情勢の特徴 - 2008年10月後半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「国内住宅市場が一段と低迷し始めた。米国発の金融危機で世界的な株安が進んだ9月以降、消費者心理の後退や融資環境の悪化で売れ行きがさらに鈍っており、2008年の分譲マンションの全国発売戸数はバブル崩壊直後の1992年以来、16年ぶりに10万戸を割り込む見通し。家電などの耐久消費財の需要にも波及しかねず、政府・与党内では今年末で期限が切れる住宅ローン減税の延長・拡大などが検討課題に浮上してきた。不動産経済研究所(東京・新宿)が15日、発表した9月のマンション市場動向によると首都圏の発売戸数は前年同月比53.3%の2427戸、近畿圏も43.8%減の2047戸となった。首都圏は13カ月連続の前年割れで、マイナス幅が50%を超すのは96年10月以来、約12年ぶりとなる。発売戸数の大幅減とともに売れ行きも低迷。発売戸数のうちどれだけが実際に売れたかを示す契約率は9月分で首都圏は60.1%、近畿圏も62.4%にとどまり、好不調の目安となる70%を大きく割り込んだ。不振の要因の1つは価格の高止まりだ。…追い打ちをかけたのが米国発の金融危機。世界的な株安で消費者の購買意欲が一段と冷え込んだのに加え、銀行も融資に慎重になり始めたと不動産各社は指摘する。」(『日本経済新聞』2008.10.16)
●「国土交通省は、2008年度の同省関係補正予算の配分を決めた。一般公共事業費などの配分額は3100億円(事業費ペース)で、台風、豪雨、地震被害の災害復旧に加え、8月に政府がまとめた『安心実現のための緊急総合対策』に盛り込まれた施策に重点配分する。被災地などに対応した安全・安心な道路ネットワーク整備に1458億200万円を配分し、法面対策や橋梁の耐震化、危険個所を回避するバイパス整備などを推進する。…事業費3100億円の内訳は、一般公共事業費が3027億1500万円、官庁営繕費が72億7400万円。直轄事業に1959億1600万円、補助事業に1140億7300万円をそれぞれ配分する。」(『建設通信新聞』2008.10.17)
●「金融庁は銀行の自己資本比率規制を見直す検討に入った。現在の規制は株価下落の際に自己資本比率の押し下げにつながりやすく、銀行が中小企業向け融資を渋る一因とも指摘されている。ただ国際的な合意に基づく白己資本比率規制を日本の銀行だけ変更すれば、海外市場での信用に影響が出たり、会計の連続性を損ねたりする問題も生じかねない。…検討課題の1つは、有価証券の含み損処理のあり方だ。…日本の銀行は海外の銀行に比べて株式の保有比率も高く、結果として株価下落の影響を受けやすい。」(『日本経済新聞』2008.10.21)
●「米国に端を発した世界的な金融危機の影響が、日本経済にも色濃く出てきた。政府は10月の月例経済報告で国内景気の基調判断を下向きに修正、日銀の地域経済報告でも、海外経済の停滞に伴う輸出減少で地方景気に悪影響が広がっていることが明らかになった。原油価格の下落など好材料もあるが、景気好転の展望はまだ開けていない。…景気判断の下方修正の決め手になったのは、米欧向けの輸出落ち込みだ。…日銀は10月の地域経済報告にも『輸出は増勢が鈍化している』と記し、全九地域で景気判断を引き下げた。…米欧の金融危機に伴う輸出の落ち込みは、国内の生産活動を直撃している。日銀の地域経済報告では、全国9地域のうち北海道を除く8地域で年産の基調判断を引き下げた。…世界的な株安や雇用情勢の悪化で、個人消費の落ち込みも目立ってきた。地域経済報告では北陸と東海は現状維持としたが、関東甲信越など七地域は下方修正。…原油先物価格がピークに比べ半値以下まで下がり、これまで企業の収益圧迫要因だったエネルギー・原材料高に一服感がみられる。…実際に企業のコスト減少につながるまでには時間がかかりそうだ。」(『日本経済新聞』2008.10.21)
●「投資家から資金を集めて不動産に投資するJリート(不動産投資信託)の取得物件数が急減していることが、国土交通省や不動産証券化協会などで構成する『投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム』(座長・岩原紳作東大大学院教授)のまとめで分かった。年間の取得物件数はピークの06年度に556件だったのが、08年度上期(4〜9月)には83件と低迷。米国から広がった世界的な金融不安を背景にした外資の引き揚げや、金融機関の不動産融資抑制が物件取得を鈍化させた要因で、下期も回復は見込みにくい情勢。『バブル再来』とも言われたここ数年の地価上昇を演出してきたJリートが大きな曲がり角に立たされている現状をあらためて浮き彫りにしている。…国交省は、取得物件数が急増していることについて『資金繰りが厳しいことが大きい』 (国交省総合政策局)とみている。金融不安が収束する見通しも立っておらず、企業の株価に相当する投資口価格も低迷しているJリートの運営環境の厳しさは、下期も改善する情勢にはない。国交省などは、不動産投資市場の持続的な成長を図っていくため、同フォーラムで、Jリートに対するてこ入れ策の検討を進めている。」(『建設工業新聞』2008.10.30)

