情勢の特徴 - 2008年10月前半
●「金融庁が30日発表した中小企業金融の実態調査によると、大手銀行の融資姿勢が消極的との結果が出た。…金融庁は『(金融機関側の都合による)不合理な貸し渋りは確認できないが、融資姿勢は弱くなっている』と分析している。調査によると、大手銀は新規融資時や融資条件の交渉の際に消極的な姿勢が見られるという。…金融庁は調査結果を踏まえ、大手銀に画一的な融資審査をせず、各中小企業の実態をよくみた上で、融資の可否を判断するように促す。地銀などにも不動産担保や信用保証制度に頼らない融資の実行を求めていく。」(『日本経済新聞』2008.10.01)
●「総務省は30日、地方自治体の財政状況を第三セクターなどを含めた連結ベースで把握するため、新たに定めた基準に沿って算定した指標を始めて公表した。43の市町村が警告段階となる早期健全化の基準を超え、このうち北海道の夕張市と赤平市、長野県の王滝村は破綻状態である『財政再生基準』にも抵触することとした。財政悪化が明るみに出た自治体は財政再建に向けた取り組みが必要となり、施設の統廃合や住民サービスの見直しなどリストラを迫られる。」(『日本経済新聞』2008.10.01)
●「大手銀行8グループの2008年9月中間期決算は当初予想より大幅に下振れしたもようだ。米金融危機に伴う株安による減損処理や不良債権処理損失の増加、金融商品の販売不振という3つの重しにより、利益が計画を3割強下回り、下方修正に追い込まれる銀行も相次ぎそうだ。邦銀は欧米の金融機関に比べて危機の影響は軽いとはいえ、業績面では厳しさが増している。大手銀8グループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友、りそな、住友信託、中央三井トラスト、新生、あおぞら)は今年度当初、9月中間期の連結純利益が合計1兆円強と前年同期に比べて微減にとどまると見込んでいた。しかし、国内外で経営環境が急速に悪化。4−6月期の純利益は合計で前年同期比3割のマイナスとなった。9月中間期は減益幅がさらに広がり前年中間期から半減した可能性もある。」(『日本経済新聞』2008.10.04)
●「トヨタ自動車の2009年3月木の連結業績が期初予想を下回る見通しとなった。米金融危機に端を発する世界的な自動車需要の減速が直撃した格好。中でも大きな誤算となったのは中国など新興国での売れ行き鈍化。成長の新たなけん引役と位置づけていたが、日本や欧米の不振を補うことはできなかった。為替相場も急速に円高が進み、今期の想定レート見直しは必至な情勢となっている。…減益幅が拡大するトヨタだが、強固な財務基盤に変わりはない。1兆円の連結営業利益を稼ぐ企業は日本では数少ない。米自動車大手3社や欧州勢と比較しても利益はなお世界最高水準だ。トヨタは今期、9千億円を越える研究開発費を投じる計画で技術開発に磨きをかける。再び成長軌道に乗れるか経営陣の手腕が試される。」(『日本経済新聞』2008.10.08)
●「不動産投資信託(REIT)のニューシティ・レジデンス投資法人は9日、東京地裁に民事再生法の適用を申請したと発表した。負債総額は1123億円。米金融不安によるREIT相場の低迷などで資金繰りが悪化し、予定していた大型マンションの購入資金や借入金の返済資金を調達できなかった。上場REITの破綻は初めて。ニューシティは賃貸住宅を投資対象とし、首都圏を中心に約100件のマンションなどを保有している。資金規模は約2千億円で、REITでは中堅。」(『日本経済新聞』2008.10.10)
