情勢の特徴 - 2009年9月前半
●「国内銀行が建設業向けに貸し出しているお金の残高が減り続けている。今年6月末の貸出残高は13兆5309億円で、建設業者の倒産件数が過去最多を記録した1984年以来、25年ぶりの低水準となった。銀行が審査を厳しくしているうえ、新規の資金需要も細っているためだ。昨年10月末に始まった緊急保証制度の効果が息切れしつつある可能性もありそうだ。・・・2007年に改正建築基準法が施行されて以降、『建設業者に対する銀行の融資姿勢はより厳しくなっている』・・・倒産が相次げば、銀行の融資姿勢はおのずと慎重になる。東京商工リサーチによると、今期に入ってからも建設業者の倒産件数は毎月300件以上と高水準で推移。」(『日本経済新聞』2009.09.09)
●「不動産経済研究所(東京・新宿)が14日発表した8月のマンション市場動向によると、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新規発売戸数は前年同月比6.2%減と24ヵ月連続で前年同月を下回った。在庫は8ヵ月連続の減少となったが、契約率は4ヵ月ぶりに7割を切った。市況は底を脱したものの、本格回復には時間がかかりそうだ。」(『日本経済新聞』2009.09.15)
●「民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げている契約適正化施策の『政府調達監視等委員会』について、郷原信郎名城大教授は8月31日の会見で、公正取引委員会型の独立行政委員会で『委員会の事前承認を得ることにより、会計法の枠組みを超えた多様な調達手法を採用できることが狙いで、一般競争入札万能論ではなく、むしろ積極的に随意契約を活用して品質の確保を目指すことも含む』とした。」(『建設通信新聞』2009.09.02)
●「東京都は2日、築地市場の移転予定地である豊洲地区(東京・江東)の土壌汚染に関する追加調査結果を公表した。採取した土壌の18%から基準を上回る汚染物質を検出したが、都は『汚染対策を実施すれば安全性を確保できる』(中央卸売市場)との見解を表明。2014年末に移転する計画は変更しない方針を明らかにした。ただ、7月の都議選で第1党となった民主党は計画通りの移転に反対しており、都議会に特別委員会の設置を求めている。民主は衆院選でも築地市場移転を争点に取り上げており、石原慎太郎知事ら都側と民主の攻防が今後本格化する。」(『日本経済新聞』2009.09.03)
●「民主党への政権交代によって、国土交通行政はどう変わり、建設業界にはどのような影響が出るのか−。・・・政策集は、7月時点の民主党の政策をまとめたもので、同党のマニフェストのベースになっている。・・・これらの政策は7月時点の内容であり、このまま実施に移されるかどうかは未確定。その影響は完全には測りかねるものの、マニフェストでも大型公共事業の全面見直しや、政策の財源を公共事業費などからねん出する方針が打ち出されており、公共事業費が削減されることは間違いなさそうだ。仮に、新政権がPFIの活用を促進することで必要な公共サービスの確保を進めるとすれば、PFIの実績とノウハウを豊富に持つ大手ゼネコンなどには有利に働く可能性がある。一方、道路整備などの権限が地方に移譲され、中小建設業の受注機会が確保されるなら、地元建設業もある程度は仕事を確保することができる。結果的に、両者の間に立つ準大手・中堅業者が厳しい状況に追い込まれかねないといった見方も出ている。」(『建設工業新聞』2009.09.03)
●「関東地方整備局は4日、『八ツ場ダム本体建設工事』の入札参加資格者に対し、当面の聞入札手続きを延期すると伝えた。国土交通省の谷口博昭事務次官が3日の会見で、予定していた入札手続きの延期を正式表明したことに伴う措置。今後の進め方は新政権の国交相の判断に委ねられることになった。・・・8月30日投票の総選挙で、『時代に合わない国の大型直轄事業は全面的に見直す』として八ツ場ダムの建設中止をマニフェスト(政権公約)に掲げていた民主党が大勝。今月中旬に新政権が発足する見通しとなり、関東整備局では国交省の指示通り、新たな国交相の判断によることが適切と考えて手続き延期を決めた。」(『建設工業新聞』2009.09.07)