行政・公共事業・民営化

●「公共工事の入札で総合評価方式を導入済みの市区町村(政令市を除く)が、08年度は4割を超える見通しであることが、国土交通省と総務省の調査で明らかになった。導入自治体は06年度が約2%、07年度が24.3%だったことを考えると着実に拡大しているといえ、自治体向けに実施マニュアルを策定したり、導入シンポジウムを開いたりするなど、国交省を中心に市区町村の総合評価方式導入を後押ししてきた効果が顕在化してきた形だ。…ただ、同調査では1件でも総合評価方式を導入すれば導入自治体の一つとしてカウントされることから、導入した工事の件数ベースで見れば、普及状況はこれよりも低い数字になる可能性が高い。このため国交省は『(詳細な)調査結果がまとまれば、さらに総務省と連携して導入への働きかけを行う』(総合政策局建設業課)としている。」『建設工業新聞』208.10.16)
●「耐震偽装事件の再発防止策の一環として、11月28日に改正建築士法と併せて改正建設業法が施行される。施行に先立ち、国土交通省は10月8日付で建設業法の施行規則を一部改正、運用の詳細を各地方整備局に通知した。主な改正点は▽共同住宅新築工事の一括下請負禁止▽監理技術者資格者証の携帯と監理技術者講習の受講が必要な工事の拡大▽営業に関する保存図書の拡充−の3点。…建設業法の主な改正点をみていくと、第1の大きな柱は、一括下請負の禁止対象の拡大。…今回の改正で、民問工事でも「共同住宅の新築工事」については公共工事と同様に全面禁止となる。ただ、…『長屋』の工事については、改正法施行後も、従来通り発注者の事前承請があれば一括下請負が可能。…2番目の柱が、工事に専任配置する技術者に関する規定の厳格化だ。…今回の法改正で配置できる監理技術者の要件を厳格化。公共工事の場合と同様に、監理技術者には資格者証の携帯と資格者講習の受講を新たに求めることになった。…欠陥住宅などをめぐる紛争の解決を円滑化することを目的に、建設業者に保存を義務付ける『営業に関する図書』も拡充するのが第 3の柱だ。」(『建設工業新聞』2008.10.22)

労働・福祉

●「『日雇雇用保険』の対象が派遣労働者にまで拡大されたにもかかわらず、昨年9月の運用変更後の一年間で受給した派遣労働者が1人にとどまっていることが20日、厚生労働省の調査で分かった。申請も4件止まりで、周知不足と手続きの煩雑さが原因とみられる。日雇い派遣労働者の生活安定のための運用変更が、セーフティネットとして機能していない実態が浮き彫りとなった。『日雇雇用保険』は東京・山谷地区などで暮らし、毎日異なる雇用主の下で働く建設作業員などを対象に制定された。労働者はハローワークで日雇労働被保険者手帳(白手帳)の交付を受け、雇用主は手帳に雇用保険印紙を貼って、その日就労したことを証明する。2カ月で合計26日間以上働けば、仕事がない日に最低4100円を受け取れる。昨年9月に運用が変更され、雇用主が派遣会社となる日雇い派遣労働者も同保険を受け取れるようになった。同じ派遣先への複数日にわたる契約であっても雇用保険法に基づき30日以内なら受給資格を得られる。…日雇雇用保険の受給者がこの1年間で1人にとどまった最大の要因は周知不足。…日雇雇用保険を利用するには、労働者側が手帳を持つ必要のほか、派遣元事業所もハローワークから印紙を管理する通帳の交付を受けなければならないが、通帳を交付されている派遣元事業所は全国で6カ所しかない。さらに派遣労働者が同保険を受け取る際には派遣元に『契約不成立証明書』を書いてもらう必要がある。関根書記長は『制度を知っていても雇用保険を受け取ること自体が現実ではない』と指摘。」(『日本経済新聞』2008.10.21)