●「金融危機に見舞われている米欧が公的資金の資本注入に動き始めるなかで、日本も金融危機を未然に封じ込めるために本格的な対策に乗り出す。日本の金融システムは総じて健全とされるが、最近の株価急落や景気減速で将来のリスク要因は増えている。特に預金保険法の危機対応措置の対象にならない可能性がある中小の地域金融機関への対応が安全網の弱点となっているだけに、政府・与党は作業を急ぐ構えだ。…米国は公的資金による不良資産の買取に加え、資本注入も視野に入れ始めた。金融危機を封じるため、1998年から資本注入に踏み切った当時の日本の状況に似ているといえる。現在の日本の金融システムは総じて健全な状況政府・与党が資本注入制度の拡充に動き出したのは、不測の事態に備えた安全網を整え、不安の芽を摘み取る狙いを込めている。」(『日本経済新聞』2008.10.10)
●信用保証協会が中小企業融資に与える保証の件数や金額が急速に減少している。…減少の要因は『金融機関からの申し込みの減少』(各保証協会広報)だ。特に都市銀行からの申し込み減少は大きく減っている。…『昨年10月に責任共有性(部分保証)が導入されて貸し倒れの危険を自ら負うことになり、銀行の中小企業への融資意欲は低下している。そこに景気悪化とアメリカ発の金融不安が重なっており、保証申し込みの減少傾向はいっそう強まる』と複数の金融関係者はみている。(『しんぶん赤旗』208.10.12より抜粋。)
●「国土交通省で公共事業工事労務単価のあり方についての議論が始まっている。下がり続ける労務単価に、『労働者の賃金を引き下げる誘導原因だ』などと各方面から批判が集中している。だが、『設計労務単価』の制度だけを見直しても抜本的な労働者の賃金向上にはつながらない。積算、入札契約、元下関係、労働条件といった公共工事をめぐる各段階それぞれに労務単価を引き下げる要素が潜んでおり、その結果が設計労務単価として表面化しているかたちだ。…9月に開かれた第3回の検討会では、調査制度だけでなく、積算や入札契約、元下関係、労働条件が論点として盛り込まれた。ある意味で、検討会の枠を超え、労働条件の抜本的な改善を検討することを宣言したようなものだ。」(『建設通信新聞』2008.10.06)
●「国土交通省は、ダンピング受注による工事の品質低下を避ける狙いから、施工体制確認型総合評価方式の入札を適用する範囲を、予定価格1億円以上の全工種に拡大する。…現行では、予定価格が2億円以上が対象で、工種も一般土木と鋼橋上部、PC工事の3分野に限定していた。施工体制確認型方式が低価格入札の抑制に効果を発揮していることから、適用範囲を広げることにした。」(『建設工業新聞』2008.10.09)
●国土交通省は、トンネル工事の標準積算基準と標準歩掛を改正する。歩掛は緊急工事品質確保対策に基づく特別実態調査で作業効率が3割程度向上していることが分かったことと、労働基準法の趣旨を踏まえ歩掛の作業日数を10時間労働4週6休から8時間労働4週8休に変更することによる見直し。…今回の改正は、緊急工事品質対策に基づく特別実態調査と、トンネルじん肺訴訟で国交大臣など原告団・弁護団が交わした「トンネルじん肺防止対策に関する合意書」の2点に基づいている。」(『日本経済新聞』2008.10.15)
●「低価格競争の激化や入札不調の頻発に悩む東京都が、入札契約制度の改革に乗りだした。…都が有識者を招いて『入札契約制度改革研究会』(会長・郷原信郎桐蔭横浜大法科大学院教授)を発足させたのは今年6月。研究会…の緊急提言を…受けて都が9月19日、その内容を最大限に取り込んだ九つの改善策を公表した。改善策は、▽積算単価の1ヵ月ごとの見直し▽年度末に偏る工事発注時期の平準化▽管理技術者の拘束緩和▽総合評価方式の適用件数の拡大▽実態に即した最低制限価格の基準の設定―などだ。…今後、議論が本格化する抜本対策では、一般競争入札の拡大などが大きな焦点になる。…一方、都が改善策の発表してから2週間後。都議会自民党は、独自にプロジェクトチームを設置して協議してきた入札契約制度への緊急提言を今月2日公表した。その柱の一つが予定価格の事前公表の廃止だ。都は現在、工事発注時に予定価格を事前公表しているが、…事後公表への切り替えを求める。これに対し、研究会の郷原会長は『予定価格の事前公表は問題もあるが、企業が予定価格を不正に探る行動をなくし犯罪の芽を事前に摘み取る利点もある』と事前公表の廃止には慎重姿勢を示す。郷原会長が、事前公表より大きな問題として指摘するのは予定価格の上限拘束性だ。『応札価格が予定価格を1円でも上回れば入札不調になることに合理性があるのか。今後は、地方自治体法が定める上限拘束規定の改正に向けた提案を議論する』と話す。」(『建設工業新聞』2008.10.15)
