や台湾、東南アジア諸国でも建設需要が鈍っており、日本の鉄鋼メーカーには輸出減への危機感も強まっている。『アジア景気が悪化して鋼材の国際価格が下がれば値下げ圧力が強まる』(商社)との見方が広がってきた。」(『日本経済新聞』2008.08.06)
●内閣府が6日発表した6月の景気動向指数(速報値)は、景気の現状を示す「CI」(合成指数、2005年=100)の一致指数が前月比1.6ポイント低下し、101.7となった。マイナスは2ヵ月ぶり。内閣府は基調判断を「景気動向指数は悪化を示している」に下方修正した。内閣府は「景気後退局面にある可能性が高い」との見解を示した。政府が02年2月から続いたとする戦後最長の「景気拡大」は今年1-3月までに途切れた可能性が高まっている。今回の「景気拡大」は、賃金抑制、部品単価切り下げなど徹底したコスト削減で、輸出を中心に大企業が空前のもうけをあげるというものだった。このため、庶民にとっては実感なき「景気拡大」だった。政府も「景気後退」を認めざるを得なくなっただけに、抜本的な政策転換が求められる。(『しんぶん赤旗』2008.08.07より抜粋。)
●民間調査会社の不動産経済研究所(東京)が14日発表した7月のマンション市場動向によると、首都圏の発売戸数が前年同月比44.5%減の3554戸となり、11ヵ月連続で前年を割りこんだ。1996年10月以来の大きな減少幅だった。価格高騰などで市況が悪化し、発売戸数も落ち込んでいる。売れ行きを示す契約率は20.6ポイント低下の53.5%で、6ヵ月ぶりに50%台となり、好不調の目安となる70%を大きく下回った。近畿圏の発売戸数は前年同月比29.5%減の1786戸、平均価格は3.7%下落の3427万円だった。(『しんぶん赤旗』2008.08.15より抜粋。)

行政・公共事業・民営化

●「単品スライド条項適用に対する専門工事業への具体的波及に不安が広がっている。スライド適用による受・発注者間の契約額変更がどの案件で行われたのか、国、地方自治体を含めて把握しにくいことと、単品スライドが適用された場合の下請代金変更の枠組みが不透明なことが大きな理由。鋼材など建設資材高騰が経営圧迫要因の一つだった専門工事業にとって、単品スライド適用への道筋が決まっても、自らの不安払拭には時間がかかりそうだ。…こうした不安に対し国交省は、『単品スライドの下請けへの支払は、当面は「下請契約及び下代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」などで元請けに指導している。問題が起きるようであれば、対応を検討しなければならなくなるかもしれない』(建設業課)と話す。」(『建設通信新聞』2008.08.05)

労働・福祉

●「労働行政が、過重労働による健康障害など労働条件改善へ向けた取り組みを強化している。建設企業でも、過重残業防止などを目的にした立ち入り調査を受けている。過重残業については、4月から常時50人未満の労働者を使用する事業場でも面接・指導が義務付けられたこともあり、今後、中堅・中小企業に対しても取り組みが求められることになりそうだ。…これまでも、ゼネコンに対しては、店社・現場への立ち入りや是正勧告を行っており、企業規模の大きい企業を中心に、労働時間の管理などの見直しを進めていた。…建設業界の所定外労働(残業)時間削減は、従業員が加盟する労働組合でも取り組んでいる。39社の組合が参加する日本建設産業職員労働組合協議会が5月に公表した『2007年時短アンケート調査』でも『長時間労働の改善に向けた兆しは見えない』『外勤者は土曜出勤時間が所定外労働時間増大の原因』と指摘している。さらに残業時間についても、月80時間以上の組合員が30%を超えているほか、外勤者の3人に1人が月100時間を越える超長時間労働になっていることが明らかになっている。内勤についても、受注競争激化によってより厳密な対応が求められる積算部門を中心に、近年の建築需要増大による構造設計部門のほか、技術提案競争でもある総合評価拡大で土木系職員も残業時間が増加しているとみられる。」(『建設通信新聞』2008.08.05)