●「公共工事に携わるすべての現場従事者に、発注者が定めた最低賃金を支払うことを元請けと下請けに求める、『公契約条例』を野田市(千葉県)は市議会に上程した。公契約の基本理念などを骨子とした条例案提出は尼崎市でもあったが、適用範囲や総合評価方式を含め、きめ細かく定めた条例は野田市が初めて。公契約法制定には社民党もすでに賛成しているほか、民主党でも議論のそ上にのぼっていることから、野田市の動向は今後大きな注目を集めそうだ。・・・条例案で大きな特徴は、総合評価方式と公物管理の指定管理者選定について、『雇用される労働者の賃金も評価する』点だ。・・・来春からの施行を目指し条例案を上程したのは、公共工事品質確保法(品確法)で品質確保は担保されても、低価格入札の多発などを理由にした労働者の賃金低下問題が拡大していることがある。・・・その意味で今回、野田市の条例が可決・施行された場合、元請けの応札価格、下請けの契約額にも影響を与えることは確実だ。・・・今後、政権交代によって公契約での新たな労働契約ルール制定・立法化へ向けた議論も、野田市条例議論を起爆剤に始まる可能性がある。」(『建設通信新聞』2009.09.09)
●「民主党政権の発足を前に、国土交通省の職員は新政権に対しどのような意識を持っているのか−。日刊建設工業新聞が全国の取材網を通じて本省と各地方整備局で聞き取り調査を行ったところ、民主党のマニフェスト(政権公約)と同省の施策との間に乖離が見られ、実際にどういった政策運営が行われるかが不明なため、多くの職員が不安を抱えていることがわかった。最も目立ったのは、『国家・国民の為に正しい方向へ導いてほしい』という思い。そのためにも新政権には、政策・事業の経緯や効果、社会的影響に耳を傾け、適切な政治判断をしてほしいという要望が多かった。」
(『建設工業新聞』2009.09.11)
●「国土交通省は、日本の高速鉄道の海外展開に向けた活動を本格的にスタートさせた。最も力を入れるのは12年の着工が予定されている米国のカリフォルニア高速鉄道プロジェクト。1日に同省内に発足した『鉄道国際戦略室』は12日、来日した米インディアナ州のダニエルズ知事を東北新幹線に案内し、新幹線の優位性をPRした。今後は外務省とも協力して米国の在外公館や領事館に働きかけ、新幹線のPR活動を強めるほか、11月中旬にも初来日が予定されているオバマ大統領にも新幹線のメリットを伝える考えだ。・・・各国でのセミナーを通じて他国の高速鉄道よりも大きくて軽量な車体と、整備コストの低廉さに加え、世界最高速という今後の最新技術を披露し、海外展開につなげる方針だ。」
(『建設工業新聞』2009.09.15)
●全都道府県の地域別最低賃金改定の答申が1日までに出そろい、41道府県で中央最低賃金審議会の目安を上回る引き上げ額となり、45都道府県で引き上げとなることが分かった。・・・中央審議会は7月末、不況を口実に生活保護水準を下回る逆転現象が生じている県をのぞいて引き上げゼロを答申していた。しかし地方審議会ではゼロとされた35県のうち福岡5円、岩手、福島(鹿児島で3円など33県が時給1〜5円を引き上げ。2〜30円引き上げとされた12都道府県でも、北海道11円、神奈川23円など8道府県で1〜2円を目安に上積みしている。全国平均は10円増の時給713円で、3年連続の2けた引き上げになります。しかし、フルタイムで働いても年収150万円にもならない低水準にとどまっている。最高額の東京(791円)と最低額の沖縄など4県(629円)の格差も162円に広がっており、全国共通の制度にするなど見直しが求められている。(『しんぶん赤旗』2009.09.02より抜粋。)
●「日本の家計の『稼ぐ力』が弱まっている。雇用の悪化や高齢化で働いていない人が増え、収入が落ち込んでいるためだ。仕事を持たず、就職活動もしていない15歳以上の人口を示す『非労働力人口』の割合は今年初めて4割台に乗せる可能性が出てきた。ボーナスの減少に加え、株式配当などの副収入も減っている。個人消費を抑える要因となり、景気回復の足かせになりかねない。・・・家計が冷え込む最大の要因は雇用情勢の悪化だ。7月の完全失業率(季節調整値)は過去最悪の5.7%。非正規社員の割合も2008年に過去最大の3.4%に達し、5年前から4ポイント、10年前と比一べると10ポイントも増えた。・・・労働者の収入自体も落ち込んでいる。4〜6月期の雇用者報酬(名目ベース)は、雇用者数の減少とボーナスの減少を受け、前年同期比4.7%減と、戦後最大のマイナスとなった。」(『日本経済新聞』2009.09.07)