●「全国の建施設職人等約70万人を組織している全国建設労働組合総連合では、毎年労災に関する調査を行なっているが、平成19年一年間の死亡者数を見ると、労働者・事業主・一人親方を合わせて43名となり、3年前に逆戻りする形となった。多くは首都圏に集中しているが、特に事業主の事故が増えており、下請けに入る工務店等が増えている実態が浮かび上がった。厚生労働省の統計が実態を反映していないと言われるのは、対象を『労災事故』に限定しているためで、事実上労働者として働いている一人親方や事業者主は数に入らない。また、『労災』とならないように、事故として届け出なかったり、健康保険の適用を求めるなど、いわゆる労災かくしが横行していることも背景にある。住宅の現場に限ってみると、…死亡事故が増えている…事業主が現場で事故に合うのは、高齢化が進んでいることが関係ある。さらに総連が問題にしているのは、コスト低減のしわ寄せで安全経費が削られ、労務単価も引き下げられていること。職人や一人親方として雇用契約を結ばずに外注扱いにすることで、労災事故でも自己責任にならざるを得ないという事例があることも指摘する。職人を安く使うことが事故につながるのでは、将来的に職人が育たなくなるし、低い単価が住宅価格に反映されるとすれば、まともに職人を育てている工務店に乗っては不公平な競争を強いられることになる。早急なルールの整備が必要だ。」(『日本住宅新聞』2008.10.15)
●「新興・中堅デベロッパーの相次ぐ経営破たんの影響が、ゼネコンだけでなく、現場で直接施工を担う専門工事業者にも及んでいることが、東京都鉄筋工事業共同組合の労務状況調査で明らかになった。予定物件の延期や中止で『職人の手配などのローテーションが大混乱している』(都内の鉄筋業者)のに加え、それ以上に深刻なのが、中小ゼネコンの信用不安。与信問題で支給材の入荷が滞るケースが増加しており、入材を確認してから仕事をする業者もいるという。…工事の中止・延期の影響に資材価格の高騰も加わり、ゼネコンからは契約単価の下げ圧力も強まっているという。…単価の引き下げを要求している業者は多いが、組合では『安全、品質を守るためには、今の単価が最低限であるということを理解してもらい、何とか下落は避けたい。一度、低価格で受け取るとずるずると取り返しのつかないことになる』と警戒感を強めている。
●「国土交通省は1日、地域の建設業の実情を把握するために全国9ブロックで実施した緊急ヒアリング調査の結果をまとめた。建設会社からは、仕事量の減少で受注計画が立てにくくなっているにもかかわらず、短期的な受注減や手持ち工事量の縮小を理由に融資を止められるなど、金融機関の厳しい融資姿勢に対する不満の声が挙がった。かつてない経営環境の厳しさから、早めの廃業への支援を求める意見まで聞かれた。国交省は調査結果を金融庁や中小企業庁にも説明し、地域建設業の経営強化に対する理解と協力を求める方針だ。」(『建設工業新聞』2008.10.02)
●「ゼネコン各社の08年度上半期(4〜9月)…引き続き順調に推移した。海外建設協会(海建協)の統計(07年度分)でも、受注総額が過去最高記録を更新しており、拡大路線をキープ。ただ一方で世界的な建設資材の価格高騰の影響により、工事の採算確保の難しさが浮き彫りとなった。このため国内と同様に海外でも、採算重視の受注活動がこれまで以上に重要になっている。…海外で数多くのビッグプロジェクトを手掛ける大成建設は、日本市場で協力体制を敷いている米ベクテルとの間で、海外での活動を視野に入れて提携関係を.強化。…順調に実績を伸ばしてきた大成の海外事業だが、ここに来て、鋼材の人件費が予想以上に上回った影響により、土木事業を中心に採算が悪化。そのため同社は、工事契約に物価調整条項を盛り込むことなどを原則とする対応策を公表。受注優先で取り組んできた海外事業を、利益確保を最優先した活動に切り替える方針を示した。」(『建設工業新聞』2008.10.08)