建設産業・経営

●「鹿島、大成建設、大林組、清水建設の上場大手ゼネコン4社の08年4〜6月期(第1四半期)の連結業績が、6日出そろった。公共投資の長期的な縮小に加え、これまで堅調だった民間設備投資に減速感が漂うなど厳しい企業経営環境を迫られる中、4社の売上高の進ちょく率は前年同期の17〜18%より高い水準の20%前後を達成。08年度事業は順調なスタートを切った。ただ、3社が受注高を前年同期よりも減らすとともに、完成工事総利益(粗利益)率を悪化させている。…単体の粗利益率は鹿島4.2%(前年同期5.0%)、大成建設3.4%(同4.2%)、大林組4.7%(同4.7%)、清水建設4.9%(同6.0%)となり、横ばいだった大林組を除く3社が採算を悪化させた。低採算工事の計上や、資機材の急激な高騰の影響と見られる。…受注工事を発注者・工事種別で見ると、大成建設を除く3社が国内官庁からの受注を大幅に回復させた。入札談合事件などで入札から締め出された前年度の反動が表れた形だ。大成建設は台湾で受注した大型事務所ビルが海外受注高の大幅増に寄与。清水建設も海外案件が好調で、受注高を大きく伸ばした。…企業収益の悪化による設備投資の減少や賃金抑制・インフレによる個人消費の伸び悩みなど、景気が後退局面に差し掛かる中、建設資材のインフレリスクは依然として高く、順調に滑り出した4社の今期業績も、予断を許さない状況だ。」(『建設工業新聞』2008.08.07)
●「主要ゼネコンの「09年3月期第1四半期(08年4〜6月)決算が、8日までにほぼ出そろった。採算を重視した選別受注にシフトする中、低採算工事の計上や資機材価格の高騰の影響を受け、軒並み完成工事総利益(粗利益)率を低下させている。完成工事高の栄上が第4四半期(09年1〜3月)に集中する季節的変動要因が強い業界の性質上、経常・最終損失を計上する企業が多く、売上高も前年同期を下回る企業が大半を占めるなど、厳しい四半期業績となった。期初に公表した受注高よそうに対する進ちょく度では1割程度に低迷する企業がある一方で3割に達する企業もあり、明暗を分けた。08年3月期通期業績で連結売上高上位20位中、8日午後4時までに第1四半期業績を公表した17社の準大手ゼネコンを集計した。…第1四半期の受注高を前年同期と比較すると、好調だった2社を除く11社が減少。大手4社を含めても前年同期を上回る受注高があったのは20社中4社にとどまった。前年同期との比較を売上高で見ると、大手4社はすべて前年同期よりも増加したが、準大手クラス13社中9社が前年度業績を下回った。…工事の採算を示す粗利益率は、開示資料ベースで計算のできる8社中5社が前年同期よりも悪化させた。…公共投資の長期的な縮小に加え、企業収益の悪化による設備投資の減少や賃金抑制・インフレによる個人消費の伸び悩みなど景気が後退局面に差し掛かり、従来以上に厳しい企業経営になりそうだ。」(『建設工業新聞』2008.08.11)
●「建設業の倒産悪化傾向が鮮明になりつつある。東京商工リサーチがまとめた7月単月及び7月累計(2008年1-7月)は、いずれも前年同月比20.3%増、前年同期比9.6%増と増加した。7月には上場企業3社のほか地方老舗企業の倒産も相次いだ。…7月単月の倒産はことし最多の425件で、03年7月(465件)以来5年ぶりに400件を上回った。負債総額も前年同月比150.8%増の1892億3800万円となり、単月では05年5月以来3年2ヵ月ぶりに1500億円を上回った。大幅増は負債100億円以上の大型倒産が5件あったことが理由。また、改正建築基準法関連倒産も21件発生、7月累計でも105件と100件を突破した。一方、7月累計も前年同期比9.6%増の2545件と、04年以降の減少傾向から一転し、悪化基調が鮮明になりつつある。…昨年6月に施行された改正建築基準法で建築確認申請が認められて着工できる物件が減少し、そのことを理由に破たんする『建基法改正関連倒産』が7月累計で105件発生したことや、元請けだけでなく民間建築発注者の不動産業の破たん増加が、『他社倒産の余波』として7月単月だけでも45.4%増の32件あることなどが、倒産増加という悪化傾向を押し上げた形となった。」(『建設通信新聞』2008.08.12)
●新興不動産会社が苦境に立たされている。マンション市況の悪化傾向で販売戸数が低迷米国の低信用者層向け高金利型(サブプライム)住宅ローン問題の余波で、外資ファンドが不動産投資を抑えていることが響いている。オフィスビルなどを改装して価値を高め、内外の投資家に転売する不動産流動化事業は各社の成長を後押ししてきた。しかし、外資ファンドが投資に慎重な姿勢を強めて物件が売れず、一転して収益を圧迫する形となっている。さらに、不動産業界からは「国内の金融機関が融資先をより厳しく選別し始めている」(大手企業幹部)と指摘する声が聞かれる。」(『しんぶん赤旗』2008.08.15より抜粋。)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「国土交通省は、来年10月1日に施行される住宅瑕疵(かし)担保履行法に基づく『住宅瑕疵担保責任保険』の加入について、緩和措置を検討する。同法では、新築住宅の売り主らに対し、貸し担保責任を確実に履行させるため、住宅瑕疵担保責任保険への加入や保証金の供託による資力確保を義務付けている。このうち保険は着工前の申し込みが必要で、既に着工している物件で施行日以降の引き渡しになる場合は、供託をしなければならない。しかし、中小事業者の中には供託金の確保が困難なケースも考えられるため、同省は住宅性能表示制度の建設住宅性能評価を適用している物件については着工後の保険加入を認める方向で検討する。…着工後の保険加入については現場検査の有無がネックとなるが、国交省は『建設住宅性能評価による検査は、保険法人による検査と同等とみなすことができる』(住宅局)としており、着工後の保険加入を認めても問題はないとの判断だ。防水に関するチェックは別途必要になる可能性がある。…建設性の評価を採用していない物件は、供託しか認められないため、同法について十分に認識していない中小事業者が法施行間際になって対応に苦慮するケースが生じる可能性もある。ただ、安易な救済策を講じるとモラルハザードを引き起こしかねないため、こうした事態が生じた場合、国交省は難しい対応を迫られそうだ。」(『建設工業新聞』2008.08.08)