建設産業・経営

●「ゼネコン(総合建設会社)大手4社の2009年3月期末の連結有利子負債残高は合計で前期末比14%増の1兆8760億円程度となる見通しだ。民間建築の大型工事の残高が多く資材費高騰で運転資金がかさむことなどが響く。来期以降は減少を見込むが、削減が進まなければ将来の財務体質悪化に対する懸念が強まる可能性がある。4社の合計が増加するのは2期連続。12%増えた前期末と比べて増加率は拡大する。大成建設と清水建設、大林組の3社が増加を見込む。…連結決算が中心となった00年3月期以降、大手4社合計の連結有利子負債残高は07年3月期まで減少が続いた。来期以降は大型工事の完成で資金回収が進むため、各社とも減少を見込む。」(『日本経済新聞』2008.10.16)
●「国土交通省は、中堅・中小建設会社の資金繰りを支援するため、公共工事の請負代金債権を利用する新たな融資制度を11月4日にスタートさせる。…新制度では、工事の出来高が2分の1を超えれば、代金債権の譲渡が可能になり、建設業振興基金(振興基金)が認めた民間貸付業者、または事業協同組合から転貸融資を受けることができる。加えて、保証事業会社から前払金保証を受けた工事であれば、保証事業会社の債務保証を条件に、出来高を超える部分の工事代金債権を利用して通常より低利で融資を受けられるようになる。…対象となるのは、原則資本金20億円以下または当従業員1500人以下の中小・中堅建設会社で、国や都道府県、市町村、高速道路会社、都市再生機構、日本下水道事業団、水資源機構などの発注工事の請負代金債権を利用して融資が実行される。…新制度では保証事業会社の債務保証を利用して、出来高を超える部分についても融資を受けられるようにするのが特徴だ。振興基金の債務保証による転貸融資を受けた工事で、さらに保証事業会社から前払金保証を受けた工事であれば、保証事業会社と委託契約を結んだ金融機関から直接融資を受けることができる。振興基金の債務保証による転貸融資と、保証事業会社の債務保証による直接融資を合わせると、建設会社は請負代金のかなりの部分を完工前に現金化でき、運転資金に利用できるようになる。さらに、両者の債務保証によって融資金利が通常より低くなるのもメリットだ。」(『日本経済新聞』2008.10.20)
●「地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)が国土交通省に求めている国道の整備・管理の権限移譲について、検討対象となる国道の全容が明らかになった。従来の110路線に73路線が上積みされる。…今後、国交省と都道府県との個別交渉で具体的な移譲路線が決まる。…9月までに国交省がまとめた計110路線、3799`bの移譲対象の直轄国道は同じ都府県内に起点終点がある区間や、バイパスに挟まれた短い道路が多い。分権委はさらに重要都市以外を結ぶ道路について『まず三十万人未満の都市を結ぶ国道をリストとして提出すべきだ』(猪瀬直樹委員)としていた。今回国交省は起点や終点が人口30万人未満の都市を結ぶ道路で国が管理している区間を、機械的にリストアップしたとの立場。…実際に移譲するかどうかは都道府県との個別交渉に委ねられる。整備・管理の責任は地方に移管しても『国道』の名称は変わらない。国交省などは権限を受け入れた都道府県に対し、個別の道路に対応した費用を交付金の形で渡す方針を示している。今後実際にどれくらいの道路の権限が地方に移るかが焦点となる。仮にすべての対象路線が地方に移れば、国が管理する国道の二割程度が都道府県に権限移譲されることになる。」(『日本経済新聞』2008.10.21)
●「全国中小企業団体中央会が公表した9月末の中小企業景況調査で、原材料価格の高騰によるコスト増が続くだけでなく、需要の低迷による売上げが低下する中で十分な価格改定も行えず、米国発の金融不安による影響の懸念もあり、景況感は一段と厳しさを増していることが明らかになった。…中央会がまとめた9月末の景況調査での建設業は『景況』『売上高』『収益状況』の主要3指標とも前月比で改善傾向を示したものの、依然として低水準にある。…全国各地からは、『工事量の減少により、年度末にかけ与信不安が懸念される』との報告が寄せられている。また、具体的には『総合評価方式が採用され申請時の書類が多くなり、各社とも負担増となり苦慮』(茨城県・総合工事)、『大型工事は引き続き多いが、中小工事が減っている。元講建設会社の倒産など信用不安が出ている』(埼玉県・鉄骨工事)、『不動産企業の大型倒産が発生しているので、マンションなどで工事中断が見受けられる。県内の専門工事業者(型枠大工)で廃業、倒産の話しが聞かれる』(山口県・左官)、『金融関係の貸し渋りなどが強くみられるとともに、事務機器のリース契約が認められない状況が多く見られる』(長崎県・電気工事)など、苦境を訴える声が上がっている。」(『建設通信新聞』2008.10.23)