●「積水ハウスは1日、2010年1月期の連結純利益が前期比48%減の60億円になりそうだと発表した。従来予想は65%増の190億円。個人消費の低迷を背景に戸建て住宅の受注が想定よりも落ち込む。マンション販売が苦戦、上期(2〜7月期)が23億円の最終赤字になったのも重荷になる。住宅ローン減税枠の拡大など景気刺激策の効果が顕在化するのは10年以降になるとみている。」(『日本経済新聞』2009.09.02)
●「建設市場の縮小に歯止めがかからない。国土交通省が8月禾に公表した『7月の建設工事受注動態調査(速報
値)』で元請けと下請けそれぞれの受注高を合算した数値は、前年同月比23.3%減の3兆3460億円となった。9ヵ月連続の減少に加え、6月、7月と2カ月連続で20%以上の落ち込みで4月以降から減少幅が拡大の一途をたどっている。市場下支えと期待された公共工事受注も2ヵ月連続で減少を示し、また、日本建設業団体連合会会員(49社)の先行き売り上げ規模指標となる未消化工事高もわずか1年間で2兆円縮小するなど、企業規模を問わず市場回復への明かりはいまだ見えてこない。」(『建設通信新聞』2009.09.04)
●「東京商工リサーチがまとめた2009年上半期(116月)の建設業倒産(負債額1000万円以上)は、前年同期比0.9%減の2100件となり、ほぼ横ばいながら上半期としては4年ぶりに前年同期を下回った。また、月別の推移では『緊急保証制度』の効果がでて、3月から3ヵ月連続して前年同月比での減少が続いた。これに対し負債総額は、24.6%増の5631億1300万円となり、上半期として04年以来5年ぶりに5000億円を上回った。負債額100億円以上の大型倒産が前年同期を7件上回る8件発生し、負債を押し上げた。これに伴い平均負債額も25.8%増の2億6800万円となった。」(『建設通信新聞』2009.09.07)
●減益のなかでも、配当は重視−財務省がまとめた2008年度の法人企業統計から製造業大企業の姿が浮かび上がってくる。内部保留は高水準を維持しているが、従業員給与は減少が続いている。・・・内部保留の一部である利益剰余金は98年度比で、07年度が140(1.4倍)、08年度が121(1.21倍)だ。雇用を維持する体力は十分あるのに、製造業大企業は08年後半から、「非正規社員切り」を競い合い、正社員の人員削減も本格化させている。・・・一方、減益のなかでも異常な扱いがされているのが、配当金だ。配当金は98年度比でみると、06年度442(4.42倍)、07年度345
(3.45倍)と急激に伸びる。08年度も270(2.7倍)。雇用や従業員給与よりも株主配当を重視する大企業の姿勢があらわれている。(『しんぶん赤旗』2009.09.08より抜粋。)
●「建設コンサルタンツ協会は、会員の2008年度経営分析結果をまとめた。1社当たりの総売上高は3年連続増加したが、専業会社は営業利益、経常利益とも3年ぶりに減少、競争の激化による低価格受注が大きく影響しているとみられる。プロポーザル方式の発注増加に対応して、各社とも技術者を増やしているが、総売上高の伸び率が低いため、技術職員1人当たりの総売上高は2年連続で減少を示した。・・・調査は、08年1−12月期の決算業績を対象に実施、このうちコンサル収入が総売上高の80%以上を占める会員を専業と位置付けている。会員は435社で364社が回答、このうち専業は180社で166社が回答した。会員の1社当たり総売上高は26億4900万円で前年度比2.4%増、専業も28億3400万円で2.8%増だった。営業利益は、会員が8200万円で7.6%増と3年連続増加したが、専業は8400万円で9.5%減、経常利益も会員の8900万円で3.4%増に対し、専業は8800万円で12.9%減だった。・・・当期純利益は、会員が34.7%減となったが2300万円で黒字を維持したのに対し、専業は07年度の3500万円の黒字から08年度は200万円の赤字に転落した。この原因について建コン協は、『専業社の中に巨額の特別損失を計上した会社が数社あったため』と説明している。」(『建設通信新聞』2009.09.09)