その他

●「アジアや中東の新興国からの対米投資が急増している。ドル安や株価低迷に伴い、出資や買収の対象として米企業や証券などの‘割安感’が高まっているためだ。7月にはニューヨーク・マンハッタンを象徴するクライスラービルが中東の政府系ファンドに買収されたほか、証券市場でも新興国マネーの存在感が高まっている。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビの政府系ファンド、ムバダラ開発は7月、米代表企業の1つであるゼネラル・エレクトリック(GE)の大株主になる意向を表明。…GE株は昨年10月から約33%下落。ムバダラにとっては投資額を従来の3分の2に抑制できる計算で、GEのブランド力や技術力など費用対効果は高いと判断したもようだ。…米商務省によると、中東やアジアなど新興国からの対米直接投資額は2007年、企業買収を中心に462億ドル(約5兆500億円)と4年で12倍に増加した。…ドル安と株価下落に伴い、米企業や不動産、債権などが新興国マネーの格好の受け皿となっている。米政府は海外からの投資を歓迎する姿勢を見せており、米国への‘投資熱’は続く見通しだ。」(『日本経済新聞』2008.08.07)
●「アジア各国・地域で労働者の賃金相場が急上昇している。中国の代表的な工業地域、深3W市では最低賃金が7月から20%近く上がり、外資系工場が撤退を開始。ベトナムが最低賃金の3割上昇を見込まれるなど東南アジアでも賃金の上昇傾向は顕著で、インドのIT(情報技術)関連企業では賃金上昇が利益を圧迫する懸念が出始めた。物価高騰により賃上げ圧力はさらに強まるとみられ、低賃金を背景に急成長を遂げたアジア経済が曲がり角を迎えている。」(『日本経済新聞』2008.08.11)