●「建設業の企業倒産の増勢に歯止めが掛からない。民間信用調査会社の東京商工リサーチが8日発表した08年度上半期(4〜9月)の建設業の倒産は2353件(前年同期比15.6%増)と上半期として3年連続で前年を上回った。負債総額は7158億円(同61.6%増)で、上半期としては04年以来4年ぶりに5000億円を超えた。倒産の増加は全国的傾向で、原因の多くは『受注不振』。中堅企業の倒産が増える傾向にあるなど、地域の老舗といわれる有力建設会社の倒産が相次ぐ業界の現状を裏付けている。」(『建設工業新聞』2008.10.09)
●「国土交通省が7日、2009・10年度の競争資格審査で、08・09年度と異なる等級になる可能性がある企業が従来等級を選択できる対応を正式に公表したことに、地方建設業界から安堵(ど)感が広がっている。技術評価点数(主観点数)の算定式を見直したことで例えば、これまでC等級だった企業が、B等級にランクアップするなど、『(企業自らが)望まない格付け変更』になるケースも想定されていたことが理由だ。…地方建設業界が望まないランクアップに強い関心を寄せていた背景には、地場大手がランクされるB等級が応札するB等級工事件数はC等級に比べ約20分の1しかないことが大きな理由。…B等級工事・企業は地場大手に加え中堅全国ゼネコンも加わる。B等級工事は1地方整備局で考えれば年間約20件にも満たない。同時に、地場大手はあくまで県内工事が主力のため、応札案件はさらに絞られる。一方、C等級工事は件数も格段に多いうえに、同じ地場企業同士の競争のため、受注可否の判断もしやすい。…地域ごとにみればB等級工事の市場そのものが少ない上、『発注の多くは全国ゼネコンが受注する』ことが、C等級企業のランクアップ意欲をそぐ要因にもなっていた。ただ国交省は一方で、技術力のある地場企業の競争参加を促す目的で、等級外の工事にも参加できる食い上がりなどランクの弾力化を進めており、希望通りにC等級にとどまっても競争が激化することに変わりはなさそうだ。」(『建設通信新聞』2008.10.10)
●「株式市場の低迷が、建設業の企業経営に深刻な影響を及ぼし始めた。保有株式の株価下落で純資産が減少、自己資本比率の悪化を招いているほか、有価証券評価損を特別損失として計上する動きも広がってきている。自社の時価総額が下落し、指定替えの危機に瀕する会社も相次いでいる。大手ゼネコンは1社で2000-3000億円規模の投資有価証券を保有しており、株価低迷によって貸借対照表(BS)は大きな影響を受ける。時価会計によって総資産と純資産が揃って減少し、負債が変わらなければ、自己資本比率は悪化する。資金調達でコストが膨らむなどの懸念が浮上する。1株当たりの純資産が低下し、建設会社自身の株価下落につながる恐れもある。株安はBSだけでなく、損益計算書(PL)にも影響を与え始めた。10月に入って、9月中間期(第2四半期累計期間)に有価証券評価損を計上する企業が相次いでいる。…投資有価証券のうち、帳簿価格に比べて時価が著しく下落(通常は50%以上)し、その回復が見込めない銘柄は減損処理する。取引先との関係強化などを目的に、数百から数千億円規模の投資有価証券を保有している建設会社が少なくないことから、今後も計上の動きが広がりそうだ。保有する株式だけでなく、建設会社自身の株価低迷も深刻さを増している。…株価下落によって、株式市場で指定替えの可能性が浮上する建設会社も増えている。」(『建設通信新聞』2008.10.10)