●「国、地方ともに公共市場は縮小傾向が続いているが、建設コンサルタンツ協会会員1社当たりの業績は2006、07年と2年連続の増収増益だった。…増収増益について渡辺裕一財務専門委員長は、『規模の大きい会社が伸びれば平均値が上がる』ためで、すべての会員が好調なわけではないと説明する。売上高規模別にみると、3億円以上10億円未満の階層(170社)は減収減益で全く逆の結果となっている。3億円未満の階層(47社)は、売上高は3年連続増加しているが、営業利益は7億8000万円の赤字で、経営環境はさらに厳しい。これに対して10億円以上の階層(166社)は、40億円以上60億円未満(21社)が唯一減収減益となっている以外、増収増益か減収でも増益を示している。売上高10億円が業績の分かれ目になっている要因として、渡辺委員長は「上位の企業はプロポーザルの受注が増えているためではないか」と推測する。 プロポーザルで特定されれば随意契約となるため、予定価格に近い金額で受注できる。しかし、10億円未満の階層は価格による競争入札が主体で、ダンピング(過度な安値受注)が多発していることから、低い受注額で採算性が悪く、減収減益の原因となっている。10億円未満は、売上高が落ち込んでいることに加え、ユスト削減も限界にきているという指摘もある。規模が大きい会社と比べ、削減できる人員、経費が少ないため、一度実施すれば手詰まりになってしまうことも、業績悪化の一因となっている。」(『建設通信新聞』2008.10.24)
●「海外建設協会(海建協、竹中統云長)は28日、08年度上半期(4〜9月)の会員企業(46社)の海外工事受注実績をまとめた。中東での受注額が前年同期に比べ7割近く減少した影響を受け、受注総額は前年同期比21・9%減の5973億円と大きく落ち込んだ。海建協会員企業の海外工事受注は、06、07年度と2年連続で過去最高を更新したが、資材費高騰などのリスクに対して各社が慎重姿勢に転じてきたのに加え、米国から広がった世界的な金融不安と景気後退の影響も懸念され、本年度は減速する可能性が高い。地域別の受注額を見ると、主力のアジアは各社が設立している現地法人の受注が好調に推移。本体での受注も前年と同水準を維持し、前年同期比7%増の3624億円を記録した。…米国発の金融不安が世界に広がり、景気後退が深刻化している現状も考慮すると、ここ数年、国内建設市場の縮小に対応した積極的な海外展開で最高記録の更新を続けてきたゼネコンの海外受注にも、本年度は陰りがでる可能性が高い。」(『建設工業新聞』2008.10.29)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「ねじれ国会の影響で、継続審議扱いの『長期優良住宅の普及の促進に関する法律案』(閣議決定2月26日)。法施行の時期がいまだ不確定な状態にある中で、先行して『超長期住宅先導的モデル事業』が動き出した。第1回の応募603件のうち、認定されたのはわずか40件、合格率は6%台の狭き門となった。しかも戸建住宅が中心で、マンション事業はわずか5件にとどまった。 『200年住宅の建物性能はグレードが上がり、相場より高い価格帯での販売することになり、物件選びに苦労した』と、ある中堅マンションディベロッパーが打ち明けるように応募者の多くは頭を悩ました。モデル事業の「先導的」という意味の解釈も、提案内容を決める上で難しい点だったという。同社を含め、モデル事業から漏れたディベロッパーは少なくない。…マンション部門の認定数が極端に少なく、しかもディベロッパー中心であった背景には、モデル事業の着工期限が2009年3月末に限定していたことが深く関係している。ゼネコンの中には期限内に着工可能な案件が見つからず応募を断念する企業もあった。…モデル事業の補助は1住戸当たり200万円。認定されたマンション事業はすべて新築案件となり、大規模改修案件は1件もない。…認定事業者の設定する販売価格も、国の補助分だけではまかなえず、自らの持ち出しで販売価格を調整せざるを得ない可能性もある。低迷するマンション市況も、価格設定をより難しくしている。 それでも各社がモデル事業に力を注ぐ根底には、長期優良住宅促進法への対応がある。200年住宅の時代が到来することを見越し、『モデル事業でブランドイメージをさらに高めたい』(同)との戦略があるからだ。」(『建設通信新聞』2008.10.20)

その他

●国際労働機関(ILO)のソマビア事務局長は20日、国際金融危機の影響で、世界全体の失業者が推定2000万人増加するとの見通しを示した。ILOの試算によると、2007年時点で一1億9000万人だった失業者は、09年後半には2億1000万人に達する。 同事務局長は失業の拡大に加え、1日1j未満で生活するワーキングプア(働く貧困層)が約4000万人増加し、1日2j未満の層は1億人以上増えると予測。「長期にわたる深刻な社会的危機を避けるため、迅速で調整された各国政府の行動が必要だ」と述べた。(『しんぶん赤旗』2008.10.22より抜粋)