●「国土交通省の2009年度建設コンサルタント業務は、総合評価落札方式の増加で、プロポーザルが大幅に減少することが明らかになった。建設コンサルタンツ協会の調べによると、中部地方整備局はプロポーザルが前年度に比べ件数ベースで4分の1に減少する見通しだ。廣谷彰彦会長は、実質的に価格競争に陥っている総合評価方式の運用改善を求めるとともに、低価格入札が横行している現状について、『そもそもの入り口は技術競争だ』と指摘、プロポーザルの必要性を強調した。」(『建設通信新聞』2009.09.11)
●「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協、小野秀男理事長)は、『既存住宅の長寿命化に関する調査』の結果をまとめた。木耐協が06年4月から06年6月までに耐震診断を実施した木造住宅1万2332件について調べたところ、建築図面を保持していない住宅では、全体的に評点が低いことが明らかとなった。木耐協では『建築図面の重要性が診断結果から裏付けられた』としている。」(『建設工業新聞』2009.09.02)
●「総務省消防庁は、学校や公民館、地方自治体庁舎など、災害時の防災拠点となる全国の公共施設の耐震化状況をまとめた。2008年度末時点で耐震化されている施設は全体の65.8%で、前年度と比べ3.3ポイント増えたものの、依然、不十分であることが分かった。 都道府県や市町村が防災拠点に指定している公共施設は、全国で19万1792棟。このうち、耐震化が確保されている施設は12万6260棟だった。耐震診断を実施し、耐震化の必要性が認められながら未改修の施設が16.6%に当たる3万1804棟あるほか、耐震診断すら行われていない施設が17.6%の3万3728棟に上っている。・・・消防庁は13年度までに耐震化率を85%まで高めることを目指している。自治体に対する財政支援も09年度からは、地震による倒壊の危険性が高いIs値(構造耐震指標)0.3未満の庁舎や避難所について、耐震化事業費の9割を起債対象とし、その元利償還金の交付税算入率を2分の1から3分の2に引き上げている。自治体に対しては、計画的な公共施設の耐震化の推進を要請している。」(『建設通信新聞』2009.09.02)
●「欧米などで若年層の失業率が急速に悪化している。国際労働機関(ILO)の予測では2009年の先進国の若年層(25歳未満)失業率は16〜18.7%になる見込み。全世代平均の7.7〜9%を大幅に上回り、比較が可能な1991年以降で最悪水準になる可能性がある。世界経済の底入れ期待が強まるなか、日本を含めた先進国では若年層の雇用環境が悪化しており、消費回復がもたつく恐れがある。日米欧の先進国で若年層の失業率の悪化が進んでいるのは、昨秋以降の金融・経済危機で企業が新規採用の凍結・縮小に動いたためだ。専門知識や経験に乏しい若年層が企業のリストラの対象になりやすいという事情もある。・・・米国や英国、フランスなどが雇用創出や職業訓練といった対策を始めるなど、政府が若年層に絞って就業支援を進める動きも出ている。」(『日本経済新聞』2009.09.02)
●米労働省が4日発表した8月の雇用統計によると、失業率が9.7%と前月から0.3ポイント上昇し、1983年6月の10.1%以来、26年2ヵ月ぶりの水準となった。8月の就業者減(非農業部門、季節調整済み)は前月比21万6000人で、2008年1月以来20カ月連続の減少。この間の就業者減の総数は690万人となった。・・・ウォール・ストリート・ジャーナル紙4日付(電子版)は、「多くのエコノミストが今後数ヶ月で失業率が10%を超え、2010年も9%台で推移するとみている」と指摘。各産業分野でのリストラが続くなか、雇用改善にはなお時間がかかりそうだ。(『しんぶん赤旗』2009.09.06より抜粋。)